バッツ達は彼等のいた世界へと還ってきた。もう二度と還れないと思って旅立った自分達のいた世界に。

 だがだからと言ってそれを手放しで喜ぶ事は、今の彼等には出来なかった。クリスタルを失ったこの世界が緩やかに滅びへの道を歩んでいる。あちらの世界でエクスデスと戦っていた時にはそれに必死でついつい忘れてしまっていたその事実を、再び突き付けられてしまったからだ。

 風はもう吹かず、水は徐々に流れを止めて淀み始め、火からは暖かさが、大地からはその生命力が失われつつある。

 エクスデスを倒す事は出来たが、だがそれでこの世界の危機が回避されたという事にはならなかったのである。

 問題、というか気になる事はまだある。

 還ってきた、と気が付いた当初は思ったが、だが徐々に本当に還ってきたのか? と、しばらくしてバッツは思うようになっていた。

 勿論それは自分の気の回しすぎに過ぎないのかも知れないが、だがどことなく自らを取り巻く世界の姿に、彼は違和感を覚えていた。

 こんな所に湖などあったか?

 あの山はこんな形をしていたか?

 この森はこんなに深かったか?

 彼はまだレナやファリスと出会うよりも前、旅の途中でタイクーンの近くにも立ち寄っていた事もあったが、その時見た景色と今自分の眼前にある景色とでは、どことなく違うように思える。

 もしこれが全く違う景色であったのなら、これ程違和感が強くはなかったかも知れない。同じ物のようで微妙に違う。まるで優れた絵画や芸術品の、良く出来た贋作を見ているような感覚を、彼は戻ってきてからずっと味わっていた。そしてそれが、違和感をより強い物としていたのである。

 気になる事はもう一つ、ファル達の行方である。

 エクスデス城で自分達を先に行かせる為に足止めを引き受けてくれた彼等。だが4人共、戻ってきて意識を取り戻したらすぐに周囲を探してはみたものの、どこにも見つからなかった。ファリスは「あいつ等はそう簡単にくたばるようなタマじゃないだろ」と言っていたし、バッツもまたそうは思っていたが……だがどんな人間にも”もしも”という事はある。

 その一抹の不安をバッツは消せなかった。

 だから彼はこの世界全体に感じる不思議な”違和感”の正体、何故いきなりこの世界に戻ってきたのか、その原因の究明。そして何よりもあの4人の消息を確かめる為、再び相棒のチョコボであるボコの背にまたがり、この世界を駆けていた。だが彼一人ではない。

 ボコの背、バッツの後ろには金色の髪の少女が座っている。クルルだ。彼女も仲間として、バッツの旅に付き合うと言って付いてきたのである。まだガラフ程長い時間を共有していないとは言え、バッツにとって彼女はもう生死を共にする仲間。断る理由はなかった。だがレナとファリスの二人は些か事情が違った。

 戻ってきて、取り敢えず状況を把握する為にタイクーンの城に入るやいなや、出て来た兵士や家臣に取り囲まれ、久方振りの王女の帰還、しかも一人は十数年もの間行方不明になっており、最早生存は絶望視されていたサリサ王女と言う事でそれを記念し、盛大なパーティーが催される運びとなったのである。

 そのパーティーは三日三晩は続く予定だそうで、彼女等二人はその主役。その場を離れる訳には行かない。また彼女達はこれからのタイクーンに必要な人物だとバッツも思っていたので、彼女達には何も言わずに出発する事となったのである。

 タイクーン城を発った二人は、まずはファリスが頭をやっていた海賊達のアジトへと足を運んだ。

 ボコがそこで面倒をみてもらっている筈だったからである。

 バッツがアジトへ入ろうとすると、彼の気配か何かを察したのだろうか、向こうから出迎えてくれた。

 多少なり動物語の分かるクルルによると、何とボコにはココという奥さんが出来て、しかもその奥さんのお腹にはボコの子供がいるという事らしい。そのココと、少し聞いている方が恥ずかしくなるようなストロベリーな会話を交わした後(勿論これもクルルが通訳した)、ボコはかつてそうしていたようにバッツとクルルを背中に乗せ、この世界を走り始めた。





