第二十二話 色々一本釣り
「三人とも、お待たせ!」
 ハナダシティのポケモンセンター、そのロビーで発せられた声にソファーで人を待っていたサトシたちは振り返る。
 その先にいるのはハナダジムのジムリーダー(予定)のカスミが息を切らせてたたずんでいた。
 久方ぶりと言うわけではないが、再会はもう少しになると思っていたこともあり三人の顔も自然に笑顔を浮かべていた。
 特に三人の中で一人だけ女の子であるルカサはすかさず立ち上がり、カスミの手を取って喜びをあらわにしていた。
「カスミ、待ったわよ。待った、待った。もう、なんだかとっても嬉しい」
「あはは、ルカサってば喜びすぎよ。電話でだいたいの事は聞いたけれど、歩きながら出いいから詳しく教えてちょうだい」
「そうだね。場所はここから近いのかい?」
「それに俺たち道具とか何にも持ってないぞ」
「大丈夫、釣りに必要な道具を沢山預けてる人がそこにいるの。さあ、今日はハナダの水ポケモンを釣りまくりよ!」
 カスミの気合の入った声に合わせて、サトシたちは大きく右手を上げた。
 ハナダシティにたどり着いたのは昨日の事で、どうせならカスミに会おうという話になったのだ。
 そこでカスミが言い出したのが、ただ会って話すだけでなく釣りができる良い場所があるという話しが持ちかけられた。
 水ポケモンを釣り上げるという事をした事がないサトシたちは二つ返事で了承し、その場所へ向かうところである。
 ポケモンセンターを出てカスミが先導したのは、北にあるゴールデンブリッジであった。
「橋を渡った場所にバトルを望むトレーナーたちがいる事は話したでしょ。場所はそこからさらに先に言った所よ」
 あまり良い思いでがあるとはいえない橋に足をかけると、カスミが振り返って言った。
「この先には何度か行ったけど、そんな場所あったっけ?」
「橋を渡って直ぐの場所じゃないのよ。もっとずっと行った先なんだけど、知り合いがそこに家を建てて住んでるの。マサキって言ってね、なんて言うかポケモンマニアかな?」
 他に言い方はないものか、言葉を捜して出てきたのが結局それらしい。
 サトシとルカサはマニアと聞かされ微妙そうな顔をしていたが、一人シゲルだけは違う反応をしていた。
「ポケモンマニアのマサキ、聞いたことがある。モンスターボールの転送装置を作り上げたり、研究家としても有名な人のはずだ。そんな人に会えるなんてついてるぞ」
「そう言えば、そう言う方面でも有名だったわね。身近にいすぎて忘れてたわ」
 それでもマニアと言う意見は変わらず、カスミはサトシたちをそのマサキの家へと案内した。
 ゴールデンブリッジを抜けてから今度は東へと二十四番道路を歩いて先へと進む。
 そのうちに見えてきたのは一面に広がる海と、その海辺すぐに立てられて一軒の家であった。
 口ぶりから何度も訪れているらしいカスミは躊躇することなく玄関のインターホンを慣らした。
 ピンポーンとどの街でも変わらない音が鳴り響いてしばらく後、癖のある髪を持った青年が内側からドアを開けて現れた。
「なんやカスミちゃんやないか。連絡もなしにって事は、ワイに預けとる釣りの道具やな」
「えへへ、当たり。今日はこの子達も一緒だから夜は期待しててよね」
 どうもと頭を下げるサトシたちを見て、マサキは苦笑して肩をすくめた。
「つまり今夜は泊めてくれって事かい。交渉の前にエサぶら下げて、断れるはずもないわな。まあ美味しい魚も楽しみやけど、珍しい水ポケモンが釣れたら教えてな」
 そう言うと一度屋内へと引っ込んだマサキは、カスミが預けていたらしき竿を四本と釣り道具一式を持ってきてくれた。
 それらをカスミが受け取ると、ぎょうさん釣ってきてやという妙な訛りのあるマサキの声を背に釣り場を目指して歩いた。
 カスミが良く使用する釣り場は、穴場スポットらしく人影は皆無であった。
 ただし海の上に突き出た岩場ばかりの場所であり、少し気を抜くと足元が滑って危なっかしい事この上ない。
 岩の上を歩きながらカスミが後ろのサトシたちへと振り返りながら言った。
「気をつけてね、転んだら擦りむいた程度じゃすまないから」
「って、二人ともそこで何故に僕を見つめるんだ?」
