必要以上に自分を気遣うなのはに大丈夫だとつげてからアースラを離れたあかねは、転送された海鳴臨海公園から歩いて帰ってきていた。 その間ずっとあかねは考えていた。 何故敗北したのか、自分に何が足りなかったのか。 ブランクがあったから、訓練期間が短かったから、突然の横槍が入ったから。 理由は挙げればきりがなく、だけれど何かが違っている気がした。 傍らで憎まれ口を叩くゴールデンサンがいた時は、違っていたはずだと思えてならなかった。 例えブランクがあろうと、訓練期間が短かろうと、突然の横槍があろうと守ると決めたものを守れたはずだ。 自分の名と同じあかね色に染まり始めた空を見上げ、触れるように手の平を伸ばす。 いつかはやてが教えてくれた名前の意味、大空をあかね色に染める者、太陽。 「僕はそんな、たいそうな人間なんでしょうか。かつてのゴールデンサンのように……」 短い訓練期間の間に新たな魔法は幾つも手に入れたが、かつての自分に追いつけた気がしない。 ゴールデンサンがいない状態での敗北に、あかねは必要以上に過去の自分と比べ、ゴールデンサンと自分との差を意識し始めていた。 敗北に加え、クロノからアースラを降りるように言われて凹んでいることも解っているが、後ろ向きな考えが止められない。 ずるずると重い足を引きずるように帰り道を歩いたあかねが家にたどり着いたのは、すでに日が沈み、薄い闇がヴェールのように空を覆い始めた頃であった。 「ただい、ま」 ぼそりと呟き、玄関のドアを開けたあかねの動きは止まった。 凹みすぎて力尽きたとか、今からアースラに戻ってクロノに頭を下げようと思い立ったわけでもない。 目の前の光景に、ありえなさすぎる状態に脳が理解を拒否して全停止したのだ。 「お帰りなさい、あかね君。お風呂にしますか、ご飯にしますか?」 お玉片手にエプロンを着こなし、何処かの新妻よろしく、見返り美人のように振り返った状態で言ったシャマルがありえない。 「ジロジロ見てんじゃねえよ。さっさと風呂入って来い、こっちは腹減ってんだよ」 シャマルと同じくお玉と、微妙に違うエプロンドレスを装備しつつも腕を組み仁王立ちでいるヴィータ、態度が何時もと同じである意味一番安心できた。 そして最後、一番理解に苦しんだのがシグナムであった。 明るめの紫の着物をびっしり着こなした上で、玄関先に正座した状態で三つ指ついていた。 「お、おか。お帰りなさいませ。おふ、ろにしますか、それともご飯に……それ、それとも」 「もう一息よ、シグナムちゃん。それとも私、よ。似たような台詞が続くかと思いきや、まさかの私を食べて発言。これでグッと来ない男はいないわ」 今朝方になのはと自分を覗いていた様に、奥から半分だけ顔を覗かせ応援している母親、それを見てあかねの脳が再起動を果たした。 「やっぱり貴方が原因ですか。意味が解りませんよ、僕の苦悩とか色々返してください!」 「だって、シグナムちゃんたちがあかねと喧嘩したって言うから……和やかな雰囲気を作ろうと」 「絶対にそんなつもりないです。面白がっているだけでしょう!」 「うん。シャマルちゃんの新妻姿が見たかった。ヴィータちゃんのエプロンドレスが見たかった。シグナムちゃんの着物姿と、羞恥に悶える姿が見たかった。それぞれ三割三部三厘で、残り一厘が喧嘩の仲裁よ」 だがそれは、単に割り切れなかった一厘を取ってつけたように喧嘩の仲裁に回したに過ぎない。 平気で自分の煩悩を口にしたと頭を抱えていると、そうだったのかと母親に比べ純真無垢すぎたシグナムとヴィータの二人ががばたばたと奥へと走って消えていった。 恥ずかしさのあまり着替えに戻ったのだろう。 そんな二人を見逃してたまるものかと、母親もまた相手の迷惑を考えずに追いかけていった。 唯一シャマルだけはポーズ以外は普段と変わらない為に走り消えることはなかったが、それでも気まずそうに手の中でお玉を弄繰り回していた。 