第二話 初めてのポケモンバトル
「それじゃあ母さん、行って来るよ。隣町にのトキワシティに着いたら、とりあえず連絡入れるから」
「行ってらっしゃい、サトシ。シゲル君もルカサちゃんも、サトシの事をお願いね」
 サトシの母であるハナコからお願いされ、もちろんと応えてからマサラタウンを旅立って数時間後。
 シゲルもルカサもお願いされたサトシのお守りについて早くも後悔し始めていた。
 いつもは車で通り過ぎる道のりを徒歩で歩く遅さに辟易させられ、肩に食い込むリュックの紐が痛みと共に体力を削っていく。
 そして何よりも二人の感情を逆なでていたのは、落ち着きのないサトシの行動であった。
 ポケモンらしき影を見つけては街道を外れて草むらへと飛び込み、シゲルとルカサを放り出して姿を消す事などざらである。
 今も草むらの中へと消えてしまったサトシを待つ傍ら休憩中である。
「全く、サトシの奴は一体何を考えているんだ。トキワシティまでは徒歩で丸一日、このままだと確実に野宿だぞ」
「ええ、そうなの?! 野宿は勘弁して欲しいわ。お風呂に入れないし、それじゃあ疲れがとれないし。う〜、早くもへこたれそう」
 同感だとシゲルもルカサと一緒に溜息をついていると、茂みをかき分けてサトシが戻ってきた。
 鼻の頭にまで泥やちぎれた雑草を張り付かせ、それでも満面の笑みであった。
「いやあ、ポケモンって意外とバトルしてくれないんだな。追いかけたんだけど、ちょっと転んだうちに逃げられちゃったぜ」
「あのなあいいかいサトシ君。僕らの使命はポケモン図鑑を完成に導く事だ。となれば情報の足りないポケモン、珍しいポケモンや強いポケモンを追うなら僕は文句はない。けれどもこの辺りのポケモンはどうだい? 珍しいどころか、何処ででも見られるポケモンばかりだろう」
「そうねえ、さっきからサトシが追いかけてるのってコラッタとかポッポとか。全く可愛いくないわけじゃないけれど、そういった意味でもやる気でないわねえ」
 サトシを諭すつもりでシゲルは言ったつもりであったが、見事に逆効果であった。
 ちなみにルカサの台詞はサトシの耳には全く届いていなかった。
「珍しいとか強いだとか、そんなの関係ないだろ。ゲットしてから一緒に強くなれば良い」
「言葉のあやだ。強くなれないとは言っていない」
「いいや、言った。俺は絶対諦めないからな。せめてこの辺りに生息してるポケモンを一体はゲットして見せるからな!」
 ルカサとサトシが言い合うときはシゲルが、シゲルとサトシが言い合うときはルカサが止めるのが三人の中での暗黙のルールであったのだが、慣れない歩きで疲れたルカサに止める様子はなかった。
 お互いの非を素直に認められない二人は、つき合わせていた顔をそっぽに向け合ってしまう。
 そしてもう大人しくしているつもりもないと、地面においていたリュックを背負いなおしてシゲルが言った。
「ああそうかい、なら解ったよ。ハナコさんに言われて一緒に歩いてきたけれど、君がそう言うならここで別れ」
 だがさえぎる様にシゲルの言葉に割り込んできたのは、シゲルの腹の虫であった。
 恥ずかしそうに顔を赤くしながら動きを止めたシゲルであったが、のんびりとしたルカサの声がフォローを掛けてきた。
「慣れない徒歩でお腹すいたね。トキワシティはまだまだ遠いし、一度マサラタウンに戻ってみる?」
「それは少し恥ずかしい気もするけれど、言葉通り背に腹は変えられぬという所かな」
「なんだよ腹減ってたんならそう言えよ、二人とも。三十分ぐらい待ってれば飯ぐらい作ってやるよ」
 そう言ったサトシは、手頃な石を拾い集めると簡単にかまどを造り始めた。
 いつの間にか拾い集めていたらしき小枝を簡易の石かまどに放り込み火をおこすと、自分のリュックから小ぶりな鍋を取り出した。
 あまりの手際の良さに、本当にサトシかと言う視線を遠慮なく二人は送っていた。
「行動力があるのは知ってたけど、アンタ一体どこで覚えたのよそんな事」
