第十二話 ポケモンドクター見習い
 ハナダシティへと向かう為に、お月見山の洞窟をサトシたちは駆け抜けていた。
 それはもう全力で。
 決して振り返りたくはない背後では、たくさんのイシツブテたちが転がり続けている。
 余りにも長い間転がり続けた為にその威力は跳ね上がり、多少の障害物などは破壊して尚突き進むありさまであった。
「もう、いい加減にしてよ。怒ってるのは解ったから!」
「さっきのシゲルみたいに洞窟の壁の直前でかわすとかどうだ?」
「あれはイシツブテが一体だから出来たんだ。あんな波のように迫るイシツブテをギリギリでかわせるはずがないだろ」
「誰でもいいからなんとかして!」
 息も絶え絶えにルカサが叫ぶが、運よく他のトレーナーが通りがかる事もなく。
 サトシたちの前にひょこひょこ現れたのは一匹の小さなピッピであった。
「ピッピにはさすがに無理だろう」
「なんだか子供みたいだし」
 何時もなら可愛いゲットしたいと叫ぶルカサもシゲルの言葉に共感して頷くのみであった。
 そのままピッピとすれ違い逃げ続けようとして数歩、三人はハッとして振り返った。
 灰色の波がこちらへと迫っており、一体で残されたのは事情を理解していないピッピである。
「危ない、ピッピ!」
 意を決して走り出したのはサトシだった。
 姿勢を低くして走りながらピッピを抱きかかえるが、再び切り返して走りなおす暇はなかった。
 もうすでにイシツブテたちは目の前である。
「「サトシ!」」
 ギュッと目をつぶりピッピを抱え込んでいると、シゲルとルカサが名を呼ぶ声が聞こえた。
 その時ピッピの鳴き声が洞窟内に響き渡った。
「ピッピーッ!」
 サトシの腕の中にいるピッピからではなく、別の場所からである。
 サトシたちが居る場所から離れた場所で腕を大きく上に伸ばしたピッピがいた。
 するとどうした事か、サトシたちを追いかけていたはずのイシツブテたちが脇を通り過ぎていってしまった。
 手を挙げていたピッピがそのまま洞窟の奥へと跳ねていくと、イシツブテたちがそのピッピを追って転がっていってしまう。
 イシツブテたちが巻き起こした砂埃に咳き込みながら驚いていたシゲルが、ハッとして言った。
「そうか、ピッピのこの指止まれだ。自分に標的を変えさせたんだ」
「でもだったら今度はあのピッピが危ないじゃない。追いかけましょう」
 しかしそれでは追いかけられるのが誰であるか変わっただけで、状況になんら変化があったようには思えなかった。
 自分達のせいでピッピが危ない目にあうのではとすぐにサトシたちは、イシツブテを引き受けてくれたピッピを追いかけた。
「ピッピッ」
 サトシが抱えたピッピはまだ子供なのか、あまり状況がわかっていないようで一緒に連れて行くことになった。
 イシツブテたちが転がった跡を追いかけて進んでいくと、とある曲がり角の前で急カーブを描いていた。
 覗き込んでみれば、直ぐに行き止まりとなっていてそこに壁に激突して目を回したイシツブテたちが積みあがっていた。
 自分たちを助けてくれたピッピは何処なのか。
 まさかという思いを抱きながら積みあがったイシツブテたちに歩み寄ると、小さな隙間からピンク色の何かがもぞもぞと動いていた。
 手の平サイズのそれは、イシツブテたちの中から抜け出すと一瞬の間に元の大きさのピッピへと戻っていた。
「ピッピ」
「すっげえ、なんだ今の。ピッピって小さくなれるんだな」
「でもどうして僕らを助けてくれたんだ?」
「もしかしてこの子のお母さんか何かじゃないのかな。ほら、サトシその子かしてみて」
 ルカサがサトシからピッピの子供を受け取り差し出してみると、助けてくれたピッピがその子を受け取り抱きしめていた。
 どうやら間違いないようで、お礼を言ってから先を行こうとすると子供の方のピッピがサトシの背中へと跳び上がって張り付いてきた。
「うわっ、なんだ。どうしたんだ?」
「ピッピー」
「あ、いいなー、サトシ。もしかして懐かれちゃったんじゃないの?」