「あかね君、私たちがあんなことしておいて、びっくりしただろうけど」 「ええ、ある意味で」 「あのヴィータちゃんとシグナムは一生懸命だっただけで、それとあんなことって今のことじゃなくて」 慌てて説明するシャマルを前にして、ようやくあかねは冷静さを取り戻し始めていた。 母親が欲望のままに行動するのは何時ものことで、今回はそれにシグナムたちが巻き込まれただけある。 脳内で繰り返し呟き、深呼吸を終えると、慌てすぎて言葉が上手くつなげられないでいたシャマルへと慌てなくて良いと呟いた。 「決闘に負けた以上、約束通り僕は何も喋りませんでした。それにアースラを降ろされ、僕はもうシャマルさんたちの前に立ちふさがることもありません」 「負けた? だってアレは突然あの人が、約束を破って勝手に蒐集したのは私たちの方で……」 「良いんです。僕の負けで、力がないから。ゴールデンサンがいなければ何一つ守れない、僕が悪いんです」 呟き、目を伏せたあかねを前に、シャマルは自分たちが行った仕打ちが与えた影響の大きさを感じずにはいられなかった。 リンカーコアを半分とは言え無条件に渡すと宣言してまで、はやてを守ろうとしたあかねが見る影もない。 「あの」 「やっと一段楽した。途中からあかね君のお母さん、いなくなってしまうんやもん。私が一番最後になってしもたやん。おかえりなさい、あかね君」 そう言いながら最後の最後に車椅子を操るはやてが、炊事で濡れた手をエプロンで拭きながら現れた。 シャマルたちがいる以上、はやてがいても決しておかしくはなかった。 ただシャマルたち三人でビックリイベントが終わりだと思っていただけに、はやての登場は驚きが大きかった。 何の変哲もないエプロン姿で現れ少々照れくさそうに呟く姿が新鮮で、首が折れたように俯いていたあかねは頭を持ち上げていた。 例えその行動が現金だったとしても、あかねもお年頃の男の子である。 「た、ただいま」 はやてと同じように照れくさそうに呟く姿を見て、シャマルは心配する必要もなかったかなと思い直していた。 そして自分やシグナムたちでは、あかねが照れてさえくれなかったことに、若干傷ついていた。 母親と二人きりの時とは違う、かなり賑やかな夕食の間に、母親の口からはやてたちが家にいた表向きの説明がなされた。 病院帰りのはやてたちとばったり出くわし、話をするうちに、シャマルが誰かに監視されているようなと不安を口にしたのだ。 八神家が美女と美少女の宝庫なだけにありうると、あかねの母親がそれなら自分の家に避難しなさいと言い出したのが始まり。 空腹が満たされきった笑顔でソファーに腰掛け、心底嬉しそうにはやてを膝に乗せている母親が不謹慎にも、これ幸いにと思ったのは間違いない。 娘が欲しかったという思いが一時的にとは言え叶い、しかも一辺に四人も手に入れご満悦であった。 「さあて、お腹も一杯になったところで。お風呂入りましょう、お風呂。娘とお風呂、計測大会。これぞ醍醐味よねえ」 「む、娘ですか」 「そうよ、はやてちゃんは既にうちの子も同然。ヴィータちゃんも一緒に入る? ちょっと狭いかも知れないけれど」 照れるというよりはどういう反応をして良いのかもじもじと袂で指先を弄ぶはやてに、あかねの母親は目じりを垂れさせながらヴィータへも視線を投じた。 「あたしは、後で入る……ります」 「ヴィータちゃん、もっと砕けてて良いわよ。なんせうちの子なんですから。それじゃあ、ごゆっくり」 あかねを見てから首を振ったヴィータの反応に、特に気にした様子も見せず、だが意味深な言葉を残してあかねの母親はお風呂場へと向かった。 普通こういう場合、ごゆっくりとはお風呂へ向かうものが言われる側である。 シグナムたちとあかねが行った喧嘩というのが、ただの喧嘩でないことに気付いているのか。 何も知らなさそうな顔をしておいて、その実何処まで知っているのか捉え所がないとあかねは軽い溜息をついていた。 それは慣れているあかねだからこそ軽い溜息で済んだだけで、シグナムたちははっきりとした困惑を浮かべていた。 「あの人って、魔力ないんだよな。あたしらの正体、普通の人間じゃないぐらい程度に気付いてるんじゃねえのか?」 