 別にと慌ててサトシとルカサがそっぽを向くが、シゲルも自分の運の悪さを知っているだけに深くは追求せずには居た。
 滑りやすい岩場の上を移動し、ついにある地点でカスミが足を止めて釣り道具を岩場の上に置いた。
 打ち寄せる波が岩の上まで薄っすらと流れてくるが、置いた道具が流されてしまうほどではない。
 まず最初にカスミが行ったのは濡れて座れない岩場の上に、持ち運び用の小さな椅子を置く事であった。
「三人とも釣りは初めてみたいだけど、凄く簡単だから。針にエサを引っ掛けて後は糸を海に投げ入れるだけ。食べられる魚よりも、ポケモンがつれる確率の方がちょっと高いかな」
「ふ〜ん、とりあえずやってみればわかるってもんだぜ。水ポケモンとバトルするなら、お互い距離は取っておいたほうがいいよな」
 カスミから道具一式を渡されると、サトシは自分のスペースを探して岩の上をひょこひょこ歩いていった。
「私はちょっと魚に触れそうにないから、カスミの近くで釣るわ」
「そうかい、僕はちょっとバトル目的でやろうかな。こういった場所でないと、なかなかコイキングのバトルができないし」
「あのコイキングまだちゃんと持っててくれたんだ。それじゃあ、シゲルにはカスミちゃん特性ルアーもつけちゃう。頑張って釣って、しっかりコイキングを育ててあげて」
 ルカサはカスミの横に椅子を置き、シゲルは道具を持ってサトシが歩いていった岩場の方へと向かった。
 バトルで派手に暴れて、カスミたちの邪魔をしない配慮だろ。
 一応はサトシとも一定の距離をとり、岩場に椅子を置いて借りた道具も岩場の上に置いた。
「本当にこんなルアーでいいのかな。普通魚の形をしてるだろうに」
 カスミが特性といったルアーは、カスミ自身をデフォルメ化させた人形にしか見えなかった。
 自分を映し込んだ人形に魚か、ポケモンが食いつく姿を想像して思うところはないものか。
 だが折角貸してくれたのだからとそのルアーを釣り糸に設置すると、シゲルは先端にルアーがついた釣り糸を思い切り海へと向かって放り投げた。
 思い描いたよりもいびつな放物線を描いたルアーは、バシャンと叩きつけられるようにして海へと潜っていった。
 何かが違うと思いながら、シゲルは魚が掛かるのを待った。
 左手にいるサトシも丁度釣り糸を海へと放り投げた所で、逆側、右手にいるルカサとカスミも同様であった。
 釣竿を握りながら、何をしていればいいんだろうとふと考えてしまう。
 釣り糸を垂らしてからヒットするまでの時間を早くも持て余仕掛けていた所、糸が何かに引っかかったようにクイッと引っ張られた。
 最初は気のせいかと思っていたが、時が経つにつれてその感覚は早く、力強くなっていった。
「カスミさん、とりあえずどうすれば良いんですか?!」
「引きずり込まれそうなぐらいに引きが強ければポケモンよ。思いっきり引き上げちゃって!」
「く、の!」
 竿が折れてしまいそうなぐらいにしなるが、シゲルは椅子から立ち上がり言われた通り渾身の力を持って引っ張り上げた。
 すると不意に引っ張られていた力が緩み、釣り上げたコイキングが空を舞っていた。
 コイキング自身はそのまま再び海へと着水したが、そのコイキングを釣り上げたルアーはまだ空の上。
 シゲルが放り投げた時よりも綺麗な放物線を描いたまま、シゲルの頭に直撃した。
「うわ〜、痛そう」
 あまり大きな声ではなかったはずなのに、頭を抑えてうずくまった茂るの耳にはルカサの呟きがしっかりと聞こえていた。
「シゲル、前を見ろ前を。コイキングはもうバトルする気、満々だぞ」
「人の気も、と言うか痛ッ。コイキング、君の力を貸してくれ!」
 凹んだんじゃないかと思うぐらいに痛む頭を抑えながら、シゲルはコイキングが入っているモンスターボールを投げた。
 コイキングはポケモンの中で最弱と言われるほど弱く、できる事も少ない。
 海での始めてのポケモンバトルが同じコイキングが相手とあって、そう言う意味では幸運であった。
「コイキング、体当たりだ」
 飛び跳ねるか、体当たりしかないコイキング同士である。
 硬い鱗を立てに、海の水をバシャバシャと泡立たせながらに引きのコイキングがぶつかり合っていた。
