第七話 今度こそ本当の三つ巴なの?(前編)
 ひび割れたバルディッシュとレイジングハートに挟まれたジュエルシードが白光を放ち始めた。
 余りに強い魔力の放出に周りの空間が刺激されたように耳鳴りのような音をかなで始める。
 これまでのように使用者を求めた暴走や、動植物を取り込んで行う暴走とは何かが違う。
 そこに邪な意志は一切なく、純粋な、何一つ汚れを知らない純粋過ぎる力が膨れ上がっていく。
「フェイト!」
「なのは!」
 事の異常さを感じ取り、ジュエルシードに一番近い場所に居た二人を案じてアルフとユーノが叫ぶ。
 誰もが何の対処も出来ず動けないまま、ジュエルシードはその身から生み出す白光を強め広げていった。
 フェイトやなのはだけでなく、周りで見ていたあかね、アルフやユーノ、そして街全体を飲み込んでいく。
 球状に膨れ上がった白光はやがて耐え切れなくなったように破裂し巨大な柱を空へと打ち立てた。
 大気を雲を吹き飛ばしていく衝撃がフェイトをなのはを吹き飛ばす。
「きゃあああ!」
「くっ」
 吹き飛ばされた二人のうち、その体を張ってあかねがなのはを後ろから抱きとめた。
 なのはの靴から生える羽も衝撃をいなすのに一役かって、二人は止まった。
「ありがとう、あかね君。フェイトちゃんは?!」
「か、彼女の方が若干離脱が早かったみたいです。ほら」
 はからずもなのはの肩を抱く形になったあかねが言葉に詰まるが、努めて冷静になのはの言葉に答えた。
 無事を確認させる為に、なのはとは真逆の方向に飛ばされたフェイトを指差す。
 魔法の扱いに長けているせいか、なのはよりも余裕のある撤退であった。
 だが今はひび割れたバルディッシュを労わっており、何時ものような余裕は若干見られなかった。
「レイジングハート、もとの首飾りに戻って。痛いよね、お疲れ様」
「All right. Mode Release」
 首飾りに戻したレイジングハートを首にかけたなのはを道路に降ろす。
 すぐにジュエルシードへと視線を戻すと、あふれんばかりに放っていた白光は一度おさまりをみせていた。
 ただしその小さな青い石に宿る魔力はおさまりを見せず、際限なく高まろうとしていた。
 その姿にフェイトとなのはが掛けた封印の影響は微塵も感じられる事はない。
「フェイト、危ないよ!」
 悲鳴に近いアルフの言葉に、バルディッシュを石へと戻したフェイトが低空で飛んで行くのが見えた。
 バルディッシュを元の姿に戻した影響か、そのスピードに何時もの電光石火の動きは微塵も見られない。
 フェイトの瞳はジュエルシードだけを求める様に見つめ、その手を伸ばしていった。
「デバイスもなしに、手で取り押さえるつもりですか? なのははここにいてください!」
「あかね君!」
 フェイトの手にはバリアジャケットによる手袋程度の防備しか見当たらない。
 異常な魔力を放出するジュエルシードを前に、それはどう考えても火中に手を突っ込む行為にしか見えなかった。
 そんな危険な行為をフェイトにさせるわけには行かない。
「Jet flier」
 黄金色のコートから炎が噴出し、あかねの体を押し出した。
 空気の壁に叩きつけられる勢いで飛びだしたあかねは、フェイトが触れるより早くジュエルシードをその手で包み込んだ。
 先手を打たれたという顔を見せたフェイトへとさがっていろと目で訴える。
 再び強く輝きだしたジュエルシードが包み込まれるのを嫌うかのようにあかねの手の平を押し返す。
 思ったほどの衝撃はなかったが、それら全てをゴールデンサンが受け持っているに過ぎなかった。
「Painful, Brother. For what is done Golden sun. Sealing」
 何時もの事ながら言語体形の違いは、致命的であった。
 ゴールデンサンの助言もあかねには届かず、腕力で無理やりジュエルシードを押さえ込もうとしていた。