「ああいう人ですから。で、表向きの理由は聞きましたが、一体どうしたんですか? 僕を監視しなくても、管理局から介入を断られた今、何もしませんよ?」 言葉ではあえて監視という刺々しい言葉を使ったが、ザフィーラを含めた四人がそんなことで家に転がり込むとは思っていなかった。 敵対した理由の決着を見ながらも、何か連絡をせねばならない理由があったのか、特別なことがあったと思うのが普通である。 「ああ、お前に聞きたいことがある。ザフィーラ、闇の書は持ってきたか?」 「今はシャマルが持っている」 「ここからこのページが、あかね君のリンカーコアを蒐集したページです」 シャマルが取り出したのは、こげ茶色のハードカバーを持った一冊の本で、表紙には十字架を模した飾りがついていた。 一見すると少し洒落た本にしか見えないが、魔力を持っているあかねにはただの本には映らなかった。 淀んだ光とでも言うのか、あかねが持つ魔力光と対極にあるような光を発していた。 そしてシャマルが闇の書を開いて一定量のページをめくると、何故かそのページの間だけはだけは、他の場所と違う魔力光を発している。 あかねが持つ魔力光と同じ、太陽の様な色の光。 まるで闇夜を照らすかのように、闇に抗い輝いていた。 「お前の魔力を蒐集してから、こうなった。主はやてへの侵食までも停止している。お前はなんだ。そもそも蒐集して数時間しか経っていないのに、何故平然としている?」 「なにと言われても、僕には特別なものはなにも。蒐集されたのにとは、アースラでも言われましたけれど」 「間違えて、変なものでも蒐集しちゃったのかしら。あの男の人、光の中で動き回るあかね君から無理矢理リンカーコアを摘出したみたいだし」 おっとりぼんやりとシャマルが頬に指先を当てながら呟くが、自分の体から摘出された何かを変なもの扱いしないで欲しいとあかねは半眼であった。 「本人でもわからぬか。謎めいているな」 「て言うか、あかね。お前弱っちくなってねえか? 無茶苦茶大きかった魔力が見る影もねえ。やっぱりちゃんと蒐集されてんじゃねえか」 「よ、弱……知りませんよ。もともとそんなに感知能力とかも高くないんですから」 「解らない、知りません。自分のことぐらい少しは知っとけ!」 容赦のないヴィータの台詞に打ちのめされながら、あかねは本当にこの人たちは何をしにきたのだろうかと思わずにはいられなかった。 先ほどから変なものだとか、弱いとかストレートに傷つく言葉ばかり。 だいたいにして闇の書にかかわることなど自分は何一つ知らず、尋ねられても解るはずがなかった。 それにクロノからもう事件に関わるなと警告されている以上、今シグナムたちが家にいる状況もまずい。 「とにかく、僕はこれ以上貴方たちには関われないことになっているんです。管理局にも核心的な情報は提供していませんし、表向きの理由が嘘ならできるだけ早く帰ってもらえませんか?」 なにやら自分の母親と嬉しそうに接するはやてを追い出すのは気が咎めるがと口にしたのだが、シグナムたちの反応は思った以上に悪かった。 「それが、全くの嘘と言うわけでもないんです。あかね君も見ましたよね。決闘に介入してきたあの男の人。私たちがあの男の人に監視されているかもしれないのは、本当なんです」 「これまでに奴は二度姿を現したが、そのどちらもタイミングが良すぎた。しかも今日は家を出て転移した後、直ぐに結界を張り姿をくらました。なのにその上で、駆けつけた。監視の為に張り付いていたとしか思えん」 「はやての為に、ここに置いてくれよ。守りたいって、救いたいって言っただろ。闇の書が今のままでいてくれたら、あたしたちだってもう蒐集しなくて良い。はやてのそばにいられるんだ」 「言えた口ではないが、我からも頼む」 ザフィーラにまで頭を下げられ、あかねには断ることが出来なかった。 そもそもにしてこの家の支配者は、今頃勝手に娘と呼んだはやてと一緒にお風呂でこの世の春を謳歌している。 もしも自分が出て行ってもらってくれと言おうものなら、自分が一人追い出されかねない。 