アリアハンの城からナジミの塔へと続く通路を通り抜ける。 それから先は幾度と無く駆け巡った事の有る一階であり、アムルは迷うことなく二階への階段を見つける事ができた。 だが二階へと続く階段を上りきり少し進んだところで、アムルは立ち止まらざるをえなかった。 奥に続く通路の途中にある角から、一匹の一角うさぎが出てきてアムルを鋭くにらみつけていたからだ。 「な、なんだよお前」 ここにたどり着くまでに魔物に出会わなかった事が幸運なのだ。 疑うまでも無く一角ウサギは体制を低くしてから飛びかかる様に、アムルに襲い掛かってきた。 額にそびえる角にモノを言わせた突進に、アムルはすぐさま避けるべきだと判断を下す。 だが、 「アムー! 何処まで先いったのー?」 遥か後方から聞こえた姉の声に、先ほどの光景が再度頭の中をかけぬけた。 焦げたフロッガーの下から飛び掛る一角うさぎ、恐怖を抱き叫ぼうとする姉。 「退いてどうする、守るんだ。退いてたまるくわぁ!」 自分の腕ほど大きい角を両手で握り、真正面から一角うさぎを止めようとする。 確かに両手で角を握る事には成功したが、ズキッと走った腹部への痛み。 完全に勢いを止めきる事は出来なかったが、突進を止める事だけは出来た。 だが、なおも突き進もうとする一角うさぎのせいで、メリメリと少しずつ角がめり込んでいく。 「う、うあぁぁ……痛い、痛いけど!」 まだ体の出来上がっていないアムは、本来この様な真正面からぶつかる戦い方をする方ではない。 すばしっこさを生かし、正面以外から殴りつけるんが主のはずだ。 「ふんがぁ!」 だが意地になったように退く事は無く、徐々に腰を落としていき、一角うさぎを持ち上げると壁へと投げつけた。 そのまま壁にぶつけるつもりが、 「あ」 少し方向を間違えたのか、ぽっかりと開いていた窓から一角うさぎが落ちていった。 奇妙な悲鳴が聞こえた数秒後、重たい物が落ちた音がした。 「落ちちゃった。と、とりあえず守ったよね?」 ヘナヘナと腰を落とすと、自分の後ろにいた姉の幻影へと振り向く。 それがふっと脳内から消えると、本物の姉が走ってきた。 慌ててアムルを探していたのが見て取れるように、額に汗を浮かべてさえ入る。 「アム、あんたお腹押さえてどうしたの?」 「ピーー?」 「ちょっと一角うさぎに刺された。血出ちゃったけど、あんまり深くは無いかな」 「嘘、ちょっと見せて!」 「痛い痛い、姉ちゃん無理させないで」 「刺されたって、お腹のど真ん中じゃない! あんたまた何か妙な事しようとしたわね、ほら服をめくって薬草塗るわよ」 アムルが少し上着をそっとたくし上げて傷口を見ようとした所、フレイの方が大雑把に上着をたくし上げ布地が傷に触れてしまう。 ちょっぴり泣きそうになったアムルが傷を押さえるが、無理やり抑える手をどかされ、少々乱暴に薬草を塗りつけられた。 「ちょっ、姉ちゃん、痛い!」 「わざとよ。さあ、なんでこんな馬鹿な事したか、お姉ちゃんに言いなさい。さあ、今すぐ、すぐ吐けぇ」 言葉は荒いが、アムルを心配しての事だ。 アムルもそれがわかったのか急に大人しくなり、痛みをこらえ始めた。 「姉ちゃんを守りたかった。キーラが姉ちゃん守るのには文句無いけど、俺だって守りたい」 「だから試したの?」 言葉無くうつむくように頷くアムル。 (か、可愛い〜。姉ちゃんを守りたいだって。もうこれはギュッとしてあげるしかないじゃない!) 脳内で少し悦に入ったフレイは、薬草を塗り終えるとそのままアムルを抱え込んだ。 そのまま頭をなでてやると、アムルの方も無言のまま抱きついてきた。 「守ってくれるのは嬉しいけど、あんまり無茶しちゃダメよ。アムが怪我してまで守ってくれても嬉しくないんだから」 中途半端に頷くアムルに、これは無茶するつもりだなとフレイは見抜く。 だてに十四年も姉弟をやっていない。 (それにしても、アムがあんまり可愛いからアタシも彼氏作る気にならないのよね。