「母さんが旅には必要な知識だって火の起こし方からなんでも教えてくれたんだよ。まあ、お前らは旅に出るつもりがなかったから仕方ないけどさ」
「いやいや、旅に出るとしても親はそこまで教えてはくれないと思うぞ。サトシに教えられるほど旅の知識を持ってるハナコさんって一体……」
 笑顔でサトシの名を呼んでいるような場面ぐらいしか見たことが無い為、シゲルとルカサの頭の中でサトシの母であるハナコが謎めいた人物として確立されていく。
 母親がそう思われているとは思っても見ないサトシは、着々と鍋の中に水と小さく刻んだ野菜を放り込んでシチューを作り上げていった。
 最初に宣言したとおり三十分後には立派なシチューが目の前に出来上がっており、これまたリュックから取り出したお皿にサトシがよそった。
 あとは人数分に分けた乾パンを配り、サトシが頂きますと声を挙げた。
 続いていただきますと言った二人がシチューを口に含むと、紛れもないシチューの味が口に広がっていった。
「サトシの作ったご飯、すっごい悔しいというか。サトシがって所に腹が立つわ」
「努力そのものは認めてあげるけれど、普通のトレーナーが行う努力とはかけ離れた方向に努力してるぞサトシ」
「ふっふっふ、何とでも言ってくれ。これでこの旅の食は俺の手の中だ。さあどうする。俺と別れて先へ進むか、それとも大人しく俺がこの辺りのポケモンをゲットするまで待つか」
「負けたよ、降参だ。食の心配さえなければ、あとは野宿だろうと何とでもなる。というか、どうせハナコさんから野宿の指南も受けてるんだろ」
 何かを諦めたようにシゲルが問いかけると、もちろんだぜと親指を立てたサトシが元気に応えてきた。
 となればサトシがポケモンゲットにいそしむ間の空いた時間をどうするか。
 シチューを食べながら考え始めたシゲルとルカサの前で、サトシがフシギダネを出そうとモンスターボールを握っていた。
「サトシ、フシギダネを出してどうするの?」
「どうってご飯食べさせるんだよ。お前らもヒトカゲとゼニガメにご飯やらないとかわいそうだろ?」
 この言葉に、やはり努力の方向が変わっていた弊害が現れているとシゲルとルカサは溜息をついた。
「シゲル先生、無知なサトシ君に授業をお願いするわ」
「ポケモンにとってモンスターボールの中は快適な空間となっており、ポケモン自身は半睡眠状態となっている。コレによりポケモンは外に出ない限りほとんど食事を取る必要がなく、仮に傷ついた場合にも体力の消耗を抑えることが出来る」
「補足になるけど、無闇やたらとモンスターボールから出したり引っ込めたりしてると、半睡眠状態と覚醒状態の繰り返しでポケモンが疲れちゃうから禁物よ」
 おーっと唸りながらサトシは感心から拍手をしながら聞き入っていた。
 本当に知らなかったようで、やはりサトシはサトシだったと二人は妙な安心の仕方をしていた。
 モンスターボールとポケモンは切っても切れない関係なので、どのような本にも最初に書いてある事だ。
 いかにサトシのポケモンに関する知識が欠如しているかわかるというものである。
 ご飯を食べ終わり、片付けぐらいはシゲルやルカサも手伝っていると、近くの茂みがガサガサと奇妙な揺れと音を発した。
 意気揚々とサトシが茂みに近づいていくと、シチューの匂いに誘われたらしきコラッタが飛び出してきた。
「来た来た。フシギダネ、君に決めた!」
「決めたも何もフシギダネしか持ってないじゃない」
 ルカサの冷静な突っ込みは無視して放たれたモンスターボールから、フシギダネが飛び出した。
 コラッタと向かい合ったフシギダネは、力強くダネっと鳴いていた。
 コラッタの方も逃げられないと感じたのか、体勢を低くしながら鋭い前歯を見せながらフシギダネを威嚇し始める。
 本格的なバトルの始まりを感じて、シゲルとルカサは巻き込まれないように少しばかり距離を取った。
「こうなったらしっかりやりなさいよ、サトシ。フシギダネも怪我したら私が看てあげるから思い切りやりなさい」
