第十九話 クチバシティでの一日
 サントアンヌ号での出来事から一日、サトシはポケモンセンターの前でシゲルとルカサに向き合っていた。
「それじゃあ、ちょっと行って来るぜ。夜になる前には戻ってくる」
「しっかりね、サトシ。ちゃんとフシギダネを強くしてあげなさいよ」
「今後のバトルにも関わってくるし、トレーナーとしての腕の見せ所だな。頑張れよ」
「まかせとけって。俺にまかせとけば、どうにかなる!」
 元気良く腕を空へ突き上げるように上げると、サトシはサントアンヌ号が、船長が待つ港へと向けて駆け出した。
 その背中を見送ったシゲルとルカサは、ポケモンセンターの中へと戻っていきロビーにあったソファーに腰を下ろした。
 急遽クチバシティに留まる事になった為、まだ予定が決まっていなかったのだ。
 特に急ぎの用があるわけではないのでよいのだが、だからと言って無駄に一日を潰してしまうのは惜しすぎた。
 何故だか神妙に考え込んでいたルカサが言った。
「ねえ、思ったんだけど。最近サトシの影響なのか、私たちもよくバトルするようになったわよね」
「確かに、僕も似たような事を今考えていたよ」
 ならば話は早いとルカサは続けた。
「バトルに対して肯定的になったのは問題ないけれど、なんだか本分を外れすぎてる気がするわ」
「あくまでルカサはポケモンドクターが、僕は研究者になるのが目的だからね。バトルを行う能力は必要だけれど、それが全てであるはずがない」
「それでね、ここは何処かしらって尋ねてみるわ」
「ポケモンセンターだね……そう言うことか」
 ルカサに言われ振り返ってみると、ポケモンセンターの入り口からは朝も早くから駆け込んでくるポケモントレーナーが居た。
 もちろん反対に出て行くトレーナーもいるが、ポケモンが傷ついたら直ぐに戻ってくる事だろう。
 今このクチバシティには優秀なトレーナーを招いているサントアンヌ号が港に停泊している。
 その優秀なトレーナーとバトルしたいと望む者もいれば、昨日の様に優秀なトレーナー同士がバトルする事だってある。
 昼近く、もしくは昼過ぎにでもなればこのポケモンセンターは大忙しになる事であろう。
「私はポケモンドクター志望だし、優秀なトレーナーなら珍しいポケモンを連れてくるかもしれないからシゲルにとっても良い場所じゃない?」
「決まりだね。ジョーイさんに頼んでみようか」
 早速二人はソファーから立ち上がると、ジョーイさんがいる受付へと歩いていった。
「はい、ポケモンセンターへようこそ。ポケモンの治療かしら?」
「いえ、違うんです。少しジョーイさんにお願いがあってきました」
 お決まりの台詞と笑顔の後に尋ねられ、ルカサは直ぐにペコリと頭を下げた。
 一体お願いとはなんだろうという顔をしているジョーイさんへと、シゲルがお手伝いさせて欲しい旨を伝えた。
 もちろんサトシのことまで詳しく話すつもりはなく、とある用事で足止めを喰らったので急がしそうなポケモンセンターの仕事を手伝いたいと申し出たのだ。
 だが意外にもジョーイさんは大歓迎というようには見えなかった。
「お手伝いがしたいと急に言われても……」
 困ったように頬に手を当てるジョーイさんを見て、ルカサがもう一度頭を下げた。
「私、ポケモンドクター志望なんです。だから少しでもポケモンセンターの仕事に触れてみたいなって思ったんです。駄目でしょうか?」
「僕からもお願いします。それにサントアンヌ号の件で、何時もより人手がいるのではないですか?」
「その通りなんだけど……わかったわ。ただし、私が頼んだ事以上の事はしては駄目ですからね。それがわかったのなら、ついてきなさい」
 しばし迷った末に、ジョーイさんは二人が手伝う事を了承してくれた。
 まず案内されたのはポケモンセンターの奥、関係者以外立ち入り禁止の場所にある更衣室であった。
 そこでルカサはジョーイさんと同じ看護服に、シゲルは間に合わせの看護服がなかったので手っ取り早く白衣を上から着せられた。