それはそれで問題じゃない? あ〜ぁ、これで実の弟じゃなけりゃ良い男になるまで待つんだけど) 段々とフレイの思考がふらちな方向へそれはじめると、フレイの腕の中のアムルが動いた。 「ところで姉ちゃん、爺ちゃんは? 一緒じゃなかったの?」 「アンタを探してちょっと分かれたの。お爺ちゃんの事だからすぐにでも追いつ」 「フレイー、アムルーッ!!」 「「余計なモノまで来たーッ!!」」 「逃げるんじゃー!!」 恐らく来るであろう方向の通路を見ると、確かにダイダはやってきた。 凄まじい形相で走ってきたダイダの後ろには、何処からかき集めてきたのか、またしても魔物の大群がいたが。 言われた通りに急いで逃げ出したアムルとフレイに、やがてダイダが追いつき、一言謝ってきた。 「すまん、お前達を探し回っているうちに残りの魔物をかき集めてしもうた」 「なにやってるのよ、お爺ちゃん! これじゃあ、下にいた時とかわらないじゃない!」 「でもなんかそれだけじゃないよ。凄く怒ってる?」 「いやぁ、少し若かりし頃を思い出して頑張ったんじゃが、思ったより数がおおくてのぉ」 歳も考えずに照れたダイダに促されて一度振り返って見てみると、確かにキズを負った魔物も多数見受けられた。 「良い歳して蜂の巣をつつくようなマネしないでよ!」 「良い歳とはなんじゃい。むっ、あそこに見えるは三階への階段じゃ」 「それじゃあ、さっさと黒幕をやっつけに行こう!」 アムル、フレイと順に階段を上がり始めたが、ダイダだけは階段の手前で立ち止まった。 それに気づいた二人が振り向くと、ダイダは似合わないぐらい無邪気に笑って見せた。 「キーラこっちへこい。さすがにアレだけの数を相手にするには骨がおれるわい」 「ピーッ!」 「あっ、キーラ。お爺ちゃんどうするつもり?!」 「ワシはここであやつらを食い止める。お前達は最上階にいるであろう輩を倒すのじゃ!」 「爺ちゃん、キーラ!」 ダイダが片手で静止させ、ダイダの肩に乗ったキーラが胸を張る。 「ワシとて元アリアハン国騎士団団長、あの程度の魔物にひけはとらん。キーラの援護があればなおさらじゃ!」 「ピギーッ!」 「姉ちゃん、行こう!」 「そうね、さっさと倒して戻ってくればいいんだし。こんな厄介なことしてくれた奴に焼きを入れてやんないと」 「キーラ、ちゃんと爺ちゃんの援護するんだぞ!」 「ピーッ!」 アムルとフレイは、二人を階段の手前に残し、上り始めた。 三階はまだ二人にとって、未開のフロアであった。 一階と二階の構造から、まずは目的の部屋を探さなければならない。 階段を上りきるとすぐさま四方を見渡すが、通路は左右前方にと伸びている。 「急がないと、どっちへ行ったら」 「姉ちゃんこっち!」 初めて来たはずなのに、アムルは迷い無く一本の道を選んだ。 その選択が正しいかどうかの議論をしている暇は無い。 「わかったわ、そっちね」 走り出し、別れ道が訪れると再びアムルの勘に従って道を選んでいく。 その選んだ道が行き止まりにたどり着く事は無く、やがて一つの見栄えよく作られたドアへと突き当たった。 アムルは走ってきた勢いのまま、そのドアをけり破る。 「どっせー! 大ボス覚悟ぉ!!」 蹴破られたドアは床に倒れこみ、蹴破った本人は部屋をみて止まってしまった。 古くなった木製ベッドに、倒れてくもの巣が張ったテーブルと椅子、ホコリしかない本棚、何故か中央に甲冑の置物。 それ以外には何も、誰もいないのだ。 「もぬけのか……なに? いまの?」 続いて部屋へと入ったフレイが、一瞬立ちくらみのような物を感じる。 「誰もいない、逃げたのかな?」 「気をつけてねアム。逃げたとしても、この部屋なにかあるかもしれないわ」 部屋の中を見渡しながら入り込んでいったアムルは、中央に置かれた甲冑を見上げた。 全身甲冑であり、首の上には目までもを覆おう鉄兜が置かれ、両手は胸の前で交差されたまま一本の剣を握り締めている。 何の変哲も無い鉄の甲冑から一旦は意識を離して、ポンッと片手で叩いてからもう一度部屋の中を見渡した。 