「コラッタの前歯は下手な刃物よりも鋭いぞ。フシギダネに気をつけさせるんだ」
「前歯か、だったらフシギダネ。思い切りぶちかませ!」
 何がどうだったらなのか、右手の拳を突き出しながら命令したサトシの言葉に一瞬時が止まった。
 サトシの言葉の意味が解らなかったフシギダネが戸惑いながら振り返ったところで、コラッタが隙をついて体当たりをしてきた。
 まともに体当たりを受けたフシギダネはよろめきながらも踏みとどまり、衰えぬ戦意でコラッタを睨み返した。
「何やってるんだよ、フシギダネ。やり返せ!」
「それはお前だ、サトシ。指示が曖昧すぎてフシギダネが混乱、あ」
 ついにサトシを信用できないと思ったのか、ある意味ではサトシのいい加減な指示を聞いてフシギダネが動いた。
 コラッタよりも大きく思い体を利用しての体当たりである。
 自分から仕掛けた体当たりの直後のおかげで距離が近く、コラッタは避けきれずまともに体当たりを受けてしまう。
 よろめくと言うよりも吹き飛ばされたコラッタが立ち上がるよりも早く、さらにフシギダネはつるのムチを伸ばしていった。
 もう完全にサトシの命令の範疇は越えており、フシギダネは自分の意思で戦っていた。
 ゆっくりと起き上がろうとするコラッタを容赦なく打ちのめし、そこで勝負はついてしまった。
 起き上がらなくなったコラッタを確認するとふてくされたのか、フシギダネはその場に伏せるように横たわり眠り始めていた。
「稀に見る最低のバトルだったわね」
 自分の正直な気持ちを言い放ったルカサは、まず最初にコラッタに駆けより傷の具合を看た。
 最初の体当たりでまともに立てなかったおかげで、つるのムチに対して無理な力が入っていなかったようだ。
 つるのムチによるダメージは思ったよりも浅かった。
 念のため体当たりを受けた左前足にスプレータイプの傷薬を拭きかけ、近くの草むらに寝かせる。
「あのね、サトシ。いくら知識のないアンタでも、フシギダネが命令を無視した事はわかったでしょ?」
「まだ仲がよくないからだろ。これから少しずつでも仲良くなっていけば」
「仲が良い、悪いじゃない。トレーナーのいい加減な命令で痛い思いをするのはポケモンなの。だからいい加減な指示に対して従わない権利がポケモンにはあるのよ」
 言葉もないのかコクリと頷いたサトシに、今度はシゲルが言った。
「それに僕が言ったコラッタの注意点。確かにフシギダネにも聞こえてただろうけど、アレはサトシから言わなければ意味が無いんだ。ポケモンは基本的には、トレーナーの言う事しか聞かない。そしてサトシの最大の欠点は、フシギダネの事を何も知らない事だ」
「何も、知らない」
「先に言っておくけれど知識がどうこうって話じゃない。君のフシギダネには何が出来るのか。それを知らずしてどうやって指示ができる? それに仲が良くなりたいのなら、相手を知る事から始めなきゃね」
 確かにこれは知識云々の話などではなく、自分以外の何者かと付き合っていく上での当たり前の事であった。
 サトシはふてくされて寝ているフシギダネに近寄ると、しゃがみ込んで話しかけた。
「ごめんな、フシギダネ。俺が馬鹿だったよ、お前の事を何も知らないままトレーナーぶって」
「ダネ」
 その通りだとでも言いたげに呟かれたが、グッと我慢してサトシは頭を下げた。
「もう一度チャンスをくれないか。俺はもっともっとお前の事を知ってみせる。一緒に強くならないか?」
 フシギダネの反応は鈍く、しばらくサトシの言葉に対して何の反応も見せる事はなかった。
 だが同じくサトシも粘り強くフシギダネの前に座り込んだまま動かない。
 やがて動いたのはフシギダネであった。
 立ち上がり一度サトシに背を向けると、振り返って言った。
「ダネ」
「フシギダネ?」
「フシーッ!」
 グッと体勢を低くして唸ったフシギダネが走り始めると、前方にあった岩へとその体をぶつける。
 続いて種からつるのムチが伸びていき、前方に埋まっていた岩をしたたかに打ち付けた。
