第三十三話 二人


結局捕まえた盗賊たちの殆どを、アムルたちは逃がす以外に手が無かった。
連行するには、まだバハラタの街は遠く、さらに連行するだけの人手も装備もないのだ。
捨て台詞を残して去って行った盗賊たちの報復を警戒して、その場所からしばらく歩いた場所で、最初の野宿となった。
簡単な食事と温まるスープを飲んだ後、見張りの順番と交代時間を決めてからそれぞれ好きな場所で寝入った。
一番最初の見張りを願い出たセイは、バチッと時にはじける薪を前に、顔に暗い影を落としていた。

「ダーマか」

ぽつりと呟いたのは、あの盗賊の言葉を思い出したからだ。
周辺の警備も満足に行かないほどに、混乱したというダーマ神殿。

「知ったことかよ。あんな奴ら……」

考えを振り払うと、この頃控えていたはずの酒瓶をバッグから取り出していた。
そのまま栓を抜いてラッパのみしようとすると、酒瓶が独りでに空へと上っていった。
だがセイはその酒瓶を追うでもなく、後ろを振り返った。

「注いでくれんの?」

「誰が、無茶な飲み方するなと言おうとしただけだ」

振り向いた先にいたのは、取り上げた酒瓶を持ったレンであった。
寝たとばかり思っていたレンが起きていた事に驚いたセイだが、軽口を叩くぐらいはなんとかできた。
それでもレンは取り上げた酒瓶を大人しくセイに返すと、その隣に座り込んだ。
そしてセイが新たに放り込もうとしていた薪を奪うと、間を持たせるためか焚き火の中の薪を弄びながら端的に言った。

「話せ」

なにをと、とっさにセイが聞き返さなかったのは言葉なく指されたモノが何か分かったからだろう。
それでもセイは、はっきりと分かりやすくとぼけた。

「俺がレンちゃんにラブラブなのは秘密さ。誰にも言っちゃだめだぜ」

最後に奇妙に作られた笑いを浮かべられ、一応はレンは諦めた。

「なら、いつ告白してくれるのだ?」

「浮気性な俺は、レンちゃん以外にとっても気になる子がいるのさ。背が小さくて、お姉ちゃん子だけど、限りなく大きな可能性を持った子が。その子しだいかな?」

「なら私は待つしかないのだな」

完全にあきらめたレンは、立ち上がると姉弟で向かい合って眠るアムルを見下ろした。
同じく首を回してセイもアムルを見た。
まだ単純な戦闘力と言う意味では、武力はレンにおよばず、魔力はフレイやセイに及ばない。
だがいざと言う時の爆発力は、誰よりも高い。
いずれ数年と発たずに体が出来上がってくれば、誰よりも強くなれるであろう可能性を秘めた子供。

「アムルが強くなるまでか。だがそれほど先の話ではないな。子供の成長は早い」

一人頷いて、レンはセイに振り返った。

「その時はちゃんと話すのだぞ」

「さて、どうだろ?」

とぼけて酒瓶を傾けたセイを、レンは後ろから殴った。
ブハッと吐いた酒が焚き火にかかって、炎が勢いよく燃え上がる。

「熱ッ、熱痛い!」

痛みと火の熱さに慌てたセイにちゃんと話せと一方的に約束したレンは、フレイたちが眠る場所の近くに体を横たえ、眠った。





「おい、起きろ。起きろ、馬鹿」

うっすらと開けた瞼の向こうには、緑の絨毯を踏み潰す草鞋と真っ白な足袋が見えた。
地面に寝たせいか、固まってしまった体をほぐしながら、セイは体を起こした。
まだ開ききらない瞼を、無造作に腕でぬぐう。

「あ〜ぁ、もう朝か」

見張りで遅くまで起きていたせいか、やれやれと言わんばかりに、だるそうにセイが立ち上がった。
そのキビキビとしない動作に苛立たしげにレンは足を鳴らし、もう一方の寝起きの悪い男、少年を見下ろし気味に見た。
そちらはレンと同じくすでに起きていたフレイが起しにかかっていた。
だが、こちらもすんなりとは行かなかったようだ。

