第五十八話 止める者たち


殺すと明確な意思を見せてからの二人の行動はまさに烈火のごとく動き出していた。

「我が敵を撃てマジックアロー!」

グロウが放った幾つもの魔力の矢が手当たりしだいと言う風に、闇雲に放たれ盗賊たちに向かっていく。
ある矢は直接盗賊たちを打ち抜き、外れたものはそのまま大地をえぐり威嚇する。
盗賊たちの一瞬の怯みを見て、頃合を見計らったカーマインがクレイモアを掲げて突撃していく。
少しのタイミングのずれもなく魔法の矢が尽きた途端に、駆け抜けたカーマインにより数人の盗賊たちがなぎ倒され意識を失った。

「この、なんなんだよ。お前らは!」

立ち止まったカーマインの背中へと、後ろから切りかかる者もいたが掲げた刃が振り下ろされる事はなかった。

「これから死ぬお前が知ってどうにかなるのかよ!」

さらに盗賊の後ろから、グロウが斬りつけたからだ。
そうなると解っていたのか、斬り付けられようとしながらも振り向きもしなかったカーマインが再び駆け出した。
向かった先はクレヴァーの相手をしていたニックだが、加勢をするよりも前にクレヴァーの方が退いていった。

「カーマイン君か、見違えたよ。助かった」

「いいえ、それよりもニックさんはアイリーンさんとルイセをお願いします」

ニックの了承を確認してすぐに、カーマインはオズワルドへと向かう。

「毎度の事ながら、邪魔ばかりすんじゃねえ!」

「それはこっちの台詞だ。今日と言う今日は、お前を倒す」

本当に毎度のことではあるが、オズワルドはハンドアックスを両手に持ってカーマインを迎え撃つ。
唸るクレイモアを裁くために片方のハンドアックスで受け流すが、あまりの剣撃の鋭さに手が異常な痺れを感じで握りが甘くなる。
斬撃を数受けないうちにオズワルドは、すでに自分がまともには太刀打ち出来ない事を悟っていた。

「コイツ、会うたびに強く。くそ、お前ら隠れてないで出て来い!」

それすら毎度であるように、オズワルドは大声を張り上げてメディス村中に呼びかけた。
すると控えていた大勢の部下たちが、建物の影から、小さな路地裏から姿を現しそれぞれの武器を手に持ち直す。
会うたびに倒したり捕縛しているはずが、その数は一向に減っているようには見えなかった。
そんな彼らの姿をみて悲鳴を上げる村人たちに真っ先にグロウが駆け寄ろうとするが、その前に立ちふさがる者がいた。

「おっと、お前の相手は俺だ。あの猛毒を受けて生きてるとはしぶとい奴だ。今度こそ」

口ぶりの割には喜んでいるような節が見られるが、グロウは目の前に立ちふさがった片手から剣を生やした男に言った。

「お前みたいな雑魚に覚えはねえ。自分で自分の首落として死ね」

「ふざけるな貴様。忘れたとは言わせないぞ、この右手の事をな!」

本気で誰だと首をかしげるグロウに激高したクレヴァーが襲い掛かる。
少なくとも目の前の男の動きが雑魚ではなく、とてもすぐに現れた盗賊たちを倒しにいけるとは思えなかった。
相手の実力を見誤った事に舌を打ちながらも、グロウは相手の剣と自分の雷鳴剣を重ねてつばぜりあっていた。

「へっ、今度こそこっちのものだな」

勝ち誇るオズワルドに対して歯噛みするカーマインであるが、悲観することはなかった。
全く方法がないと思っていたわけでもないからだ。
ただその方法が酷く危険であり、戸惑いが剣先に現れ、異変を感じ取ったオズワルドが一気に攻めに転じて動いた。
攻撃は最大の防御とばかりに二本のハンドアックスを振り回し、休む暇もなくカーマインへと打ち込んでいった。

「どうした、俺達をぶっ殺すんじゃなかったのか? まあグローシアンを置いていくって言うなら、村人にも手出しはしないでおいてやっても良いぜ」

その言葉に促されるようにカーマインは、腕から血を流しながら眠り込まされているルイセを見た。
おそらくオズワルドが言っているのはルイセを介抱しているアイリーンの事であろうが、守らなければいけない事に違いはなかった。
振り下ろされるハンドアックスをクレイモアで受け止め弾きながら叫ぶ。