第15章 明かされた謎





 とは言え、今回は以前のように明確な目的地のある旅ではない。

 また世界を見て回るのも目的の一つではあるので、物見遊山と言う程気楽な物ではないにしろ、二人はボコの背に揺られながらぶらりと世界を回っていた。クルルは以前一度隕石に乗ってこの世界に来た事はあるが、その時はすぐに元の世界に戻ってしまったので、こうしてこの世界の自然を見て回るのはこれが初めてに近かった。

「世界が違っても、自然は変わらないんだね……」

「ああ、だがクリスタルが砕けてしまったから、この自然もいつまでこうして形を保っていられるか………」

 年相応の少女らしい笑みを浮かべるクルルに、バッツは少し含む所のある感想を返した。

 今はこうしているが、実の所あまり時間がない。何とかしてこの世界を滅びから守らなくては。

 バッツはその為の方法に思考を巡らせていた。だからかも知れない。彼は周囲への注意力が散漫になった。

 その結果、

「えっ!?」

 クルルが思わず声を上げる。一瞬遅れてバッツも気付いた。自分達の体が宙に浮いているような、奇妙な感覚に包まれた事に。

 次の瞬間には足下に穴が開いて、そこへと落ちているのだということが分かった。

「「う、うわあああああっ!??」」

 分かった時にはもう遅い。二人と一匹は重力には逆らえず、そのまま真っ逆さまに落下。だが咄嗟に体を捻り、何とか着地を決める。

「ふー、大丈夫かクルル?」

 バッツは体のどこかを痛めたりしていないか確かめながら立ち上がると、傍らにうずくまっていたクルルに言った。彼女も暫くの間しゃがみ込んではいたが、やがて立ち上がり、

「ええ、びっくりしたけど大丈夫だよ」

 と、笑って見せた。その笑顔を見てバッツも一安心。そうした所で、

「さて………どうやってここを出るかな……」

 そう考える段になる。上を見上げると、光の差し込んでくる穴は自分達の遥か上方、目測だがざっと50メートルはあると見た。竜騎士にジョブチェンジして跳躍力を強化したとしても、流石に飛び上がれる高さではない。ではどうするか……

「全く……ボコ、お前のせいだぞ!!」

 八つ当たり気味に文句を言うバッツであったが、そんな彼に背後からクルルの飛び蹴りが入った。

「ボコのせいにしちゃ駄目よバッツ!!」

「わ、分かってるよクルル……でもどうやって上に上がるか………」

 そうバッツが腕を組んで考えていると……

 ズズズズズ………

 どこからか地鳴りのような音が響いてきた。

「な、何だこの音は!?」

 その音は徐々に、徐々に大きくなってくる。それはつまり、

「バッツ、何か分からないけど、近付いてくるよ!! 気を付けて!!」

 何が現れたとしても対処出来るよう、ナイトにジョブチェンジして剣を構えるクルル。バッツもそう言われると慌てて侍にジョブチェンジする。バッツは刀を地面に突き刺すと、懐からギルを取り出す。敵意ある者が近付いてくれば、ただちに必殺の銭投げを喰らわせる構えである。

 ズズズズズズ………

 更に音が近くなり、そして遂に、地面を破って二本の角が姿を見せた。

「!!」

「アントリオンか!!」

 驚愕しつつもバッツはこれまでの旅の経験から、即座にその特徴だけで魔物の種類を特定した。そしてそう叫んだのと同時に、取り出したギルを投げつけていた。放たれたギルはちょうど地面から顔を出しかけていたアントリオンの頭部に命中、アントリオンは虚を突かれた形になって驚いたのか、戦おうとはせずにそのまま地面に潜り、逃げていってしまった。

「え……?」

 既に剣を抜いて臨戦態勢に入っていたクルルは、敵が先制の一撃を受けただけであっさりと退いた事に肩すかしを食らった気分になったのだろう、驚いた表情になる。バッツは当面の危機が去った事に一息吐き、そして説明した。

「今のモンスターはアントリオンって言ってな。ガタイはデカイが性質は割と臆病ですぐに逃げるタイプなんだ」

「へえ、良く知ってるんだねバッツ。少し見直したよ」

 軽口を叩くクルル。だがその口振りとは違って、表情は笑顔だ。見直しているというのは本当らしい。だがバッツはそう言われて浮かれたりも、怒ったりもしなかった。今自分達が置かれた状況は、クルルが思っている程楽観出来るような物ではないのだ。

