第十三話 コイキング詐欺
 ポケモンセンターを出て直ぐに迎えてくれた陽光を前に、ルカサが目一杯両腕を空に伸ばして体を伸ばしていた。
 このハナダシティにたどり着いたのは昨晩の事で、数日ぶりの温かいベッドが寝床であった。
 溜まった疲れが中々抜けず、こうしてお昼間近になるまで三人は起きる事がなかったのだ。
「あ〜、久しぶりにベッドでぐっすり。こんな清々しい朝、もうお昼だけど。久しぶりね」
「普通の野宿ならまだしも、お月見山は岩ばかりだったからね。ポケモンセンターのベッドのやわらかい事といったら」
 ルカサもシゲルも、軽くなった体をのびのびと動かして違いを楽しんでいたが、サトシはやや違っていた。
 ベッドの軟らかさは確かに感動的なものであったが、それ以上にサトシの心を掴んで話さないものがこのハナダシティにあるのだ。
 そう、二つ目のジムバッヂを掛けて挑戦できるハナダジムがこの街にはあるのだ。
 コレからジムを探して街を歩くと言うのに、早くも闘志をメラメラと燃やしていた。
「よおし、早速ハナダジムを探し出して挑戦だ。俺の闘志は待ちきれないほどに燃えているぜ!」
 早速走り出そうとしたサトシであったが、出てきたばかりのポケモンセンターの入り口からジョーイさんが駆け出してきて行った。
「ちょっと待って、君たち」
 出鼻を挫かれたサトシは二、三度たたらを踏んでから止まり振り返った。
 一体何の用かとジョーイさんを見ると、なにやら一枚の紙切れを持っており差し出してきた。
「貴方たち昨日の夜遅くにハナダシティに来たから、まだこの事をしらないでしょ? ハナダシティで流行っているコイキング詐欺」
「コイキング……詐欺って、なんですかそれ?」
「なにやら穏やかじゃない言葉ですね」
 一人サトシはコイキングってなんだという顔をしていたが、ジョーイさんは説明してくれた。
「ハナダジムは水ポケモン専属のジムなんだけれど、それを良い事にハナダジムで鍛えられた水ポケモンはいらないかって声を掛けてくる人が居るの。沢山のモンスターボールの中から一定の金額で好きなモンスターボールを選び、中にはどんなポケモンが入っているか空けてのお楽しみと言うのが売り文句」
「まさか詐欺と言うのは、そのモンスターボールが全て……」
「そう、最初からハナダジムで鍛えられたポケモンなんていなくて。モンスターボールの中身も全てコイキング。かなり多くのトレーナーが被害にあっていて、大きな問題になっているの」
シゲルの推測が残念にも当たってしまっていたようで、困った人が居るものだとジョーイさんが頬に手を当てていた。
もちろん憤慨したのはシゲルやルカサも同じであり、やや遅れるようにサトシも怒っていた。
「酷い話ね。そりゃあ、コイキングは一番弱いポケモンって言われてるけれど、わざわざ詐欺のために利用するなんて」
「でも丁寧に育てればギャラドスって言う類稀な力を持ったポケモンに進化するはずだ。願わくば、受け取った人たちが大事に育ててくれればいいんだけど」
「詐欺した奴らは当然として、買った奴らも悪いぜ。ポケモンを人から買うだなんて、トレーナーとして根性捻じ曲がってるぜ」
 そうなるとシゲルの願いは叶う可能性は限りなく低そうであった。
 本気でコイキングの心配をする三人をほっとしたように眺めていたジョーイさんは、仕事に戻る前に気をつけるようにと念を押して戻っていった。
 ジム戦の前に嫌な話を聞いてしまったが、サトシの闘志は衰えるどころか倍増していた。
 別の言い方をすれば頭に血が上っている状態であったが、とりあえずはハナダジムを探して街を歩くことになった。
「もしも詐欺師を見つけたらボコボコにしてやろうぜ」
「同感、コイキングが一杯詰まったプールに放り込んで体当たりさせまくってやるわ」
「ルカサまで何を言ってるんだ。とりあえずはサトシのジム戦だろ。二人してまったく」
 腹の虫が収まらないのはシゲルも同感であったが、今のところ第一の目的はサトシのジム戦である。
 せめて自分だけでも見失わないようにとハナダジムの地図を見ながら歩いていると、コツンと何かがつま先に触れた。