「解りました。母さんが許す限り、僕はなにも言いません」 妙なことになってきた、そう思わずにはいられなかったが、クロノに報告しようと言う気にだけはなれなかった。 アースラを降りろと言ったクロノに、反抗しているわけではない。 そうではないと思いながら、あかねはG4Uを手の平で包み、握りしめた。 敗北による自信の喪失、ゴールデンサンに対する引け目、あかねは自分がなしたい事柄、自分が思い描く自分と言うものを見失っていた。 送迎バスが来るバス停にも、もちろん送迎バスの中にもあかねの姿はなかった。 教室についてからもそれは変わらず、なのはは小さな溜息をつくと机の上に体をぺたんと寝かせた。 ただし首だけは横に回し、主が不在となっているあかねの机へと視線を向け続けている。 「あかね君、今日はお休みなのかな?」 「まだ朝会まで少し時間あるし、もう少し待ってみようよ」 隣の席で同じようにあかねの席を見つめていたフェイトの答えに、小さくうんとなのはは呟いていた。 クロノからアースラを降りろと言われたあかねを追いかけはしたが、あかねは大丈夫だと言うばかりで何も喋ってはくれなかった。 その表情が少しも大丈夫には見えなかったし、学校にあかねの姿が見えない今は、なおさらにそう思えた。 それにあかねとヴィータたちが顔見知りであることは、事前になのはだけには知らされていた。 決して誰にも喋らず行動していたわけではないのだ。 「フェイトちゃん、私知ってたんだ。あかね君が、ヴィータちゃんたちと顔見知りなこと。もしかして、私からクロノ君かリンディさんに言うべきだったのかな?」 「それは……ちょっと解らない。あかね本人が言うならまだしも、なのはが伝えちゃうと告げ口みたいになっちゃうし」 「そうだよね」 信頼し打ち明けてくれたあかねの言葉を他の人に言ってしまえば、それこそ本当に裏切りである。 難しいなとなのはは、目の前に垂れてきた髪の毛を指先でいじくり始めた。 「けれど、クロノやリンディ提督は、ただあかねをアースラから降ろしただけじゃないと思う。クロノも最初は一杯失敗したって、あかねが戻ってくるのを待ってると思うんだ」 「そっか、だったら放課後フェイトちゃん付き合ってくれない? あかね君の家に行ってみよう」 「うん、私も少し気になってたし」 すでに二人の中であかねの欠席が決定し始めた頃、教室のドアが開き担任の先生が姿を見せた。 おはようございますと言いながら教卓へ向かうその姿に、姿勢を正したなのはもおはようございますと口にしていた。 ただ一人、ユーノ喪失症候群に掛かり中のアリサが上の空であったが、もはや日常と化し先生も特には注意しなかった。 「さて、先日このクラスにはフェイト・テスタロッサさんが転入してきましたが、本日急にではありますが、もう一人転入生をお知らせしたいと思います」 先生が急というぐらいなのだから本当に急の様で、教室内がざわめいていく。 なのはもフェイトと顔を見合わせながら誰だろうと、小声で話し合う。 「はいはい、静かに。八神はやてさんです」 再度開いた教室のドアから現れた二人組みに、よりクラスのざわめきが大きくなった。 車椅子の転校生と言うのも驚きの一端を担ってはいたが、一番の原因は車椅子を押しているのがあかねであるという所である。 何故急な転校生の車椅子を、あかねが押しているのか。 急すぎる転校生と先生が明言した以上、あらかじめあかねに頼んでいたとは考えにくい。 「八神はやて言います。どうぞよろしく」 「お、大空あかねです。よろしくお願いします」 はやてという名の女の子の後に、何故かあかねも続いて挨拶をしたのは良いが、明らかに教室内が凍り付いていた。 直前のざわめきも何処へやら、笑えない冗談に寒々しい風が吹いていた。 「だ、だから言ったじゃないですか。僕はこういう盛り上げるとか苦手なんですよ!」 「そんな憮然とした表情で言うからや。もっとこう爽やかに、さも当然に言い切らんと。な、先生」 「えー、そう言うわけなので、皆さん仲良くしてあげてください」 さすがに大人は無駄なフォローを諦め、なかったことにして先に進めようとしていた。 