第十話 ルカサの努力と進化
 ガラスケースに収められ並べられているのは、古代ポケモンの化石の数々である。
 目を輝かせてそられを見ていたサトシは、それらを目に焼き付けるようにしながら次々に移動していった。
 どれだけ見ても、どれだけ歩いても次から次へと展示される化石がつきなかったのだ。
「すげえ、どれだけあるんだ。お、あっちのでっけえ!」
 もろ手を上げてサトシが向かっていったのは、バラバラに出土した化石を組み立て原型を取り戻したポケモンである。
 大きな頭とその割には小さな体、その二つを支える大きな翼を持ったプテラである。
 古代ポケモンの中でも特に有名な一匹であった。
 お月見山でロケット団から古代ポケモンの化石を取り戻したサトシたちは、発掘隊の人たちから歓迎を受け、ニビシティの博物館に招待されたのだ。
 はしゃぐサトシをシゲルと一緒に眺めている壮齢の男性が、ニビシティ博物館の館長であった。
「いやいや、あんなに喜んでもらえるとは館長冥利につきるね」
「こちらとしては少しばかり恥ずかしいのですが。お久しぶりです、館長さん」
「シゲル君もすっかり大きくなって、ついに十歳を迎えたか。君が旅立った事は風の噂で聞いていたのだが、まさかロケット団と勇敢に戦ったのが君とは。オーキド博士も誇らしい事だろう」
「いえ、実際に化石を取り戻したのは、あそこにいるサトシですから」
 やや驚いた顔で、館長はポケモンの化石の周りを走り回っているサトシを見た。
 大人びた態度で接してくるシゲルと、はしゃいで走り回るサトシから信じがたい気持ちがあったのだろう。
「館長、これってどういうポケモンなんですか?」
「君とは全く違うタイプだが、ポケモンが大好きな事に変わりはないようだ」
 とあるポケモンの化石を指差し叫んだサトシの元へと、館長が微笑みながら歩いていく。
 そして館長直々にサトシに身振りを交えて化石の説明を始めた。
 本来はそう言ったことには専用の説明係員がいるのだが、それだけ館長が化石を取り戻したサトシたちに感謝しているのだ。
 説明を受けたサトシがうんうんと頷いているが、何処まで理解できているのだろうか。
 半分ぐらいは解っていないなとシゲルが苦笑していると、ある事に気がついた。
「ルカサ、体の調子でも悪いのか?」
「え、別にそういうわけじゃないけど。どうしてよ?」
 どうしても何も、シゲルの後ろに隠れるようにして俯いていればそう思うのが当然であった。
 はしゃぎすぎるサトシを見て、館長に遠慮していると言うわけではないだろう。
 考えてみれば、ロケット団という犯罪者に関わっただけでなく、ある意味で一番危険な目にあったのはルカサなのである。
 シゲルは躊躇する間もなくサトシに説明中の館長へと声をかけた。
「館長申し訳ないですけれど、今日はいろいろあって疲れてしまいました。僕とルカサは先にポケモンセンターで休ませてもらいます」
「おお、これは気付かずにすまなかったね。だったらポケモンセンターまで車で送らせよう。今人を呼ぶから待っていてくれたまえ」
「なんだよ、二人とももっと化石を見ていかないのかよ」
 まだまだ見物し足りない様子のサトシは置いていく事にして、シゲルは館長が呼び寄せた博物館の従業員の人についていった。
 博物館の前からは車で移動し、十分もかからないうちにポケモンセンターが見えてきた。
 先日はタケシの家にお世話になりっぱなしであり、ニビシティのポケモンセンターに寄るのはこれが初めてのことであった。
 従業員の人とは入り口で別れると、ポケモンセンターへと入り受付にいたジョーイさんに個室が空いているか尋ねてみた。
 基本的にトレーナーはポケモンセンターの無料施設で泊まることが多いが、個室となると早い者勝ちで、なければロビーのソファーになることが多い。