 立ち止まったシゲルの視線につられるようにサトシもルカサも視線を下に向けた。
 そこには一つのモンスターボールが転がっていた。
「なんでこんな所にモンスターボールが。ポケモンは、入っているみたいだな」
「ちょっとシゲル、こっち見て。ここって」
 ルカサに言われて横へと首を向けたシゲルは絶句した。
 見まごう事なきごみ収集所であり、まさかと思いモンスターボールを投げつけるとコイキングが飛び出した。
 アスファルトの上でコイキングが元気に跳ね続けていた。
「嘘でしょ……ポケモンが入ってるモンスターボールを捨てた人がいるの?」
「怒りで頭がどうにかなっちゃいそうだぜ。よし、決めた。シゲルそのモンスターボール俺が」
「いや、サトシ。このコイキングは僕が引き受けるよ」
 コイキングをモンスターボールに戻しながら、シゲルの方から言ってきた。
「こうして僕がモンスターボールに躓いたのも何かの縁だ。このコイキングを捨てたトレーナーに代わって、僕がこのコイキングを立派に育ててみせる」
「えらい!!」
「ぐぇッ?!」
 突然シゲルの背中を誰かが叩き、カエルが潰れたような悲鳴をあげてシゲルがその場に突っ伏した。
 大きな音が鳴るほどに強くシゲルの背中を叩いたのは女の子であった。
 髪の毛を頭の上でゴムバンドを使い結んでおり、短いズボンと丈の短い上着といた服装から元気が有り余っていそうな雰囲気である。
 倒れこんでシゲルが見えていないのか、変わらぬ調子で言ってきた。
「ねえ、貴方たち。私と一緒にコイキング詐欺を捕まえてみない? 私手持ちが水ポケモンばかりだから、信頼できるトレーナーを探していた所なの」
「おう、その話乗ったぜ。俺マサラタウンのサトシ」
「私はルカサ。よろしくね、え〜っと」
「カスミ、私の名前はカスミよ。こちらこそ、ルカサ。それにサトシ」
「ちょっと待った」
 ようやく立ち上がったシゲルが待ったを駆けたため、三人の視線が集中する。
 だがシゲルは怯むことなく冷静を努めて言った。
「僕もいい加減頭にきているところだが、サトシ、ジム戦の方はいいのか? 怒りの余り目的を見失うのは馬鹿のやることだぞ」
「なに、貴方たちジム戦しにきたんだ。それなら大丈夫よ。この騒ぎのおかげでハナダジムはしばらく休業中だもの。開けておくと、関係ないのにジムに騙されたって押しかけてくる人たちがいるから」
「つまり、この騒ぎが収まるまではサトシのジム戦もできないと言うわけか。了解したよ、僕も一枚かませてもらおう」
 シゲルが観念したように言うと、ある程度作戦はまとまっているとカスミは三人を連れて場所を移動し始めた。





 移動した先は、お月見山方面からハナダシティへと入ってくる街の入り口であった。
 カスミ曰く、コイキング詐欺を行う者はまだ詐欺が流行っている情報を知らないトレーナーを狙う為、街の入り口付近に出やすい事。
 さらにはお月見山があるために情報が伝わりにくい為、一番こちら側の入り口での出没情報が多いらしい。
 ハナダシティの入り口付近の公園に集まって作戦会議を済ませ、手持ちポケモンを互いに確認してから行動開始であった。
「それじゃあ、私はサトシと組んで。シゲルはルカサとね。二手に別れて探しましょう。見つけたら解りやすいように合図を出すって事で」
「わかった。相手もポケモンを出してくる可能性があるから気をつけて。行こうかルカサ」
「サトシ、しっかりやりなさいよ」
 珍しく帽子を脱いでいるサトシに言うと、シゲルとルカサは詐欺師達を探しに歩き出した。
 軽く手を挙げて了解の意を示したサトシであったが、どうにも頭がスースーするのか頭上を気にしていた。
 サトシの帽子が何処へ行ったかと言うと、今はカスミの顔を隠すように目深に被せられていた。
「なあ、カスミ。帽子やっぱり返してくれよ」
「駄目よ、説明したでしょ。私すでに顔を知られてる可能性があるもの。我慢しなさい」
「だったらルカサの帽子でよかったじゃねえか。俺の帽子だとお前、男みたいだぞ」
「だ、誰が男ですって!」
 何気ない一言のつもりで言った台詞に、思いのほかカスミが怒りをあらわにした事でサトシは逃げ出していた。
「なんで追いかけるんだよ」