 そんなあかねの手を、フェイトがゴールデンサンの手袋の上から包み込んできた。
「フェイトさん、手を離してください!」
「この子の言葉に耳を傾けて。このままじゃこの子も私のバルディッシュやあの子のデバイスのように損傷を受ける事になる。このままジュエルシードを封印して」
 いくらあかねの手があるにしても素手では危ないと険しい顔であかねが注意を促すが、フェイトは聞かなかった。
 逆にゴールデンサンの言う通りにしろと、真正面からあかねを見つめてくる。
「解りました、解りましたから。手を……ゴールデンサン、ジュエルシード封印!」
「Learn this girl a little. Foolishness. Sealing mode. Set up」
 フィンガーレスグローブであるゴールデンサンの甲にある宝玉から、幾重にも光の線が走った。
 そして噴き出す炎が封印の合図を今か今かと待ち構える。
「フェイトさん、手を。ちゃんと封印しますから。早く!」
「貴方もあの子もまだ魔力の制御が未熟だから、この状態のジュエルシードは封印できない。私が手伝う」
「Stand by ready」
「くっ……セイブル、マジカル。ジュエルシード、シリアルナンバー十四封印!」
「Sealing」
 あかねの意図を汲んで、ゴールデンサンの宝玉から噴出した炎は包み込んできていたフェイトの指の間をすり抜けていった。
 むしろフェイトの手をジュエルシードの暴走から守るように、ジュエルシードを包み込んでいく。
 あかねとゴールデンサンが封印の術式を組み、フェイトがその制御を外から補助をする。
 それでも足りないものがあるのか、ジュエルシードはその輝きを失わず包み込もうとする炎に対抗していた。
 何が足りないのか正確に把握したフェイトの額に汗が浮かび上がる。
「術式は正常に動作してる。けれど、魔力が足りない」
 あかねは元来三人の中で一番魔力が低い、それに加え先日の怪我を引きずっている。
 フェイトは技術も魔力もあるが、今はなのはとの戦闘に加え普段の不摂生が仇となって魔力が残り少ない。
 このまま一気に封印を終えなければ、封印という密封空間に溜め込まれた魔力が行き場を求めて暴発してしまう。
「Look around one well」
 ゴールデンサンの言葉に、ハッとフェイトがある人物へと目を奪われた。
 それは封印がなかなか上手く行かない二人を心配して駆け寄ってきたなのはであった。
 つい先ほどまで魔法を撃ちあい、その途中で背中を向けて抜け駆けした相手に助けを求められないとフェイトが俯き唇を噛んでいた。
 真正面から気持ちをぶつけてきた相手を裏切った後ろめたさがフェイトを包み込もうとするが、この場にいるのはフェイトだけではなかった。
 フェイトの様子に気付いたあかねが、なのはを呼びつけたのだ。
「なのは、こっちに来てください。ジュエルシードを封印するには、魔力が足りないみたいなんです」
「うん、わかった。どうすればいいの、フェイトちゃんの手の上から手を重ねればいいの?」
「それでいいですか、フェイトさん」
 ユーノから最低限の知識しか教授されていない二人は、純粋にフェイトの助言を欲していた。
 話し合いを途中で放棄した自分を罵らないのか、それ所でないだけかも知れないという可能性もあったのだが少し面食らうフェイトであった。
「そうしてくれれば良い。魔力の伝達は私が担う」
 真ん中に挟まれる事となったフェイトへの負担は、なのはとあかねの比ではなかった。
 暴走するジュエルシードをくるむ封印を巧みに操り、かつ外側に浮かぶ性質の違う魔力を変換し術式に加えていく。
 並みの魔導師ならば、組み立てられた術式を制御しきれず壊すか、無理に供給しようとする魔力を操りきれず暴発させるかが関の山であった。
 だがフェイトは若干九歳にして並みの魔導師ではなかった。
 その証拠に、徐々にだがジュエルシードの輝きが封印の術式に押されその光をおさめていっていたからだ。
