第十三話 光の翼


「お、帰ってきやがたな。やはり待っていて正解だったな」

「ウォレスさん!」

魔法学院にたどりつき、アリオストの研究室前に行くと入り口近くの壁にもたれたウォレスがいた。
一応フェザリアンの遺跡という行き先は掲示板に張っておいたのだが、待つ事を選択したようだ。
ウォレスと初対面であるアリオストは誰だかわからずとまどっているうちにティピが飛んでいった。

「カーマイン君、彼は?」

「理由あって僕たちと別れてローランディアの方に行っていたウォレスさんです。ウォレスさんエリオット君の方は?」

「無事にローザリアの宿まで送り届けたさ。それよりも、フェザリアンの遺跡とやらまで行ってきたんだろ? 首尾のほうはどうなんだ?」

「空を飛ぶのに必要な装置をとってきました。その間色々ありましたけど、これからその装置を組み込む予定です。それで、こちらがフェザーランドへ行く手伝いをしてくれるアリオストさんです」

「どうも、アリオストです」

「ウォレスだ。義手での握手になるが、気にしないでくれ」

二人ががっちりと握手をしたところで、ルイセが急かすように二人の視界でアピールをしている。

「握手はいいんですけど、はやく装置の設置の方に……」

「そうだね。それじゃあ、すぐにでも設置に取り掛かろうか。そんなに時間は掛からないと思うけど、中で待っていてくれるかい?」

アリオストが研究室に入った事で、周りも続いて研究室に入っていく。
相変わらず研究室の中は得体の知れない装置や、分厚い本などが散乱していた。
そんな中でアリオストが真っ直ぐに向かったのは研究室の真ん中に置かれているテーブルに置いてある装置であった。
装置と取ってきた補助飛行装置を見比べては回路を探り始める。
ティピがその様子を興味深そうに、ルイセがハラハラと見ている中、視界の関係かさほど興味を引かれなかったウォレスがカーマインに話しかけてきた。

「色々あったと言ったな? そのせいなのか、お前の気が驚くほどに穏やかになったのは?」

「やっぱりウォレスさんには、ばれてたんですね? 」

まあなと答えてきたウォレスに、解ってたのに一人にさせたのかと一瞬だが恨めしげな目を向ける。

「焦ってたんです。僕が常に自信を持って何かを行動できたのは、グロウがいたからなんです。いつでもグロウが何とかしてくれると思っていたから、後を考えないで行動できていたんです」

「だが問題は解決したようだな」

「はい、今の僕に出来る事。それを僕はやっていけばいいんです」

そう強い眼差しで言い切ったカーマインを見て、ウォレスはにやりと笑った。
まるで狙ってカーマイン一人にパーティを任せたかのように。

「できた。さて、まずは起動実験だ」

そう声が聞こえてアリオストの方を見ると、テーブルの上の装置のスイッチを押したように見えた。
アリオストを入れて五つの視線がテーブルの上に注がれる。
するとかなり耳に痛い振動音を立てて装置が動き始めた。
そして薄く大気中に滲むような透明の翼が装置を中心に広がっていった。

「うわぁ〜綺麗な翼……これがあのフェザリアンの遺跡で取ってきたものなんですか?」

「そうだよ。本来はフェザリアンの翼そのものにかぶせるように、この透明な翼が開かれるはずなんだけど。このままでも使えるはずさ」

「それじゃあ、早速フェザーランドまで」

飛んで行こうとティピが声を上げかけるが、アリオストに止められた。

「いくらなんでもココからじゃ無理だ。もっと近くから出ないと。君たちと会った西の岬、そこが最適かな。でもできれば、その前に一つ寄って欲しい場所があるんだ」

「それは場所にもよるな」

至極当然の言葉を発したウォレスに、アリオストは心配するなとばかりに笑った。

「王都ローランディアまでの通り道にあるから、遠回りにはならないよ。ブローニュ村、僕の生まれ故郷さ」

「なら全然問題ありませんね。行きましょう、ローランディアの西の岬に」





ブローニュ村は、農業を主な仕事として成り立っている村であった。
村に一歩は居れば柵で囲まれた農地が見えない場所が無いほどである。
そのブローニュ村にたどり着いた直後、アリオストは軽くすまないと言って走り出した。
たまに掛けられる村人からの挨拶を交わし、一目散に何処かへ走って行ってしまう。

