第九話 発掘、古代ポケモン
 新たにプリンという仲間をゲットしたサトシタたちは、サトシの体力が回復仕切った頃を見計らいポケモンセンターから旅立った。
 目的地はハナダシティであり、その街へと行くにはお月見山と呼ばれる山の洞窟を通らねばならない。
 やや薄暗い洞窟の中を目を凝らしながら歩いていると、何度も何度も同じような姿の人とすれ違う。
 しっかりとした山歩き様の衣服をまとい、つるはしやスコップと言った地面を掘る道具を持った人たちである。
「なあシゲル、さっきからすれ違う人たちって何なんだ?」
「ああ、彼らは発掘隊の人たちだよ。お月見山は古代ポケモンの化石が取れることでも有名なんだ。その化石の一部はニビシティの博物館におさめられているはずだ」
「古代ポケモンか、ちょっとしたロマンよね。って、なんで博物館がある事言わないのよ。知ってたら行きたかった!」
 ルカサの主張に対してサトシも同感だと頷いていた。
 それに対してシゲルはまさか知らなかったとはと言う顔で言ってきた。
「実はその博物館も何度かお爺様に連れられて行った事があるんだ。サトシやルカサが何も言わないから良いかなって」
「良いかなじゃないだろ」
「痛ッ、イタタタ。ギブアップ、ギブアップ」
「コレぐらいで許されると思ってるの。この間のポケモンリーグの事といい、シゲルは恵まれすぎ。サトシ、もう少し絞めてあげなさい」
 後ろからシゲルの首に手を回して首を絞めるサトシを、さらにルカサが煽っていく。
 洞窟の中であるだけあって、騒ぐ三人が目立つこと目立つこと。
 道行く人たちがチラリとサトシたちを横目で見ていくが、直ぐに興味を失ったように洞窟の奥へといってしまう。
 だがそれは関わらないようにしようといった類のものではなく、もっと他に興味が引かれるものがあるような態度であった。
 トレーナーや、発掘隊の人と違う種類の人たちであっても皆等しく同じ方向へと小走りで駆けて行く。
「なにかあったのかしら。私聞いてくるわ」
「…………まッ」
 再び通りかかった発掘隊の人を捕まえたルカサが、二、三言葉を交わしていた。
 それからお礼として軽く頭を下げると戻ってくる。
 そして顔を青ざめさせた。
「ルカサ、なにかあったのか?」
「あったと言うか、今目の前で。シゲルが……」
「あッ!」
 誰もサトシが首を絞める行為をとめなかった為、シゲルは半分以上意識が落ちていた。
 白めも向きかけており、慌ててサトシが首に回していた腕をどけると激しく咳き込んでいた。
 一方的に悪いサトシはもちろんの事、煽ったルカサもシゲルの前でオロオロとうろたえることしか出来なかった。
 やがて落ち着いたシゲルが恨めしそうな視線を送り始める。
 キレる一歩手前だと感じたルカサは、慌てて誤魔化すように言い出した。
「あのね、さっきの人に聞いたんだけど。この道の先で、新しいポケモンの化石が出土したんだって。しかも殆ど原型を留めているらしくてちょっとした騒ぎになってるらしいわ」
「古代ポケモンの化石が原型のまま。見たい、行ってみようぜシゲル!」
「ああ、そうだね。ただし、この苦しみの代償は何かで返してもらうからね」
 やっぱりシゲル相手に誤魔化しは効かなかったかと、怒って歩き出したシゲルと二人はそろそろと刺激しないようにして歩き出した。
 ズンズンと先を歩いていくシゲルについていくと、そのうちに見えてきたのは人垣であった。
 この薄暗いお月見山洞窟の中であるのにも関わらず、街中で有名人を見るが如くである。
「凄い人ね、見られるかしら」
「原型を留めているって話だ。ここで発掘隊に回収されたら十分な研究が済むまで表には出てこないだろう。是非とも見ておくべきだ」
「じゃあ、俺に任せておけ。多少強引にで、も」
 サトシが強引に人垣を掻き分けて、進み始めた。
 後からシゲルもルカサも続いて、押し合いへし合いながら何とか最前列へと飛び出した。