 今回は運良く個室が空いていた為に一室だけ申請を行うと、ルカサを連れて個室へと向かう。
「ルカサは先に休んでいてくれ。僕はロビーの方で電話をかけてくるから」
「うん、ありがとうシゲル。でも体の調子が悪いとかじゃないから、心配しないで」
 心配は心配だが、本当に何かあったら気兼ねなく言ってくるだろうと、シゲルは一度ロビーへと戻った。
 そして備え付けのテレビ電話まで行くと、受話器を持ってオーキドポケモン研究所の電話番号を入力する。
 数回のコールの後で画面が明るくなり、受話器を持った祖父であるオーキド博士が映りこんだ。
「おー、シゲルか。元気でやっておるかの?」
「お久しぶりです、お爺様。皆元気でやっています。今日は少し話しておきたいことがあって電話しました」
「なんじゃな、改まって。ポケモンをゲットするコツでも聞きたいのかな?」
「いえ、実はお月見山へと通りがかった時に古代ポケモンの発掘現場に運よく立ち会うことが出来ました。ただその場にあのロケット団が現れたんです」
 久々の孫の顔に笑みを浮かべていたオーキド博士であったが、ロケット団という単語を聞いて直ぐに顔つきが変わった。
 シゲルの祖父としてではなく、世界に知られるオーキド博士としての顔がそこにあった。
「まさかロケット団とバトルしたとでも言うんじゃなかろうな」
「それが……その通りです」
「馬鹿もん!」
 オーキド博士の怒声は、シゲルだけでなくロビーでくつろいでいたトレーナーや、働いているジョーイさんが足を止める程のものであった。
 間近で聞かされたシゲルは大きく首をすくめ、滅多に怒鳴ることのない祖父の怒鳴り声に驚いていた。
 何しろシゲルの記憶する限り、祖父であるオーキド博士が誰かを怒鳴りつける場面など見たことがなかったからだ。
「お前ともあろう者が、何を軽率な行動をしている。確かにワシはお前にポケモンと触れあい今よりももっと多くの事を知って欲しいと思い送り出した。じゃが、ロケット団と関わるには早過ぎる。いや、今後二度と関わるでない!」
「もちろんそのつもりです。彼らの恐ろしさは、十分に身に染みました」
「うむ、今こうして電話をしてきておると言う事は、怪我はないと思ってよいのだろうな?」
「はい、皆無事です。怪我の類は一切ありません」
 ルカサの事は多少気になったものの、怪我の類ではない為シゲルは一時言葉にするのをやめていた。
「あれ、シゲル誰と電話してるんだ。オーキド博士?」
 電話の最中にひょっこり後ろから顔を覗かせてきたのは、博物館から別々に戻ってきたサトシであった。
「なんじゃ今日はサトシも一緒だったのか。別々に旅立ったとは言え、時に道が交わることもあるだろう。今日はどんなポケモンをゲットしたか話し合うのもよいだろう」
 オーキド博士の口ぶりに、首を傾げたのはサトシだけでなくシゲルもであった。
 まるで三人がバラバラで旅をしているのが当然のように思っているようで、まさかと思いシゲルが言った。
「お爺様、道が交わるも何も僕とサトシ、ルカサも一緒に旅をしているのですが」
「オーキド博士今さら何言ってるんだよ。俺たち誰が何のポケモン持ってるかお互いに知ってるぜ」
「なんじゃと、そう言えば三人から送られてくるポケモン図鑑の情報が全く一緒だったのは。折角このワシがタイプの違うポケモンを用意した意味は何処へ行ってしまったんじゃ!」
 三人の成長と同じぐらいにオーキド博士が願っていたのはポケモン図鑑の完成であった。
 その為にも違う夢を持つサトシたちにタイプの全く異なるフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメを用意したのだ。