 格好だけは遠い未来の自分の姿に近づけた気分になってくるものである。
 少しばかり気が大きくなりそうな二人へと、ジョーイはわざと厳しい声で二人がすべき仕事を与えてくれた。
「貴方達には、傷ついたポケモンを持ってくるトレーナーたちの受付をお願いするわ。トレーナーから詳しい状態を聞いて、傷の具合が軽度であればモンスターボールを回復機の中へ。重度であると判断したらモンスターボールを奥へと持ってきてちょうだい」
「受付、ですか?」
 てっきり治療の手伝いがさせてもらえると思っていたルカサの返事は、トーンダウンしていた。
 その様子がジョーイに伝わらないはずもなく、特にルカサへと向けてジョーイが言った。
「受付も大事なお仕事です。時おり様子は見に来るから、しっかりね」
 一度受付へと戻り、仕事のレクチャーを終えてからジョーイはポケモンセンターの奥へと戻っていった。
 恐らくは運び込まれたポケモンの治療を行いに行ったのだろう。
 さて後はポケモンが運び込まれるのを待つばかりなのだが、ルカサはいきなり受付のカウンターにうな垂れようとしていた。
「受付はないんじゃないの。私、ポケモンドクター志望なのに。これじゃあ、お手伝いを申し出た意味がないわよ」
「あのな、ルカサ。少し頭を冷やせ。っと、説教している暇もなさそうだな」
 二人が受付へと立って十分も経たない内に、ポケモンセンターの入り口から一人のトレーナーが駆け込んできた。
 慌てて走る様子から察するに、ポケモンの治療が目的であろう事は間違いなかった。
 未だうな垂れようとするルカサの背中を叩いてシャキッとさせると、シゲルはトレーナーが必要以上に慌てない為に笑顔を浮かべていった。
「ポケモンセンターへようこそ。ポケモンの治療ですか?」
「俺のサンドがパラスの痺れ粉にやられちゃって。治療してください」
「痺れ粉ですね。他に傷を受けた箇所などはありますか? なければ回復機にモンスターボールをかけますので」
「ちょっと待ってシゲル」
 サンドが入ったモンスターボールだけでなく、他のモンスターボールを受け取ろうとしていたシゲルをルカサが止めた。
 その顔には先ほどまでの、だらけきったものはなく、傷ついたポケモンを前にした何時ものルカサがいた。
「パラスは毒の粉も使えたはずよ。もしかしたらそっちも受けているかもしれないから、奥に回しましょう。回復機は、パラスとバトルしていないポケモンだけにしましょう」
「了解、その調子だルカサ。それではお預かりいたしますので、しばらくお待ちください。治療が済みましたらご連絡いたします」
 その他、どのポケモンがどんなポケモンとバトルしたかを尋ね、メモした後でシゲルは今度こそ全てのモンスターボールを受け取った。
 六つのモンスターボールのうちパラスとバトルしたものと、そうでないものをわけ、片方を回復機へ、片方を奥へと持っていった。
 ポケモンセンターはトレーナーの宿泊施設も兼ねているため、表のロービーなどは比較的穏やかな空気が流れている。
 だが一歩奥へと踏み込めば、ポケモンの治療に追われるジョーイさん他関係者がせわしなく働いている。
 そのうちの一人にメモとモンスターボールを渡すと、シゲルは受付へと戻っていった。
 すると早くも二人目のトレーナーが受付にやってきており、ルカサが怪我の具合を尋ねていた。
「シゲル、今度は回復機だけでよさそうだわ。大きな怪我をした子はいないって。この三つのモンスターボールをお願い」
「一応聞いた話はメモにとっておいてくれよ。僕らが気付けなくても、そのメモからジョーイさんたちが何かに気付くかもしれないから」
「解ってるって」
 ルカサの返事を耳にしながら、受付の直ぐ後ろにある回復機へとモンスターボールをはめ込んでいく。
 回復機はポケモンの回復ではなく、モンスターボールが消費したエネルギーを充填させる装置である。
 モンスターボールはポケモンにとって最適な空間を提供するだけでなく、多少の傷であれば回復させる効果もある。