 まだフシギダネの行動は終わらなかった。
 まるで自分ができる事を全てサトシに見せるように、岩を仮想の敵として攻撃する。
 その二つは先ほども見せた攻撃であるが、最後に見せたヤドリギの種は見た事が無かった。
 背負った種の中からさらに一粒の種を放り出し、岩に当たると同時に発芽して瞬く間に岩を締め上げ砕いてしまった。
「ダネ」
 コレで終わりだとでも言ったのだろう。
 見せられた三つの攻撃方法、体当たり、つるのムチ、ヤドリギの種。  それらをしっかりと心に刻んだサトシは立ち上がり、駆け寄ったフシギダネを思い切り抱きしめた。
「サンキュー、フシギダネ。今度こそ俺ちゃんとやって見せるからな」
「フシー、ダネダネ!」
 抱きしめてくるサトシの腕から抜け出そうとフシギダネはもがきはじめる。
 サトシはサトシで逃がさないとばかりにさらに腕に力を込め、やや強引なスキンシップを敢行していた。





 気がついたコラッタを逃がしてやり、ご飯の後を片付けてからサトシたちは歩き始めた。
 そうそうすぐにポケモンが現れる事はないだろうからという判断であったが、サトシのリベンジの機会は意外に早く訪れた。
 トキワシティへと続く道のりの中で、草むらからポッポが飛んでいくのをサトシが見つけたのだ。
「ポッポー!」
 ポッポはそのまま何処かへと飛び去ってしまうのではなく、空をグルグルと旋回して獲物か何かを探していた。
 空を指差しながら振り向いたサトシが何かを言う前に、シゲルやルカサが先に言って来た。
「わかってる、わかってる。あのポッポとバトルしたいんでしょ?」
「ここから飛び立ったって事は近くに巣があるはずだ。戻ってくる可能性は十分に高い。僕とルカサは離れた場所に隠れているから、サトシはこの辺りの草むらに隠れているといい」
「サンキュー、今度こそ絶対にゲットして見せるぜ」
 シゲルに言われた通り、サトシは近くの茂みに隠れると腰のベルトホルダーに納めてあるモンスターボールへと手を触れた。
 何時でもフシギダネを出す事が出来る状態で、ポッポが空から降りてくるのをじっと待った。
 待つこと数分、グルグルと空を旋回していたポッポの動きが変わった。
 旋回する時の動きが大きくなると、一気に急降下を始めた。
 丁度サトシが隠れている茂みの前へと降りてくると、地面を数度突いてミミズを掘り出しては口へと放り込んだ。
 再び空へと戻ろうとポッポが翼を広げるのと、サトシが立ち上がりモンスターボールを投げるのは同時であった。
「ポッ?!」
「フシギダネ、今度こそ。頼んだぞ。体当たりだ!」
「フシャァッ!」
 モンスターボールから飛び出して直ぐにフシギダネが走り跳びかかるが、ポッポが地面を離れる方が早かった。
 辛うじてかする様にポッポの足に当たったが、体勢を崩したのも束の間、ポッポは手の届かない場所へと上っていってしまう。
 だがやや低めの空を円を描いて旋回したポッポがフシギダネへと急降下してくる。
「ポッポー!」
「なんだ、逃げないのか?」
「サトシ、ポッポはすでにやる気よ。指示出して、指示!」
 コレまでの道のりでポケモンに逃げられてばかりいたサトシは、ポケモンが自分から向かってくるという状態に思考が麻痺していた。
 ルカサの声にハッと我に返ってみると、なかなか発せられない指示に業を煮やしたフシギダネがつるのムチでポッポの体当たりを迎撃しようとしている。
 そこへタイミング悪く指示を出してしまったのはサトシのミスであった。
「かわせ、フシギダネ!」
「ダネ?!」
 自分の意思とは違う指示に、今度はフシギダネの動きが一瞬止まってしまった。
 迫るポッポの動きに完全についていけなくなり、真正面からの体当たりをもろに受けて軽く吹き飛ばされる。
「フシギダネ!」
「ダネダーネ、ダネ!」
 まだ大丈夫だとフシギダネが叫び、再度体当たりを見舞おうとするポッポを睨みつける。
「明らかに相手が素早く戦いにくいのなら、まずは相手の能力を下げる事を考えるんだ。攻撃ばかりがポケモンバトルじゃない!」