 一方サトシの方でも何かを釣り上げ、同時にモンスターボールを放つ姿が見えた。





 サトシとシゲルが、釣り上げた水ポケモン相手にバトルしている姿を眺めつつ、ルカサとカスミは対照的にしずかな釣りを楽しんでいた。
 もっとも釣りはほとんどついでらしく、二人とも竿を握る力よりも口を動かす方に忙しかった。
「へえ、サトシってばもう三つ目のバッヂをゲットしてるんだ。すごいじゃない」
「もうって言えるのかしら。なんだか一つの街にたどり着くのだって色々あったりするし」
「色々あるのに、ちゃんとバッヂをゲットできてるのがすごいじゃない。あれからまたロケット団とかには?」
「それはさすがにないわ。オーキド博士に散々叱られたし、私らが安易に相手をしていい相手でもないしね」
 それもそうだとカスミが思い出したのは、ゴールデンブリッジからの決死のダイブであった。
 決死といっても決断したのも巻き込んだのもサトシとシゲルであった。
 少しの相談もなしに道ずれにされて、怖かった。
 怖かったが、反面すごくドキドキして思わず落ちていくサトシを追いかけ自分もまたゴールデンブリッジを支える鉄骨の上から飛び降りた。
 何度思い出しても、多分もう二度とできないだろうという結論に達する。
「まあ、そうそうあんな事があったら旅なんてできないわよね」
「大変な事ばかりじゃないわよ。一昨日なんだけど、ニドランのお婿さんを探してる子がいて、手伝ってあげたりとか」
「お婿さんねえ」
 その言葉を聞いて、カスミは水ポケモンとバトルに明け暮れているサトシとシゲルを見た。
 そしてにへらと顔が自然と笑ってしまう。
 腕を折り曲げる事で突き出した肘で、ルカサのわき腹を何度も突く。
「ちょっと、くすぐったい。なによ、カスミ」
「男の子と女の子。一緒に旅をしてれば、何かあるんじゃない。ルカサは、どっちが本命なの?」
「は?」
 間の抜けたルカサの声を照れだとでも思ったのか、カスミがさらに肘で突っついてくる。
 だが次の瞬間には耐え切れず思い切りルカサは噴出していた。
「なにそれ、あーっはっはっは。私が、あの二人と。ヒィ、お腹痛い。やめて、面白すぎる!」
「爆笑?! 爆笑する所、それ?」
「だってよりにもよって、あの二人なんだもん。ありえない!」
 笑いすぎて呼吸困難に陥りそうになりながら、ルカサはなんとか息を整えていく。
「ハヒ……あのね、あの二人気がついたら一緒に居たのよ。今さら過ぎてありえない。良い所一杯知ってるけど、悪い所も同じぐらい知ってるもの。ないない。私は出来ればマチスさんみたいな大人の人がいいな」
「確かにあの二人はおこちゃまな所があるかしら」
「そうそう、私も人のこと言えないけどポケモンにしか興味がないわよ。あの二人は」
 これで何匹目になるのか、水ポケモンとバトルを続ける二人を遠めに眺めた。
 シゲルは手持ちポケモンの相性もあって、ずっとコイキング一匹でバトルを行い続けている。
 一方多用なタイプを持つサトシは、満遍なくポケモンたちを飛び出させて経験を積ませていた。
 ルカサの言う通り曲がりなりにも女の子二人が近くにいるのに、ポケモンバトルに夢中になっていては先の話のような芽が出る事はないだろう。
「釣れますか?」
 こちらも少し真面目に釣りをしようかと、カスミが釣り糸が沈んでいる海面を見た時、その声は掛けられた。
 ルカサと一緒に振り返ると、真っ白なワンピースと麦藁帽子といったお嬢様然とした女性がいつの間にか後ろにたたずんでいた。
「え〜っと、これからって所ですね。余り真面目にやってなかったんで」
「そうですか」
「見るならアッチの方が面白いですよ。釣りと同時に、ポケモンバトルしてるから」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
 カスミとルカサが説明すると、女性はヒールのサンダルと言う危なっかしい履物で、ヒョコヒョコと滑りやすい岩場を危なげなく歩いていった。
 正面から見た時は解らなかったが、麦藁帽子の中に纏めて収められている髪は、燃えるような赤色をしていた。
 その後姿を眺めながら、少しカスミは首を傾げていた。