「別に俺はなにもしてないぞ。こいつの母さんにこっちが助けてもらったぐらいで」
 お母さんピッピがなんとか子供を離させようとしても、ギュッとサトシの服にしがみ付いて離れようとはしなかった。
「これは困ったな。サトシだけをここにおいていくわけにも行かないし」
「さらっと怖い事言うなよ、シゲル」
 どうしようと困っていると、今度はお母さんの方のピッピが手招きをして先を歩き出した。
 どうやら何処かに連れて行きたいようで、顔を見合わせてからサトシタたちはついていくことにした。
 ハナダシティへと向かう正規のルートから離れて、やがてピッピは壁に出来た亀裂の中へと入っていった。
 サトシたちのような人間には決して余裕のある通路ではなかったが、四つんばいになって進んでいく。
 窮屈な通路を少しばかり進むと、一気に大きな広間へと出る事ができた。
 天井に大きな穴が開いておりそこから闇色のカーテンが折り始めている空が見えていた。
 穴の真下にはコレまでの洞窟内で見た岩とは種類の違う何処かキラキラとした大岩が鎮座しており、周りを大勢のピッピたちが囲んでいた。
「お月見山にはこんなにもピッピたちが住んでいたのか。一つの集落と言うところか」
「でもお邪魔していいのかしら」
「いつの間にか夜みたいだし今晩だけ泊めてもらおうぜ。イシツブテから逃げ回って疲れたしさ」
「それもそうね」
 案内してくれたピッピのお母さんにお礼を言うと、集落の隅で泊めてもらうことになった。
 サトシは子供のピッピを背中に貼り付けたまま夕飯の支度を始め、シゲルは興味を引かれた集落の中心の岩を調べ始めた。
 ルカサは何もする事がなくなり、興味本位で近づいてくるピッピたちと遊びながら岩を調べるシゲルを見ていた。
 確かにコレまで目にした岩とは違うようだが、どうしてシゲルがそこまで興味を持つかわからなかった。
「ねえ、そんなの見て面白いの? ピッピたちの方が可愛いわよ?」
「ここがピッピたちの集落だってのは、ルカサにも解るだろう。その中心にこの岩が唐突にあるのも不自然だ。なんと言っても、邪魔だし」
「ん〜……もしかして、空から降ってきたんだったりして。ほら、天井に大きな穴があるし」
「そう、僕はこれが月の石じゃないかと思ってる」
 そうだったらロマンチックだと軽い気持ちで言った意見に同意され、ルカサの方が驚いていた。
「嘘、だって月の石って。相当珍しいって聞いた事あるんだけど」
「僕だってこんな大岩ほど大きな月の石なんて聞いた事ないよ。ただピッピは月の石で進化を起こすはずだから、それが集落の中心にあっても不思議じゃないだろうね」
 ピッピたちがこの大岩ほどもある月の石を大切にしているのは、シゲルが岩に触れようとした時に止めてきた事から解っていた。
 だからシゲルは岩に触れたい気持ちを押し殺して、距離をとって眺める程度におさめていた。
 ともすればシゲルの探究心を満足できる行動は限られており、一通り眺め終わったシゲルは大岩へと背を向けた。
 その顔にはせめてピッピが進化する場面ぐらいは見てみたかったと書いてあったが、知らずにその時が近づいていた。
 時刻は当に夜の時間帯へと、月が空へと上っていた。
 大勢居るピッピの誰かが甲高い声を挙げて両手を月を掴むような仕草を見せた。
 伝染するように次々にピッピたちが両腕を空へと挙げ始めると、それまではただの綺麗な岩にしか見えなかった月の石が輝き始めた。
「なに、これ……何が起こってるの?」
 ルカサの問いかけに答えることもできずシゲルが一歩下がっていると、月の石の周りをピッピたちが飛び跳ねだした。
 相変わらず月の石の周りで両腕を上げているピッピも居るが、数体のピッピは自分達が主役だとばかりに踊るように飛び跳ねていた。
 月の石を中心にしてぐるぐる、ぐるぐる回り続ける。
 やがて変化は起きた。
 月の石の周りを飛び跳ねていたピッピたちの体が光輝き始めたのだ。
 耳が長く伸び始め、背中にはギザギザの小さな羽根までもが生え始める。