「あ、アリオストさん!」

止める間も無くと言う言葉がぴったりなほどであり、制止の声と腕を上げたカーマインの腕が所在無くさ迷う。

「アリオスト先輩、あんなに急いで何処へ行ったのかなぁ」

「さあ? でも追いかけてみれば解る事じゃない?」

「そう言うこった。カーマイン、俺達も行こう」

アリオストの姿がすでに見えなくなっていても、後を追うのにそれほど苦労はしなかった。
アリオストの通った後には、何故かわからないが村人が顔をほころばせてアリオストの向かった先を見ていたからだ。

「故郷だけあって、皆がアリオストさんの顔を知っているみたいだね」

「顔は見えないが、声からするに誰もが歓迎しているな。こんな農村から魔法学院の研究生が生まれたんだ。出世頭って奴か」

軽い小走りでアリオストが向かった先へと皆も走っていく。
目的地はそれほど遠い場所ではなかった。
村の北西にある森の入り口に、ぽっかりと切り開かれた墓地があったのだ。
その中で際立って大きい、まるで慰霊碑のような墓石の前でアリオストは祈りをささげていた。

「………………行って来ます。父さん」

そう呟いた後に、振り返ったアリオストが皆も着ていた事に気付く。

「すまない。もう用は済んだんだ。ここに父さんが眠っていてね。報告に着たんだ」

「報告、ですか? 空を飛べる」

研究成果を父の墓前で報告する事に違和感を感じたルイセが尋ねる。
だが、正解ではなかったようだ。

「半分はね。もう半分は、これから母さんに会いに行くって報告しに着たんだ」

「お母さん? アリオストさんの?」

「これからってことは、まさか……ひょっとして」

「フェザーランド、アリオストさんのお母さんはフェザリアン?」

ティピ、ウォレス、カーマインと連想ゲームのようにアリオスとの言う母がどういった人物なのかを想像していく。
その連想は間違っていなかったようで、まだ誰にも言った事はないんだけどねとアリオストが言った。

「僕は父さんと母さん、人間とフェザリアンの間に生まれたんだ」

「うっそー!!」

「はは、驚くのは無理は無い。フェザリアンは我々人間と殆ど交流が無いからね。でも確かに人間である父さんと、フェザリアンの母さんが愛し合って生まれたのがこの僕さ」

「そうか、だからアリオストさんは空を飛ぶ研究をしてきたんですね?」

カーマインの疑問に対する答えは肯定の笑顔であった。

「それを話したのは君たちがはじめてだけどね。それがもうすぐ叶う。さて、報告も済んだし行こうかローザリアへ」





アリオストの父よ母の話を聞いてから、足を速めるように一行はローザリアを目指した。
カーマインたちは一刻でも早くグロウに効く薬を貰う為に、アリオストはフェザリアンである母に会うために。
ブローニュ村を通り抜け、来たときとは逆から洞窟を抜け、デリス村、そしてローランディアの王都ローザリアへとたどり着いた。
カーマインたちは一度家に寄ってグロウの様子を見に行こうかとも考えたが、結局は西の岬へと直行した。