「今のはただ一撃を与えてこの場をかわしただけだ。時間が経てばまた襲ってくる。しかも今度は仲間を連れてな」

「えっ!?」

 その説明を聞いたクルルの表情から笑みが消えた。どうやら現状は助かったと言うよりも少しばかり時間が稼げた、と言った方が正しいようだ。それに先程までは暗くて分からなかったが目が慣れてきて周囲を見回すと、この穴のあちこちに動物の骨が転がっている。この穴はあのモンスターの巣、らしい。自分達はさしずめアリ地獄に足を踏み入れた間抜けなアリと言った所か。

 どうする!?

 考えても考えても二人とも良い案が浮かばず、穴の中をぐるぐると歩き回る。と、そこに。

「バッツ、あれ!!」

 クルルに言われてバッツが振り向くと、ちょうど自分の後ろにロープが下りてきていた。上を見上げると逆光で誰がこれを下ろしてくれているのかまでは分からないが、とにかく上の出口からロープが垂れ下がっているのは分かった。

 このロープを下ろしてくれているのが誰であろうとも、まずはここから脱出するのが先決。バッツはそう判断してロープを掴もうとする。

 ところが。

 スルッ!!

 掴もうと手を伸ばした瞬間、ロープは逃げるように上に上がっていってしまった。と、思いきやしばらくするとまた下がってくる。

「「??」」

 そのロープの不思議な動きに二人と一匹はそれぞれ顔を見合わせ、ロープを掴もうとするが、やはりロープは掴もうとすると逃げてしまい、どうやっても何度やっても掴む事が出来ない。

 これはひょっとしてからかわれているのか?

 そんな風に二人が思い始めた時、上から聞き覚えのある声が響いてきた。

『……もうこんな事はしないか……?』

「「えっ!?」」

『……罪を認めるか? フフフ……早く上がって来いよ!!』

 この声は!! 

 声の主の正体をバッツもクルルも悟った。話したい事もあるが、今はここから脱出するのが最優先。そのロープを使い、二人と一匹は無事アントリオンの巣を脱出する事に成功した。







「全く……この俺を置いてけぼりにしようなんて言い出したのはどっちだ!?」

 穴の上で待っていたのは、やはりファリスだった。

 タイクーンの城でお姫様やってた筈なのに。そう思ったバッツはようやく、彼女の服装が城のパーティーで着ていたきらびやかなドレスから、いつも通りの旅や戦闘に適した機能性重視の物に変わっているのに気付いた。時間から考えて自分とクルルがタイクーンを出た後、すぐ置き去りにされたのに気付いて追い掛けてきたのだろう。

 その表情から察するに怒っているのが半分、もう半分は拗ねている感じだ。何故か? 答えは一つだ。

 今し方彼女自身が言ったように、自分に一言の断りもなく二人だけで旅に出てしまった事だ。バッツとクルルも彼女の心境は理解出来た。特にクルルは自分も王族であったので、逆の立場に自分が置かれたと想像すると、ファリスの気持ちが良く分かる気がした。

 仲間だと思っている人達が何の断りもなく自分の元を離れていったら、誰だって怒る。

 そんな事を考えつつ、バッツとクルルはお互いに責任の擦り付けを始めた。

「バッツが言ったんじゃない!! ファリスもレナもこの国には必要な人だって!!」

「なっ!! そう言うクルルこそ、こんな所に自分達がいるのは場違いだからって………」

 クルルもクルルだが14歳の子供相手に本気になるバッツも大人気ない。そんな二人の口喧嘩を見ていて気も晴れたのだろうか。ファリスは笑い声を上げる。それを聞いて二人とも舌戦を中断した。

「まあいい、今回だけは許してやるよ。その代わり二度とこんな事はするなよ!!」

 と、ファリス。海の男達の中で育った彼女は、カラッとした気持ちの良い性格だった。二人とも頷く。と、バッツは一つ、気になる事を聞いた。

「ファリス、タイクーンの事は良いのか?」

 ほんの十数時間の事とは言え、王女だった国の事である。気にならない筈はない。ファリスは苦笑すると答えた。

「レナがいるし、それに俺には王女なんて会わないしさ」

 その自己評価に、思わず「全くだな」と答えそうになる衝動を必死で抑えるバッツ。そんな事を口にしたが最後、その日が自分の命日になってしまう。何とかそれを耐え抜くと、バッツは静かに笑って頷いた。ファリスの答えは予想できた事だが、だが心のどこかでそれを残念に思っている自分がいた。

