コムスプリングスは魔法学院から東へといった所にあるバーンシュタイン国内の避暑地である。 温泉の街であるだけにコムスプリングスの街中は、ある種独特な匂いが立ち込めていた。 それもまた温泉街の風情の一つなのだが、ティピなどは正直にウゲェと顔をしかめていた。 その温泉街の宿の前を素通りして、カーマイン達はダニー・グレイズの家を目指した。 そして、フェザリアンの研究について尋ねたいと言うと、白髪と髭を蓄えているダニーは喜んで一行を屋内へと招いてくれた。 「さて、なにから話そうかね?」 「主にお聞きしたいのは彼らの思想、考え方です」 「思想か……一番難しいところだね」 アリオストの答えに難しそうな顔をした反面、すこし嬉しそうに微笑んでいた。 大勢で詰め掛けたのにも関わらず、喜んで家へ入れてくれたことからよほど、研究内容に興味を持ってくれる人が少ないのだろうか。 「あなたの著書を読ませていただきました。それによると、合理的な種族としか記されていませんでした」 ルイセの言葉にさらに笑みを深くさせたのは、予習をちゃんとしてきた学生をみるようであった。 「うむ。あの時点ではそうとしか書き様がなかったからね。だが今はもう少しわかってきている」 「やったぁっ!」 「では、お手数ですが、ご教授お願いします」 ダニーの言葉に喜びの声をあげたティピに続いて、アリオストがその頭を下げた。 教えてもらう立場なのだと皆が頭をさげると、咳払いをしてからダニーは語り始めた。 「うむ。ではまず、彼らが我々人間を嫌っている事から話すべきだろうな」 「嫌っている?」 「フェザリアンは人間を嫌っているというのか?」 「そういえば、母さんも以前そんなことを言ってたような……」 ウォレスやジュリアンの驚きの声を聞いて、カーマインは以前のサンドラの言葉を思い出した。 それはグロウを治す術がないと解った時に、フェザリアンを持ち出されたときだ。 あの時確かにサンドラは、フェザリアンが人間を嫌ってフェザーランドに逃げ込んだと言っていた。 「彼らが最初からあんな宙に浮く島に住んでいたと思っているのかね? とんでもない。当初、彼らは地上に住んでいたんだ。それを追い出したのは他でもない、我々なんだよ」 「人間がそんな酷いことをしたなんて……」 信じられないとばかりに呟いたルイセの言葉が予想通りだったのか、ダニーは続けた。 「今の人たちはほとんど忘れてしまっているだろうが、我々もフェザリアンも別の世界の住人だった。だが我々の世界が絶滅の危機に瀕したとき、人間とフェザリアンは力を合わせてこの世界へ移り住んだ」 「力を合わせて?」 「そのとおり。フェザリアンの持つ優れた科学と、人間の持っていた強大な魔力。この二つを使い、我々は異なる空間をつなげ、この世界にやってきた」 アリオストの相槌をはさんで言ったダニーの言葉に違和感を皆は感じていた。 フェザリアンが人間を嫌う事と、人間がフェザリアンを追い出した事。 前の世界から協力して渡ってきた事を考えると、この二つの事実は考えられないのだ。 「それほど協力的だった関係が、どうして崩れてしまったのでしょう?」 「知っての通り、この世界にはほとんどグローシュがない。今まで魔法に頼ってきた人間は、その支えを失ってしまった。それを助けてくれたのが、科学を持ったフェザリアンだった。だが、偶然能力を取り戻すに至ったグローシアンたちが、その魔力を武器に反乱。人間やフェザリアンを支配するようになった」 それを聞いたルイセは、知らぬうちに自分の服のそでをキュっとつかんでいた。 「一部の人間の起した反乱だが、彼らにしてみれば恩をアダで返されたようなものだ」 「そんなことしたんじゃ、嫌われるのも当たり前だよ!」 「ティピ」 当時のフェザリアンに同情して声を荒げたティピだが、カーマインに注意されうつむいているルイセに気付いた事であっと声をあげた。 ルイセもグローシアンなのだ。 遥か昔、まったく関係ない事とはいえ、ルイセの性格から自分が悪いように感じてしまうのだろう。 気にするなとばかりに、カーマインがルイセの頭に手をおいた。 「それが全てとは言えないが、それが決め手だったと思う。前の本にも書いたが、彼らは非常に合理的だ。そして常に集団の意志を尊重する。