「貴方が逃げるからでしょ、待ちなさいサトシ!」
「そっちが追いかけてくるだろ」
 捜査開始早々にコイキング詐欺師達そっちのけで、二人は走り回っていた。
 チームを組む時にもう少し相性を考慮すべきだったが、今はすでにこの場にシゲルもルカサもいない。
 誰も止める事が出来ない追いかけっこが終わったのは、公園の中に逃げ込んだサトシが蹴躓いて転んだからだ。
 うつぶせに転んだサトシの背中に勢い良くカスミが乗りかかり、顎に手を掛けてえびぞりにさせる。
「さあ捕まえたわよ。訂正しなさい、こんな美少女捕まえて。なんだって?!」
「ロ、ロープロープ。もしくはギブアップ」
「まったく、思い知った?」
「十分過ぎるほどに……ガクッ」
 ぐったりとしたサトシを尻目に、カスミはパンパンと手を払っていた。
 それからハッと当初の目的を思い出し、辺りを見渡して今自分たちが何処に居るのかを確認した。
 ここはハナダシティの入り口から一番近い小さな公園であった。
 周りを木々に囲まれ、中々外からは様子の伺いにくい場所である。
「こんな事してる場合じゃなかったわ。サトシ、起きて。探しに行くわよ」
「う〜……酷い目にあった」
 サトシが少しばかり頭をくらくらと揺らしながら立ち上がると、一先ず一度入り口の辺りに戻ろうと歩き出そうとする。
「君たち、この辺りでは見ないポケモントレーナーだよね。良い話があるんだけど聞かないかい?」
「悪くない話だぜ。一見の価値ならぬ、一聞の価値ありって奴だ」
 サトシとカスミに話しかけてきたのは、二十歳前後の男達であった。
 何処にでも売っている様なジーパンとラフなシャツを身にまとった、街ですれ違っても直ぐに忘れてしまいそうな印象の薄い二人組みである。
 あるいはわざとそう言う格好をしているのか、聞きもしないのに二人組みは話を持ちかけてきた。
「実は俺たちある筋からハナダジムで鍛えられた優秀なポケモンを幾つか手に入れることが出来たんだ。だが数が多くて俺たちの手には余っちゃうのさ」
「優秀なポケモンが一生モンスターボールの中ってのも可哀想だろ。さすがにただでとは行かないが、どうだい。買い取ってみる気はないかい?」
 最初から怪しいと視線を厳しくしていたカスミとは違い、買い取ると言う言葉を聞いてサトシもようやく二人組みが何なのか気付いた。
 早速口を開こうとしたサトシを止める様にカスミが歩み出て、突きつけるように言った。
「そうね、本当に優秀なら考えてもいいかもね。ポケモン勝負で見極めてあげるわ。出てらっしゃいマイステディ、ヒトデマン!」
「ゼァ!」
 カスミが放り投げたモンスターボールから飛び出した星型のポケモンを見て、二人組みの男たちが顔色を変えていた。
「しまった、こいつハナダジムの」
「男装のせいで気付かなかった。とんだミスをしちまったぜ!」
「誰が男装よ。ちょっと帽子被ってるだけじゃない。もう許せない。サトシ貴方もポケモン出して。シゲルたちに連絡よ」
「出て来い、フシギダネ。ポッポもだ、シゲルたちを連れてきてくれ!」
 サトシがモンスターボールを投げると、同時に二人組みの男達もモンスターボールを投げつけていた。
 ポッポがすかさず空へと上りシゲルたちへの報告に飛ぶが、それよりも早く一つの命令が片方の男から飛んでいた。
「仲間を呼ばれてたまるか。エレブー十万ボルトでポッポを撃ち落せ!」
 男達が取り出したポケモンは、電気タイプのエレブーとコイルであった。
 黄色い体に黒い縞模様が幾つも入った人型に近いポケモンで、コイルと呼ばれた方は丸っこい体に磁石のような手がついていた。
 指示を受けてエレブーの体が光だし、飛んで行くポッポを光の帯が真っ直ぐに撃ち抜いた。
 爆発的に膨らんだ電撃が空の上でスパークし、ポッポの悲鳴が高く空の上で広がっていった。
「ポッポッ!!」
 黒い煙を体から上げてポッポが落ちていくのを見て、サトシが走り出そうとしたがカスミが咄嗟に服を掴んで止めた。
「サトシ、ポッポが気がかりなのは解るけど奴らから目を離さないで。まさかとは思ったけど、用意周到に電気ポケモンを用意してるなんてただの詐欺師にしては手が込んでる。普通じゃないわ、こいつら」