 レナもまた生死を共にしてきた仲間で、また一緒に旅が出来ると、どこかでそう思っていたのに……

 だが彼は頭を振ってそんな考えを振り払った。今考えたとしても詮無き事。

 そして二人の仲間に言う。

「よし、行くか!!」

 ファリスとクルルもそれに頷き、3人はボコの背中に飛び乗る。

 彼等を乗せたボコは、その重さを感じさせない程の軽快な足取りで疾走した。







 そうして小一時間程ボコに乗って走り続けていると、洞窟を発見した。バッツはボコを止めて、後ろに乗っているファリスに聞く。

「こんな所に洞窟なんてあったか?」

「うーん、どうだったかな?」

 ファリスの返答もいまいち要領を得ない。ならばと、三人はボコから下りて探索する事にした。

 ボコにはここで待っているように言い、先程のように魔物の巣である可能性も考慮して今度は武器・装備を万全に調えた状態で、洞窟に足を踏み入れる。洞窟の中はひんやりと湿っていて、薄暗かった。だが周囲が見えないという事もなく、どうやら奥まで一本道らしい。

 しばらく進むと、不意に広い空間に出た。そこには、

「おお、バッツにファリス、それにクルルもか。無事で何よりじゃ」

「世界の地形がこのように変わってしまった時はどうなったのかと気を揉んでいたのだぞ」

「ほう、あれから随分経験を積み成長したらしいな」

「待っておったぞ。光の戦士達よ」

 そこにいた面々に思わずバッツ達は息を呑む。

「ガラフ、ゼザ、ケルガー………それにギードまで!!」

 700年を生きる亀の賢者ギードに、既に他界しているバッツの父親ドルガンを除く暁の四戦士の3人が、その空間に立っていたのである。

「おじいちゃん!!」

 祖父の姿を認めるやいなや、思わず彼に飛びつくクルルと、彼女を受け止めるガラフ。思えばクルルは幼いながら必死に頑張ってバッツ達に付いてきたのだ。それがガラフと再会した事で、思わず張り詰めていた物が緩んだのだろう。バッツとファリスもそんな二人を笑いながら見守っている。

 しばらくそうしていてクルルが落ち着いた所で、バッツは気になっている事を一つ、切り出した。

「ギード、あんたが何故こんな洞窟に? あんたの住処の祠は確か孤島だった筈だが……」

 ガラフが「様を付けんかバッツ」と窘めるが、ギードはまあ良いとなだめ、一息吐いてから彼の質問に答えた。

「うむ……それなのじゃが実の所ワシは住処を動いてはおらぬ」

「?」

 かなり謎な答えが返ってきた。住処を動いてはいない? だが先程言ったようにギードの住まいは小さな孤島にぽつんと建つ小さな祠であった筈。確かにこの洞窟の雰囲気は以前召喚されて訪れたギードの祠によく似ているようではあるが、だが………

 状況が理解出来ないという表情のバッツ。それを見たギードは言った。

「疑問に思うのも無理はない。順番に説明しよう。まずガラフ達じゃが、彼等はつい先程ワシが召喚魔法によってここへ呼んだのじゃ。この世界の異常と、伝説について説明する為にな。だがお前達まで来てくれたのは、二度説明する手間が省けたと言う物じゃ」

「それは良いから、早く説明してくれよ」

 と、ファリス。ガラフは仲間の不作法に頭を抱え、ゼザとケルガーは苦笑している。ギードは「最近の若い者はせっかちじゃのう」とぼやくように言うと、説明に入った。

「先程も言ったようにワシはこの住処を動いてはおらぬのじゃ」

「でもそれじゃあ……」

 どうして孤島から、こんな洞窟にいる? そうファリスが言い掛けた時、それを制するようにしてギードが言った。

「逆に考えてはどうじゃ? ワシはここから動いてはおらん。だがもし、ワシの周りの地形が変化していたとしたら……」

「!!」

 地形の変化。それを聞いてバッツが反応する。この世界に還ってきてからどことなく感じていた違和感。つい先程までは気のせいかとも思っていたが、だが自分一人ではなくギードまでがそう言うのであれば。