「さて、いよいよあそこへ行く時が来た」

岬へと着くとアリオストが真っ先に岬の先端、旅たつ場所へと足を向ける。

「行くのはいいけど、それって皆一緒に行けるわけ? 確かに動かした時は私の羽よりよっぽど大きかったけど、それでも全員は無理な気がするけど」

「そう、見ての通りこの飛行装置は一人用だ。この補助ベルトを使えば、もう一人だけ一緒に連れて行けるけど……」

もう一人と、実名こそ挙げなかったもののアリオストの視線は定まっていた。
それに気付いていないのも、本人だけであったが。

「アリオストさんが動かすから、あと一人……」

そう言ったルイセを見て、誰もがやっぱり気付いてないかと思い、カーマインがルイセの肩に手を置いた。

「なに? カーマインお兄ちゃん?」

「ルイセが行くんだよ」

「え?」

「僕とルイセ君がフェザリアンの街へ行き、場所を覚える。それからテレポートを使えば全員がいけるようになる。それじゃあ、早速行こう」

「え? で、でも……私、テレポートまだうまく」

はやり人類初の飛行ともなると心配なのか、目が潤んできている。
たとえ人類初でもなくても、ルイセならば泣きそうになるかもしれないが。

「どうせお薬を貰ってくるだけでしょ?」

「だったら私じゃなくても、……うぅ…………どうしよう、お兄ちゃん?」

ティピの軽い言葉で自分以外の者でもいい事に気付いたが、カーマインを見上げる。

「でも出来ればルイセに行って欲しいんだ。グロウが治った後に、お礼に行くたびにアリオストさんを呼び出したら悪いだろ? だからルイセ、がんばって」

「グロウのためでしょ」

「うぅ……グロウお兄ちゃんの、がんばってみる」

まだかなり不安そうではあるが、行ってくれる決心はついたようである。
背中にバッグを背負うようにアリオストが飛行装置を背負い、腰に巻いたベルトをルイセにも巻きつける。
少し気が速いか、ルイセはまだ準備段階であるのにギュッと目を閉じていた。

「それじゃあ、行くよ」

「アリオストさん、ルイセちゃんをお願いね」

「ルイセ、がんばってくれ」

「うぅ…………なんでもいいから、はやく。待ってるのも怖いよぉ」

もうあと少しで涙が零れ落ちそうな声を前に、アリオストが飛行装置のスイッチを入れた。
響きだす振動音の大きさに比例するように、大気に滲むように透明な翼が開いていく。
そして徐々に二人の足が地面からはなれ、一気に加速して飛んでいった。

「た、高い。それに速い。カーマインお兄ちゃ〜〜〜〜んッ!!」

「ル、ルイセ君暴れないでくれ!! 危な、危ないから!!」

どうも飛んですぐに目を開けてしまったようで、暴れるルイセの巻き添えをくらい、不安定な軌跡を描いて二人が飛んでいった。
人類初の偉業である光景がどうも滑稽にみえてしまった。

「だ、大丈夫なのか?」

「たぶん……アンタ、ルイセちゃん泣かしたんだから、後でちゃんとフォローしておくのよ」

「僕なのか?」

ぽつりと釈然としない呟きがカーマインからもれた。





「たっだいまー!」

あのまま西の岬にいてもしょうがないと戻ってきた家の玄関を開けて、元気なティピの声が響く。
もちろんこれでグロウが元気になると言うこともあってだろうが。
だが屋内からは何の返事もなく、不気味に静まり返っていた。

「様子が変だな」

「……まさか、グロウが!」

カーマインが走り出し、後からティピとウォレスも続く。
玄関から階段を登って二階へたどり着き、向かったのはグロウの部屋。
病人が寝ているとはわかっていても荒々しく開けてしまったドア、その向こうでは変わり果てたグロウの姿があった。
肌は土気色に変色し、遠目では息をしているかどうかもわからず、手足は幾分細くなっていた。

「カーマイン様! 薬は? グロウ様を治す薬は、どこですか?!」

「ユニ、ちょっと落ち着いてくれ。薬はいまルイセが」

「早くしないとグロウ様が、グロウ様が……」

「落ち着きなさいよ、ユニ!」

飛びつくようにしてきたユニをティピが羽交い絞めで引き剥がすと、カーマインはグロウのベッドの横で力なく座り込んでいた母を見た。
ただの看病疲れにしてはやけに顔色が悪く、その表情は暗かった。

「母さん、グロウは? 母さんの見立てでは一月はあるって、まだ半月以上の時間が」

「…………ないのです」

「どういう、こと?」

「確かにあの時は一月は時間があるように思えました。ですが、私はこの毒が未知のものであることを忘れていました」

「グロウ様は、もう今夜が限界なんです!!」

ユニの叫び声がはっきりと時を止めた。
フェザーランドへの光明を見つけ、余裕を見ていたのか。
悩んでいる暇など見出せないほどに焦っていれば、もっと他に近道は無かったのか。
それぞれの頭の中で、過去が幾重もの未知を辿り、治ったかもしれないグロウを想像する。