「すごいぞ、ピッピたちがどんどんピクシーに進化していく」
 見とれるようにピッピたちの進化を見ていると、シゲルとルカサの前に小さなピッピが跳び出した。
 直ぐにサトシがやってきた事で、あの時のピッピの子供だとわかる。
「ピーッ」
「急に何処か行くと思ったら、アレがお母さんなのか?」
 ピッピの子供が鳴き声を向けた先は、月の石を中心に飛び跳ねるピッピたちであった。
 その中の一匹がチラリとこちらを見やって手を振ってきていた。
 お母さんピッピもピクシーに進化するのだと、輝きだしたその体を三人と一体で見つめる。
 先に進化したピッピたちと同じように月の石の周りを飛び跳ねることで体が輝きだしたまでは良かった。
 ただそこから中々進化の証である耳が伸びたり、羽が生えたりといった事象が現れなかった。
 サトシたちがそれに気付くと、回りのピッピたちも直ぐにその異変に気付き始めていた。
「ピッピー!」
 子供のピッピが心配そうに鳴いた瞬間、お母さんピッピが体を輝かせながらその場に倒れこんでしまった。
 心配そうにまわりのピッピたちが駆け寄り、サトシたちも続くとお母さんピッピは倒れこんだまま苦しげに呻いていた。
「おいおい、どうしたんだよ。熱ッ!」
 サトシが揺り動かそうと手を伸ばして直ぐにその手を引っ込めていた。
 お母さんピッピの持つ体の熱が、火傷を促すほどに熱かったのだ。
 恐らくは進化の為のエネルギーが体に溜まったせいなのだろうが、こういった事はありえるのか、サトシがシゲルとルカサを見た。
「二人ともポケモンに詳しいんだろ。なんとかできないのか、これ」
「ちょっと待って、進化の途中で……そんなの聞いたこともないわよ」
「進化の途中で、進化の……」
 早々に解らないとさじを投げたルカサとは違い、シゲルは何か思い当たる事があるのか考え込んでいた。
 その間にルカサはお母さんピッピをタオルでくるみながら抱えこんだ。
「ピッピたち、誰でもいいから寝かせられる場所はある? せめて安静にさせないと」
「ピッピ、ピッピ!」
「大丈夫だ。ルカサはポケモンドクター志望だし、シゲルはこれでもかってほどポケモンに詳しいんだ。お前の母さんもきっと助けてくれるさ」
 すがり付こうとする子供のピッピをサトシが抱え、案内されるままについていく。
 石を切り出した硬いベッドがある部屋に案内されると、ルカサは早速そこにタオルを敷いてお母さんピッピを寝かせた。
 そして直ぐにゼニガメが入ったモンスターボールを投げつけた。
「ゼニガメ、水鉄砲でタオルを冷たく冷やして頂戴。サトシは、ピッピたちがあまり騒がないように説得してみて。シゲルは何か解ったらすぐに教えてね」
「ゼニ」
「わかった。ついでに何か役立ちそうな木の実とか取れるところがないか聞いて、探してくる」
「それならチーゴの実を探して来て。やけど治しに使われる実で、解熱効果もあるから使えるかもしれないわ」
「よし、誰か俺に木の実が取れる場所に案内してくれ!」
 サトシが走り出すと、くっついていた子供のピッピは今度はルカサへとしがみ付くように跳び乗ってきた。
「ピッピ〜……」
「大丈夫よ、貴方のお母さんは。シゲル、何か解った?」
「もう少し、僕が持ってる本の中で進化を起こす際にエネルギーが上手く体を循環せず失敗するような記述は見つけた。君のポケモン医学書も借りるぞ」
「鞄のサイドポケットに入っているから持っていって」
 振り返りもせず背後のシゲルに言うと、ルカサはゼニガメが冷やしてくれたタオルでお母さんピッピの体を冷やし始めた。
 一時はずっと輝いていた体も、今は点滅するように発光を繰り返している状態であった。
 心臓の鼓動がそのまま点滅に現れているようで、お母さんピッピが何度も苦しそうに息をしていた。
 目の前で苦しげに呻く姿を見せられ、ルカサははっきりと迷っていた。
(咄嗟に冷やして、サトシにもチーゴの実を採ってきてって言っちゃったけど、本当にそれでいいの? シゲルが、私も一緒に調べてはっきりさせてからの方がいいんじゃないの?)