 バッツはより強く確信した。

 錯覚でも何でもなく、この世界の地形は変化しているのだ。これまでは風景のような物が多かったから分からなかったが、孤島であった筈のギードの祠がいつの間にか内陸の洞窟へと変化しているのだ。疑う余地はなかった。

 確かにギードの言う通り、彼が動いていなくともその周囲の地形が変化していたとしたら、第三者からはギードが別の場所に移動した、という風に見えるだろう。事実、先程は自分自身がそう思い、ギードにその質問をした。確かにそれならギードがここにいる理由も説明出来る。だが同時にもう一つの疑問も生まれた。

「だが………じゃあ何で地形が変化したりするんだ? それに伝説ってのは一体……」

「じゃからそれはこれから説明するわい!! ったく最近の若い者は……」

「申し訳ありませんギード様」

 こんな調子で中々話が先へ進まないが、とにかくガラフがバッツに余計な口を挟ませないように牽制する。ギードは調子を取り戻す為に人間で言う咳払いのような音を喉から鳴らすと、続きを話し出した。

「ワシも未だに信じられんが……伝説にはこうある。千年前、バッツ達がいた世界とガラフ達の世界、二つの世界は一つだった、と」

「!!」

「世界が……一つだった?」

 あまりに突拍子もない話にその場にいた全員が衝撃を受ける。それはそうだろう。世界が二つ存在するという事すら知っているのはほんの一握りの人間だけの超極秘事項であるのに、その世界が元々一つだったなどと言われては。

「そう、かつて世界は一つだった。だが千年前、世界を支える役目を持つクリスタルを二つに割る事で、世界もまた二つに分かれた……それがエクスデスによって全てのクリスタルが破壊された事によって一つの……元の姿に戻ったと考えるのが打倒じゃろうな」

 最後に「伝説が正しい物だと信じるなら」と付け加え、ギードは一旦言葉を切る。そこに、今度はファリスが口を挟んだ。

「だが……仮に伝説が正しい物だったとして、一体何故、世界は二つに割られたんだ!?」

 それは当然の疑問だった。ギードもまたその質問を予想していたのだろう。答えようと口を開く。だがその時、

『それはこの僕が説明しよう』

 どこからともなく声が響く。突然聞こえてきたその声に全員が武器に手を掛け、ギードを守るように円陣を組む。

 するとギードから5メートル程離れた場所の地面が、下に何かあるようにモコモコと蠢き始めた。

 6人全員それを見て、何が飛び出してこようとも対応出来るように意識を集中する。特にバッツとクルルは数時間前似たようなシチュエーションでアントリオンに襲われている為、気の張り詰め方が違った。が。

 ポコッ

 気の抜けるような音と共に地面から出て来たのは、

「…………」

「えーと……」

「モグラ?」

 そう、モグラ。身長は人間の子供ぐらいで「安全第一」と書かれたヘルメットを被ってサングラスを掛け、見るからに鋭そうな爪を持った人型のモグラ。そう形容するのが最も適切だろう妙な生物が、地面の中から出て来たのである。そのモグラは自分の出て来た穴を覗き込むと、

「ご主人、急いで下さい。ちゃんとトンネル繋がりましたよ」

 そう言って数秒後、今度はその穴から人間の手が出て来た。

「!?」

 一体何が起こっている? そんな疑問に対して考える間も無く、その穴から人間が一人出て来た。

「お前は……」

 黒髪に真紅の瞳を持つ、やや小柄な少年。その腰には長剣が差されている。

「アレク!!!!」

「やあ。………レナさんはいないみたいだけど、どうやら他の人は全員いるみたいだね。丁度良い、僕が全てを教えてあげるよ」

「「「…………」」」

 と、彼は笑って言った。だが全員呆気にとられている。それは彼が全てを教えるといった事に対してか。それともいきなり地面の中から現れた、その登場の仕方に対してなのか。だがどうやらアレクは後者の方だと受け取ったらしい。今更ながらという感じではあるが、紹介する。