「だが、まだ今夜まで時間はある。それまでにルイセがフェザーランドから戻ってくれば」

絶望に包まれた四人を気遣うようにウォレスが言うと、階下から走りこんでくる音が聞こえた。

「言ったそばから戻ってきたな。少し速い気もするが」

「カーマインお兄ちゃん!」

だが、ルイセが見せたのは薬を持ってきた笑みではなく、必死に助けを求める時の顔であった。
幸運にもグロウの様子にまで気が回らなかったのか、カーマインの手を引っ張って走り出す。

「ル、ルイセ、どうしたんだい一体?!」

「いいから、来て。アリオストさんが……うぅ……はやく!」

「ティピ、俺達も行くぞ」

「マスター、ユニ。絶対に今夜までに薬を貰ってくるから!」

殆ど反応のなかったサンドラとユニを置いて、四人が外へ出るとすかさずルイセがテレポートを唱え、光に包まれた。
うまく使えないと言っていたはずが、ルイセのテレポートは完璧な物であり、気がつけば見慣れない場所であった。
すぐ横を見ればそこは絶壁であり、遥か眼下には王都や村が一望できる高さがあった。

「ここが、フェザーランドなの?」

「カーマインお兄ちゃん、こっち! 急いで!」

ルイセが走った先には、アリオストと向かい合うように数人のフェザリアンがいた。
そして丁度アリオストと向かい合っているのは一際目立った、純白のドレスを着て金の髪に銀の髪飾りをつけた女性であった。

「……また、人間かえ?」

まるで人が想像した美しい天使がそこに居ると思えるような美しい女性が発した言葉は、とてつもなく冷たく感じた。

「ムッ、なんなの!」

「そなたら、いかなる用件でここへ参った?」

「だから……私のお兄ちゃんが毒に冒されていて、私たちの世界の薬では治らないから。偉大な知恵を持つ皆さんなら治す方法をしっているのではと……」

「その毒はいかにして受けた? まさか自然に受けたわけではあるまい?」

どこか違和感のある問答であった。
普通の人間ならば、例え知らぬ相手であっても自分が何とかできる事柄であれば手をさしのべるはずだ。
なのに女王はルイセの必死の説明にも眉一つ動かすことなく、問い返してくる。

「それは……」

「人間は利己的で、他人を平気で傷つける。治療薬を渡した所で、今度はそれを巡って争いを起すであろう。かような種族に薬を渡すほど、我らは愚かでない」

「そんなっ!」

女王の出した結論に声を上げたのはティピであったが、思いは皆同じであった。
納得がいかない、いくはずがない。
それは声に出ずとも顔にははっきりと出ているのに、女王は気付いたそぶりもなく続ける。

「それにその男が己の欲望を満たすためだけに造った飛行装置……それも、やがて悪用されるであろう」

「そんな、悪用だなんて……」

「意義が、とでも申すか? そなたら人間は、自分の行いが他の者にいかなる影響を与えるカなど、考えもせぬ。それがために幾度となく戦争g青こってきたのではないか? しかも、我らフェザリアンにまで被害を与えるほどのな」