そんな時だ、ギギギっと鉄同士がこすれあうような音が聞こえたのは。 「姉ちゃん、この甲冑いま」 「アムッ!」 振り向いたアムルが見たのはいつの間にか持っていた剣を振り上げていた甲冑の姿であった。 「天と地に、とにかくメラ!」 「わっ!」 突然自分へと放たれた火球に身をかがめて逃げると、甲冑は目標を火球へと変更し剣を振り下ろした。 甲冑の左右で斬り裂かれたメラが小さな爆発を起す。 「姉ちゃんのメラをき、斬った?!」 「嘘、見えなかった。ちょっとヤバイかも……かなり強いわよ、コイツ」 「でも、爺ちゃんが下で頑張ってるんだ。姉ちゃんギラなら斬れないよ、俺が引っ掻き回すから準備して」 「そうね、さっさと倒して戻る約束だもんね。天と地にあまねく精霊たちよ」 フレイがギラの準備に入ると、甲冑がフレイ目掛けて走り出した。 「させるかッ!」 そこをすかさずアムルが後ろから凪ぐようにけりつけた。 だが、相手が甲冑なだけにその重量はたいしたもので、微動だにさせることはできなかった。 それでも気を引くには十分であり、甲冑がフレイからアムルへとその目標を変えた。 「ウオオオオォォォォォォ!!」 「へーん、でっかい声なら負けないもんね。オオオオォォォォォォォォ!!」 振り下ろされた剣をかわすと、その剣が床にめり込んでいるうちに殴りかかる。 「あの子はまた変な事に対抗して……汝らの偉大なる力をもって邪を滅する光を我に与えたまえ、アム!」 名前を呼ぶと意図が伝わったらしく、アムルが甲冑から離れた。 「炎は斬れても、光はそうはいかないでしょ? くらいなさい、ギラ!」 フレイの杖から、眩いばかりの光が甲冑へと伸びた。 灼熱の光、アレを喰らえばいくらなんでもと思ったが、甲冑の魔物は喰らわなかった。 剣の腹を自らの正面に立て、床がひび割れるほどに踏ん張り熱線を受け止めたのだ。 「フオォォ!!」 そのまま縦に構えていた刀身を少しずつ自分の体からそらすと、一気に弾き飛ばした。 光は方向を変え、壁を破壊して消えた。 「に、人間技じゃない!!」 「落ち着きなさい、アム。あれは魔物だから、ウンコもしなけりゃオシッコもしないのよ!」 「いや、姉ちゃんこそ落ち着こうよ!」 素手、しかもアムルの腕力では到底甲冑にダメージを与える事は出来ない。 頼みの綱であるフレイの攻撃呪文も効果が無く、唯一残っている氷系呪文でも結果はメラと同じであろう。 「ウオォォ!」 少々二人がパニックに陥ろうとも、甲冑は待ってくれない。 重そうな図体とは思えないほど俊敏な動きで、剣を振り上げながら迫ってくる。 「姉ちゃん、下がって!」 「アムっ?!」 反応の遅れたフレイをかばい、振り下ろされた剣がアムルの顔にかする。 「アム、大丈夫? 血が……」 「コレぐらい平気、こっちより腹が……ちょっと開いたみたい」 一度距離をとるとすぐにフレイがアムルを心配するが、顔の傷は本当に大した事が無かった。 アムルが気にした一角うさぎにやられた傷も、血が一筋ながれる程度だ。 フレイは急いで薬草を出そうとするが、そんな悠長な事はしていられないと手をとめる。 そしてアムルは……じっと自分の腹の傷をみて、何かを思いついたような顔をした。 「姉ちゃん、ちょっと耳貸して」 フレイを呼び寄せ、思いついた作戦を耳打ちする。 「確かにそれなら勝てるけど、まだ私には」 「大丈夫、姉ちゃんなら出来るから。俺が信じてる」 そう言うと、アムルは甲冑の魔物をこれ以上フレイに近づかせないようにと、向かっていった。 「まったくズルイわよアム、アンタに信じられたらやるしかないじゃないの! 天と地にあまねく精霊たちよ」 フレイが床に挿した杖からパシッと音を立てて空気が弾けた。 ソレを見て、少しだけフレイの顔が青くなる。 「やっぱりまだ……汝らの偉大なる力をもって邪を打ち砕く力を我に与えたまえ」 杖にまとわり憑くようにして発生していた力が、幾度と無く弾けていく。 その力が杖の周りだけでなく、フレイの杖に添えていた手までもを傷つける。 