 親心か自身のためかは微妙な所であるのだが、その目論見は最初から目論みとして成り立つ事はなかったようだ。
「このオーキド一生の不覚。ならばせめて三人で協力して、珍しいポケモンをゲットするか、図鑑に登録してデータを送るように。がんばるんじゃぞ……」
 意気消沈しながらの励ましの言葉が終わると同時に、ブツリと電話は切られてしまった。
 それならそうと最初から言ってくれればと思いながら、電話を置きシゲルはサトシを連れて個室へと戻って行った。
 そして個室のドアを開けると、部屋の中には誰もおらず、休んでいるはずのルカサの姿が消えていた。





 ポケモンセンターの中を走り回ること十数分、ロビーで落ち合ったサトシとシゲルは互いの顔を見合って同時に首を横に振った。
 隅から隅までルカサの姿を探したのだが、ポケモンセンターの中では見つけられなかったのだ。
「ルカサの奴、何処に行っちゃったんだ?」
「様子が変なのは気づいていたんだ。目を離して一人にすべきじゃなかった」
「こら、貴方たち」
 ロビーを見渡すサトシと、頭を抱えるシゲルに声をかけてきたのはジョーイさんであった。
「走り回るのなら表でしなさい。さっきの電話も、向こうの人が叫んだから黙っていたけど、ポケモンセンターの中ではお静かに」
「すみません、ジョーイさん。実は一緒に旅をしていた女の子が居なくなってしまって。こう長い髪が外に跳ねていて帽子を被った女の子を見ませんでしたか?」
「もしかしたらゼニガメかキャタピーを連れてるかも」
 シゲルとサトシの説明に、ジョーイさんが頬に人差し指を当てて思い出し始めた。
 どうやらシゲルが個室の申請にルカサと一緒に来たのを覚えていたようで、時間も掛からないうちに記憶のはしから思い出してもらえた。
「あの子ね。あの子ならさっき見たわ。このポケモンセンターの裏庭には、大きくはないけど練習用のバトルフィールドがあるの。そこでその子を見たわ」
「バトルフィールドで、ルカサを? なんでルカサが」
 最も似合わない場所でルカサを見たと言うジョーイさんの言葉に、まっさきに疑問の声を挙げたのはサトシであった。
 ルカサが特別バトルを嫌っていると言うわけではないのだが、どう考えてもルカサが自分から近づくような場所には思えなかった。
 ただジョーイさんがそこで見たと言う言葉を疑う意味もなく、とりあえずサトシとシゲルはポケモンセンターの裏へと回ってみることにした。
 一度入り口からポケモンセンターの外に出ると、壁に沿って裏手へと回り込む。
 そうすると見えてきたのは比較的小さなバトルフィールドであり、そこにゼニガメとキャタピーを出しているルカサの姿があった。
 少々糸まみれになったルカサはゼニガメとキャタピーを向かい合わせて擬似的なバトルを試みていた。
「ゼニガメは体当たり、キャタピーは糸を吐くよ」
「ゼニガメガ!」
「キァー!」
 突っ込んできたゼニガメへとキャタピーが正面から糸を浴びせかけた。
 体中を糸に絡め取られながらもゼニガメは前進を続けて、なんとかキャタピーへと体当たりを敢行した。
 威力は弱かったもののまともに攻撃を受けたキャタピーがコロコロと転がっていく。
 自分の足元へとキャタピーが転がってくると、一瞬ルカサは体を硬直させたが、無理やり体を動かしてキャタピーの体を止めて起こしてやる。
「う〜、やっぱり一人二役でバトルするのって難しい。そもそもバトルってどうやるのかわかんないし」
 その場にへたり込んだルカサを慰めるようにゼニガメが駆け寄り、キャタピーも声をあげていた。
「すげえじゃん、ルカサ。キャタピーに触れるようになったんだ」
「サトシ、シゲルまで。何時から見てたのよ」
「ついさっきからだよ。キャタピーがゼニガメに体当たりを食らった辺りから」
