第七話 今度こそ本当の三つ巴なの?(後編)
 どうしてこうなってしまうのだろうか。
 打ち付けられるムチが体に刻む傷と痛み、それらに悲鳴を挙げながらフェイトは思わずには居られなかった。
 なのはやあかねに対する葛藤もままらないうちに、母が身を隠すように住んでいる高次元空間に存在する時の庭園と呼ばれる場所に戻ってきたのは早朝の事。
 自分が顔を見せた時にでさえ、変わらぬ冷たい瞳を見せていた母は、手に入れたジュエルシードの数を知り杖を手に取った。
 杖の先端にある宝玉ごと変化をし、長くしなるムチが生まれ振るわれた。
 恐怖から、決して母からではなく振るわれたムチが迫る恐怖に身を縮こまらせようとすると、魔法による戒めが両手を縛り上げていた。
 体を固める事も出来なくなったフェイトの肌の上を強かにムチが打ちつける。
 自分の悲鳴がとても大きく、だが別人が上げたようにも聞こえた。
「たったの四つ……」
 本当にそうなのだろうかと言う疑問をフェイトが脳裏によぎらせていられたのは、ムチが数度振るわれるまでであった。
 何処にあるとも知れないものを数日で四つ手に入れられた方が幸運だった事を考えないはずがない。
 何故ならそのうち二つは、なのはやあかねから奪うようにして手に入れたものだからだ。
 だが身を刻む痛みが思考を鈍らせ、なのはとあかねを裏切るように四つ目を手に入れた後ろめたさが思考を固めていった。
「これは余りにも酷いわ」
 そう二人を出し抜いてまでも四つしか手に入れられなかった自分が悪い。
 母だけを思い、動かなかった自分が悪いのだとフェイトは与えられる痛みを享受して呟いた。
「はい」
 受け入れれば、少しだけ与えられた痛みが和らいだ気がした。
 自分が悪い子だから、母の意にそぐえない駄目な子だから母は心を鬼にしてムチを振るうのだと思えたから。
 悪いのは自分だ、そう思うことがある意味での救いであった。
「ごめんなさい、母さん」
 もうフェイトは疑問に思わない。
 自分を守る為にある程度の頑丈さを持ったバリアジャケットが敗れるほど、ムチで叱責を受けたとしても。
 苦しみ悲鳴を挙げる自分を心配する素振りも見せず、変わらず冷たい視線を投げつける母の事も。
「いい、フェイト? 貴方は私の娘、大魔導師プレシア・テスタロッサの一人娘。不可能なことなど、あっては駄目」
 その通りだと、フェイトはその言葉を受け入れた。
 二十一個あるジュエルシードのうち四つしか手に入れられなかった事は、〇個と大差ない。
 つまりは捜索が満足に行えなかった事を意味し、不可能だった事を意味する。
 あってはならないことだ。
 母の娘として、自分はもっと貪欲にジュエルシードを求めなければならなかったのだ。
「どんなことでも、そうどんなことでも。成し遂げなければ成らない」
「はい」
「こんなに待たせておいて、上がってきた成果がコレだけでは。母さんは笑顔で貴方を迎えるわけにはいかないの。解るわね、フェイト」
 プレシアが求めているのは理解ではなく従順であることを、今のフェイトに気付けるはずもなかった。
「はい、解ります」
 プレシアの顔に始めて笑みが浮かんだ。
 愛する娘に向けるそれではなく、愉悦にも似た凄惨な笑みである。
「だからよ、だから覚えて欲しいの。もう二度と、母さんを失望させないように」
 またしてもプレシアの腕が振り上げられ、ムチが唸りをあげた。
 どんなに母の言葉を受け入れ、心を固めてもムチは容赦なくフェイトを打ちのめし痛めつけた。
 何度も何度も振るわれるムチを前に口答えはもちろん、泣くことも逃げることも許されず、耐える事しか出来なかった。
 終わらないムチの音とフェイトの悲鳴。
 三十分以上も続けられたそれは、ムチを振るい疲れ肩で息をする事になったプレシアが自ら手を止めた。
「ロストロギアは、母さんの夢を叶える為にどうしても必要なの」
「はい、母さん」
