第十二話 救い上げるのはいつもその手なの(前編)
 時の庭園の崩壊はかなり進行していた。
 一番外壁部である入り口でさえ床石がめくれ上がって土が露出し、柱や装飾部がなぎ倒されていた。
 転送を完了したあかねたちを待っていたのは、破壊された光景だけではなかった。
 プレシアがジュエルシードの力で起動させた傀儡兵たちである。
 ブリッジのスクリーンで見たのと同じく、数えるのが面倒に思えるだけの傀儡兵が待ち構えていた。
「母さん、急がないと」
 崩壊の様子をまざまざと見せ付けられたフェイトが駆け出そうとしたのを、クロノが手を出してとめた。
「待つんだ。六人もいるんだ。闇雲に動いては非効率的になる。まずは艦長の指示を仰ぐ」
『フェイトさん焦るのは解るけれど、クロノの言う通りよ。事はすでにプレシア女史を捕縛すれば良いというだけには行かなくなったわ』
『艦長、僕がいない間に何か新しい事実でも?』
『ええ、時の庭園から発せられる次元震はジュエルシードからだけではないわ。時の庭園を維持する駆動炉もまた、ジュエルシード並みの危険なロストロギアであり、その駆動炉が暴走状態にある事がわかったわ』
『つまり二手に別れる必要があるんですね。プレシア・テスタロッサを捕縛する班と、駆動炉の封印へと向かう班』
『できれば駆動炉への道が複雑なのでそちらにフェイトさんかアルフさんに向かって欲しいのだけれど』
 一応の確認を取る為にクロノが振り返ると、フェイトはすまなそうに顔を曇らせていた。
 フェイトがどちらの班に加わりたいかは考えるまでもない。
 アルフにしてもこんな危険な場所だからこそ、主人であるフェイトのそばを離れる事には苦言を言うだろう。
 フェイトがプレシアの捕縛班に加わればアルフもまた強制的にそちらへと着く事になる。
『ではプレシア・テスタロッサの捕縛班のリーダーは僕が、班員はフェイト、アルフ両名。駆動炉の封印班のリーダーはあかねが。班員はなのはとユーノとする事とします』
『仕方がないわね。一応は各々のデバイスに手に入れることの出来た地図を転送します。もしも道に迷うようであれば特に封印班は多少強引な手を使ってでもたどり着き、封印を行うこと。現状では三十分が作戦限界時間ですが、私が現場に赴きさらに三十分の時間を稼ぎます。以上です、各自健闘を祈ります』
「聞いていたな、質問があれば手短に頼む」
 クロノが確認の為に聞いたが、皆頷くだけで質問事項はないようだった。
 長々と説明している時間もないため、好都合である。
「なら最後に、傀儡兵に対する対処のレクチャーを行う。そこで見ていてくれ」
「見ていてくれって、こんなに一杯いるのに?」
「まだ入り口だ。中にはもっといるよ」
 入り口を守る為に配置された傀儡兵は、一歩たりとも動こうとはしなかったがさすがに一人ではとユーノが疑問を挟んだ。
 だがクロノの返答はいたって冷静であり、一人で悠然と傀儡兵の前へと歩いていく。
 それでもなお全く動こうとしない傀儡兵であったが、クロノが一定の距離近付くと変化が訪れた。
 一斉に動き出した傀儡兵たちがクロノだけを目標に動き出したのだ。
「こいつらは近くの敵を攻撃するだけの機能しかない。ある程度振り切ってしまえば、それ以上追ってはこない。所詮考える事をしない機械だ」
 数体の傀儡兵がクロノへと向けて突進し、その手に持った武器を振り上げた。
 三メートル近い巨体にしては素早い動きだが、クロノの方がもっと速かった。
 持っていたデバイスS2Uを掲げ、魔力のムチを一本作り上げる。
「Stinger Snipe」
「はッ!」
 次々に向かってくる傀儡兵たち、その一機をまず青白い光のムチが貫いた。
 先端が内部へと入り込み中から破壊したのだ。
 一撃ではクロノの攻撃は終わらなかった。
 傀儡兵を内部から食い破った魔力のムチはさらなる獲物を求めてうねり、次々に傀儡兵を打ち破っていく。