 ピッピの体に溜まった熱は、間違いなく進化の過程で必要なエネルギーが溜まったものであった。
 それを冷やしてしまえば、進化が中途半端に終わってしまわないだろうか。
 例えば逆に足りないエネルギーを補わせて進化を促すのが正解ではないのか。
 頭の中では幾つもの意見を戦わせ迷いながらも、ルカサは決してそれを表には出そうとはしなかった。
 今も自分の肩越しにお母さんピッピを心配している子供のピッピを不安にさせないように、部屋の入り口で心配そうに除いているピッピたちを心配させないように。
 周りを、そして自分を焦らせない為にルカサは、冷静でいようと必死に務めていた。
 熱くなったタオルを何度もゼニガメに冷やしてもらっていると、ようやく医学書に釘付けとなっていたシゲルが顔をあげた。
「あった、これだ。進化不順。進化が何らかの理由によって正常に行われない事を言う。これが起こるには様々な理由が挙げられるが、一番多いのは進化の為のエネルギー不足。エネルギーが足りない状態で進化を始めると、体は無理やりエネルギーを作り出そうとし、逆に作りすぎて進化不順となる」
「理由はいいから、対処法は?!」
 つい探究心が先走ったシゲルをルカサが諌めた。
「ああ、そうだった。まずは高まりすぎたエネルギーを逃がす事。それから無理にエネルギーを生み出したことで栄養不足となるのでって、こっちはサトシが戻ってから何か作らせれば良い。もっとピッピの体を冷やすんだ」
「ゼニガメ、もう少しだけ頑張って水鉄砲をお願い。ありったけのタオルを出すから冷やして」
「ゼニゼー!」
 そこからはまさに耐久レースであった。
 一向に溜まったエネルギーの底が見えないお母さんピッピの為に、タオルを冷やして体を冷やし、タオルが温くなればゼニガメが冷やしてまた体を冷やす。
 何枚もタオルを変えて、冷たさと温さの間を行き来したため、交代で作業をしていたとは言え二人の手は感覚を失い始めていた。
 手の感覚どころか、非常に体力の要る単調な作業に気を抜けば意識までなくなりそうであった。
 なにしろ今は月が真上にある時間帯であり、食べ損ねた夕飯の時間からさらに時間が経過している。
 ひたすらに冷やしたタオルをお母さんピッピに当てていると、途切れそうな意識を繋げるようにサトシが戻ってきた。
「ピッピたちが何時も使ってる抜け道から外に出たら一杯木の実があったぜ。ほら、チーゴの実ってどれかわかんないからピッピに聞いて採ってきた。これでいいんだよな」
「アンタね、知らないのならその時に言いなさいよ。シゲル、ちょっとの間お願い」
 一時シゲルに母親ピッピを預けると、ルカサはサトシが持ってきた実を手にとって見た。
 間違いなくチーゴの実である事を確認すると、続いてサトシにその実をすりつぶすように頼んだ。
 ピッピが元気ならば良いのだが、今の段階では口から流しこむぐらいしか食べさせる方法が思いつかなかったのだ。
 再びお母さんピッピの横にしゃがみ込むと、水鉄砲を使いっぱなしだったゼニガメが激しく息を切らしていた。
「ゼニガメ、最後にもう一度タオルを冷やしたら、モンスターボールの中に戻っていていいわよ。シゲルも、ありがとう。後は私が看ているからシゲルも休んでちょうだい」
「はい、そうですかとは、なかなか言えないもんだよ」
「そうね。三人とも寝ずの番をして倒れたら厄介だから、交代交代にピッピを看ない?」
 それは提案と言うよりも、休む事を拒んだシゲルへの免罪符のようなものであった。