「渡さない。誰にも渡しはしない!」

「あ?」

言葉とは裏腹に、守るためではなく、奪おうとする者を破壊するためにカーマインは心の中のスイッチを押していた。

「何時でも上手くことが進むだなんてありえねえんだよ」

あざけるように言いながら弾かれた方とは逆のハンドアックスをオズワルドが振り上げた。
刹那、ハンドアックスの刀身が何の前触れもなく砕けていた。
あとからついてくるように破壊音が耳に届いた時には、すでにカーマインの姿がオズワルドの視界から消え去っていた。

「なに、ぐぁッ!」

カマイタチにでも斬りつけられた様に肩のから真っ赤な血を噴出しながら、後ろへと倒れる様に大きくよろめくオズワルドの姿があった。
オズワルドの肩からほとばしった血液がまだ宙に浮かんでいる間に、別の場所から村人のとは別の悲鳴が上がる。
盗賊の一人が向いていこうな村人へとその凶刃をむけていたのだが、向けた刃が振るわれる事なく盗賊の首が体から別れを告げた。
そうかと思えば、何の関係もない民家の壁に二足の足跡がめり込むように生まれた。
盗賊の首をはねた勢いを殺すために民家の壁に両足をついたのだが、それを理解できる者はここにはいなかった。

「う、うわぁぁッ!」

「抵抗するな、武器を捨てろ。でなければッ!」

俗に言う強さとは違う、人智を超えた動きに逃げ惑う盗賊たち以上に必死なカーマインの叫びが響くが、盗賊たちは逃げながらも手から武器を放そうとはしなかった。
恐怖心からなんでも良いから身を守る物が欲しかったのだろうが、逆効果であった。
逃げる盗賊たちの背後からでさえカーマインはクレイモアを振り下ろし、致命傷以上の傷を負わせていった。
千切れ飛ぶ四肢に、首、胴体、何人もの盗賊が自らが想像もしなかった壮絶な最後を迎えていく。
一番最初に襲われながらも、肩を切り裂かれるだけですんだオズワルドもその異常性に気づいたのだろう。
とても間に合うとも思えなかったが、すぐに撤退の言葉を部下たちに投げかけた。

「一体どうなっていやがるんだ。折角成功だと思ったのに、逃げるぞ。お前ら!」

「逃げるんじゃない、武器を捨てるんだ!」

もしもその部下たちに返答する理性があったのならば、とっくに逃げていると言葉が返ってきたことであろう。
依然として抵抗を止めろといいながらもカーマインは問答無用に斬りつけてくるのだ。
もう誰一人として村人を襲う盗賊はおらず、ただカーマインから逃げようと必死であった。

「クレヴァーッ!」

「解ってますよ。お前、記憶喪失だかなんだから知らないが、今度会う時にまで思い出しておけよ!」

「弱っちいお前の事なんか、思い出してもすぐに忘れちまう。逃げたいんなら、さっさと逃げろや」

なにかをグロウに言い返そうとしあクレヴァーだが、再度オズワルドに名を呼ばれてしぶしぶ逃げだした。
あらかたの盗賊が逃げ出し、最後の一人をカーマインが斬り伏せる。
ようやく動きを止めたカーマインは、クレイモアの切っ先を地面にめり込ませながら肩で大きく息を吸い込んでいた。
グロウも戦ってはいたが、あまりのカーマインの奮闘に誰も言葉がなかなか出なかった。
助けられた村人の誰もが歓声もあげず、ニックやお調子者のティピでさえ声をかけられなかった。

「たく、おいカーマインって奴。もういいぞ、聞こえてるか?」

誰も声をかけなかったので、仕方なくグロウが声をかけるが反応は見られなかった。
興奮のし過ぎで耳に届かなかったのかともう一度声を上げようとすると、ゆっくりと振り向いたカーマインが呟く。

「破壊する、全てを」

カーマインの体を覆っていた闇の光がさらに強くなり、グロウの目前が爆発した。
舞い上がった土くれや石に顔を打たれながらもそれがカーマインの斬撃によるものだと、遅まきながら気づく事になった。
無理やり体をひねった先に見えたのはニックへと向かうカーマインの後姿。
咄嗟の思いつきでグロウが叫ぶ。

「剣を捨てろ。ニック、剣を捨てろ!」

捨てると言うよりは、向かってくるカーマインの形相にニックが剣を取りこぼしただけであった。
ニックの持っていた剛剣が地面に突き刺さるのと同時に、カーマインの動きが止まった。
もはや打ち倒すべき相手ではないと判断したかのように、辺りを見渡しその視線がグロウに定まる。