「速い!」
「この程度の相手に無駄弾は撃つな。闇雲に撃てば、それだけ魔力と体力を浪費し、脱出の際に自分や仲間を危険に追い込むぞ」
 なのはの感嘆の声にクロノは喜ぶことなく淡々と言葉を紡いだ。
 そしてクロノの素早い攻撃はまだ続く。
「スナイプ、ショット!」
 S2Uを握るクロノの手から魔力のムチに魔力が補充された。
 さらに連続で傀儡兵を貫いていき、瞬く間に入り口を守っていた傀儡兵が減っていく。
 最後の一体は、扉の前に立ち尽くす重装兵であった。
 さすがにその一体は一撃で貫けないかと、クロノはムチを切り離し残った魔力を単独で突っ込ませた。
 胸に直撃を受けた傀儡兵が屈むような恰好を見せた時には、すでにクロノは傀儡兵への接近を果たしていた。
 ダメージから回復した傀儡兵が両刃の斧を振り上げるが、クロノは高く跳び上がり回避してS2Uを振り上げ傀儡兵の頭部に突き刺した。
「Break impulse」
 重装型の傀儡兵があっさりと粉々になっていった。
 魔力の大きさに任せて戦闘を行うことがおおかったなのはたちの衝撃はすさまじく、あっけにとられるしかなかった。
「やっぱり思った通りクロノさんは凄い。それしか表現が思いつかないです」
 唯一あっけに取られなかったのはあかねであったが、別の意味で見ほれていた。
「最後に、今のように戦闘を行うのは完全に行く手を遮られた場合のみ。呆けている暇はない、行くぞ」
 クロノの叱咤により我に返ったあかねたちは、クロノに続いて時の庭園の内部へと足を踏み入れた。
 暴走しているのが玉座の間にあるジュエルシードと、駆動炉のせいか崩壊の具合は内部の方が酷かった。
 壁が崩れ床が抜け落ち、特に床が抜け落ちた場所には見たことも無い空間が広がっていた。
 高次元空間も見た事はない者が多かったが、そこでうごめく暗黒の何かが本能的な恐怖を覚えさせる。
「うう、あの女の事がなかったらすぐにでも逃げ帰りたい気分だよ。フェイトは大丈夫かい?」
「平気だよ、アルフ。一人じゃないから」
「フェイト……」
 皆を見渡しそのような事を言ったフェイトを見て、アルフが目元を拭って鼻をすすり出した。
 よほど嬉しかったようだが、不安そうにクロノが振り返る。
「感涙している所悪いが、間違っても足を踏み外すんじゃないぞ。高次元空間に放り出される事もぞっとしないが、その黒い空間はもっと恐ろしい」
「何なんですか、あの黒い場所は?」
「虚数空間、あらゆる魔法が一切発動しない場所なんだ。飛行魔法もデリートされる。もしも落ちたら、重力の底まで落下する。二度と上がって来れないよ」
「なんだか良く解らないけれど、危ないって事だけはわかったよ」
 あかねの問いかけに答えてくれたクロノの言葉を聞いて、怖そうになのはが床が抜けた場所にある虚数空間から目をそらした。
 総勢六名が足並みをそろえ入り口を潜ってから最初のドアが見えてきた。
 玉座の間までは殆ど真っ直ぐだが、駆動炉は時の庭園の最上部である。
 恐らくはすぐそこまで迫っているドアを潜れば二班に分かれなければならない。
「あかね、僕が入り口でしたレクチャーを決して忘れるな。君が全ての判断を下し、なのはとユーノを無事に駆動炉まで連れて行くんだ」
「はい、一つクロノさんにお願いしたい事があるんですが」
「なんだ?」
「この事件が終わったら、僕を鍛えてくれませんか。僕は貴方のようになりたい。恐らく執務官とやらにはならないでしょうけれど、貴方に師事を受ければ僕はもっと大勢の人を救える気がするんです」
「買いかぶり過ぎだ。それに僕はまだ人にものを教える程の人間じゃない。僕の師匠を二人紹介してやる。それで我慢してくれ……多分、いや必ず後悔するだろうが」
 何か嫌なことでも思い出したのか、げんなりとしたクロノへとあかねは嬉しそうに頷いた。