「ほら、アム。朝よ。さっさと起きなさい」

「ん〜〜、ねむぃ」

体を揺らすフレイの手を振り払わないまでも、アムルは寝返りをうって離れようとする。
それならばと、少し声にドスを聞かせてフレイが言った。

「起きなさいってば……あんまり起きないと、キーラに噛ませるわよ」

「シャーッ!!」

「うぅ……起きるよ」

フレイの声もそうだが、キーラの威嚇するような鳴き声が決定的であった。
起きる事か、かまれる事が嫌なのか、どちらかは分からないが、アムルが嫌そうに起き上がった。

「まったくもう、アンタは見張りしなかったでしょうが。なのになんでそんなに眠たそうなの?」

「一人で見張りさせられないと拒否したのはお前だろう、フレイ」

まだ完全に眼が覚めていないアムルをいかにも不甲斐ないと言ったフレイだが、レンに突っ込まれ、言葉を失った。

「まっ、フレイちゃんの過保護も今に始まったことじゃないだろ。次からは、俺かレンちゃんと一緒に見張りをやらせようぜ」

「そうだな。少しずつ、慣れさせたほうが良い」

「ちょっと待ってよ。それなら私が一緒に」

「却下だ」

「だめだね、そりゃ」

言い方は違うが、レンとセイの否定は同時であった。

「眠いのを必死に我慢してるアムルを見て、我慢しろって言えるか?」

「無理だな。朝になったら、お前の膝枕で寝ている事だろう」

あまりにも見事に連携して言い負かされたフレイは、反論するよりも、ふと疑問が口をついて出ていた。

「あんたたち、そんなに仲良かったっけ?」

半分はからかいも混じっていたのかもしれないが、フレイの思ったような反応は得られなかった。
確かにセイはにやにや笑っているが、それはいつもの事である。
精一杯否定するか、厳しい突込みを繰り出すのかと思ったレンは、ふっと肩の力を抜いて笑っていた。
妙に落ち着いた雰囲気で対応され、フレイの方が本当に何かあったのかとどぎまぎさせられていた。

「そ、そんなわけないわよね。アム、野宿の後始末したらすぐに出発するわよ」

話題をそらすためにアムルを使い、すごすごと二人から離れていく。

「全く、妙に鋭いくせに思考が短絡的だな。まだまだフレイも子供だな」

「アムルにかかりっきりな時点でね。それに俺だってまだ子供かもよ。だからその胸の中で十分に甘えさせてよ、レンちゃ〜ん」

「…………」

「あれ?」

背後から覆いかぶさるようにレンに抱きついたセイに向けられた視線は、絶対零度であった。
調子に乗りすぎたかと思う前に、拳で思い知らされる。
顔面に容赦なくめり込んだ拳の感触を味わいながら、セイは地面へと仰向けに倒れこんだ。

「アイタタタ…………ッ。う〜ん、もうちょいだったな」

こりないセイの無防備な腹に、止めとしてレンの足がめり込んだ。





「レン、ごめん。一匹そっちに行ったよ」

腐った不滅の肉体と不浄な魂を持つデスジャッカルを数匹相手にしていたアムルが、半分だけ振り向いて叫んだ。
アムルの言うそっちとは、フレイとセイという後方支援組がいる方である。
これまでであったならば、アムルが二人の護衛として居たはずの場所だ。

「さすがに囲まれては、全てを押さえる事は出来ないか」

アムルの落ち度ではないとばかりに、レンがゆっくりと腰の帯に差した剣を抜いた。
よだれや、みたくもない臓物を撒き散らしながら向かってくるデスジャッカルに向けて、レンが数回抜きさった剣を振るう。
四肢を、首を落とされたデスジャッカルは無念とばかり蠢いてから、力を失った。
再び剣を鞘に戻したレンは、またゆっくりとデスジャッカルを、一人で相手にしているアムルを眺めた。