多くの者が右へ進みたいと思えば、左に進みたいと思った者も黙って右へ行く。自分だけ左に進み、規律を乱すことはない。集団の意志の前には個人の意志など存在しない。そこまで割り切れる、かなりドライな性格だ」 話しながら段々と熱が入りだしたのか、ダニーの口は滑らかに留まる事を知らずに動き始めた。 「そんな考え方を持った彼らだ。自分勝手に生きる人間を元々見下していただろうね。それにみんなが一丸となって目的に当たるから、一つの技術を極める事も出来る。結果として、高い知識と技術を持つに至った。だから彼らの技術を見てみたまえ。どうでもいいようなものなど何一つない」 「無駄がないなんて、何だかつまらないなぁ」 とても面白い意見を言ったのはミーシャであった。 だがダニーもその意見が出ることを予見していたのか、すぐにこう切り替えしてきた。 「いや、そうとも言い切れん。彼らはたいへん歌が好きでな。本来、歌などがなくても生きていけるはずだからね。ま、彼らに言わせれば『豊かな心のため』と答えるかもしれんがね」 「なるほど。では、彼らよりも人間の方が勝っている点とは何でしょうか?」 「難しい問題だ。彼らに比べれば人間は個人のエゴを優先しがちだからね。だが、考え方によってはそのエゴが人間の長所かも知れん」 これまでの話の中で一番顔をしかめるようにその問いの難しさを示したダニーだが、答えは持ち合わせていたようだ。 だが一瞬にしてそのエゴこそが人間の長所とまでは、誰にもわからなかった。 「彼らは完全なほどの合理主義者だ。たとえばある者が怪我をして、一週間後には死んでしまうとする」 ダニーにとっては単なるたとえ話だろうが、誰もがその例えに揺さぶられた。 「だが薬を取りに行くと往復で十日かかってしまう。君たちなら、どうする?」 「絶対に、諦めません。例え間に合わないと解っていても、なんとか間に合わせようとします」 「その通りだ。何もせず、あきらめるなんて出来ねぇからな」 「合理的、非合理的など関係ない。そこに苦しむ人が居るのならば、私は絶対に見捨てたりなどしない」 ほぼ、カーマインの答え方は即答と言える程であった。 その後にルイセやティピ、ウォレス達も次々と頷いてカーマインの答えを肯定していった。 なぜならカーマインたちは、事実それを実行してきたからだ。 なんど間に合わないと思ったことか、それでも今こうしてなんとかしようと足掻いている。 「つまりはそういうことだ。人間はだめと分かっていても、立ち向かう事が出来る。エゴとはちょっと違うだろうが、自分が納得できるように全力を尽くす」 「つまりフェザリアンは無駄な努力はしないってことかぁ」 納得したようなティピの声に、ダニーが付け加える。 「どちらが本当にいいことなのかはわからん。だが私は悔いのない行き方をする為に最後まであがく人間の方が、いいように思えるのだよ」 「大変ためになりました。ありがとうございます」 「いやいや。ワシもフェザリアンについて興味を持ってくれた人と話せて嬉しかったよ。よかったらまた来てくれ」 再び教えを受けた礼の為に頭をさげたアリオストをみて、ダニーはやはり嬉しそうに笑っていた。 やや顔も紅潮しているようで、よほどフェザリアンについて討論できた事が嬉しかったのだろう。 「どうも、お邪魔しました」 最後にルイセや皆からもお礼の言葉を述べると、ダニーの家を出た。 そのまま独特の匂い漂うコムスプリングスの街並みを歩く中で、ウォレスが言った。 「何となく見えてきたな」 「だけど、それをどうやって証明するの?」 「……難しいね」 ティピに答えを示す方法を問われ、ルイセが難しさを示すように額に眉を寄せた。 もっともで答えが見えてきたのはいいが、どうやて証明するのか。 これはもはや種族的な思考であり、形としてどう示せる事のできる物でもなく、アリオストも眉間にしわを寄せる。 考え方を形にしろと言われても、無理なのだ。 「そっくりそのまま話してみたらどうですか? 今こうして諦めない事こそ、その証明だって」 「確かにその通りなんだけど。フェザリアンから見れば、苦し紛れの言葉にしか思えないんじゃないかな。自分たちが困ってるから、そう言えるんだって」 「確かに、その場しのぎの嘘にしか聞こえないだろうな。