 クロノを鍛え上げた人ながらも、さぞ素晴らしい人たちなのだろうと勝手に想像しているのだ。
 一体どんな人たちだろうと瞳を輝かせるあかねに対し、こっそりとだがなのはがじと目を浮かべていた。
「あかね君ってば、クロノ君ばっかり……ちょっと前はフェイトちゃんの事が、あうー……そうだった。どうしよう」
 ぶつぶつ言っていたなのはが首を振り出し悩み出したさまを見てアルフがぽつりと呟く。
「なんだかすっごい妙な関係に見えるのは私の気のせいかい?」
「妙?」
「勘違いが勘違いを呼んだ複雑な関係だから、あかねとなのはは」
 一人フェイトだけは良く解っていないようだが、アルフにはだいたい解ったようだ。
 とは言っても、さすがに二人の根本的な勘違いを気付くまでには至っていない。
 あかねはなのはを好きだが、なのはが自分に興味がないと思っているし、なのははあかねを好きになりつつあるが、あかねがフェイトの事を好きだと勘違いしている。
 複雑と言えば複雑だが、単に二人が鈍感同士なのが一番の原因でもあった。
「良く解らないが、士気を乱すな。突っ込むぞ」
 もう目と鼻の先となったドアをクロノがけり破った。
 待ち構えていたのは入り口より狭い屋内の癖に、入り口よりも数の多い傀儡兵であった。
 クロノがS2Uを構えたのを見て、あかねはなのはとユーノへと振り返り一足先に飛び上がる。
「クロノさん!」
「Jet Flier」
「良い動きだ、少し待ってろ」
「Blaze Cannon」
 少し大きめの砲撃がクロノのS2Uから放たれ、密集していた傀儡兵が散らされる。
 その隙間を縫ってあかねたち駆動炉の封印班が部屋の片隅に見えた階段へと向けて飛んで行く。
「クロノ君、フェイトちゃん。気をつけてね」
 声をかけてくれたなのはへと、クロノもフェイトも頷いて答えた。
「Scythe form」
「攻撃は最小で、潜り抜ける。だったね」
「ああ、そうだ。一気に駆け抜けるぞ。玉座の間にたどり着くのが速ければ速いほど、話し合いの余裕は生まれる」
「アンタ、あの女を捕縛するのが命令なんだろ? なんでそんな事」
 思わぬアルフの突っ込みに、少し慌てたクロノが顔を赤くしながら答えた。
「捕縛よりも、自首の方が刑は軽くすむ。もっとも重罪すぎて、刑期はかわらないが、面会の数は確実に増える」
「ありがとう。私の為に」
「べ、別に君のためじゃ、それが最適だと判断したまでだ。とにかく行くぞ!」
 相当慌てているのか、直前のレクチャーを自分が無視してクロノが傀儡兵へと突っ込み始めた。
 その姿がおかしくて、フェイトとアルフはお互いを見合ってからくすりと笑い、クロノの後を追いかけ始めた。





 クロノらと別れたあかねたちは、傀儡兵のいない場所で通路の片隅で一度立ち止まり駆動炉の場所の確認を優先させた。
 最上部だからといって闇雲にのぼって見たら、別の塔でしたなんて事になりかねない。
 最初の突入でクロノがかなり時間を稼いだとは言え、すでに突入から十分経過している。
 あと五十分で駆動炉の封印を完了し、できることならフェイトたちを手伝いに行かねばならない。
「ゴールデンサン、リンディ艦長から送られてきたデータを映してください」
「Infomation data open」
 ゴールデンサンが魔法陣の上に映し出した地図には、所々虫食いが存在するもののとりあえず駆動炉までの大まかな道筋は確認できた。
 階下にいるであろうクロノたちと同じ道筋を通り、玉座の間の真上へと出る。
 そこから螺旋状の大きな吹き抜けホールとなっており、最上階からさらにエレベーターで駆動炉のある部屋まで直行できる。
 破壊に出間取りさえしなければ、一直線で玉座の間に駆けつけられる事になる。
 確認を終えて地図を閉じると、なのははつい先ほど登ってきた階段がある方を見つめていた。
「やっぱり、気になりますか?」