 だがその分モンスターボールが保持しているエネルギーは消費され、こうしてポケモンセンターで補充が必要となるのである。
「回復が終わったよ」
 回復機のスイッチを入れて数分、エネルギーの充填が終わったモンスターボールをルカサへと渡す。
「はい、お待たせしました。お大事にしてくださいね」
 笑顔と共にモンスターボールをトレーナーへと渡し、喋る暇もなく次のトレーナーが駆け込んでくる。
 稀に判断に困る傷つき具合のポケモンが運び込まれてくる事はあれど、シゲルもルカサも受付の仕事をそつなくこなしていった。
 元々知識だけは十分すぎるほど持っているため、当然と言えば当然の結果でもある。
 ただそのことを知らないジョーイは、時おり見に来ると言いつつも、二人の仕事ぶりは影から殆ど目におさめていた。
 大事な受付の仕事を突然手伝いを申し入れてきた二人組みに任せる不安があった為である。
 当初はルカサの態度に不安を抱いたものの、二人の仕事ぶりはなかなかのものと言わざるを得なかった。
 そして本気で手伝いがしたいのだということが確信できた頃には、ジョーイが受付へと寄っていき二人へと言った。
「貴方たち、お昼以降も手伝ってくれるのかしら?」
「あ、ジョーイさん。そのつもりですけれど、ご迷惑でしたか?」
「迷惑だなんて、とんでもない。二人のおかげでかなり助かっているわ」
「こちらこそ、良い勉強させてもらってます。受付ってただの窓口だって思ってたんですけど、確かな知識が要る重要な場所だって教えられました」
 言ってしまえば受付を舐めていたルカサの台詞も、ジョーイは笑って受け流した。
 ちゃんとルカサが自覚して考え直したのならば、怒るまでの事はないからだ。
「気付いてくれてよかったわ。それでね、次は奥での治療を手伝ってみる? もちろん、私の助手としてだけれど」
「はいはい、やります。受付も大事だけど、そっちも気になってました」
 ジョーイさんのありがたい申し出を断るはずもなく、ルカサは両手を挙げて歓迎していた。
「貴方は良いみたいね。君はどうする?」
「僕はこのまま受付を続行させてもらいます。治療はルカサの本分ですし、色々なトレーナーの話を聞ける受付の方が僕には向いてますから」
「わかったわ。何かわからないことがあったら、奥のスタッフに何時でも声を掛けてちょうだい」
「ごめんね、シゲル。私は奥で手伝わせてもらうわ」
「頑張ってこいよ、ルカサ」
 手を振って別れて直ぐに、受付には次なるトレーナーが駆け込んで来ていた。
 一人で大丈夫か心配そうな視線を向けていたルカサであったが、すぐに思い直すことにした。
 なにせ自分が一人ではなく、シゲルが一人でなのである。
 シゲルならばどんな事でも一通りでは一人でできてしまうので、今は先を歩くジョーイさんの背中を見つめた。
 受付そばにある奥への扉を潜り、真っ直ぐな廊下を進むとその左右の部屋には様々なポケモンの治療を行うスタッフたちがいた。
 その幾つもある部屋の中の一つにジョーイさんが入っていき、ルカサも続いた。
「さあここが私たちが担当する治療室、草タイプの治療室よ」
「草タイプのですか?」
「ええ、受付をしてわかったでしょうけれど、実際にポケモンセンターで治療されるポケモンは重症、または毒や火傷といった特殊な傷を負ったポケモンたち。でも、その治療法はポケモンのタイプによって変わってくるわ」
「でもそれって非効率的じゃないですか? タイプ別に受け持ちを作ったら、暇な人が出てきたりとか」
「その点は心配要らないわ。ちゃんとその辺りのマニュアルも完備されているわ。っと、喋っている間に来たようね」
 そう言ってジョーイが部屋の入り口へと振り返った直後、担架に乗せられたポケモンが運び込まれていた。
 運んできた男のスタッフに協力して、一、二の三で合図して担架からポケモンを治療台へと移動させる。
 運ばれてきたのは、やや干からびた感を受けるナゾノクサであった。
「ナ、ナゾォ」
「それじゃあ、お願いします。必要な事はそのカルテに書いてありますので」