 勢いがつきすぎて三人とも転んでしまいそうになったが、目の前にあったロープを咄嗟に掴んで耐え切った。
 どうやら発掘現場から野次馬である見物人を遠ざけるように仕切ったロープであるらしい。
「それでその化石ってのは何処だ。照明があるから助かるけど、岩ばっかりでわかんないぜ」
「あそこじゃないの。発掘隊の人たちが集まってるもの」
 ルカサが集まっている発掘隊の人たちを指差すと、ある地点でしゃがみ込んでいた発掘隊の人たちに動きが見られた。
 数人の人たちが後ろへと下がってスペースを空けると、一瞬だが発掘現場の奥が見えた。
 途端に後ろから加わっていた圧力が大きくなったが、潰されないように踏ん張りながらサトシたちも目を凝らした。
 掘り出された化石は向かい合っているらしきポケモンが二種類。
 一体は半円の甲羅を被った虫の様にも見えるポケモンであり、もう一体はグルグルの貝を被ったポケモンであった。
 その二種類のポケモンがどういった関係かは、今から運びされて研究される事だろう。
「どうやら発掘そのものはすでに終わってるみたいだな。僕らは運が良かった。ハナダシティに着いたら、お爺様にも連絡をしないと」
 ゆっくりと発掘隊の面々が二体のポケモンの化石を運び出し始めた。
 二体の化石が一段と野次馬達へと近づいてくると、サトシたちの後ろから加えられていた圧力がさらに増していった。
 それどころか最前列を押しつぶす勢いであり、ふいに後ろから誰かの悲鳴があがった。
「なんだ、なんだ?!」
「痛い痛い、押しつぶされちゃうわよ」
「仕方ない。ロープを飛び越えるぞ!」
 シゲルの提案に乗ってロープを飛び越えるのと、野次馬の壁が崩れるのは同時であった。
 そして崩れた人垣の上を走り真っ黒な服を着た数人の男達が駆けてくる。
 サトシタたちはもちろんの事、作業を行っていた発掘隊の人たちも事態を上手く飲み込めていなかった。
 それ以上に黒服の男達の行動が迅速であった。
 モンスターボールから出したポケモンを使い発掘隊を蹴散らすと、運び出そうとしていた二体のポケモンの化石を奪ってしまう。
「何をするんだ。それは貴重な研究」
「五月蝿い。サンド、思い切りひっかくだ!」
「ひぃッ!」
 黒服の男が出したサンドが、化石を取り返そうとした発掘隊の男を鋭利な爪で容赦なくひっかいた。
 幸い逃げ腰となった事で一歩サンドの爪が届かず服を斬り裂くに終わったが、まともに喰らえば大怪我は目に見えていた。
「ムサシ様、ターゲットの奪取に成功いたしました」
「ようし、お前達長居は無用だよ。撤収しなさい。コジロウ、部下達を援護しておやり」
「あいよ。行け、ドガース煙幕だ」
 黒服たちとは若干格好の違う赤髪の美女が後から現れ、そばに居た薄い青髪の優男に言った。
 コジロウと呼ばれた男がモンスターボールを投げつけると、隕石のようなデコボコの体を持ったドガースが現れた。
 すぐにその口から真っ黒な煙を吐き出し、あたり一面を覆いつくしていこうとしていた。
 文字通り煙に巻こうとしたつもりらしく、煙に紛れて化石を奪った黒服たちが走り出した。
「ゴホッ、あ。あいつら、ポケモンに。ポケモンになんて酷い事させるんだ。許せないぜ!」
「サトシ、待て。追うな、くそっ。ルカサ、僕らも行くぞ!」
 頭に血を上らせたサトシが真っ先に逃げた黒服たちを追いかけていってしまう。
 煙幕のせいで咳き込んでいたルカサの手をとったシゲルも追いかけ始めたが、遅かった。
 煙の向こうにサトシの姿を見失うだけでなく、ムサシと呼ばれていた赤髪の美女に行く手をさえぎられてしまう。
「子供が大人の世界に首を突っ込むもんじゃないよ。子供は子供らしく、ポケモンと遊んでなさい」
「お前達、ロケット団だな。何度か新聞やニュースで見たことがある」
「待ってよ、シゲル。ロケット団って立派な犯罪者じゃない。サトシが!」
 だからこそシゲルはサトシを止めたのだ。
 ロケット団とは、珍しいポケモンの売買から、ポケモンを使った強盗、恐喝とポケモンを完全に道具と見なして活動する犯罪集団である。