「特にあれは、ジュエルシードの純度は他のものより遥かに優れている。貴方は優しい子だから、躊躇ってしまうこともあるかもしれないけれど。邪魔する者があるなら潰しなさい。どんな事を使ってでも。貴方には、その力があるのだから」
 ピクリと、フェイトの動かなくなったはずの体が動き、戒めの鎖が軋んだ音を鳴らした。
 しこりを残し固まり出した心に入った亀裂から、包み込んでくれた二人の温かい手が思い出される。
 母の役に立ちたい、役に立ってまた昔のように笑いかけて欲しい。
 それは自分の純粋な思いでもある。
 だけれども、あの二人を潰してしまった時、自分は母の笑顔を正面から受け止められるのだろうか。
 そんなフェイトの葛藤に気付いたのか、最後にもう一度だけプレシアのムチが振るわれてから戒めの鎖が解かれた。
「行ってきてくれるわね? 私の娘、可愛いフェイト」
「はい、行ってきます。母さん」
「しばらく眠るわ。次は必ず母さんを喜ばせて頂戴」
 踵を返し、結局最後まで笑いかけてくれる事のなかった母へと、フェイトは最後の最後で返事を行わなかった。





 住宅街で止まった送迎バスを降りたなのはは、辺りを見渡し二人の待ち人を待っていた。
 そのうちの一人は、目の前の電柱の影から現れ首にレイジングハートの首飾りを下げていた。
 手を差し伸べ、上って来たユーノからレイジングハートを受け取る。
「レイジングハート、直ったんだね。良かった」
「Condition green」
 引っ掛かりのない言葉遣いに、損傷を受けていた時の苦しそうな感じは受けなかった。
 心底ホッとしたなのはは、手の平にのせたレイジングハートへとすまなそうにお願いする。
「また、一緒に頑張ってくれる?」
「All right, my master」
「Hard character is not condition green」
「You break one degree, too. Bitter tongue might be reconciled」
 割り込んできた言葉の意味を察することが出来たのは、デバイスたちとユーノだけである。
 罵りあうデバイスたちに、持ち主とは間逆で仲が悪いとユーノが前足で頭を押さえていた。
 部族の倉庫から持ち出すとき何故この二つを選んだのか過去の自分を問い詰めたい気分のユーノであった。
「なのは、ユーノさんお待たせしました。レイジングハートは大丈夫ですか?」
「うん、ばっちり。でも何でわざわざ別の場所で降りたの?」
「家が違う地区にあるのに一緒に降りたら変でしょう。それよりも、ユーノさん」
 まだ昼休みの事が尾を引いているあかねは、話をそらしてユーノに尋ねた。
「次のジュエルシードの位置はだいたいつかめてるんですか?」
「海の近くだと思う。案内するよ」
 ユーノに案内されて向かった先は、鳴海市でも最大級の広さと緑を誇る鳴海臨海公園であった。
 公園とは言っても、小さな子が遊ぶような場所ではなく、大人がデートスポットの一つとして使うような公園である。
 とりあえずなのはとあかねが二人で歩いてみるも、それらしいものは見つからず、微笑ましそうに見てくる恋人達とすれ違うぐらいであった。
 なんだか最近こんなのばかりだと少々あかねが辟易していると、ユーノを肩に乗せたなのはが周りではなくあかねを見つめてきていた。
 少しどきどきとしたあかねであったが、昼休みになのはがそれ程自分に興味がないとわかっていただけに長続きはしなかった。
「なのは、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない。あかね君とちゃんとジュエルシード探しをするの久しぶりだなって思っただけ」
「確かに、フェイトさんが現れてからはまともに探せなかったですからね。奪われこそすれ、手にも入れてないですし」
「そうだね、気合入れて頑張ろう!」
 あかねの手をとりなのはが走りだそうとしたその時、公園一帯をジュエルシードの魔力が駆け抜けた。