 ナゾノクサを運んできたスタッフは、カルテを渡して直ぐに担架と共にひきあげて行った。
 カルテを見るまでもなく干からびたナゾノクサを見てルカサは火傷の類だと思った。
 すぐに薬が置かれているであろう棚へと駆け寄るが手を伸ばす前に、ジョーイさんがルカサを止めた。
「ちょっと待って、どうやら焼けどじゃなさそうよ」
「え、でも……体中にシワが出来て。これって火傷で体の水分がとんだせいじゃないんですか?」
「それがこの子バトルしていてこうなったわけじゃないらしいわ。ほら、見て御覧なさい」
 ジョーイさんから渡されたカルテに目を通したルカサは、トレーナーの迂闊さを呪った。
 このナゾノクサをつれて沖へポケモン釣りに出たのはいいが、炎天下の中でナゾノクサがダウンしたのだ。
 つまり海にしか水がない場所で活動していたナゾノクサが、脱水症状に陥ったのだ。
「ルカサちゃん、ポケモンの治療に大切なのはポケモンの症状だけに目を捕らわれてはダメよ。トレーナーの言葉にも耳を傾けた方が良いわ」
「はい、わかりました。それで治療法はどうしましょう。大量のお水をあげて休ませれば大丈夫だと思いますけれど」
「そうね、おおむねそれだけで大丈夫だとは思うけれど、念のため栄養剤も与えておきましょう。そこの棚に、草タイプ用の塗りこむ栄養剤があるはずよ」
 言われた棚に近寄ったルカサであったが、棚に用意された幾種類もの薬の数に圧倒されてどれの事だか解らなかった。
 当然と言えば当然なのだが瓶や容器に一々何の傷用か書かれていない。
「すみません、どの段のどの瓶ですか?」
「ああ、御免なさい。上から三段目の右から二つ目よ。市販の薬は、様々なタイプに平均的に効くものを何種類か混ぜているものが多いけれど、必要な成分だけを抽出すると同じタイプのポケモンでも種類が違えばその数だけ薬ができてしまうのよ」
「そうだったんですか……さすがにそこまでは。これかな?」
 言われた薬瓶をジョーイに私、ルカサは次に大きなカナダライに水を入れて運んできた。
 その中にナゾノクサを仰向けになるように寝かせ、ジョーイが水の中に先ほどの薬を混ぜ込んだ。
「水を手で救っては、塗りこむようにマッサージしてあげてね。そのうち意識がはっきりするだろうから、その時は笑顔で安心させてあげて」
「すみません、もう一体お願いします!」
「それじゃあ、お願いね」
 大して時間も経たないうちに、また先ほどの男のスタッフが担架で次の草ポケモンを運び込んできた。
 次の子がどんな症状でどんな治療を行うのか気にはなったが、ルカサは今は目の前にいるナゾノクサの治療だけを考えた。
 薬を溶かした水を手ですくい、シワシワになったナゾノクサの体や頭の葉っぱに塗りこんでいってやる。
 しばらくそのマッサージを続けていると、苦しげに呻いていただけのナゾノクサの鳴き声が変わってきた。
 さらに続けると意識がハッキリしたようで、言われた通りルカサは微笑みかけてやった。
「もう大丈夫だからね。すぐに貴方のトレーナーの所に戻れるから」
「ナゾ」
「ルカサちゃん、ナゾノクサが気がついたらこっちへ手を貸してちょうだい。ナゾノクサは後でスタッフがとりに来るから」
「はい、それじゃあ少しだけここで大人しくしていてね」
 もっとマッサージを続けて欲しそうなナゾノクサの頭を撫で付けると、ルカサは助力を求めたジョーイの元へと行った。
 どうやら運ばれてきたのはウツドンであり、呼吸をするたびに壊れた笛が鳴るような妙な音を立てていた。
 トレーナーが目を離したすきに、何かを飲み込んだらしきウツドンの口から、ジョーイと協力して遊戯用のボールを取り出した。
 その次には多くのきのこに寄生されすぎたパラス。
 これは適度にきのこを伐採することで、元気を取り戻してくれた。
 さらに次、また次にと草ポケモンだけが運び込まれると言うのに患者のポケモンが途切れることはなかった。