 このカントー地方で最も憎まれ、恐れられている集団であり、その凶悪さの一端は先ほど見せ付けられたばかりであった。
 目の前で立ちふさがるムサシの言う通り、子供が軽々しく首を突っ込んで良い相手ではないのだ。
「賢い子は好きだよ。気が変わったわ、少し遊んであげる。出てきなさい、アーボ!」
「くっ、ヒトカゲ。君の力を貸してくれ!」
 ムサシがモンスターボールを投げつけたのを見て、反射的にシゲルもモンスターボールを投げていた。
 ヒトカゲとアーボは同じドラゴンタイプ同士で相性は微妙な所であったが、ルカサにとっては最悪の相手であった。
 紛れもなくヘビポケモンであるアーボを見て、言葉をなくしてへたり込んでしまった。
「ヘ、ヘビ……しかも毒を持ってる、アーボ」
「おやおや、私のアーボを見ただけで戦意喪失とは。それにアンタのヒトカゲも、全く成長の跡なしときた。アンタたち、駆け出して間もないトレーナーね」
 ただ見ただけでヒトカゲの成長度を見抜いたムサシに驚き、シゲルは絶対的な経験の差を感じ取っていた。
 黒服たちから様付けで呼ばれていたことからわかっていたことだが、相手はロケット団の中でもそれなりの地位にいる女性だ。
 下手に攻撃を加えればどんなしっぺ返しを食らわされるか解らず、シゲルは慎重になりすぎて指示の一つも出す事が出来ないで居た。
「少しは出来ると思ったのに、残念だわ。アーボ、毒針よ。解ってるわね」
「シャーッ!!」
 唸りながら体を起こしたアーボがのけぞると、あろう事かへたり込んでいるルカサへと向けて毒針を吐き出した。
「ヒトカゲ、火の粉だ」
「甘いよ、たかだか火の粉で私のアーボの毒針が止められると思って?」
 そんな事は百も承知で、火の粉を指示したシゲルは隣に居たルカサを突き飛ばす勢いで押し倒した。
 ルカサが悲鳴を上げたのも気にする余裕はなく、一回転する視界の中でヒトカゲの火の粉が容易く毒針に貫かれるのを見た。
 全く勢いの衰えない毒針は、つい先ほどまでルカサのいた場所を容赦なく貫いていた。
 シゲルが庇わなかったらと、突き飛ばされたルカサも、突き飛ばしたシゲルも恐れながら睨む様にしてムサシを見た。
「これで解ったわね。もう首を突っ込むのは止めておきなさい。アーボ、戻りなさい」
 アーボをモンスターボールに戻してムサシが行ってしまうが、シゲルには追うことが出来なかった。
 彼女の言う通り深入りする事を避けたかったのもあるが、毒針の標的となったルカサを置いても行けなかったのだ。
 だがそんなシゲルを動かしたのは、震える自分を止めようとしているルカサであった。
「シゲル、行って。サトシを連れ戻してきて。私は大丈夫だから」
「しかし」
「苦手なポケモンが出たからって馬鹿みたいに震えてる私と、今もロケット団を追ってるサトシのどっちが危ないか子供でもわかるでしょ!」
「解った。サトシは直ぐにでも連れ戻す。ルカサはゼニガメを出して待っててくれ」
 必死にかち鳴る歯を食いしばるルカサを見て、今度こそシゲルはムサシを追って走り出した。





 立ち込める煙幕の中を駆けて、サトシはロケット団を見失わないでいた。
 子供と大人の足とは言え、重い化石を運んでいるロケット団の移動速度は早くはなかったのだ。
 お月見山の洞窟を抜け出したロケット団が、見知らぬ森へと突入してもまだサトシは追いかけていた。
 かと言って追いつけるような節もなく、均等な距離を保ってサトシはロケット団を追いかけていた。
「待て、化石を返せ!」
 しつこく追いかけてくるサトシを最初は無視していたロケット団も、これ以上はとこの場にいる上司であるコジロウに問いかけていた。
「あの子供、いかがいたしますか?」
「まったくムサシの奴はどこで油を売ってるんだか。お前達は先に言って逃走の準備を始めていろ。ムサシが戻るまでは俺があの子供のお守りでもしてるよ」