「攻撃ばかりが……そうか、だったら。フシギダネ、ポッポが近づいてきたら真正面から体当たりだ。一瞬で良い、動きを止めるんだ」
 シゲルから投げかけられたヒントを頼りに、何かを思いついたようだ。
 単なる体当たりという指示だけではなく、プラスアルファが加わった指示にフシギダネがダネっという鳴き声で返事をした。
 再び空から加速しながらポッポが降りてきた。
 重力を加えた強力な一撃を前に、フシギダネは四足をしっかり大地にぬいつけ、蹴り出した。
 相手に合わせて体当たりを仕掛けたのでは力負けすると思ったのだろう。
 自分もまた走ることで威力を増加させ、降りてきたポッポに真正面から体当たりを仕掛けた。
 音が鳴り響きそうなほどに激しくフシギダネとポッポがぶつかり合い、一瞬両者の動きが止まる。
「今だ、フシギダネ。ヤドリギの種!」
「フシァッ!」
 フシギダネの背負った種から、さらに小さな種がポッポに植え付けられた。
 そうとは知らず硬直の後に空へと上って行ったポッポは、数秒後に発芽したヤドリギに体を絡めとられていった。
 もがいても、もがいてもヤドリギはポッポの体を離そうとはせず余計に絡まろうとしていた。
 チャンスはここだと、サトシはベルトホルダーから空のモンスターボールを取り出し、ヤドリギと戦っているポッポへと向けて投げつけた。
「行けえ、モンスターボールの剛速球!」
 気合十分の渾身の一球は、空の上でまごついているポッポへと直撃した。
 威力が有り余っていたせいで、ポッポの顔にめり込むように当たってしまったが、しっかりとポッポを吸い込みモンスターボールの中へと閉じ込めた。
 ポッポを吸い込んだモンスターボールはそのまま地面に落ちて揺れ始めた。
 ポッポの意思が捕まるまいと戦っている証拠でもあった。
 ポッポの意思が勝てばモンスターボールは開いてしまい、ポッポが諦めたらサトシ初のポケモンゲットである。
「まだなの?」
「まだみたいだ、ポッポはまだ諦めてない」
 何時の間にやら揺れるモンスターボールを見つめていたサトシの横へと、シゲルとルカサが駆け寄ってきていた。
 まだまだ揺れているモンスターボールを三人と一匹が見つめるなか、決着は訪れた。
 カチッという音を鳴らした後、モンスターボールが完全に動きを止めたのだ。
 そろりそろりとサトシはモンスターボールへと近づき、拾い上げる。
「やった、くぅ〜。生まれて初めてポケモン、ポッポをゲットだぜ!」
「ダネ」
 ポッポを捕まえたモンスターボールを掲げて、宣言したサトシはさっそく捕まえたポッポを出してみる事にした。
「出て来い、ポッポ!」
「ポーッ!」
「ポッポ、これからよろしくな。俺はサトシ、それでコイツがフシギダネだ」
 意気揚々と自分とフシギダネの紹介を済ませるサトシであったが、ポッポの剣呑な表情に気付いていなかった。
 気付いたフシギダネはさっさと逃げ出し、シゲルたちが居た場所へと避難している。
 目の前で翼を広げながら自分を見つめるポッポの瞳の色に、ようやくサトシが気付いた。
「ポッポ?」
 何かがおかしい、そう重い名を呼んだ直後にポッポのクチバシがサトシの額に命中した。
 それだけに飽き足らず、何度も何度もクチバシでサトシを突きまわし始める。
「痛ッ、なんだよ。痛いって、一体俺が。ちょっと待ってくれよ!」
「ポーーーッ!!」
「解ってないけど、解った。怒ってるのはなんとなく解ったから!」
 執拗に突っついてくるポッポから逃げ回るサトシを眺めていたフシギダネは、まだまだだとでも言いたげにダネダネと呟いていた。
「うわっ、めちゃくちゃ怒ってるわねポッポ。やっぱりアレかな。サトシが何も考えずに力いっぱいモンスターボールを投げつけたから」
「だろうね。ポッポの顔が少し腫れてるだろ。どう考えても力の入りすぎだ」
 やはり勉強が必要だとシゲルとルカサ、そしてフシギダネは、ポッポの気が治まるまで追いかけられるサトシをずっと眺めていた。

目次