第四話 プックルのお見合い


大至急行われた大家族会議、司会進行はラナが勤め、書記長を名乗ったヒナが意味もなくまな板ぐらいの大きさの黒板を持っていた。
黒板に書かれている緊急会議、プックルの恋愛事情と書かれた言葉だけで全てを察するのはさすがにむりであった。
その証拠に詳しい説明もなく集められたリュカ、フローラ、ビアンカにメッキーはただ呆然と二人の姉妹を眺めていた。
それぞれが、面白そうだったり詰まらなさそうだったり様々な顔を見せながら。

「さあ、今日お集まりいただいたのはコレですわ。ずばり、プックルの恋愛事情について。今日気がついたのですが、プックルは恋愛にうとすぎますわ。このままでは人生の負け犬になってしまうのは目に見えています。そこでお父様たちプラスアルファの意見を聞きたいのですわ」

「司会進行はお姉ちゃんで、私が書記長。さらにお兄ちゃんは」

「ちょっと待て!」

説明の途中でメッキーにさえぎられたヒナは不満そうにしながら、一応意見を聞くつもりかちゃんと待っていた。

「恋愛のれの字も知らない馬鹿を救うよりも、恋愛を知りつくりしてるのに救われない俺を救ってくれ!」

「お兄ちゃん、お願い」

そしてちゃんと聞いてから、ヒナが握った拳の親指を立てた状態で、その指先を真下に向けた。
直後、閃光が家の中を駆け抜けたかと思うと、自慢の羽に穴と火傷を負ったメッキーが床を転がっていた。

「熱ッ! なに、ギラ? 今のギラ?!」

「さっきの説明を続けると、お兄ちゃんはジャッジメントだから。ふざけた意見に対して断罪を下すから」

「普通の会議にジャッジメントなんていねえよ。って言うか俺の意見はふざけてないし、ジャッジメントが上の言いなりってのもおかしくねえ?!」

「メッキー、今のラナとヒナには逆らわない方が賢明ですよ。恋愛を知り尽くしているメッキーには、釈迦に説法でしょうが。大好きなプックルの、さらに恋愛話と二人は燃えていますから」

それじゃあ俺の事は大好きでもなんでもないのかと泣いて叫びたかったが、メッキーは全てを飲み込んでとどめた。
まあ、仮に叫んだとしてもどうでも良いといわれるのが落ちであろうが。
そんなメッキーの葛藤をよそに、真面目に腕を組みながらリュカが言った。

「でもプックルの事は本気で心配した方が良いかもしれないね。正確な歳は知らないけど、僕と同じぐらいだからもう直ぐ四十かそれ以上だ。もうそろそろラナとヒナ離れしてもらわないと」

「正直プックルは甘やかしすぎますわ。プックルがいなければちゃんと起きられない」

フローラの言葉に、ウッと胸を押さえてラナとヒナが怯んでいた。

「それに二人とも、何処へ行くにもプックルって呼べば良いと思ってるふしもあるわよねぇ。しかもそれが当然と思ってるのってたちが悪いわ」

さらにビアンカの追撃の言葉により、ヨロヨロと二人がよろめいていった。
どうやら本当に自分達がプックルに頼りきりである事に気づいていなかったようで、もしかしてとようやく思い至った。

「し、質問ですわ」

「プックルが恋愛にうといのって」

「「私達のせい?」」

満場一致で頷き返され、せめてと二人がルカを見るとただ黙ってその首を一度落としてあげた。

「では、なおさら今のプックルを救ってあげなければいけませんわ。ヒナ、あれを用意して!」

「解ってるよ、お姉ちゃん!」

二人が落ち込んだのもつかの間、数ヶ月に一度あるかないかのコンビネーションを見せて姉妹が取り出したのは数枚の用紙であった。
どうやらそれはアンケートのようで、題目としてプックルの好感度と馬鹿正直に書かれていた。
暇だなと思ったのは、一人や二人ではない。

「プックルの恋愛のうとさが誰のせいかは置いておいて、とりあえずは相手方、つまり女性の好感度を調べてみましたわ」

「一応メッキーの好感度も調べてみたんだけど……」

「本当か?! なんて書いてあるんだ、やっぱ格好良い、凛々しい、天使みたい、それとも抱かれ」

「ウザイ」

「ちっくしょーーーッ!!」

キメラの姿に戻ったメッキーが窓から飛び去っていったが、ヒナの嘘だよというフォローはあまりにも遅かった。
数秒でキロ単位を飛んでいるのではと思えるようなメッキーにヒナの呟くような声が届くはずも無い。
誰もがコイツはと小さな子悪魔を見ていたが、相手がメッキーなだけに直ぐに忘れようと努めていた。