 コジロウが立ち止まり振り返ると、黒服たちは化石を持ってそのまま走っていく。
 もちろんサトシは化石を持っている男達を覆うとするが、そこはコジロウが立ちふさがった。
「お前そこをどけよ。格好は違うけど、お前もあの黒い奴らの仲間なのか?」
「君ね、少しは頭を働かせたほうが良いよ。統一された集団の中に違う格好の人がいたら、リーダーだとか偉い人だとかわかるだろう、普通」
「ならお前を倒せば逃げていった奴らも言う事を聞くんだな」
「聞いてなお勝てると思う思考回路、恐れ入ったよ。少し社会勉強させてあげようか。出て来い、ドガース」
「フシギダネ、君に決めた!」
 コジロウが先ほども出していたドガースを出してきたのを見て、サトシもモンスターボールからフシギダネを出した。
 そして状況を説明しようとフシギダネに声をかけようとしたところで、コジロウが動いた。
「ドガース、体当たりだ」
「えッ?!」
 全くの不意打ちに、フシギダネがまともにドガースの体当たりを受けてしまう。
 かなり効いたようで、よろめいた後に意識をはっきりさせようと首を振っていた。
「いきなりなんて卑怯だぞ!」
「こんな場所で誰がお行儀良く始めの合図を出してくれるって言うんだ。僕が卑怯なんじゃない、君が未熟なんだよ」
「くそ、フシギダネ。こっちも体当たりで、倍返しだ!」
「ダネダッ!」
「かわしたままスモッグだ。遊んでやってくれ、ドガース」
 フシギダネの体当たりを浮かぶ事で避けたドガースは、体に空いた穴からスモッグを吐き出してきた。
 まともにそれを吸い込んだフシギダネは激しく咳き込み、目にも染みたのか涙を流していた。
「フシギダネ、大丈夫か?!」
「ほらほら、心配するより先に指示を出さないと。そうやって指示が途切れる瞬間が一番狙われやすいんだ。ドガース、もう一度体当たりだ」
 そう、心配するよりも先にサトシは指示を出すべきであった。
 つるのムチ一つ振り回すだけでも、相手を躊躇させる効果だってあるはずなのだ。
 全くの無防備だったフシギダネにドガースが体当たりを仕掛け、フシギダネは息も絶え絶えにへたり込んでしまう。
「ほらねっと、今日のお勉強はここまでのようだ」
「コジロウ、何を遊んでるのさ。さっさと退くわよ」
「ムサシ、そりゃないだろ。先に油を売って遊んでたのはお前のほうだろ?」
 サトシの後ろから現れたのはムサシであり、その手がモンスターボールを握っていた。
「今日は散々だったわね。アーボ、そこのフシギダネを蹴散らしておあげ!」
 後方の憂いを断つつもりでそう指示をだしたのだろう。
 モンスターボールから飛び出したアーボが、ほとんど身動きの取れないフシギダネへとその長い尻尾を振りかざした。
 サトシのかわせと言う指示も間に合わず、例え指示があったとしてもフシギダネは身動きが取れなかった。
 うなるアーボの尻尾がフシギダネを打ち付けるよりも早く、一つの声が辺りに響いた。
「ヒトカゲ、火炎放射!」
「カァーッ!」
 炎が一直線に突き進み、今まさにフシギダネへと振り下ろされようとしていたアーボの尻尾を焼いていった。
 振り返ったサトシが見たのは、見事な火炎放射を放ったヒトカゲと、それを指示したシゲルの姿であった。
 特にヒトカゲの方はまだやり足りないとばかりに、口の端から炎をちらつかせていた。
「シャーァ?!」
「アーボ、お戻り。さっきまではみすぼらしい火の粉が精一杯だったはずなのに」
 焼かれた尻尾を振り回しながら苦しんでいたアーボを戻すと、誤算だとばかりにムサシが呟いていた。
「どうせムサシが余計な事でも言って、あのヒトカゲを怒らせたんだろ。どちらにせよ、教師の真似事もこれまでだ」
 来るかとサトシとシゲルが身構えるも、違ったものが空から現れた。
 風を巻き起こしながら現れたのはヘリコプターであり、余りの風圧に目を開けるのも一苦労だとサトシもシゲルも腕を目にかざしていた。
 そのヘリコプターのドアが開くと、縄梯子が降ろされた。