 よっぽど見られたくなかったのか、顔を赤くしたルカサは今さらながら自分にくっついていた糸を巻き取り身なりを正し始めた。
 それらが一通り終わると、まくし立てるように喋り始めた。
「ほら、キャタピーにもそろそろ慣れてあげないと可哀想じゃない。折角ゲットしたんだし」
「そうか? 俺には結構仲良く慣れてきてるように見えたけどな」
「さっきはまだよかったのよ。最初出した時にはやっぱり嫌がる素振り見せちゃって、また糸吐かれちゃったのよね」
 言い訳していますと喋り続けようとするルカサの言葉の間を見計らい、シゲルが言った。
「ついさっきお爺様に電話して、ロケット団と遭遇した事を話したよ。なんて言われたと思う?」
「そりゃもちろん、良くやったって褒めてくれたんじゃないのか? 俺たち盗まれそうになった化石の一体を取り戻したんだぜ」
「そうよね、サトシもシゲルもがんばったものね」
「馬鹿者って一喝されたよ」
 シゲルの言葉に、まさかとサトシもルカサも言葉を失っていた。
 サトシは自らの成した功績を否定されたようでムッとし、ルカサは羨んでいた対象がオーキド博士に否定されたことに複雑そうであった。
 思い通りの反応を示した二人へと、シゲルは続けた。
「それからお爺様はこうも言ったよ。ロケット団に関わるにはまだ早いって。そのあと慌てて二度と関わるなと言っていたけど、前者がお爺様の本音だと僕は思う。ポケモンの研究家は、珍しいポケモンを持つことが多い。それだけロケット団のような者に狙われやすく、今回の事だって決して珍しいことじゃないと思う」
「そうね、正直私はバトルってテレビで見るもので、自分でやるものじゃないと思ってた。でも今日みたいにアーボを見て動けなくなった自分が情けなくなったの。私が戦えていれば、化石を守ろうと動いていればもしかしたら二つとも取り返せていたんじゃないかって」
「お爺様の言う通り二度とロケット団に関わるつもりはないけれど、今回の事は知っておくべきことだった。それから僕らはバトルに強くなるべきだ」
 バトルに関わる二人の話を聞いているのに、サトシはずっと腕を組んで考え込んでいた。
 確かにシゲルやルカサの言っているのもバトルの一面なのかもしれない。
 だが何かが違うと、自分が思い描いているポケモンバトルはもっと違う意味を持ったものだと組んでいた腕を解いて言った。
「わかるけど、それは違うぜ。ポケモンバトルってさ、ポケモン同士、トレーナー同士が熱くなってぶつかり合って。もっと楽しくやるもんだぜ。二人の言うこともわかる……あー、もうめんどくさい。ルカサ、今から俺とポケモンバトルしようぜ」
「ちょっと待って、どうしてそうなるのよ」
「お前らが間違えかけてるけど上手く説明できないから、俺と一緒にバトルすればわかる。熱くなれるはずだぜ!」
「私もアンタが言いたい事はわかるけど、わからないわ。まあいいわ、少しサトシをもんであげようじゃないの」
「こっちこそ胸を貸してやるぜ。なんたって俺はグレーバッヂ持ってるんだからな」
 真面目な話が一気に脱線し、サトシのペースにルカサが巻き込まれた。
 バトルフィールド内のトレーナーの位置に二人がつき、ルカサがすでに出していたキャタピーを呼び寄せた。
「なら俺はフシギダネ、君に決めた!」
「ダネダネ!」
「ちょっと、なんでキャタピーの相手がフシギダネなのよ。いい加減相性ってのを覚えなさいよ」
「ハンデだよ、ハンデ。なんたって俺はグレー」
「それはもういいわよ。まったく、シゲル審判をお願いするわ」
 ついにはサトシのペースにシゲルまでが巻き込まれ、苦笑しながら右手をあげた。
「サトシ対ルカサ。ポケモンバトル開始!」
 シゲルの声が高らかに上がると、フシギダネもキャタピーもお互いを睨みつけ姿勢を低く構えていた。
 トレーナーであるサトシとルカサの指示を待っており、何時でも飛び出せる格好である。