例えが自分たちではな……」 ミーシャの意見をやんわりとカーマインが否定し、ジュリアンも無理であろうと同意した。 「でもさぁ、ダメと分かっていてそれを何とかすることができたことが前提なんじゃないの? 結局ダメでしたじゃ、無駄な行動だったってフェザリアンの合理主義を認める事になっちゃうわよ?」 一番手厳しかったのはティピの意見であった。 確かに優劣をみせるのなら、行動だけではなく、結果も伴わなければならない。 いつのまにか街並みの人の流れから一行が取り残されるように、考え込んで足を止めてしまっていた。 そんな時に一番集中力がもたなかったミーシャがあっと声をあげた。 「折角コムスプリングスまできたんだし、温泉に入っていきませんか? 温泉に入れば、気分転換にもなるし、いい考えが浮かぶかもしれませんよ」 「アンタ……自分が入りたいだけなんじゃないの?」 「ひっどーい、私だってもう一人のお兄様の安否は気遣ってるよ。ただ、半分は自分が入りたいんだけど……」 ティピの突っ込みに、正直に答えてしまったミーシャに、カーマインがふっと笑った。 確かに煮詰まってしまえば、出る意見も出ないだろう。 「確かに、気分転換は必要かもね。皆はどう?」 「正直に言うと……私もちょっと温泉には興味があったんだ」 「傷にはいいかもしれんな」 「僕もこのところ研究発表とかの準備で疲れていたからね」 すこし言い訳がましい言葉が並んだが、だれも反対意見は無いようであった。 最後に何も言わなかったジュリアンに確認の意味でカーマインが顔を向けるが、少し様子が変であった。 休憩する時間が惜しいほどにグロウの事を考えているのか、酷く難しい顔をしていた。 「ジュリアン?」 「あ、いや……そうだ。私はもう少し一人で考えてみたい。皆はゆっくり温泉に浸かっていてくれ」 「えー、せっかく温泉の街に着たのに、いいの?」 「私はバーンシュタインの人間だから、来ようと思えばいくらでも来れるのだ。それじゃあ、ゆっくりしていればいい」 ジュリアンの言葉に、それもそっかとティピが言う。 何を聞きたかったのか、慌てるようにしてジュリアンは去って行ってしまった。 後に残された皆は去っていくジュリアンに一様に不思議そうな視線をよこしていたが、それも長続きはしなかった。 カーマインが持つチケットに記載してある温泉宿へと向かった。 「ふぅ……いい湯だな」 視界の半分は湯煙なのではと思うほどに、熱くむせ返るような匂いの温泉であった。 まわりは岩に囲まれ丁度真ん中を仕切りで区切られていた。 体中についたいくつもの傷に温泉がしみるのか、ウォレスは溜息の後に長い間を持って温泉を評価した。 「まったくですね。カーマイン君、大丈夫かい?」 「痛い、イタタイッタ……」 ウォレスの古傷と違って、つい先日生傷をいくつもつけていたカーマインは、ほとんどまともに湯に浸かる事ができていなかった。 傷にしみまくるのだ。 「それぐらい我慢しろ。それより、あのフェザリアンをどうやったら納得させられると思うよ?」 「そうですね。具体的ににどうすればいいのか……」 「ツゥ〜〜〜〜、心を示せと言われてるみたいなものですからね」 半分は気分転換が目的なのだが、すぐに考えはその事へと移っていた。 それも仕方の無い事ではあるが、仕切りの向こうから聞こえてきた声に、ようやく止められる。 「それぇ!」 ティピの勢いの有る声の後に、パシャンとお湯が跳ねる音が響く。 「もう、ティピったらぁ。飛び込んだりしちゃダメだよ……」 「何よ、そんなこという娘は、こうだ!」 「きゃーーーっ! ちょっと、やめてよ!」 お湯を跳ね上げる音が聞こえた後に、ルイセの悲鳴が上がる。 間違いなくティピが両手でお湯をルイセにかけたのだろう。 かなり嫌そうにルイセが言うが、ティピにはやめる様子がなさそうだ。 さらに、 「面白そ〜、アタシも、え〜い!」 悪ふざけのままにミーシャまでもが、ティピ側となってお湯の掛け合いに参加したようだ。 これまでで一番大きな声でルイセの制止の声が響いた。 「本当に、止めてよ! やめてったら! …………ふぇ〜ん、カーマインお兄ちゃ〜ん」 が、最後には泣き声となってしまう。 