すでに囲まれてしまっているが、なんとかアムルは奮闘していた。
デスジャッカルがアムルから見て重なるような場所に居ればギラを、向かってきたものには無理せず交わすか、できれば反撃をいれていた。
それもアムルのすばしっこさ故に、後手を踏まされてさえ先手を取れるのだなとレンが少し感心していると、肩を後ろから痛みが走るほどに強くつかまれた。

「レン、もうダメ。待てない。ほら、危ない。あ〜、魔法使うわよ!」

少々眼を血走らせたフレイであった。
かすり傷ひとつアムルが受けただけでも、かなり五月蝿い。

「ま〜ま〜、大丈夫だって。ついさっきアムルにピオリムとスカラかけたばっかりじゃん」

「離しなさいよ、鬼畜僧侶。だいたいアムルを一人で戦わせる意味がわかんないわよ。このサディスト剣士!」

後ろからセイが羽交い絞めにしたのは、逆効果であった。
すでに自分が何を口走っているのかも理解していないようで、言いたい放題である。

「いいか、よく聞けこの暴走魔法使い。しばらくは私が先頭に立つのではなく、アムルを先頭に立たせて誰よりも戦闘経験を積ませる。援護は最低限にし、成長を促す事に決めだだろう。アムルも了承済みだ。ちなみに、お前にも説明済みだったはず」

「聞いたけど、私は了承なんてしてないわよ。ダメって言ったもん!」

「その後に姉ちゃんなんか嫌いだってアムルに言われて、速攻了承しただろ。都合よく記憶を消すな」

「言ったかもしれないけど、やっぱりダメ!!」

言い聞かせるレンに、暴れるフレイを押さえつけるセイ。
三人がそんなふうに遊んでいる間に、アムルの方は状況が悪くなっていた。
一匹のデスジャッカルが高らかな遠吠えを見せて仲間を呼び、また別のデスジャッカルがマヌーサの呪文を唱えたのだ。
どこからともなく数匹のデスジャッカルが現れ、アムルの視界のなかではマヌーサによってさらに幻のデスジャッカルが増えていた。
さすがにアムルは攻撃を止めることはしなかったが、手当たり次第にという酷く効率の悪い手に陥っていた。

「ふんがぁ!!」

妙な叫びをあげてもアムルの拳がデスジャッカルに当たる事は無かった。
反対に次から次へととびかかられ、デスジャッカルの山の中にアムルが埋もれていってしまう。

「やば、こんなことしてる場合じゃない。レンちゃん」

「解っている!」

「ア、アム!! お姉ちゃんがすぐに助けてあげるから。天と地にあまねく精霊たちよ」

急いでデスジャッカルの群れへと埋もれたアムルへと走り寄ろうとするが、フレイの唱えた言葉に気付いて同時に振り返った。

「「ちょっと待てッ!」」

魔物に押しつぶされたアムルを助ける為に、その魔物を呪文で一掃したら……アムルも同じ運命である。
そのため、レンとセイは必死にフレイを止めようと声をあげたが、爆音によって掻き消されてしまった。
つい先ほどまでデスジャッカルの山となっていた場所から、唸り声に似た音を立てて炎の柱が舞い上がったのだ。
魔法拳を使ったアムルの仕業であり、猛々しい炎によって本物だろうが偽者だろうが燃え尽きていく。

「本物がわかんなきゃ、全部燃やせばいい!」

炎舞う中、片膝を突きながら拳を空へと突き上げながら叫ぶアムル。
無事だったのは一目瞭然ではあるが、アムルを助けるために呪文を使う事に集中しきった誰かさんは盲目であった。

「邪を貫く氷刃を我に与えたまえ、ヒャダルコ!」

「へ?」

結局、止める事は敵わなかった。
アムルを助ける為に、アムルへと向かって幾つもの氷の刃が向かっていく。
だが運が良いのか悪いのか、とっさに顔を庇ったアムルへと氷の刃が到達する事は無かった。
まだ完全に消え去っていなかったアムルの作り出した炎の柱と、フレイが作り出した氷の刃たちがぶつかった瞬間、大爆発を起こしたからだ。
熱と冷気がぶつかった結果に生まれた爆発が、アムルを綺麗な弧を描かせて吹き飛ばした。