 いつになったら患者のポケモンは途切れるのか、そもそも今が一体何時なのか部屋の中に時計を探そうとした所でまたポケモンが運び込まれてきた。
「さあ、ルカサちゃん。もう少しで休憩が入るはずよ。もう一踏ん張り」
「わ、わかり……フシギダネ?」
「ダネ」
 ジョーイの言葉に力づけられ、運び込まれたポケモンに振り返ると何処かで見た事があるようなフシギダネが治療台の上に伏せていた。
 しかも呼ばれて直ぐに返事をすることや、ルカサを見つめてくる瞳が誰かとわかってみてきているようであった。
「もしかして、サトシのフシギダネ?」
「ダネ、ダーネ」
 その通りだと、フシギダネが頷いてきた。
「あら、お知り合い? カルテには、局部の炎症とあるわね。つるのムチのあたりか」
「フシギダネ、ちょっとつるのムチを伸ばしてみようか」
「フシ」
 言われた通り背負った種と背中の隙間からフシギダネがつるのムチをゆっくりと伸ばしていった。
 ジョーイが伸ばされたつるのムチをそっとささえ、付け根を覗き込むと、ルカサもならって覗き込んだ。
 若草と言うよりは濃い緑色のつるのムチの付け根が、擦り切れたようになっており熱を持っていた。
「フシギダネ、貴方どこかでぶつけたり、引っかきでもしたの?」
「ダネダネ」
「たぶん違うと思うわ。これはつるのムチを酷使した時に出来る特有の症状ね。普通は炎症になるほど痛めたりはしないんだけど、何か特別なことをしていたみたいね」
「特別……あ、サントアンヌ号の船長さんから教えてもらった秘伝の技ね。頑張りすぎるんだから」
 よしよしとルカサがフシギダネの頭を撫で付けていると、ジョーイが軟膏のようなものを棚から持ってきた。
 それをフシギダネのつるのムチの付け根に丹念に塗りつけていく。
「とりあえず、炎症を抑えるためにぬっておきましょう。ルカサちゃん、トレーナーが知り合いなら休憩がてらこの子を返してきてくれないかしら」
「わかりました。ついでにあまり無理させないように釘をさしておきます」
「休憩は一時間、もう三時辺りだから遅めのお昼をとってらっしゃいな」
 再度返事をしたルカサは、フシギダネを抱えると治療室を出てまずは受付を目指した。
 受付ではシゲルも休憩を言い渡されたようで、カウンターの外でフシギダネを待っていたサトシと話し込んでいた。
「お待たせ、サトシ。はい、フシギダネ。あまり無理させちゃダメよ。そんなに痛みはないみたいだけど、酷使しすぎると危ないわよ」
「…………あ、ルカサか。誰かと思った」
 ワンテンポ反応の遅れたサトシを見て、フシギダネを渡したルカサはちょっとポーズをとってみた。
「なあに、看護服が似合いすぎて見とれちゃった?」
「ちっこい、ジョーイさんがきたと思ってびっくりしたぜ」
「誰がちんちくりんよ! だいたい、私とサトシは身長同じでしょう!」
 何時もの調子ならばサトシを蹴り上げている頃であったが、仮にも看護服を着ている手前一目を気にしてルカサは耐えていた。
「今のはサトシが一方的に悪いが、ここは穏便に。ルカサも休憩してこいって言われた口だろ。丁度いいからサトシの修行の具合を聞きながらご飯にしよう」
「そうそう、どんな無茶な修行したか聞いておきたいわ。修行でポケモンに怪我させるなんてトレーナー失格よ」
「フシギダネが望んでるからいいんだよ。だろ、フシギダネ」
「ダネ!」
 その通りだとフシギダネが鳴くも、ルカサはサトシの耳に手を伸ばしていた。
「それを止めるのもトレーナーの役目。もう、やっぱりまだ私たちがついてないとダメね、サトシは」
「何言ってるんだよ。俺は立派にトレーナーしてるぜ!」
「それはこれから話を聞いて、僕らが批評してあげるさ」
 三人そろって遅めの昼食をとりながら、三人は今日一日それぞれが何をしていたのかを語り合った。
 サトシの修行はこの後数日続くことになり、シゲルとルカサは引き続きポケモンセンターでお手伝いを続けることとなった。

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