「カスミ?」
「ううん、ただちょっと気になっただけ。こんな穴場スポットにあんな綺麗なお姉さんが来るなんて思わなかったから」
「綺麗な人だったもんね。いいなあ、私もあんなふうになりたい」
「う、激しく同意するわ。私なんかいっつも姉さんたちと比較されて」
「何言ってるのよ。カスミだって十分に可愛いわよ。お姉さん達と少しだけ歳が離れてるだけで、これからよ」
 フォローと言うよりも本気で言ったのだが、カスミの目は潤んでいた。
「生まれて初めてそんな事言われた。ありがとう、ルカサ」
 釣竿を放り出す勢いでルカサに抱きついてきたカスミの背中をポンポンとルカサは叩いてやって。
 どうも相当気にしていたようで、抱きついてくる力が相当強くて、実は痛い。
 しばらく離れてくれなさそうだなと諦めていると、際ほどの女性がサトシやシゲルに見学を申し出ている所であった。
 綺麗な女性だという認識は同じだったようで、思いの他シゲルが戸惑っている様子が見えた。
(逆に言うと、サトシが鈍感すぎるだけかしら。シゲルぐらいの反応が普通よね)
 サトシの方は想像だが一言いいぜと答えて直ぐに、水ポケモンを釣り上げる事に専念し始めていた。
 綺麗な女性に見学される事に対して何か思うところは殆どないらしい。
 今だ離れてくれないカスミをあやしつつ、ルカサはふと何かに気がついたようにサトシとシゲルのバトルを見つめる女性を見た。
 特にその女性の瞳を注視する。
 自分達やサトシたちに話しかけたときは、お淑やかな女性のやわらかい眼差しであったはずだ。
 なのに二人がバトルを始めた途端、その瞳の色が変わった。
 二人のバトルを何一つ見落とさないように、まるで観察者の目のようにも感じたが、すぐにルカサはその考えを捨てた。
 意味がない、まだ駆け出したばかりの自分達のバトルをわざわざ見に来る奇特な人がいるとも思えず、ルカサはカスミを抱えながら、糸を引いている自分の竿を握った。





 ルカサとカスミの釣果はまずまずのものであった。
 と言うよりも、カスミのである。
 ルカサは一匹釣るので精一杯であったが、本気を出したカスミはそれまでの遅れを取り戻すかのように魚を釣り上げ始めた。
 そして今、サトシたちの目の前のテーブルには、その魚が美味しそうに調理された料理たちが並んでいる。
 料理人はサトシとマサキであった。
「タケシに続いて、料理ができる男の知り合いゲットだぜ。サンキュー、マサキ」
「ここでの一人暮らしが長いからな。それじゃあ、食べながら他の釣果についても聞かせてもらおうかな」
 皆で席についていただきますを言うと、最初にシゲルが口を開いた。
「僕はコイキングの経験を積ませたかったから、最初からポケモンをゲットする気はなかったんですよ。だから釣果はなしですね」
「お、コイキングを育てようとは、君は中々の通やね。しっかり育てたりいや。苦労するやろうが、その分だけギャラドスになったときの感動はひとしおや」
「シゲルは仕方がないとして、サトシはどうなのよ。アンタ水系のポケモンを持ってないはずだから、欲しかったはずでしょ?」
 ルカサが尋ねると、新たな料理仲間を得てご機嫌だったはずのサトシが、ギクリと体を硬直させていた。
「それが〜、俺もなし。一匹もゲットできなかった」
 恥ずかしそうにそう言ったサトシは、悔しがる様子は一切見せる様子はなかった。
 一匹もゲットできなかったとなったら、普通は大声を上げて悔しがるはずである。
 皆の視線が集まったのは、一番サトシのそばに居たシゲルでった。
「それがサトシが釣り上げる水ポケモンはどれもコイキングばかり。釣っても釣ってもコイキング。途中からバトルするポケモンたちも飽きてたよ」
「あっ、もしかしてサトシが使ってた釣竿って」
「カスミちゃんの想像通りやろうな。適当に四本渡した僕も悪かったけど、カスミちゃんのお古もお古、ボロの釣竿や」
「ごめん、サトシ。アンタに渡した釣竿だと、古すぎて普通のポケモンはつれないのよ。コイキングだけが好き好んで引っかかってくれるだけで」
 パチンと両手を合わせてカスミが謝ると、サトシはへなへなと椅子をずり落ちていった。