「欠席もいないようですし、今日は少し早いですが朝会は終わりとします。八神さんの席は大空君の隣とします」 以上ですと教室を出て行った先生を見送ると、なのはは誰よりも早くあかねへと駆け寄っていった。 先生の説明不足もあり混乱していたが、あかねに話しかけようとする直前で何故か足が止まってしまう。 それははやての目の前であり、はやてもなのはがするように互いの瞳を真っ直ぐ覗きこんでいた。 そして二人同時に、あかねへと振り返った。 「ど、どうしたんですか、二人とも?」 記憶を失くす前から好きだった女の子、記憶を失くしている間に好きになった女の子。 両者に見つめられ、言葉を濁しかけたあかねであったが、少女とは言え女の感と言うものは馬鹿に出来ない。 まだ一言も会話を交わしてさえいないのに、なのはもはやても互いの気持ちをそれとなく見抜いていた。 「あの、私高町なのは。なのはって呼んで、皆そう呼ぶから」 「なのはちゃん。なら私もはやてでええよ。ちょっとわけあって、あかね君の家にお世話になってます」 「あか、あかね君の」 先制パンチがはやての口から繰り出され、視線であかねへと確認し頷かれたなのはが後ずさる。 だがそうすることで揺れたサイドポニーを思い出し、反撃を返す。 「あかね君、そろそろ約束。フェイトちゃんのリボン結んで欲しいな」 「約束……あかね君が約束を破ったって、私の膝で大泣きした約束相手って、なのはちゃんなん?」 「普通に聞かないで下さい。と言うか、黙っててくださいって言ったじゃないですか!」 楽しそうに振り返ったはやてに声を大きく反論すれば、肯定したも同然である。 はやての膝で大泣きした、まだまだ負けるもんかと言い募ろうとしたなのはであったが、ガタンと大きく椅子が引かれる音が響いた。 少し乱暴なその音に三人同時に振り返ってみれば、まるでそこが教室の中心であるかのように立ち尽くしているアリサが目に入った。 天井を見上げながらも長い前髪に目元は隠れ、どんな表情をしているかはうかがい知ることが出来ない。 ただすぐそばにいたすずかがこそこそと退避した姿を見れば、想像できると言うものである。 ゆらりとアリサの頭が揺れ落ち、前髪の間からなのはたちを見つめ、三人はなんとなく身を寄せ合った。 「ユーノが居なくて、寂しく思ってる人の前でイチャイチャと……万死に値するわ」 もちろんなのはたちにそのつもりはないのだが、ユーノのいない寂しさとやらがアリサの中で付きぬけたらしい。 幽霊のようにゆらゆらとした動きで三人の元まで歩いてくると、アリサはあかねの襟首を万力のような強さで掴み取った。 「とりあえず、コレ没収。ユーノが戻ってくるまで返さないわよ。だいたい今時の人間がなんで携帯の一つも持ってないのよ!」 「く、首が。だって向こうじゃ携帯を上回るものがあって、必要ないじゃ」 「私が連絡取れなきゃ意味がないじゃない!」 「わかりました。連絡とって持たせますから。振り回さないで下さい!」 使い古した人形のようにぐるぐると振り回されたあかねは、悲鳴のような声で確約の言葉を叫んでいた。 すぐそこでは色々と溜め込んでいたアリサの暴走に、なのはとはやてがガタガタ震えながら互いの手を包み込み合っていた。 見方によっては険悪になりかけた二人の為にアリサが一芝居打ったようにも見えるが、そんな事実はどこにもありはしない。 「ユーノの声が聞きたい、喋りたい、触りたい、ちょっと苛めたい!」 「最後変なの混じってますよ!」 単に八つ当たりの為に利用されたようなあかねの悲鳴だけが、教室内に響いていた。 「もうすぐクリスマスだね。フェイトちゃん、なにか予定とかある?」 「すずか、最近見ない振りが増えてきたよね」 そして窓の外を見上げ呟いたすずかに突っ込んだフェイト自身、自分ではアリサを止められないと直視だけは避けていた。
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