 互いに少ない経験ながら僅かに経験が勝っていたサトシが先制の指示を出した。
「フシギダネ、つるのムチだ。知り合いだからって遠慮はいらないぞ」
「いきなりチャンス到来、キャタピー体当たりよ。勢いだけじゃ勝てないって事をサトシに教えてあげなさい」
 フシギダネがつるのムチを伸ばす間に、キャタピーが幾つもある足を動かして駆け始めた。
 余り素早いとは言えない動きであり、伸ばしきったつるのムチが真上から迫る。
 だが振り下ろされたつるのムチが叩いたのは硬い地面であった。
 直撃の瞬間、キャタピーが小さなジャンプで避けたのだ。
 続いて何度もフシギダネがつるのムチを振るうが小刻みにジャンプを繰り返すキャタピーに中々当たらない。
「フシギダネ、もっとひきつけてからつるのムチだ。お前の攻撃力なら一撃だぜ」
「キャタピーもう少しよ。思いっきりぶつかりなさい」
 サトシの言う通り、キャタピーとの距離をギリギリまで縮めたフシギダネが一気につるのムチをなぎ払った。
 またも直前でジャンプしキャタピーがかわそうとするも今度は間に合わなかった。
 浮いている状態でつるのムチを受けるが、地面に叩きつけられてワンバウンドでキャタピーが体勢を整え逆にフシギダネに飛びかかった。
「ちょっとビックリしたけど、草タイプの攻撃は虫タイプには効きにくいんだから。行け、キャタピー体当たり!」
 体当たりと言うよりも頭突きに近い攻撃がフシギダネの体を吹き飛ばした。
 そのままゴロゴロとバトルフィールドを転がっていったフシギダネは、目を回したまま立ち上がる事はなかった。
「あれ、サトシのフシギダネが一発で、気絶しちゃうわけがない。あ、サトシ。アンタ、フシギダネをポケモンセンターで休ませてないでしょ!」
「え、あれ……そう言えば、お月見山でロケット団とバトルしてから。ちょっと待って、忘れてただけだって。悪気は」
「悪気があったら、この程度じゃすまさないわよ!」
 ツカツカとサトシへと向けて歩いていったルカサの拳が、見事にサトシの顎を貫いていた。
 膝から力が抜けたように倒れていったサトシをみてふんっと鼻を鳴らしたルカサは、手の平をパンパンと払っていた。
 バトルの後にポケモンを休ませるのはトレーナーの義務である。
 ポケモンドクターを目指すルカサとしては、今回のサトシのうっかりは許せない部類のものであった。
「やれやれ、サトシ、フシギダネともどもノックアウトか。ん、キャタピー?」
「え、なにこれ。キャタピー、どうしたの?」
 勝利の名乗りを空へと向けて上げていたキャタピーが、そのまま途切れることなく糸を吐き始めた。
 一度は空へと舞った糸も時間をかけて再びキャタピーの体へと降りてくる。
 何時までも何時までも糸を吐き続けていたキャタピーの姿は、やがて振ってくる糸の中へと消えていった。
「これってもしかして」
「進化がはじまったんだ。虫タイプは他のポケモンに比べて進化が早いんだ」
「いてて、進化ってまだ見たことがないんだ。寝てる場合じゃない」
 キャタピーを包み込んでいた真っ白な糸が集まって繭となり、時間が経つと硬くなり色も濃い緑色へと変化した。
 三日月形の硬い眉の中からキャタピーの頃と同じ二つの瞳が覗いていた。
「キャタピーの進化系、トランセルだ」
「なんだか全く別の形になっちゃったな。これが進化って奴なのか」
「私のキャタピーが、トランセルに」
 そう呟いたルカサが、一瞬の戸惑いもなくキャタピーを拾い上げ両手で持ち上げていた。
 感動から我を忘れているだけかもしれないが、ルカサはしっかりとキャタピーを抱き上げていた。

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