「……この向こうが女湯だったんですね」 恥ずかしそうに赤面しつつ、照れ笑いも加えてアリオストが言うと、カーマインも似た様なものだった。 唯一余裕でお湯に浸かり、動揺をみせなかったのはウォレスだけであった。 「そのようだな。目の見えない俺には関係ない話だが。カーマイン、ルイセが呼んでるぞ」 「いや、ウォレスさん無理言わないでくださいよ。ルイセは女湯なんですよ」 「冗談だ」 すぐに駆けつけてはやりたいが、自分が男である以上カーマインにそれはできない。 一応出来ない事も無いが、あとが怖いので行ってはいけないのだ。 ルイセの泣き声もすぐに、ティピとミーシャの謝罪で収まり、女湯からは声高くはしゃぐ声だけが聞こえるようになった。 そんな時である、当然のように他の客もいるであろう女湯から歌声が聞こえたのは。 ルイセたちからはその女性がわかるようで、はしゃぐ声も収まっていった。 「お、歌が聞こえるな。これが男なら雑音でしかないが、良い声だ」 最初はその女性も小さな声で歌っているだけであり、気付いたのは耳の良いウォレスだけであった。 だがすぐに気分がよくなってきたようで、声も比例して大きくなり、男湯のカーマインたちにも聞こえた。 「本当だ。綺麗な歌声ですね。気持ちいい」 「この歌は……まさか」 「……小鳥の声がささやくよ。……風の歌がささやくよ。……月の光は優しくて……」 ざばっとお湯を撒き散らすようにして立ち上がったアリオストに、カーマインもウォレスも驚いた。 アリオストの様子が明らかにおかしく、女湯とを隔てる仕切りに近寄っていったからだ。 「おい、そんな分かりやすい所に覗き穴なんてないだろう」 「しっ、だまって!」 真剣な顔で振り向いて口元に人差し指を当てたのは、どうやら覗きが目的ではなく、気になるのはこの声であるかららしい。 「間違いないこの歌は……すみません、その歌をどこで知ったのですか!」 「え、どなたですか?」 「この声、アリオスト先輩? 一体どうしたんですか?」 「ルイセ君、すまないがこの歌を歌っている女性に質問があるんだ。誤解が無いように、簡単に僕たちの事を説明してくれ」 仕切りを通して喋るアリオストに、ルイセから誤解の無いようにアリオストが女性に紹介される。 その間にカーマインとウォレスもしきりに近づいていく。 「えっと、この歌は保養地ラシェルで聞いたんです。私はつい先日までそこで入院していまして、この歌は有名になっていましたよ。私も、あまりに美しい歌声に覚えてしまったんです」 「ラシェルですね。ありがとうございました」 見えない相手に礼を言うと、すぐに温泉を出ていこうとしたアリオストに慌ててウォレスが声をかける。 「今の歌がどうかしたのか?」 「かすかだけど、覚えている。あの歌は、僕が幼い頃、母さんが歌ってくれた歌だった」 「という事は、フェザリアンの歌ってことですか? でもそれが、何故ラシェルで……」 それは分からないとアリオストは言ったが、なにかフェザリアンとラシェルが関係していると考えに至るに時間は掛からなかった。 カーマインはすぐに女湯にいるルイセたちに声を掛けてから温泉をでた。 ティピやミーシャはえーっともう少し温泉を堪能したいと言った非難がでたが、事情を詳しくいうとすぐに収まった。 早速温泉を出ると、カーマイン達は保養地であるラシェルを目指して歩き出した。 ラシェルとは保養地という言葉が指すように、街全体が大きな医療関係の街であった。 当然のことながら患者の数は世界で一番の数を誇り、それに比例して医者の優秀さも世界で一番であった。 その保養地に着くと、皆は手分けしてアリオストの言うフェザリアンの歌の情報を集めに散った。 カーマインとルイセが二人で情報を集めに一番大きな病院へと向かうと、そこの病室の一室にはカレンと医者らしき青髪の女性がいた。 「あ、あなた達は……」 「カレンさん?! どうしてここに?」 ティピが驚くのも無理は無い。 ここは病院の、しかも病室の一つだからだ。 「お久しぶりね、ティピちゃん。それにルイセちゃんにカーマイン君も。実は闘技大会のあった日に、またあの男たちに襲われて怪我をしてしまったの。それで、入院をね」 「入院って……」 まさかとルイセがカーマインを見上げると、同じような答えに行き着いていた。 