「ア〜ム、こっちむいて」

硬い笑顔と、とろけそうに甘い声でフレイが、目の前を歩くアムルを覗き込むようにして呼びかけた。
すると服のところどころが焦げ付いているアムルは、フレイが覗き込んだ方とは逆に首をぷいっと向けた。
こてこてに塗り固められたフレイの作り笑顔が崩れかけるが、再度挑戦を試みる。

「こっちむいてくれないと、お姉ちゃん泣いちゃうぞ」

「知らない」

短く、簡潔に答えられ、フレイは矛先を変えようとした。

「もう、あんた達のせいでアムに嫌われ……嫌われてなんかないわよ!」

「どっちなんだ、それに記憶を改ざんするな。お前が、余計な事をして、アムルを怒らせただけだろうが」

「一応、俺とレンちゃんは止めたんだけどな」

「聞こえなかったのよ。キーラもなんで止めてくれなかったのよ!」

「ピー! ピギーッ!」

いつものようにキーラはフレイの服の中にいたのだが、昨日の晩にフレイに見張りのお供を強要された為、お昼寝中だったのだ。
服の中からまだ昼寝中のキーラを取り出して、口の両端をつかんで引っ張る。
そしてその理不尽な行為が更なる悲劇を呼んでしまった。

「姉ちゃん」

冷たい眼で振り返ったアムルだが、フレイは振り返ってくれた事だけを認識していた。

「あ、なに? もしかして、お姉ちゃんを許し」

「キーラを苛めないでよ。キーラおいで、一緒に行こう」

「ピー」

かなり喜んだ声を上げて、キーラはフレイの両手を振り切ってアムルの頭に飛び乗った。
そのまま逃げろとばかりにフレイから距離をとり始める。

「あ〜ん、アムに嫌われた。私は要らないお姉ちゃんなんだ!」

「お、おい」

アムルの行為を嘆いてフレイはレンの胸元に顔を寄せて泣き声をあげた。
その声に距離をとろうとしていたアムルが振り返ったが、心配そうに様子をうかがう顔ではなかった。
疑いの目を向ける顔だ。

「姉ちゃん、昨日の嘘泣きと同じ声だよ」

「チッ、余計な事を学習したわね」

反省という言葉を知らないのか、アムルが嘘泣きを見抜いたことを心底残念そうにフレイはレンの胸の中で舌を鳴らしていた。

「お前という奴は……」

騙されたのはレンの方であった。

「よくやるよ。フレイちゃん、もうすぐバハラタが見えてくるからせめて街中で目立たないように仲直りしてくれよ。目立つと俺が困るからさ」

「アンタの事なんて知ったこっちゃないけど、仲直りは全力でするわよ。当たり前じゃない。って言ってるそばから見えてきた。アレがバハラタ?」

フレイが指を指したのは、少し小高くなった丘の上にある街であった。
城壁を高く積み上げているため、まだ外壁しか見えないがバハラタで間違いないだろう。
アムルもバハラタの存在に気付いたのか、歩く事を一時中断して遠くに見えるそれを眺めていた。
やがて街を目指して歩き出した一行の歩く速さが、上がっていた。
黒胡椒という目的はあるものの、昨晩は野宿をしたために、温かい料理と温かいベッドが恋しくなったのだ。
フレイとアムルも一時的にではあるが、喧嘩を忘れて走った。

「ちょ、ちょっと待ってよ。アンタたち速過ぎ」

一番最初に根を上げたのはフレイであったが、何も言わずに走る速度を落としたアムルがそっぽを向きながら手を差し出した。
先ほど吹き飛ばされた恨みは忘れていなくても、放ってはおけなかったらしい。

「ありがとう。アム」

「ちょ、ちょっとだけだからね!」

まだ顔を向けずに言ったアムルを、フレイはクスリと笑った。





バハラタに着いて街の人たちの話に耳を傾けてみると、まだ黒故障を求めに商人たちが着た話は聞かれなかった。
やはり抜け穴を通って陸路を着たことが大きかったのだろう。
それならば直ぐに黒故障を求めなくても良いだろうとの意見から、まずは宿へと向かった。
男と女それぞれ一部屋ずつ借りると、隣同士の部屋へと分かれてそれぞれ荷物を降ろす。