「くそ、人を騙して、ポケモンをお金で売り払って、俺のポッポまで。お前ら一体何なんだよ」
「遊び半分で首を突っ込んだ自分を恨みな。我らロケット団をただの悪党と一緒にしてもらっては困る」
「しかしそろそろ潮時だな。良いエサも向こうから飛び込んできてくれた。奴のポケモンを奪うのを最後の仕事と行こうか」
 明らかにカスミを狙った発言に、カスミはやはりハナダジム対策に電気ポケモンを用意していたのかと確信した。
 そして自分自身もまた用心してサトシたちのようなトレーナーを味方につけておいたことに安堵していた。
「またロケット団かよ。オーキド博士は関わるなって言ったけど、目の前に現れたら我慢なんてできないぜ。フシギダネ、つるのムチだ」
「ヒトデマン、光の壁よ。フシギダネを援護してあげて」
「多少の防御など俺のエレブーの前では無意味だ。十万ボルト」
「コイル、電磁波を撒き散らしてエレブーを援護しつつ攻撃だ」
 先制はフシギダネであった。
 伸ばされたコイルを打ち付けるも硬い鋼の体に効果は薄そうであった。
 すぐに発電を始めたエレブーが体中をスパークさせるが、間一髪ヒトデマンの光の壁が張られる方が早かった。
 フシギダネとヒトデマンの目の前に輝かしい壁が生まれ、その壁によってエレブーの十万ボルトが弾かれていく。
「苦手は苦手でも、返って電気タイプとは戦い慣れているのよ。ヒトデマン、十万ボルトをやり過ごしたらスピードスターよ」
「俺のエレブーをそこらの電気ポケモンと一緒にするな。出力を上げるんだ、エレブー。そんな薄っぺらい光の壁などぶち壊せ」
「コイル、ソニックブームだ。光の壁を壊す手伝いをしろ」
「ヒトデマン、堪えてお願い。サトシ!」
「解ってる。フシギダネ、コイルには効果が薄いからエレブーに葉っぱカッターだ」
 さらに十万ボルトの出力を上げよとするエレブーへと、フシギダネの葉っぱカッターが襲い掛かる。
 明らかにダメージを恐れてエレブーが怯むも、迫る葉っぱカッターの前にコイルが体を張って立ちはだかった。
 鋼の体を少しずつ削られながらも全ての葉っぱカッターに耐え抜いていった。
「ダネ?!」
「俺のフシギダネの葉っぱカッターが」
「育てが足りないんだよ」
 揶揄の後にエレブーの十万ボルトの出力が上がり、コイルまでもがソニックブームを放った。
 堪えるように光の壁を維持していたヒトデマンの限界が訪れた。
 光の壁を砕いてもなお勢いの衰えなかった十万ボルトとソニックブームがヒトデマンとフシギダネへと直撃していった。
 ソニックブームはまだしも、十万ボルトは特にヒトデマンを激しく痛めつけていた。
 吹き飛ばされたヒトデマンはカスミを巻き込んでそのまま意識を失ってしまった。
 辛うじてフシギダネは意識を保っていたが息も絶え絶えで、戦闘続行がかなり難しいぐらいにダメージを受けていた。
「戻れフシギダネ。こうなったら、プリン君に決めた!」
「プリンって、あ。大事な事を忘れてたわ。サトシ、転がるよ。プリンは岩タイプの転がるが何故か使えたはずよ!」
 可愛らしい外見とは全く異なるタイプの技である為に、カスミはすっかり失念していたのだ。
 これではあらかじめ手持ちポケモンを確認していた意味がない。
「よおし、プリン転がるだ。後で思い切り歌聴いてやるから頑張ってくれ」
「プリーッ!」
 大きく息を吸い込んだプリンが、手と足を引っ込めて地面の上を勢い良く転がり出した。
 巻き上げられた土が飛び、エレブーとコイルへと飛んでいく。
「雲行きがあやしくなってきたな。勢いがつかないうちに止めるぞ。エレブー、雷パンチだ」
「コイルは電磁波でエレブーの雷パンチの威力を高めてやれ」
 飛び散る土を嫌そうにしていたエレブーが転がりながら近寄ってくるプリン目掛けて走った。
 コイルが放った電磁波を全身に受けて、右手に雷を集中させてスパークさせた。
 真正面から近寄るプリンへと腕を繰り出すが、転がる事によって飛んで来た土が運悪く目に入った。
 目標を見失い威力が半減した雷パンチがプリンの体を中途半端に打ちつけた。