「ああ、こいつは僕の召喚獣で、モールモールっていうんだ。体は小さいがパワーならあのタイタンにも負けない土の召喚獣だよ」

「皆さんお初にお目に掛かります。モールモールって言います。よろしく」

 と、そのモグラ、モールモールは自己紹介した後、この場から消えた。アレクは気を取り直して言う。

「……さて、遅かれ早かれ、君達には全てを伝えるつもりだったんだ。時間もあまり残っていない事だしね」

「時間が……無い?」

 鸚鵡返しに聞き返したファリスに、少年は頷く。

「そう……世界は一つに戻った。だが本当の戦いはこれから始まるんだ。既に僕以外の3人、ファル、ソフィア、ミヤは動き出している」







「………見えた…わ…」

「へえ、あれがフォークタワーか……究極の白と黒の攻撃魔法が封印されし塔………」

 その頃、アレク達とは遠く離れた地にて、二人の女性が荒野を歩んでいた。

 ミヤとソフィア。二人の進む先には、ちょうどその名の通り先端が二つに分かれた巨大な塔がそびえ立っている。







 時を同じくして一人の青年が、崖の突端に立ちながら海を睨み付けていた。ファルである。

「……この体でどれ程の事が出来るかは分かりませんが、私も行くとしますか。海の底より、更に深い場所へと」

 彼はそう呟くと崖から身を躍らせ、海へと飛び込んだ。







「ファル達が………」

「そう、来たるべき戦いに向けて、封印された力を解放する為に……」

「封印された力? 来るべき戦い? 一体どういう事なんだ?」

 アレクの肩を掴んで揺するバッツ。アレクは慌てたようにバッツから体を離す。そうして一息吐いた所で、話し始めた。

「まず……さっきギードが言っていたように、世界は元々一つだった。それを二つに割ったのは、『無』を封じる為なんだ」

「『無』?」

 訳が分からないといった表情で聞き返すファリス。アレクは頷いた後、続ける。

「そう、千年前、巨大な悪エヌオーが在った。エヌオーは最強の力を求め、その到達点として『無』を創り出したんだ。そしてその時もクリスタルに選ばれた戦士達が現れ…………彼等は伝説の12の武器と、そしてクリスタルの力によってエヌオーを倒す事には成功した。でもエヌオーを倒せても、奴が創り出した『無』を消す事は出来なかったんだ。だから最終手段として世界を二つに割り、それによって生み出された空間『次元の狭間』に、『無』を封じ込めた……そうまでしなければ、その時『無』を封じる事は出来なかった……」

「クリスタルの戦士が、『無』……エヌオーと戦った……?」

 クルルのその問いに、頷くアレク。

「そう、クリスタルは世界を支える物……だから『世界の敵』と呼ぶべき存在が現れた時、それを倒す為にクリスタルの戦士を選び出す……30年前には暁の四戦士が、そして今は君達光の戦士達がそうであるようにね」

 それを聞いて、その場の全員が成る程、という表情を浮かべる。

 確かにアレクの話は辻褄が合う。更に続けるアレク。

「そして……当時のクリスタルは今と違って二つに分かれていなかったから、その力は今よりもずっと強かった」

 その言葉に頷く一同。バッツ達がいた世界でクリスタルが砕け散ったのは、元はと言えば無理に機械の力を使ってクリスタルの力を増幅しようとしていた為だ。過去の文献に「クリスタルは今よりもっと強い力を持っていた」という記述を発見し、それに近付けようとして。

「その時選ばれた戦士は16人。その内12人は、先に言った12の伝説の武器の使い手として……そして残り4人は最もクリスタルの加護を強く受け……クリスタルの一部を一振りの剣と変えて与えられ、彼等を導く者として選ばれた……」

 ふとアレクは何かを思い出しているかのように言葉を切り、憂いを帯びた表情を浮かべた。

 数瞬程そうしていた後、彼は話を再開する。

「でも、エヌオーとの戦いで、その戦士達も一人二人と死んでいった……そして『無』を封じた時、残った戦士はたった4人。導き手としての役目を与えられた4人だけだった……」

 その時、ガラフがはっとした表情で言った。

「何故そこまで詳しく知っている……? 4人…………!!? !! まさか、お前達は!!」

 そんなガラフに感心したような表情となるアレク。そして頷く。

「そう、僕達4人はあの戦いで戦士達を導いた者。千年前の大戦を戦い抜いた、クリスタルの戦士の生き残りなのだよ」









TO BE CONTINUED..

目次