「破壊」

呟いた直後、カーマインの体を覆っていた黒い光が輝きを強め、一歩グロウへと踏み出した。

「グロウ様、気をつけてください。カーマイン様が変です!」

ユニの悲鳴にも近い一目瞭然の指摘に笑う間もなく、カーマインの姿がグロウの視界から消えた。
ニックと同じように剣を捨てるべきか、それで本当に元に戻るのか。
葛藤の刹那、目の前にカーマインの顔があった。
それがカーマインである事も忘れて雷鳴剣でなぎ払ったグロウであるが、切り裂いたのは空である。

「速すぎだろ!」

「なんだか事情が飲み込めないが、それはカーマイン君なんだぞ、グロウ君!」

「んな事わかってるよ!」

ニックに答えるのと同時にふっと辺りが暗くなったように感じ、グロウは前に飛び出した。
すると何故か上から降ってきたカーマインがその勢いでクレイモアを振り下ろし、つい先ほどまでグロウがいた地面を大きくえぐりこんだ。
少しでも反応が遅れていれば、頭蓋が割れ首が折れていたか、カーマインなら頭蓋から真っ二つであったかもしれない。
体中の熱が奪われるような冷たい汗を感じながらも、グロウは雷鳴剣を強く握り締めていた。

「グロウ様、剣を捨ててください。そうすれば先ほどのように標的にはされないかもしれません!」

「そうだよ、捨てちゃえよ。我に返ったらしこたま殴っていいから!」

ユニとティピがそう叫ぶが、標的にされないだけで元に戻るという保障は何処にもない。

「絶対にいやだ。意地でも捨てん!」

「なに意地張ってんのよ、馬鹿!」

保障がないからこその台詞であるが、ティピには意味が届かなかったようだ。
グロウは強く握った雷鳴剣を目の前で構え、もはや目で姿を追おうとする方が馬鹿らしいほどに速いカーマインを待った。
一瞬でも同じ場所に留まる事を嫌うかのように、辺りの地面、民家の壁や時に屋根にカーマインが荒々しく足をついては離れる。
先ほどは正面と上から攻めて失敗した。
ならば同じ手は使うのか、そもそも手を考えるほどにカーマインの理性が残っているのか。
段々とカーマインの着地位置がグロウに近寄り、間隔も速くなっていく。

「何処だ…………また正面ッ?!」

次にどう来るかごちゃごちゃ考えていた分、明らかに初撃よりもグロウの対応は遅れていた。
避けることはタイミングから明らかに間に合わず、カーマインの斬撃に遅れながら合わせる様に雷鳴剣を繰り出した。
クレイモアと雷鳴剣が重なり合った瞬間、雷鳴剣が嫌な悲鳴を上げて軋んだ。
このままでは折れるととっさに力を抜いたのが良かったのか、悪かったのか。
凪ぎ飛ばされたグロウの体はまっすぐに民家の壁へと吹き飛ばされ、容赦なくめり込んでいた。
胸からこみ上げてくるものには吸い込んでいた空気以外に赤いものも含まれていた。

「グロウ様!」

壁にめり込みながらも雷鳴剣を手放さなかったグロウへと、止めを刺しにカーマインが失踪する。
クレイモアを水平に構え、切っ先はまっすぐグロウの胸元を目指していた。
ユニはただ名を叫び、剣を放せと怒鳴るティピやニック、それでもカーマインの疾走が止まる事はなく、凶刃が迫る。
そんな時に目を覚ました彼女がぽつりと名を呼んだ。

「…………カーマイン、お兄ちゃん?」

状況など見えていなくて、ただ目覚めてすぐに眼に映ったのがカーマインと言うだけであったのだろう。
だがその呟きこそがグロウを救う切欠にさえなった。
意識が戻ったのか全力で自分の疾走を止めようと足を地面に突き刺すカーマイン。
それでも勢いは徐々にしか止まらず、疾走が止まった頃にはグロウの胸元数センチの所にまでクレイモアの切っ先が届いていた。
一体自分が誰に剣を向けていたのか、ゆっくりとクレイモアを下ろしたカーマインは呆然と呟く。

「僕は、なにを……」

状況を把握する前にまっさきにカーマインの視界に飛び込んできたのは人の拳であった。

「んなろうッ!」

容赦なく拳が突き刺さったのにも関わらず、吹き飛びも後ずさりもしなかったカーマインがまっすぐ殴ってきたグロウを睨みつける。
かと思った瞬間には、すでクレイモアを手放して殴り返していた。