「静まってください、静まってください、静まってください」
「静まれ、静まれ、静まれ」
「静まって、静まって、静まって」
 同じ言葉を異なる言葉遣いで何度も繰り返す。
 誰が呟き出したかは定かではなかったが、この言葉が難易度の高い制御を任されたフェイトの負担を和らげていた。
 もちろん精神的な意味であったが、アルフ以外に同じ目的の為に協力した事のないフェイトに一体感を与えていたからだ。
 手の甲にはなのはの手の平を、手の平にはあかねのゴールデンサンを感じて温もりに包まれる。
「もう少し」
 俯くように目を塞いだフェイトが呟いた。
 その言葉に嘘はない。
 ただ封印が無事に成功した後に待つ、ジュエルシードの奪い合いに気が引けている自分に気がついたのだ。
 渇望したジュエルシードの捜索に邪魔をいれてきた二人であったが、それ程恨めしく思っているわけではなかった。
 二人が胸に抱いているのは至極当然の善意である。
 友達が掘り当てばら撒いてしまったジュエルシードを集めてあげたい。
 暴走すればどんな災害を引き起こすかわからないジュエルシードを見てみぬ振りが出来ない。
 とても素直で良い子な二人は恐らく封印が成功した後に争奪戦が待っていることに気付いていない。
 二人がくれる温もりを両手の表と裏で感じながら、フェイトは迷い始めていた。
 そしてジュエルシードの暴走が静まり、三人の手を吹き飛ばそうとしていた抵抗の一切が消えた。
 なのは、フェイト、あかねの順番で手の平を開いていき、淡い石そのものが放つ光だけを残したジュエルシードを見上げた。
「なんとか、無事に……そうだ。フェイトさん、手は。怪我していませんか?!」
 自分はゴールデンサンのおかげで痛みは感じないが、フェイトは素手でジュエルシードを掴もうとしたのだ。
 完全にジュエルシードを視界から外し、怪我の有無を確かめ手をとろうとするあかねへとフェイトが戸惑いの眼差しを向ける。
「あかね、なのは。危ない、早くジュエルシードを!」
「フェイトに触るな!」
 不意打ちで放たれたアルフの拳が、容赦なくあかねを頬を打ちつけていた。
 一仕事終えたことでゴールデンサンも反応できず、アスファルトの上を無様に転がっていく。
 転がっていくあかねになのはが気をとられているうちに、アルフがジュエルシードを掴みフェイトを抱えて跳んだ。
「アルフ!」
「お叱りは後でいくらでも受けるよ。でも、フェイト迷ってた。コレがないとあの女に、何されるかわからないのに。私はそんなフェイトを見たくないから」
 自分の事だけを一心に心配してくれるアルフの言葉に、フェイトは自分だけが一人目的の為に徹しきれていないと感じた。
 友達の為に、自分達が住む街の人の為にジュエルシードを追うなのはとあかね。
 叱責覚悟であかねを殴り飛ばしジュエルシードを強奪したアルフ。
 自分もまた、母のためだけを思いジュエルシードを追っているはずであった。
 なのにどうしてこうも迷うのだろうか、あの二人に心を揺さぶられるのだろうか。
 今は豆粒ほどに小さくなった二人を視界におさめながら、フェイトは終わらない自問自答を延々と繰り返していた。





 お昼休みの教室で、何時もの四人はそれぞれのお弁当を一つの机の上で広げていた。
 ただしその数は三つであり、あかねの目の前にはコンビニで購入したビニール袋が置いてあった。
 ガサガサとやかましい音をビニール袋からたてながら取り出したのは、ゼリータイプの栄養飲料であった。
 ユーノによる短時間の回復魔法では治り切らなかった頬は腫れ上がり、あかねはまともに物を食べられないのだ。
 目の前では美味しそうになのはたちがお弁当をパクつき、少々視線が恨めしそうになっても仕方のないことであった。
「でもあかねってば本当についてないわよね。温泉旅行の後で倒れたかと思えば、治って速攻家の中で転んで家具にほっぺたぶつけたんでしょ?」