「クロノ君が一緒だし、大丈夫だとは思うけれど。フェイトちゃんお母さんの事となると無茶しやすいから」
「なのはの言う通りかもしれないね。プレシアの言葉で取り乱さなければいいけれど」
 可能性は全くないとは断言できなかった。
 フェイトにとって母親であるプレシアと言う存在は、それだけ特別なのだ。
「信じてるけど、心配。すずかちゃんやアリサちゃんが言ってた事と同じだね。だけどそのフェイトちゃんと同じ場所にいる事の出来る力が私たちにはあるから、少しでも早く駆けつけよう」
「駆動炉までの道順は確認できた、後は? あかねがリーダーだよ」
「教えられた通り極力無駄な戦闘は回避します。その為に、まず僕が先頭を飛びます。傀儡兵の先制攻撃が来たら全て受け止めます。次になのは。通行の邪魔か振り切れない傀儡兵へ攻撃をお願いします。破壊まで行かなくても体の一部を破壊すれば振り切る事は容易でしょう」
「うん、威力は節約気味にだね」
「となると最後は僕か、その心は?」
「最後尾で通路に捕縛の鎖をくもの巣のように張り巡らしてください。少しでも傀儡兵を足止めして、振り切りやすくします」
 目でそれぞれの役目を理解したかを尋ね、なのはとユーノが頷き返してくれる。
 後は駆動炉まで一直線に飛ぶだけである。
 あかねが通路の片隅から駆動炉までの廊下へと飛び出した。
「Jet Flier」
 黄金色のコートから炎が噴出し、あかねの体を押し上げる。
 あかねに続きなのはとユーノが続く。
 駆動炉の暴走を止めさせないためか、駆動炉へと続く廊下にも傀儡兵が待っていた。
 あかねたちの接近に気付いて機械の体を動かしながら迫ってくる。
 まず始めに飛び道具を持った傀儡兵が魔力弾を撃ち放ち、あかねは防御魔法を前面へと展開して防ぎ始めた。
「なのは、お願いします。数体破壊して道を開けてください」
「うん、任せておいて。ディバインシューター!」
 なのはの魔力弾があかねを追い越し迫りくる傀儡兵たちを貫いていく。
 ただ一弾一壊ではなく、一つの弾で最低でも三機は破壊していってしまう。
 一度の砲撃で今目に見える範囲の傀儡兵はその八割方を破壊へと導いてしまう。
 傀儡兵そのものよりも、破壊された後の爆発の方が厄介な障害を生み出してしまう程である。
「けほっ。あれ、あれれ?」
「なのは、どう見ても完全破壊じゃないですか。節約の言葉は一体何処へ……」
「したつもりなんだけど。手加減って難しいよね」
「元々なのはは思い切り撃つ事はあっても、手加減なんてしたことなかったから細かい制御を要求するのは酷だよ」
 つまりなのはにはあまりクロノのレクチャーは役にたたなかったと言うことであった。
 とりあえず残った数機の傀儡兵をやり過ごし、ユーノが通り道に捕縛の鎖をくもの巣のように張り巡らせる。
 術者であるユーノか離れるほどその効力は薄れ弱くなるが、その時には傀儡兵の稼動範囲にあかねたちの姿はない。
 通常の通路は三人の連携がほぼ上手く行っていたのだが、駆動炉へと続く螺旋状の吹き抜けホールへとたどり着いてからはそうは行かなかった。
 空を飛べなければ最上階へは一時間たってもたどり着けないであろう螺旋状の吹き抜けホールは広すぎた。
 これではユーノの捕縛の鎖をくもの巣状に張り巡らす事は難しい。
 さらに広いだけあって、一度に襲い掛かってくる傀儡兵の数が明らかに増えていた。
 すぐに地上を離れ空を飛べない傀儡兵を振り払ったのは良いが、翼を持った傀儡兵に足止めをされてしまう。
「なのはは傀儡兵の翼を狙って。ユーノさんも。翼さえなければ、こいつらは無力です」
「この子達、結構速いよ。正面から壊した方が消費が少ないかも。ディバインシューター!」
 魔力弾を操り言葉通り、なのはが次々に翼を持った傀儡兵を正面から撃ち落していく。
 ユーノは言われた通り翼を封じることで間接的な破壊を行うが、三人とも完全に足が止まってしまっている。