「戦闘中にいきなりなにするんだよ。僕よりもまず盗賊を追い払えよ!」

「そんなもんとっくにお前が追い払っただろうが。寝ぼけてんじゃねえ!」

「寝ぼけてんのはグロウのほうだろう。なに記憶なんてなくしてんだよ、おっちょこちょいにも程があるよ!」

お互いに殴り合い、倒したかと思えばマウントポジションを取り合いつつそれは続いた。
つい先ほどまでの盗賊の襲来や、カーマインの暴走など忘れさせるかのように。
アイリーンの手によってすっかり治療を終えたルイセが止めようとするが、二人は地面をゴロゴロと止まる様子はない。

「ねえやめてよ。もう終わったんだから、やめてよぉ!」

「いいじゃん、いいじゃん。好きなだけやらせようよ」

無責任なティピの言葉に、困り果てたルイセが泣きそうになるが、二人を止めてくれる人はすぐに現れた。

「いい加減に、止めなさーい!!」

それは今まで何処にいたのか、両手に手を当てて怒ってますのポーズをしたカレンであった。
ピタリと喧嘩をやめた二人は、恐ろしげにカレンを見上げていたという。





アイリーンを魔法学院へと送り届けマクスウェル学院長に引き合わせると、カーマインたちは再びラシェルへと戻ってきた。
それはもちろんカレンとグロウを送り届けるためであるが、グロウが少々浮かない顔であった。
もちろんグロウだけではなく、カーマインやルイセも学院長が言っていたローランディアでのグローシアン狩りと言われる所業が気になっていたのだ。
それでも帰らないわけにも行かず、カーマインとティピを連れてルイセがテレポートを唱えようとした時、グロウが待ったをかけた。

「カレン、俺が退院するにはどうすればいい?」

「もうほとんど日常生活には支障がないはずだから、もしもの為の安定剤を貰えば多分すぐにでもできるはずよ」

それを聞いて頷くと、すぐにグロウはルイセを見て言った。

「俺も一緒にローランディアに行くぞ」

「行くぞって、ここの警備とか子供たちはどうするの?」

「警備なんて名目上だけの仕事だし、ガキどもは……まあ、たまに顔出す程度でいいだろ」

ルイセがすぐに気になった事を尋ねるが、お気楽な台詞が帰ってくるだけであった。
それならいいんだけどと、控えていたカーマインにお伺いを立てる。

「グロウが来たいのなら、いいんじゃない? 元々こっちが故郷なんだし」

「別にお前の意見は求めてねえよ」

「はいはい、そうですか。すみませんね」

カレンが見ている前では二度と喧嘩をしないつもりか、簡単な言葉のやり取りでお互い顔を背けるが、

「んじゃ、簡単に手続き済ませてくるから待ってろ。それとカーマイン、お前ちょっと来いよ」

すぐにグロウの方が指名で呼びつけた。

「僕が?」

「お前以外にカーマインがいたら教えてくれ」

そういう意味ではないのだが、そこでカーマインを指名する必要性が見えず怪訝な顔をするカーマイン。
とりあえず歩き出したグロウにカレンとカーマインが続く。
同じように続こうとしたユニであるが、ルイセが心配だからとティピと一緒にグロウから待機を命ぜられた。
病院まで歩く途中でカレンが患者に呼ばれて離れたのを見計らい、グロウが切り出した。

「お前、ルイセのこと好きだろう」

あまりに唐突な台詞に、目を丸くするだけでカーマインは答える事ができなかった。

「な、何を急に」

「俺がルイセについていくのには三つ理由がある。今日みたいなクソ野朗からルイセを守る事。ルイセのそばにいて、アイツを振り向かせる事。最後、二つの意味でお前からルイセを守る事」

「それは、僕からルイセを守るのは一つだけでいいよ。僕はルイセに何も言わない、気も引かない。伝えちゃいけないんだ、この気持ちを」

驚くほどすんなりと出たその言葉の後、気がつけばカーマインは顔に痛みを持ったまましりもちをついていた。
熱い痛みを持つ頬に触れなくとも、殴られたのは理解できた。

「お前がそんなんだからだよ。ルイセもお前が好きなんだ。昔からずっと見てきたんだ、それぐらい解る…………昔? 昔って何だ?」

「グロウ、記憶が戻り始めて……」

「ああ、そうかもな。とにかく、お前がルイセとちゃんと向き合わないからルイセが完全に俺を向かねえ。お前がまたあの変な力で暴れようとしたら、今度は俺が止めてやる。だから、ちゃんとルイセと向き合ってから、俺に奪われろ」

果てしなく我がままなその言い分にカーマインは少し笑ってしまい、グロウに睨まれてしまう。
そして、奪われると言う一点だけが気に入らず、簡潔に答えた。

「嫌だ」

刹那すれちがう拳がお互いの頬を貫き、またカレンが戻ってくるまで二人の喧嘩は続いた。

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