「あまり喋らせるような質問をしないでください。ゼリーをすすってるだけでも相当痛いんですから」
「ふ〜ん……えい」
 少しばかりイタズラ心を覗かせたアリサがガーゼに覆われたあかねの頬を突いた。
 太い杭でも打ち込まれたかのように飛び退ったあかねがけたたましく椅子を掻き鳴らした。
 教室中の視線を集めきったあかねは失礼ともごもご口を動かしてから座りなおす。
「アリサちゃん、今のはアリサちゃんが悪いよ」
「私もびっくりしたわよ。そこまで痛がるなんて……その、ごめん」
 痛がるだけでなくあかねが涙目になっているのを見て、さすがのアリサも素直に謝罪を口にしていた。
「絶対にもうしないでください。今度したら、苦手から友達になった所を天敵へとクラスアップさせます。呼び名は天敵・アリサ・バニングスと二つ名に加えてフルネームです」
「地味に嫌なしかえしね、肝に銘じておくわ」
 相変わらずな関係の二人に、なのはとすずかがクスクスと笑っている。
 そのなのはの胸元には、何時ものレイジングハートの姿はない。
 昨晩のジュエルシードの暴走させる発端を作った事で、激しい損傷を受けているからだ。
『なのは、レイジングハートは家ですか?』
『うん、自己修復中とかでユーノ君が見てくれてる。痛そうなヒビが入っていたけれど、大丈夫だってレイジングハートも言ってた』
『そうですか。それにしても、今すぐにジュエルシードが暴れ出したら危険ですね。フェイトさんのバルディッシュも修復中でしょうし』
 レイジングハートと同じダメージを受けたバルディッシュも修復中だと考えるのが普通である。
 となると、相変わらず攻撃魔法の使えないあかねしか残っていない。
 僕に任せて置いてくださいと容易に言えない自分がもどかしいあかねであった。
 今更であると言えば、今更であるのだが。
『大丈夫、今日の夕方には直るって言ってたから。フェイトちゃんの方も恐らくはって』
『そうしたら、またジュエルシードの奪い合いになるんですね』
『でもただ奪い合うだけじゃないよ。少しずつ、少しずつでも言葉を交し合えば解り合える。フェイトちゃんは解ってくれる』
『今度こそ、僕はその場にいますからね。最近まともになのはを守ってないどころか、気絶する事が多いので。ちゃんとなのはの事を守ります』
 何時ものように守ると言う事を宣言するだけなのに、どうしてこうも緊張するのか。
『ありがとう、あかね君。でも出切ればフェイトちゃんも守ってあげてくれるかな。難しいかもしれないけれど』
 にこりと笑みを向けられ、心が躍る様に、まあ良いかなと思っているとなのはとあかねの交わる視線の間にアリサが突如割り込んできた。
 疑惑の眼差しで、何度も振り向き振り返りなのはとあかねの顔を見比べている。
 あかねはその眼差しの意味に気付いて狼狽し、なのはは妙な動作を繰り返すアリサをきょとんとした目で見ていた。
 その二人の落差にアリサが怪訝な表情を浮かべた。
「なに見詰め合ってるとか思った次の瞬間には微笑みあってるのよ」
「アリサちゃん……」
 アリサの疑惑の目を、すずかが見守っていようよとでも言いたげに服の裾を引っ張っていたが、やはりアリサと同じように違和感を感じたらしい。
 二人になのはとの事を疑われてから、まだ一日も経っていない。
 その間にフェイトがジュエルシードを発動させたりと色々あったせいもあるが、昨日の今日であかねは自分の気持ちに疑問を挟む余地を見出せないほどになっていた。
 なのはの事がすきなのかな? ではなく、好きなのだろうなあっと思う程度に。
 だからこそ、なのはにばれかねないアリサの眼差しに必要以上に狼狽してしまうのだ。
「見詰め合ってなんかいませんよ。考え事をしていたら、たまたまです。ですね、なのは」
「ん〜、まあそうかな」
 嘘つきの才能の欠片もない同意の言葉に、ガクリとあかねがうな垂れる。
「もしかして、私たち勘違いしてたんじゃないのかな?」
「一方通行って事か。へえ、興味がないみたいな事言っておいて」