あの決勝戦でゼノスが遅れてきた理由と、焦っていた理由。 丁度決勝戦が始まる前に、襲われたのだ。 「でも気にしないでね。兄さんが負けたのは、ちゃんとした勝負の上での事。兄さん自身、そう言ってたわ」 「はい、ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります」 「カレンさん、知り合い? 私はこれで退散しますけど、良くなったからと言って無理はしないでくださいね?」 「ええ、わかりました」 青髪の女性が念を押してから去ると、カレンが頭を下げたため、ルイセもペコリと頭を下げた。 「良い人よね、彼女。アイリーンさんって言うんだけど、グローシアンなんだって」 「えっ?それじゃ、ルイセちゃんと一緒だね」 「ルイセちゃんもグローシアンなの?」 「う、うん……」 カレンの驚きの目にルイセは恥ずかしそうに答える。 それはカレンの目が尊敬に似たものを抱いていたからなのだが、それはすぐに収まった。 「私、グローシアンに対しての認識を改めなくちゃいけないわね。今まで話に聞いていただけだったから、もっと特別な人だと思ってた。だけど、アイリーンさんもルイセちゃんも普通の人と変わらないのね」 「そりゃそうですよ。ルイセは普通の女の子ですから。グロウに苛められれば泣きますし、泣けば僕に甘えてきますしね」 「も〜、そんな事ないもん。私が泣いてばかりいるみたいに言わないでよ。甘えるのは……本当だけど」 ほっぺをぷっくりを膨らませた後、赤くなったルイセを見てカレンがふふふと上品に笑う。 「相変わらず仲がいいみたいね。それより、貴方たちは何をしにここへ?」 「あ、そうだ。カレンさん、最近この辺で歌を聴かなかった? とっても綺麗な声で、確か……」 「……小鳥の声がささやくよ。……風の歌がささやくよ。……月の光は優しくて。って言う歌なんですけど」 温泉での歌を思い出そうとティピがした所、先にルイセがそのフレーズを口ずさんだ。 聞き覚えがあるのか、一瞬止まったように考え込んだカレンだったが、すぐに思い出したようだ。 「ああ、それなら私も聞いたことがあるわ。風に乗って、東の方から聞こえてくるんだけど。とても美しい歌声よ」 東をキーワードにカーマインは窓から見える東の森を、何気なしに視界に納めた。 「東の森ですか。どうもありがとうございました。体、気をつけてくださいね」 「またお見舞いきますね。それじゃあ」 「ばいばーい、カレンさん」 「それじゃあ、またね」 カレンに別れを告げると、カーマイン達はラシェルの入り口で、ウォレスやジュリアンたちと合流した。 そしてそれぞれが散らばって集めてきた情報を着き合わせ、確かめる。 一部ミーシャが花畑で遊んでいた為に、情報ゼロであったが、問題はなかった。 どうやら歌声はかなり有名になっているらしく、その情報は一致していたからだ。 「どうやら、東から歌が聞こえてくるというのは間違いのないようだな。一人二人ならまだしも、これだけの証人がいるのならば」 「ルイセ君、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかい?」 確認するようにジュリアンがまとめた所、何かを考え込んでいたアリオストがルイセに声をかけた。 「え、あ、はい……」 「東の森から聞こえるあの歌声が母の者なのか、一度フェザーランドに行ってみたいんだ。これから、すぐに」 「えっと、あの……行ってもいいかな、カーマインお兄ちゃん?」 「当然、だよね?」 「母親を思う気持ちは誰でも同じだ。みんなで行ってやるとしようぜ」 カーマインが答える前にティピとウォレスが答えたが、カーマインも同じ気持ちであった。 ルイセに今すぐにでも行こうと提案し、問題なく使えるようになったテレポートで一行はフェザーランドへと飛んだ。 だがそこで待っていた事実は、アリオストの母とは全く関係のないことであった。 それでも一行の目的とは深く関係しており、最悪の方向へと進んでいた。 人間にフェザリアンの女王がさらわれたのだった。
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