 その魔力の発信源は、海とは間逆にある森の中であった。
 ジュエルシードが生み出す輝きが空へと駆け上り、貫いていく。
 いくらか見慣れた光景に、すぐなのはとあかねが走り出した。
「レイジングハート、お願い」
「ゴールデンサン、セットアップ」
「「Stand by ready. Set up」」
 仲の悪いはずのデバイスたちの声が重なり、桃色と黄金色の光を発した。
 ジュエルシードへと向けて走るなのはとあかねをそれぞれの輝きが包みこみ、戦いの装束をそれぞれに与える。
 なのはは学校の制服をモチーフとした白の装束、あかねは父の背の輝きをモチーフとした黄金のコート。
 輝きが収まり、変身を終えた事を悟った二人が目にしたのは、むくむくとありえない成長を続ける一本の大木であった。
 幹が太くなり背丈を伸ばし、方々に広がる枝が更に広がり公園一帯を包み込むように大きくなっていく。
「封じ結界、展開!」
 その姿を誰にも見られないように、ユーノが魔方陣を足元に強いて世界の色を変えていく。
 彩りを失っていく世界の中でも変わらずジュエルシードを取り込んだ木は大きくなり、幹の中から二本の腕と唸り声を上げる顔を作り出した。
 明確な敵意を前にあかねが前に飛び出し、なのはがレイジングハートを構えた。
 そんな二人を追い抜くように雷に似た魔力弾が幾つも飛んでいった。
 大樹となった化け物は向かってくる魔力弾へと大きく唸り、障壁を展開してそれらを全て受け止めた。
「生意気に、バリアまで張るのかい……少し手加減しすぎたのかい、フェイト?」
「予想より少しだけ強かっただけ。それにあの子たちもいる。魔力は無駄に出来ない」
 振り返ればいつの間にかバルディッシュを突きつけた格好のフェイトと狼の姿のアルフがやってきていた。
 二人が現れるのは予想していたがしかし何か変だと、防御魔法を得意とするあかねは思った。
 フェイトの砲撃魔法に精細さが、威力が足りないように思えたからだ。
(あの程度の防御でフェイトさんの砲撃が軽々と全て受け止められた? 前に僕が打たれた時よりも、弱く見えたのは気のせい?)
 あかねの思考を中断させる咆哮が大樹から放たれた。
 地面が盛り上がり砕け、あかねたちの体よりも野太い根が伸びてくる。
「Jet flier」
 フェイトに気を取られていたなのはの手を引いて、あかねは飛び上がった。
 つい先ほどまで自分達がいた位置に大樹の根が叩きつけられた。
 それだけに留まらず、飛びあがった二人へと向けて何本もの根が振り上げ振り下ろしなぎ払われる。
 攻撃の届く範囲に居てはいけないと、なのはに言われた通りフェイトも守らねばとなのはを引っ張りながらさがって行く。
「Arc saver」
 なのに自分達が下がるのとは逆にフェイトはバルディッシュから魔力の刃を生み出し大樹に近づいていった。
「フェイトさん!」
「あかね君、私は大丈夫だから。フェイトちゃんの所に行ってあげて」
「Shooting mode」
 確かになのはの言う通り、遠距離を得意とするなのはを狙う攻撃は大樹には見られない。
 近付きさえしなければ大丈夫かと、あかねはフェイトへと向かって飛んだ。
 フェイトが生み出した魔力の刃を振りかぶり、投げつけた。
 三日月の刃が回転しながら唸りを上げ、迫り来る大樹の根を切り刻んでいく。
 そのまま大樹の幹の届くと言う所で、最後の根が三日月の刃を粉砕してしまう。
「そんなフェイトの攻撃が、フェイトさがって!」
 一度は切り刻まれた根が驚異的な回復力をみせて再度繋がったのだ。
 迫り来るそれらを全て撃ち落そうとするが、障壁の前に全て受け止められてしまう。
 歯噛みするフェイトへと容赦なく根が振り下ろされるが、フェイトとは若干色の違う防御魔法がそれを受け止めた。
「Round sheild」
 受け止めいなしきると、真横に根が叩きつけられ大地を食い破る。
「今のうちにさがります。いいですね、フェイトさん」