 そしてあっさりアリサとすずかにばれる事となった。
 いくら何でも感の良すぎる二人である。
 しかも両思いはあまり歓迎していなかったくせに、あかねからの片思いは面白がっている節がある。
 特に天敵候補のアリサは。
「一方通行って、道路標識だよね?」
「なんでもない、こっちの話よ。なのはは、なんの心配もしなくていいの」
「あかね君、勝手に伝えたりしないから。アリサちゃんの事は私が見張ってるから」
「すみません、出来ればその話題から離れてもらえませんか? 認めますから、ひやひやさせないでください」
 三人の中でだけわかる会話に、なのはがぷくりと頬を膨らませる。
 自分だけ仲間はずれにされたように感じたのだろうが、次の行動がピンポイントであった。
 なにやら鍵を握っていそうなあかねへと、ちょっと怒った視線を向けて言う。
「私だけ仲間はずれなのは酷いよ。あかね君、何の話? あかね君は仲間はずれになんかしないよね?」
「それは……言いたいけど、言えないといいますか」
 いくら懇願されても言えるはずのない話題に、あかねは口ごもるしかなかった。
「なのはだけ知らないんだ、ずるいよ」
 キュッと唇を結び、上目遣いに見上げてくる。
 これが自分と同じようにオロオロとしてくれるすずかはまだ良い。
 許せないのは、声を出さないようにお腹を抱えて大爆笑しているアリサであった。
 天敵・アリサ・バニングスにクラスアップさせてやろうかと若干睨みながら、浮かんだ明暗にぴこんと電球を灯らせる。
「実は片思いしているんです」
 突然の告白にえっとなのはの瞳が見開き、直後相手は誰だ誰だと興味深そうに見てくる。
 そして自棄とも思えるあかねの言葉に、大爆笑していたアリサも戸惑っていたすずかもその動きをピタリと止めた。
 あかねが自棄になってなのはに告白するのが一番危険なパターンであるからだ。
 成功しても四人での行動は制限され、失敗したら二度と四人で行動できる事はないからだ。
 だが次のあかねの台詞を聞いてホッとすると同時に、狼狽する事に成ったのはアリサであった。
「アリサが、通学中に見かけた男の人に」
「アリサちゃん、今の話本当?!」
「私がじゃないわよ!」
 なのはに詰め寄られるアリサが放った台詞を聞いて、心の中で勝ったとあかねは勝利宣言をしていた。
 否定の言葉の中で、アリサはすでに誰かが片思いをしている事を肯定してしまっていた。
 だがここで本当に誰が片思いしているか言ってしまえば、仲良し四人組の解散と言う危険パターンに陥る可能性がある。
 しどろもどろになるというアリサの貴重な姿を堪能しながら勝ち誇るあかねへと、こそこそっとすずかが耳打ちしてきた。
「あかね君、言いにくいんだけどね」
「なんでしょうか? 久しぶりの勝利に、多少の事ならば受け流す事が出来そうですよ」
「なのはちゃんね、最初あかね君が片思いしてるって思ったはずだよね。でもその時点で相手が誰か興味深々だったような……」
 すずかの冷静な指摘を受け流せず、大ダメージを被るあかねであった。
 普通気になる相手が片思いしていると聞けば、うろたえるなり、不安になるはずである。
 なのになのはの挙動は興味深々に耳を傾ける始末。
 あかねの事を気にもしていないと言う確かな証拠でもあった。
「心が痛いです。できれば真実には目を瞑り、束の間の勝利に酔いしれていたかったです」
 完全な痛み別けにあかねがうな垂れている頃、この世界へと向けて進路を取る船があった。
 フェイトとは違う、ユーノと同じ世界からの来訪者たち。
 この世界で言う所の警察組織、さらに言うならばジュエルシードのような危険な道具を保護、管理しようとする専門集団。
 彼らの存在がよりなのはとあかねを魔法の世界へと引っ張り込む事になるのだが、今の二人にその事が予見できるはずもなかった。

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