「それでは気を取り直して、プックルの評判は上々。というより、むしろ狙っている女性の方が多かったですわ。子供好きで純粋そう。恋人になったら、自分だけを守ってくれそうなどなど」

「と言っても、この村の未婚の若い女の人なんて十人もいないけどね」

人口が百人を超えるか超えないかの、ファミリアでは未婚の若い女性などまれである。
そもそも開拓始めの村など、リュカたちのように新天地を求める家族連れか、恋人同士、または浪漫を求めた男ぐらいしかこない。

「ですがそれだけ解っているのならば、結論は出ていませんか? プックルにその気はなくとも、周りが放っておくはずがない。だったら周りが手を出しやすいようにすれば良い」

「それはそうですけれども、一体どうするんですの?」

「簡単です。プックルにお見合いをさせればいいんですよ」

お見合いと聞いてラナが嫌な顔をしたのは、過去の自暴自棄を思い出したからであろう。
だがルカの言うとおり、それが一番確実な方法である以上、反対意見の出ないままにプックルのお見合いが確定されようとしていた。





その日プックルが家に帰ってきたとき、一斉に自分へと不気味な光を目から放つ女性達に戸惑った。
むしろ怯えるようにビクビクとしながら家へ入ると、まず最初にヒナが自分の胸元へと飛び込んできた。
もちろん衝撃の一切をヒナに負担させぬように衝撃緩和を体中に厳命したプックルがヒナを受け止めた瞬間、待ってましたとばかりにプックルの体が止まった隙をついて、ラナがプックルを縛り上げていた。

「ガウ?! ラナ、なにをするつもりだ。プックル、何も悪い事していない」

「ごめんなさい。別にプックルが悪いわけではありませんの。でも、こうでもしないとプックルは逃げるでしょ、お見合いから」

「お見合い?!」

一体何のことだと狼狽するプックルへと、ダメ押しでヒナがつげた。

「プックルって私達に構ってばかりで、全然恋愛できてないでしょ?」

「恋愛とか良く解らないけど、俺はラナとヒナの方が大事。自分はその後で良い」

「だからそれを私達はやめさせたいのですわ!」

「これはプックルが決めたこと。だからいくらラナとヒナのお願いでも駄目!」

しばらく止めさせる、駄目と言った言葉だけが無意味に飛び交っていた。
それを端で見ていたルカは、とりあえず双方を落ち着かせようと手を伸ばしたが、それより先にプックルが束縛するロープを引きちぎっていた。
すぐさま外に飛び出したプックルを追ってラナとヒナも飛び出したが、一足遅かった。
すでにプックルは集まった女性達に対して、自分の気持ちを語り出していた。

「折角集まってもらったけど、ごめん。俺、まだ結婚する気ない。まだ守りたいものがたくさんある。一つに絞れないから、ごめん」

もちろんプックルの言うとおり、折角集まったのにと文句の一つや二つは出た。
だが真剣に頭を下げるプックルを見て、文句を言い続けられる人も折らず、一人、また一人と集まった女性達は去っていった。

「ああ、プックルの結婚大作戦が、見事に失敗ですわ」

「本人に反対されている時点で、失敗は目に見えていましたが」

仕方がないので家の中に皆で戻ろうとすると、去っていった女性達にワンテンポ遅れ、走ってくる女性がいた。
どうやら彼女もお見合い目当てのようだが、その腕の中には小さな女の子が抱かれていた。
お見合いをするつもりなのに女の子を抱いているのもどういう了見か、走ってくる女性を見てラナたちが気づいた。

「あの人、昨日の人ですわね」

ラナの言うとおり、プックルが遊んであげていた女の子の姉であった。

「すみません、プックルさんとのお見合いのお話ですけど。この子がどうしても付いていくって聞かなくて、遅れてしまいました」

「プックルお兄ちゃん、お姉ちゃんと結婚するの?」

どうもお見合いを理解仕切れていないようで、無邪気に笑う少女を女性から受け取りながらプックルが言った。

「俺はまだ結婚できない。見合いも全部断った」

「そう、なんですか?」

「すまない。途中まで送っていく」

酷くがっかりした女性を送りながら、プックルは抱き上げた少女をあやしていた。
まだまだ女性よりも子供に興味があるんだと、なかば諦めたラナとヒナが家の中へと入っていく。
だがルカは、らしくもなく送っていくと言ったプックルのその背を眺めていた。
らしくない、いつも構っている少女がいるとはいえ、女性を送っていくと言ったプックルの変化。
それだけでも一歩前進名のではと思いながら、しばらくは黙っておこうとルカもまた家の中へと入っていった。

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