 有無を言わせずフェイトの肩を抱きかかえたあかねは、その余りの細さと平常ではない熱さに驚くことになった。
 それでも再度の攻撃が加えられる前に下がり、今にも崩れ落ちそうなフェイトをアルフに預ける。
 本調子でないはずである、近くで見ないとわからなかったがフェイトの体には隠しきれない傷がいたるところに見られた。
 しかもそれが与えられてからそう時が経っているようにも見られない。
「どうしてこんな傷を負ってまで。一体何があったんですか?!」
「五月蝿い、アンタらになんか何が出来るって言うのさ。この子はね、フェイトは自分の」
「やめて、アルフ。言わないでお願い」
 体を蝕む傷と熱におかされながら、はっきりとフェイトは呟いていた。
 もちろん母の悪口となる言葉を聞きたくなかったというのもあるが、特にあかねやなのはには知られたくはなかったのだ。
 きっとそれを知った二人は、自分をなんとしてでも母から救い出そうとするだろう。
 自分がそれをきちんと断れるか、自信がない。
 それにもしも自分が母の元を去ったら、あの誰も居ない時の庭園の中で母は一人きりになってしまう。
 絶対に知られたくないと、フェイトはアルフにしがみ付いた。
「きゃあああ」
 何も教えてくれないフェイトを前に、思考が停止してしまったあかねの耳になのはの悲鳴が届いた。
 安全だと思った遠距離から戦っていたなのはを、木の葉の嵐が取り囲んでいたのだ。
 なんとか防御魔法にくるまれて防いでいるなのはであるが、それも何時まで持つか解らない。
「ユーノさん、来てください。フェイトさんの怪我を見てあげてください。僕はなのはを助けに行きます」
「え、その子を?」
「いいから早くしてください!」
 まだ敵と言う観念が抜けないユーノの行動は遅かったが、かまわずあかねはアルフに抱きかかえられているフェイトの手を握り締めた。
「ジュエルシードはまた後日奪いに来てくれていいですから、今は自分の体の事を考えてください。それと、どうしても困った時には助けを求めてください。僕にはその声を聞く力があるから、僕は何時でも貴方を助けにいきます」
 それを忘れないでくださいと念を押すと、ユーノが回復魔法をフェイトにかけだしたのを確認してあかねはなのはを助けに向かっていく。
 最初は馬鹿にした黄金のコートがなんとも頼もしく見える反面、アルフはできるわけがないとフェイトを強く抱きしめた。
「どうしようもないほどガキで、アマちゃんだよ。出来もしないことを言われたら、希望を持つだけこっちが苦しいじゃないか」
「確かにジュエルシードをどうするか解らない貴方たちを助けるなんて、褒められたことじゃない。出来るかどうかわからない事を、出来るって言う事は賢いことじゃない。でも、あかねもなのはも本気だよ。彼らは躊躇しない、誰かを助ける事を躊躇ったりしない」
 朦朧とする意識の中、フェイトはユーノの回復魔法の光に包まれながら大樹に立ち向かうなのはとあかねを見上げていた。
 同じ目的を持って共に歩むことが出来るなのはとあかねを羨ましいと思った。
 自分にはアルフがいるが、アルフは使い魔故にそう言う風に自分によって作られている。
 彼女から送られる親愛は確かに嬉しいし感謝もしているが、少し違う。
 あの二人の横に自分も居ることが出来たとしたら、とても幸せな事で、母が笑ってくれたらなおさらだ。
 しかしその両立は決して叶える事は出来ない、出来ないのだと闇に落ちそうになる意識をフェイトは無理やり押しとどめていた。
「Protection」
 手こずっていたなのはのまえにたどり着いたあかねは、なのはごと防御魔法で包み込んだ。
 二人を取り巻く刃を持った葉っぱは、数こそ多いがその威力はそれ程でもないようだ。
 あかねぐらいの防御力を持ってすれば、防ぐ事はそう難しくはなかった。
 ただし囲まれた状況から大樹を撃つ事は難しかった。
 なのはが砲撃を撃つためには一度防御魔法を解かなければならず、その一瞬で自分達は切り刻まれかねない。