「考えろ、一番効率が良くて手間の掛からない」
「あかね君、前!」
「え?」
 迂闊にも効率の良い方法を考えることに没頭していたが、ここは戦場真っ只中だった。
 一機の傀儡兵が目の前に迫っている事にあかねの反応が遅れた。
「あかね、そのまま動かないで!」
 あかねへと迫る傀儡兵の足に、ユーノの捕縛の鎖が絡みついた。
 鎖によって行動を制限された傀儡兵は、ホールの柱にくくりつけられていた場所を支点として遠心力に振り回され始めた。
 あかねの目の前を槍を持ったまま通り過ぎ、勢いを殺しきれずそのまま壁へと叩きつけられた。
 勢いが強かったのか、打ち所が悪かったのか傀儡兵はそのまま動かなくなってしまう。
「少し危ないけど、いけるかな?」
 なにやら思いついたあかねが、なのはとユーノに向かって叫ぶ。
「一度逃げます。目の前の傀儡兵を倒したら、ついてきてください!」
「逃げるって、この子達はさすがに振り切れないよ」
「説明は逃げながらします」
 一目散に上を目指し出したあかねへと、目の前の傀儡兵をやり過ごしたなのはとユーノが続く。
 直ぐに何機もの傀儡兵が追っ手となって追いかけてくる。
 さらに上から降りてくる傀儡兵も全くいないわけではなく。
 上から降りてくる傀儡兵はあかねが何度も防御魔法で弾き飛ばしながら、何かを確認していた。
「あかね、真下の傀儡兵がどんどん溜まってきてるよ。上で追いつかれちゃ対応しきれないよ」
「もちろん全部倒します」
「もしかして、一箇所に集めた状態で私が一気に?」
「なのはだって魔力が無尽蔵ではないんですよ。もっと単純な、交通事故を起こしてもらいます」
 交通事故と聞いて、下を見たなのはとユーノはあかねが何をしようとしているか解ってしまった。
 自分達を追いかけている空を飛ぶ傀儡兵は、数が増えに増え、少しでも隊列を乱せばお互いの体がぶつかりかねない。
 やがて螺旋状のホールの終わりが見えてきたあかねはなのはへと指示を出した。
「なのは、ディバインシューターを先頭の傀儡兵に撃って爆発させてください」
「わかった。ディバイン、シューター!」
「ユーノさんは僕と一緒にUターンです。もう解ってますよね」
「あかねに無茶をさせられるって事だけはね!」
 標的のうち二人が進路を変えたことで傀儡兵たちが持っていた槍を構えた。
 その時先頭にいた傀儡兵になのはの魔力弾が衝突して派手な炎と煙を通路全体に広げていく。
 あかねとユーノがその煙の中に突っ込んだ次の瞬間、本当に交通事故かと思うような衝突音が響き渡っていった。
 原因は、あかねとユーノが張った防御魔法と結界魔法による二重の防御幕が傀儡兵の先頭集団を止めた事にあった。
 先頭集団は槍を構え防御魔法と拮抗したは良いが、後続部隊が煙の中を後ろから突っ込んできたのだ。
 勢いのついた傀儡兵が押し合いへし合い、その様はまさに交通事故である。
「ひええ。本当に事故起こしちゃった。あかね君、ユーノ君大丈夫?」
「無事ですよ。多重の防御魔法は、数さえそろえばSランクの攻撃魔法でさえ防げる事は確認済みですから」
「でも、もう二度とやらないからね。どういう神経してるんだよ、あかねは。目の前が傀儡兵で埋められた時は、ちょっと泣きそうだったよ」
 唯一つあかねが見落としていた事があった。
 車も事故を起こせばそのまま炎上することがあり、今目の前で破壊された何機もの傀儡兵たちは、精密機械の塊である。
「でも何か、バチバチ言ってるよあかね君」
「あれ、もしかして僕とちりました?」
 破壊すれば爆発するのが当然であり、何十機もの傀儡兵が一気に爆発する威力は計り知れない。
 時の庭園全体が、ロストロギアの暴走とは違う影響によって大きな揺れを生み出し破壊されていった。

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