「ムサシ様、コジロウ様。捕まりください、警察が動き出したとの情報もあります。本部からも直ちに撤退しろとの命令が下りました」
「っと、いうわけだ。ムサシ」
「わかってるわよ。坊や達、忠告はしたわ。あまり子供が首を突っ込むものじゃないわよ」
 降ろされた縄梯子にムサシとコジロウが足を駆けると、徐々にヘリコプターは上昇を始めた。
「シゲル、もう一度さっきの火炎放射は?」
「駄目だ、風が強すぎて炎が定まらない。下手をすると周りの木に燃え移る可能性もある」
 そういわれて直ぐにポッポを出そうか迷ったサトシであったが、ポッポを一匹で突っ込ませる不安があった。
 こうして化石を奪われたまま見送るしかないのかと、サトシもシゲルも上昇していくヘリコプターを見送るしかなかった。
 悔しげに拳を握って俯いたサトシの視界に、立ち上がろうとするフシギダネが映りこんだ。
 サトシたちの様に去っていくロケット団を見上げるが、その瞳はまだ諦めた様子はなかった。
「フシャー!!」
 傷ついた体で精一杯叫んだフシギダネが、背負った種の中から木の葉を数枚投げつけた。
 葉っぱカッターと言われる草タイプの技であったが、ヘリコプターの近くまで行くとその風圧に負けてひらひらと落ちてしまう。
 悔しげに呟いたフシギダネを見て、サトシは先ほど触れかけていたポッポのモンスターボールを握った。
「ポッポ、あのヘリコプターに向けて風起こしだ。フシギダネは、ポッポの風に乗せるように葉っぱカッター!」
「ポーッ!」
 モンスターボールから飛び出したポッポがヘリコプターへと向けて風を起こし始めた。
 サトシの指示が何であったのか悟ったフシギダネは、最後の力を振り絞って渾身の葉っぱカッターを放った。
 ポッポの起こした風に乗り、フシギダネの葉っぱカッターがヘリコプターへと向けて飛んで行った。
 一段とポッポが風起こしに力を入れると、ヘリコプターが巻き起こす風に負けることなく葉っぱカッターが届いた。
 ヘリコプターのプロペラに数枚の葉っぱカッターが直撃し、ヘリコプターが大きく揺れた。
「あの坊や、風起こしに葉っぱカッターを乗せて威力を高めるなんて。面白い発想をするじゃないの」
「言ってる場合か。ムサシ、上。頭を引っ込めろ!」
「へっ、キャァ!」
 ヘリコプターと一緒に揺れる縄梯子にしがみ付いていたムサシとコジロウの直ぐ脇を、大きな黒い影が落ちていった。
 黒い影はロケット団が奪った二体の化石のうちの一つであった。
 ヘリコプターが大きく揺れたおかげで、十分に固定されていなかった化石が開いたドアから飛び出したのだ。
 それを見ていたサトシとシゲルは、落下していく化石の元へと走ったが到底間に合う距離ではなかった。
 さらに大人が数人で持ち運んでいたような重量の化石である。
 とても受け止められるようなものでもなく、化石は森の中へと落ちていった。
 やがてヘリコプターの体勢を立て直したロケット団はそのまま何処かへと去ってしまい、サトシとシゲルは落ちた化石を探した。
「あ、あった。シゲルあったぞ。しかも思ったより壊れてない!」
 ヘリコプターから落ちた化石は、木の枝を何本も折り曲げ、最後には引っかかるようにして受け止められていた。
 多い茂る木々のおかげであり、サトシの言う通り原型のままで回収する事ができた。
 二人とヒトカゲやフシギダネで協力し合って化石を木の上から下ろすと、ようやく安心して腰を下ろした。
「結局、片方は盗られちゃったか。俺がもっと強いトレーナーだったら」
「一体でも取り返せて上出来だ。相手はあのロケット団。ムサシって女の人も、コジロウって男の人は僕らの何枚も上手だった。油断して遊んでくれたからこそ、取り返せたんだ」
 ロケット団という犯罪者を相手取ったポケモンバトルに疲れきったサトシとシゲルは、しばらくその場から動く事はできなかった。

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