「さすがにコレ全部を私が撃ち落すのは無理だよね」
「一体何枚あると思ってるんですか。視界の殆どが葉っぱですよ?」
「でも、早くしないと」
 ちらちとなのはが見やったのは倒れこんだままアルフに抱かれるフェイトであった。
 確かに早く始末をつけないと、フェイトが休息の為に帰ろうとしないだろう。
「解りました。少し危険ですが、なのはは絶対に僕が守ります。信じてくれますか?」
「あかね君を信じてない時を思い出すほうが大変だよ」
「ありがとうございます。素直に嬉しいです」
「A dangerous bet is loved. Wide area protection」
 両手を空へと突き出したあかねが、球状に自分達を包んでいる防御魔法を可能な限り大きくし始めた。
 必要なのはこちらが攻撃をしている間に、向こうから攻撃されない空白の時間。
 半径三メートルは広がっただろうか、それがあかねが生み出すことの出来る最大時間であった。
 意図を察したなのはもすぐにレイジングハートに渾身の魔力を注いでいく。
「レイジングハート、全力全開。フルパワーで行くよ」
「All right. Devine Buster」
 レイジングハートの柄がせり上がり桃色の羽が飛び出すと、円状の魔方陣が生み出された。
 杖の先端に集まるのは、なのはのありったけの魔力である。
 その輝きが凝縮し輝きを強め、膨れ上がってはまた凝縮されていく。
「こっちは準備オッケーだよ、あかね君」
「それでは、行きます!」
 カウントダウンがあかねの口からのぼる。
 三から始まったそれが〇になった途端、ガラスが砕けるような音を立ててあかねの防御魔法が砕けて割れた。
 襲い来る刃を持った葉っぱたちを前に、なのはは臆せず叫んだ。
「ディバイン、バスター!」
 魔力が洪水のように全てを押し流す勢いで放たれた。
 目の前から襲ってきた葉っぱたちは触れた一瞬で消し飛ばされ、大樹が張った障壁を容易く打ち破っていく。
 障壁が一秒も持ちこたえられなかった攻撃を前に、本体である大樹は無力であった。
 甘んじて受けた砲撃を前に苦悶の声さえ飲み込まれていく。
 幸運だったのは、本体がダメージを受けたことで襲い掛かってきていた葉っぱたちが力を失い落ちたことだ。
「「ジュエルシード封印!」」
「「Sealing mode. Set up」」
 二人同時に封印の術式を組み立て、桃色の帯と、太陽の炎で大樹を封じ込める。
 なのはの砲撃のダメージが大きかったのか、抵抗はそれ程多くはなかった。
 直前の凶暴さが嘘のように抵抗一つなく封印は仕上がっていく。
「「リリカル(セイブル)、マジカル。ジュエルシード、シリアルナンバー七封印!」」
「「Sealing」」
 広がる光の中で大樹の姿が粒子となって消えていく。
 その後で残されたのは元の公園の植木となった木と、七番の番号を持つジュエルシードであった。
 結構手こずったが、これで無事にと思った所で二人のすぐ脇を駆け抜ける影が一つの言葉を置いていった。
「ごめんなさい。私、こう言う事が平気で出来る子なの」
 突然の事に驚いた顔を上げた先に映るのは、ジュエルシードへと手を伸ばすフェイトの姿であった。
 言葉がない、裏切られたと思うのではなく、言葉がなかった。
 だがフェイトの手がジュエルシードへと触れるその時、一本のデバイスがフェイトの手を押さえ込みその手を止めた。
「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。ロストロギアであるこのジュエルシードは我々が確保、保管する。手を引いてもらおうか」
 突然現れた執務官を名乗る少年を前に、なのはとあかねは疑問符を浮かべ、フェイトは驚きにその瞳を大きく見開いていた。

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