 レベル差からかそれでも一度プリンの体は受け止められ、数秒の押し合いのあと空へと打ち上げられた。
「プリン!」
「大丈夫よ、サトシ。まだプリンは勢いを失ってないわ」
 カスミの言う通りであった。
 空へと打ち上げられはしたものの、プリンは転がる事をやめず落下するままに真下にいたエレブーを踏み潰した。
 地面に押しつぶされたエレブーは悲鳴を上げながらも、連続して雷パンチをプリンへと打ち込んでいた。
 段々とプリンの勢いが弱まっていき、最後にはコイルのソニックブームも加えられて吹き飛ばされてしまう。
「手こずらせやがって。さあ子供の遊びの時間は終わりだ。大人しく持っているポケモンを全て出しな」
 サトシは全ての手持ちポケモンを失い、カスミは元々援護に徹するつもりでヒトデマンしかもっていない。
 ゆっくりと近づいてくるロケット団の男たち二人を前に、体を硬く強張らせる二人であったが、まだ終わりではなかった。
 今の状況でとてつもなく頼りがいのある声が響いたのだ。
「イシツブテ、岩落としだ」
「トランセルは思い切り硬くなった状態で体当たりよ」
 サトシたちとロケット団の間に、空から降ってきた岩々が降り注ぎ積みあがっていった。
 まだ仲間が居たかと舌打ちをした一人がコイルを前に出すも、岩と一緒に降って来たトランセルが見事な体当たりを打ちかましていた。
「サトシ、カスミ。大丈夫か」
「空がいきなり光ったから何かあったと思って探したわよ」
 そう、二人へと知らせるためにサトシがポッポを放ったのは決して無駄ではなかったのだ。
 ポッポを貫いた十万ボルトの光が、結果的には二人を呼び寄せる事になった。
「助かったぜ、二人とも。こいつらロケット団だ。俺もカスミも手持ちのポケモン全員やられちまったぜ」
「後は任せてくれ、見たところ相手の手持ちは電気ポケモンばかり。僕のイシツブテなら相性バッチリだ」
「私は微妙な所だけど、邪魔にならない程度には戦って見せるわ」
 サトシとカスミを下がらせ、今度はシゲルとルカサが前に立った。
 ロケット団が相手となれば、何人で掛かろうが卑怯もへったくれもない。
 だがさすがにロケット団の二人組みは冷静であった。
「ちっ、いくら何でも連戦はきつ過ぎる。エレブー、最後の力を振り絞って雷だ!」
 次の瞬間、辺り一体を包み込むような眩い光が空から舞い降りた。
 電気系最大の大技である雷であった。
 地面を割ってしまう程の威力と、目も開けられないほどの光にサトシたちの目がくらんでしまう。
 ひたすらに首を振って目を慣らし、視力が回復した頃にはロケット団の姿は霧のように消え去ってしまっていた。
 エレブーやコイルもしっかり育てられており、最後まで抜け目のない相手であった。
「逃げられたか。だがロケット団が関わってるとなると、これ以上は警察の仕事だな」
「そう、なるわね。今まではポケモンを人から買う方も悪いって事で警察の動きも鈍かったけれど、動いてくれるでしょうね」
 逃がしてしまった事に、ヒトデマンしか持ってこなかった事を悔やみながらシゲルに同意しながらカスミが言った。
 出来れば捕まえたかったと口惜しそうにするカスミを見ていたシゲルとサトシがハッと何かに気付いた。
「しまった、お爺様にきつく言われてたのに。ロケット団に関わってしまった。なんて言い訳すれば」
「俺のポッポがエレブーの十万ボルトで。ポッポー、何処だ。返事しろー!」
「そんなの黙ってれば済む事じゃない。こら、サトシ。一人で探しても見つかりにくいでしょ。手伝うから、ほらシゲルも来るの!」
 自分の不手際を悔やんでいたカスミであったが、たった一つだけよい事もあったかと考えを改めていた。
 街で捨てられたコイキングを拾い上げて引き取ったトレーナーたち。
 ポケモンを大切にすると言う事は、トレーナーとして当たり前だが、案外難しい面もある。
 今だって傷ついたポッポを真っ先に探しに行ったサトシたちに出会えた事だけは、嬉しい事だとカスミは思った。
 そして自分もまた、サトシのポッポを探す為に、サトシたちの後を追いかけた。
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