「はぁー、疲れたぜ。野宿なんて慣れても、好きになれるもんじゃねえな、やっぱり」

荷物を放り出してさっそくベッドへと背中から飛び込んだセイを見て、アムルが思い出したように言った。

「そう言えば、誰も兄ちゃんの事に気付かなかったね。変装するほど気にしなくてもよかったんじゃない?」

「ん? ああ、そうだな」

安心するかと思いきや、気のない答えにアムルが首を傾げようとした時、部屋のドアがノックされた。
そしてアムルやセイが返事を返す前に袴姿の少女が入り込んでくる。
最初レンかと思ったが、レンよりも背が低く、髪の色が決定的に違っていた。

「じゃ〜ん、どうどう? レンに借りてみたんだけど」

「姉、ちゃん?」

今ひとつ信じられないという呟きをアムルが漏らしたが、袴の少女はフレイ以外の何者でもなかった。

「驚いた事は驚いたけど、何がしたいんだ?」

「別にアンタに何かして欲しいわけじゃないわよ。アム、これからお姉ちゃんと散歩ついでに黒胡椒買いにいかない?」

「これから?」

少し躊躇するようにアムルが呟いたのは、まだヒャダルコで吹き飛ばされた事を少しだけ根に持っていたからだ。
だがそう考える事をフレイはお見通しだったのか、上機嫌から一転してしょぼくれて肩を落とした。

「嫌ならいいのよ。お姉ちゃん一人で行って来るから……本当に気にしなくて良いの。折角アムと一緒に街を歩こうって思ってレンに借りたけど、私が元はといえば悪いんだし」

「行く、行くからちょっと待っててよ。直ぐに準備するから!」

名残惜しそうに何度も振り向きながら部屋を出て行くフレイをそのまま行かせるほど、アムルは冷たくなかった。
もっともそのせいで、まんまとフレイの思惑に乗ってしまうのだが、アムルだから仕方が無いだろう。
準備と言っても、アムルは道具袋をセイに預けて、誓いの剣は背中に乗せたままでフレイと一緒に宿を出て行った。
その時にはすでに仲良く手を繋いでいた。

「行ったか?」

セイがしばらく二人が出て行ったドアを眺めていると、隣の部屋からやってきたレンが疲れた顔だけを覗かせた。

「結局勝手に仲直りしたみたいだ。疲れる……あの二人が喧嘩すると周りが疲れる。レンちゃんも、そんな所にいないで入ってきたら?」

「う、うむ……笑うなよ」

何を笑うのかとセイが考える前に、レンがドアの隙間を縫う様にして部屋へと入り込んできた。
フレイがレンの服を着た代わりに、レンがフレイの服を着ていたのだ。
恥ずかしそうにスカートの裾を気にするレンが、セイにはとても新鮮で可愛く見えてしまった。

(やっべ、フレイちゃんナイス!)

見ているほうが恥ずかしくなるようなレンの照れ具合に、セイが顔を下げてこらえ始める。

「だから笑うなと言っただろうが。私だって嫌なのだ。こんな……格好は、フレイの奴が無理矢理!」

「大丈夫だって、レンちゃんは十分可愛いって、その格好で食堂に飯食いに行ってみようぜ。絶対周りの視線を集めちゃうぜ」

「馬鹿者、何で私が。飯が食いたいのなら一人で行ってこい!」

「ただ飯が食いたいんじゃない。恥ずかしがってるレンちゃんと飯が食いたいの。ほら、羞恥プレイっぽくない?」

それは十分すぎるほどに、余計な一言であった。
一転して恥ずかしがる事をやめたレンがツカツカと音をたててセイに歩み寄り、思いっきり拳を叩き付けた。
セイの視界が痛みと共に暗くなっていくのに、長い時間は掛からなかった。

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