段々とカーマインたちは言葉を失うしかなくなっていく。

「おかげで我らは地上を捨てざるを得ない状況へ追い込まれ、今のような生活を営むはめになった。わかるかや? 愚かな人間よ……」

「だけど、あたし達はグロウを毒から救ってあげたいだけなのよ? 毒消しなんて一回飲んじゃったら、終りじゃない!」

「悪用したくて僕らはここに来たわけじゃない。ただ助けたい、生きて欲しいから……もう、時間が無いんだ。グロウは、もう今夜までしか」

事情をしらないルイセとアリオスとは、カーマインの言葉に耳を疑っていた。
だがそれでも女王の心を動かすどころか、不可能な難題を掛けられるのみであった。

「ならば、こういたそう。そなたら人間が、我らフェザリアンよりも優れている点を、ただ一つでも良いから証明してみせよ。さすれば一回分の解毒剤を与えようぞ」

「たいした神経だな。今夜が期限だと知ってなお、そんな台詞が吐けるとは」

「そうよ、今日の夜まであと何時間も無いじゃない!」

「これが我らにできる最大限の譲歩だ。さぁ、我の気が変わらぬうちに、即刻地上に帰るがよい」

それ以降去った女王の変わりに衛兵が立ちふさがる事となり、カーマインたちには立ち去る事しか方法が残されていなかった。





希望がないと思っていた時に突きつけられた絶望と、希望があった時に突きつけられた絶望では心理的ダメージが天と地ほどの差があった。
危険な目にあいながらも希望を繋げ、やっと手に入れられるはずのものが消え失せ、誰もなにもできなかった。
フェザーランドから戻ったカーマインたちは、家に戻りグロウの部屋でただ座り込んでいた。
さすがにウォレスとアリオストまでは巻き込めず、グロウの部屋には四人の家族と二人の小さな家族だけとなった。
すでに夜がふけ、いつグロウの息が止まってもおかしくない。

「グロウお兄ちゃん」

ぽつりとルイセが呟いた事でカーマインは並んで座っていたルイセを抱き寄せた。
そのまま顔を押し付けてきたルイセが、顔を押し付けるようにしてすすり泣く。

「私が、あの時……すんなりあの者たちの刃をこの身にうけていたなら」

「止めようよ、母さん。そんな事言わないで。そんな事言い出したらきりが無い。僕たちがもっと強かったら、人間がフェザリアンを追い出さなければ……」

たとえ話のつもりであろうが、カーマインの言葉は本音であった。
ルイセを抱き寄せていない方の手が強く握られ、血が滲んでいた。

「グロウ様、起きてください。いつまで寝てるんですか? ほら、ルイセ様が部屋にまで……来て、居ますよ?」

「ユニ、ほら泣かないで。私だって、泣きたく…………」

もう、泣く事しか出来る事がなくなっていた。
どんなに足掻いても時間と言う絶対的な壁が立ちはだかってくるのだ。
人間の努力と言うちっぽけな力を無常にも弾き返す。
夜の闇が一段と深くなり、すでにグロウの息は止まっているのではないかとも思える静かな深夜となり、声が聞こえた。

「奴め、余計な事をしてくれたものだ。まだ翼を開くには、はやいというのに」

歳による陰りを持った声であったが、暗い現実を前に誰もそれが何なのか考える事もできなかった。
あるいは聞こえてはいても、理解する事ができなかったのだろう。

「だが死なせてしまっては元も子もない。さあグロウよ、私が許す。開けその翼を、お前は…………なのだから」

夜に包まれた部屋の中で光が生まれた。
グロウに被せられた布団がまるで霧のように千切れ霧散し、浮かび上がるその体。
その背中から眩いばかりの光が生まれ、やがてそれは翼の形を形成して広がっていった。
そこでようやく誰もがこの異常事態に気付いて顔を上げ、そのまま立ち上がる。

「グ、ロウ?」

声をやっとの事で搾り出したカーマインをよそに、光の翼は我が子を包むようにグロウを包みこんでいった。
そのまま光の翼に、光の繭に包まれたグロウは、そのままベッドへと横たわる。

「顔色が、戻っていく。母さん、グロウの顔色が戻っていく」

「グロウおにいちゃん!」

「奇跡、としか言い様がないわ。とてつもなく強力な魔力の奔流、まるでルイセのようなグローシアン」

「マスター、グロウ様は完治されたのですか?!」

「一時的にこの者の肉体を覚醒させたにすぎん。だがこれで幾ばくかの時間は稼げるであろう」

何処まで信じていいのか、神の声かとさえ思える謎の声はそれが最後であった。
だが信じるしかなかった。
カーマインは光の繭に包まれたグロウに近づき、その繭にそっとふれた。
その光は柔らかい弾力をもってグロウを包み込んでおり、ほのかに温かかった。

「グロウ……また、君に助けられたよ。だから、今度こそ。僕が君を助けてみせる」

カーマインは振り返り、喜びの涙を流すルイセに言った。

「行こうルイセ。フェザリアンの問いかけに応える答えを探しに」

目次