 そうと知っていれば多種な水ポケモンを釣り上げているシゲルが、竿を交換しようかと問いかけてきた時に素直に応じておくべきであった。
 もちろんその時は、ムキになってこの釣竿で釣って見せると大きな見栄を張ったのだ。
「結局まともな釣果と言えばルカサちゃんと、カスミちゃんだけか」
「私は一匹だけで、ほとんどはカスミの釣果ですけど」
「何もないよりはマシや。それだけやと可哀想やから、一つお兄さんがおもろい話をしたろかな。今は破棄され朽ち果てた無人発電所にまつわるお話や」
 朽ち果てた無人発電所と聞いて、怪談の類かとルカサの腰が引けていたが、そうではなかった。
 怪談など比べるまでもなく、興味を引かれる話であった。
「ハナダシティから東へ行った場所にあるイワヤマトンネル、そこから河を下った先にあるのが無人発電所や。さっきも言った通り、そこは立地関係からすでに破棄されとるが、今でも発電そのものは出来るらしく電気ポケモンの宝庫になっとる」
「お、電気ポケモン欲しい。まだ持ってないタイプのポケモンだ」
「私、ピカチュウが良い。可愛いんだもん」
「チッチッチ、甘いで。コレから話す内容は、普通のポケモンは軽く吹っ飛んじゃうぐらい、驚きの内容や」
 電気ポケモンと聞くだけで喜んだサトシとルカサを抑えて、マサキは続けた。
「なんとその無人発電所は出るって噂なんや。あの伝説のポケモン、サンダーが」
「伝説のポケモン。そんな話、聞いたこともない。本当なんですか、マサキさん」
「まだこの辺りぐらいまでしか伝わってない噂やし、実際に見たって奴は注目を集めたくてうそぶいた奴ばかりや。ただし、誰かが冗談で流した噂にしては条件がそろいすぎとる。朽ち果てた元発電所。宝庫となった電気ポケモン、さっきも居た普通の人間には立地の悪い場所」
「伝説の、くぅ〜こうなったら実際に行って調べてみるしかないぜ。シゲル、ルカサ。次の目的地はそこでいいよな!」
 俄然やる気を出したサトシを見て、二人とも二つ返事で了承していた。
「そうだ、カスミ。カスミも一緒に行かない?」
「え、でも無人発電所は電気ポケモンばかりだし、水ポケモンしか持ってない私が行っても」
「そうじゃなくて、これからずっとよ。私たちまだまだ色々な場所に行くし、カスミも一緒に行かないって事よ。まだ正式なジムリーダーじゃないし、そっちはお姉さん達がいるんでしょ?」
 突然の申し出に驚いた顔を見せるカスミへと、畳み掛けるようにサトシとシゲルも賛同し勧誘の声を挙げた。
「色々な場所に行くの面白いぜ。それにまだ見たことがない水ポケモンだってまだまだ沢山いるはずだ。一緒に行こうぜ、カスミ」
「僕らの中で女の子はルカサ一人だし、そう言った意味でも加わって欲しいかな」
「ね、カスミ一緒に行こうよ。絶対に楽しいから」
 熱烈に勧誘してくるサトシたちの言葉が、嘘等ではない事は十分すぎるほどカスミは解っていた。
 この三人についていけば、姉たちと比較されつづけてまいっていた毎日とは比べ物にならないほど楽しい日々となる事は間違いない。
 だが即答できないのには、それだけの理由もあった。
 サトシたちがそれぞれ夢を持つように、カスミもまた夢があったのだ。
 立派なジムリーダーとなって、適当な運営を行うハナダジムを立派なジムへと生まれ変わらせる事だ。
「ごめんね、ルカサ。私やっぱり行けない。一緒に行ったら楽しいと思う、すっごくすっごく楽しいと思う。でも楽しすぎて、私は大人しくハナダジムに戻ってこられる自信がないわ」
「そっか、とっても残念だけど。だったら、また来るわ。連絡もする、また一緒に遊びましょう」
「もちろん、それなら大歓迎よ。私が正式なジムリーダーになったら、一番にルカサの挑戦を受けてあげるわ」
「だったら、私もそれまでに十分強くなっておく。約束よ」
 二人はがっしりと握手し、抱き合うと変わらず楽しそうに喋りながら、ご飯を再開した。
 サトシとシゲルもマサキから無人発電所の情報を聞き出したり、他には珍しいポケモンの話をこれでもかと言うほど聞きだした。
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