 聡明なシゲルのことであるからして、ルカサが口にしたような事は十分理解で来ていた。
 一番してはいけないのはサトシ、シゲル、ルカサとピッピを看病できる人間が同時にダウンしてしまう事である。
「解ったよ。先に休ませてもらうけれど、何かあったら必ず起こしてくれよ」
「おーい、チーゴの実が摩りおろし終わったぞ」
 サトシにも同じように休んでくれとルカサは伝えたのだが、こちらは別の意味で頑固であった。
 俺も一緒にピッピを看ているんだと断言されてしまった。
 すでにシゲルが先に休息しているからと、強く言わずにピッピにチーゴの実を摩りおろしたものを与えているとことりとサトシが地面に倒れこんでいた。
 口から漏れてくるのは寝息であり、昼はイシツブテに追いかけられ、さっきはピッピと一緒に木の実を採りにと本当は疲れていたのだろう。
「さてと、後は私だけ。ピッピ、がんばろうね」
 残ったのはお母さんピッピを心配する子供ピッピとルカサだけであった。
 ゼニガメが最後に冷やしたタオルを一枚、一枚使って引き続きお母さんピッピの体を冷やしていった。
 チーゴの実のおかげか、ルカサの努力の結果か、しばらくするとお母さんピッピの体温が下がり始めていた。
 体から発せられていたエネルギーの発光も収まり、元のピンク色の体となっていく。
 看病と言う気力の要る作業にルカサの時間感覚は完全に吹き飛んでいた。
 気がつけば自分の肩の上で眠っていたピッピの子供が転げ落ちて、サトシの横へと転がっていった。
「うう、眠い。疲れた……」
 半目で呟きながら、ルカサはすでに冷たくも温くもないタオルでお母さんピッピの体を撫で付けるようにしていた。
 空はしらみ、何処からか小鳥と鳥ポケモンの鳴き声までも聞こえてきていた。
 体力の限界からグラリとルカサの視界が大きく揺れた時、瞳の中に目を震わせもぞもぞと動き出したお母さんピッピの姿があった。
 うめき声一つ上げず、ただ朝がきたからと起きると言った普通の動作にルカサが安心していると、むくりとお母さんピッピが目を覚まして起き上がった。
 そして再び光り出したお母さんピッピの体に、ルカサの眠気は吹き飛んだ。
「嘘、ちょっと待って!」
 ルカサの挙げた悲鳴に、そばで寝ていたサトシやシゲル、子供のピッピが眠そうな目をこすりあげながら起き始めた。
 そして目に入れたのは進化の眩い光を纏った母親のピッピであり、一瞬にして意識を覚醒させていた。
 誰もが折角良くなってきたのにと言った顔をしていたが、心配は無用であった。
 その輝きは数秒間の間続いた程度であり、収まった頃には立派なピクシーの姿が底にあった。
「よかった。本当に、よかった」
「ピーピク」
 お礼のつもりか頭を下げてきたピクシーを見たのが最後であった。
 ほっとしたと同時に、今度こそルカサは安堵から意識を手放し眠りに落ちていっていた。
「おい、ルカサ!」
「寝かせてあげた方が良いよ。さて、サトシここからは君の出番だ。ルカサは僕に任せて、何か栄養のつくものをピクシーに食べさせてあげてくれ」
「わかった。ピクシー、それとピッピも。俺が何か美味いもんつくってやるからな」
 サトシはシゲルにルカサを預けると、二体を引き連れて昨晩ご飯の用意をしていた場所へと連れていった。
 シゲルはというと、ルカサにお疲れ様と呟き、少しでも楽に寝られるようにと寝袋を整えてルカサを寝かせてやっていた。

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