レベルが足ら無い為に、集めた力を制御しきれていないのだ。 せめて暴発だけはしませんようにと、フレイは一心に頼み込む。 「精霊たちよ、お願い」 祈りながらも、視線をアムルと甲冑の魔物へと向ける。 アムルはなんとか善戦していたが、やはり素手と剣、さらに相手が甲冑では決め手が無い。 「精霊たちよ、我に邪を打ち砕く力を与えたまえ! アム!」 制御は結局出来ないままであったが、もうこのままで行くしかないとフレイも覚悟を決めた。 「邪を打ち砕け、イオ!」 フレイの杖から荒れ狂う力場が生まれ、放たれた。 だがまっすぐ甲冑の魔物へ向かう事は無く、ねじれた起動を描き、その足元へと着弾した。 その途端、大きな爆発がおき、部屋の中に嵐が生まれたような荒々しい風が吹いた。 有事の際にと用意されただけあって頑丈な造りであるはずのナジミの塔が、ギシギシと悲鳴を上げるほどである。 「姉ちゃんッ!」 「ゴメン外した。アイツは!」 「俺も見えない、上手く塔から落ちてくれれば良いんだけど!」 風が収まり、立ち上がったホコリや砂が収まる頃、甲冑の魔物は床に倒れ伏していた。 その腕がピクリと動いたのを見て、フレイが青ざめるよりも早く、アムルが素早く動き出した。 甲冑の手の中に剣がなかったからだ。 「名前は知らないけど、覚悟ッ!」 「た、タンマじゃ!」 「へっ?」 拳を振り上げ突っ込んだアムルに向けて、どこか聞き覚えのある声が甲冑から放たれた。 「ちょっと、その声……人間なの、だったらなんで?!」 「いやぁ、まさかフレイがイオを使うとは計算外じゃった。制御に失敗したとはいえ、子供の成長は早いわい」 そう言いながら兜を脱いだその甲冑から出てきた顔は、見知らぬ若者だった。 見知らぬではあるが、やはりどこかで見たことがある。 「ちょっと良い男かも、ねえ……なんでアンタ襲ってきたの? それに爺臭い喋り方なのはなんで?」 「なんじゃ、まだ気づかんのか? ワシじゃ、お前達の爺ちゃんダイダじゃ」 「えーっ!!」 「そういえば爺ちゃんの昔の姿絵見たことあるけど、こんな感じだった。あんまり格好良いから他人の姿絵で見栄張ってるのかと思ったけど」 「アムル、そこは喜んでおけ。お前も将来、今の爺ちゃんのように格好よく」 ふっと若かりし頃の姿が歪み、ダイダの姿が元の老人に戻る。 「なるんじゃぞ?」 「いや、すっげぇなりたくない」 「私も、アムが爺ちゃんみたいになったら、毎日泣いて暮らす」 「お前達、爺ちゃんを馬鹿にしておるのか?」 これ以上ないぐらいにしわがれた顔に、わざわざ青筋立ててまでダイダが詰め寄る。 だが、詰め寄る理由ならアムルやフレイの方にあった。 「それよりそろそろ説明してよ、お爺ちゃん。これは一体何のつもりなの? まさか魔物を入り口に集めたのもお爺ちゃん? それにさっきの若い姿は?」 「そうじゃよ。お前達も随分力を付けてきたからの。まあ、最終試験のつもりじゃったんじゃ。旅をしていれば必ず己より実力が上の者に会うだろう。そんな時どう切り抜けるのかを見たかった。若い頃のワシは強かったじゃろ?」 「うん、反則的に強かった。姉ちゃんの魔法がことごとく効かなかったもんね」 「煩いわね、最後は私のイオが決まったんだからいいじゃない。だいたい炎を斬ったり、閃光を弾ける人間が一体世界に何人いるのよ!」 「人間にはそうおらんじゃろうが、魔物なら別じゃ。お前達がこれから出て行こうとしている世界は、そういう世界じゃ。フレイ、アムルよ。世界を渡りオルテガを探すならば、常に慢心せず自分を鍛え続けなさい」 ダイダからの言葉に、二人は素直に頷いた。 だが、肝心な事が幾つかまだ残っている。 「それで、どうやって爺ちゃんは若くなったの?」 「ああ、それはコレじゃ」 そう言ってダイダが鎧の中から取り出したのは、妙な形をした砂時計だった。 だが、先ほどのイオで吹き飛ばされたせいか、ひびが入り砂が止まっていた。 「これは時の砂と言って数分時間を戻す事が出来る。そこで宮廷魔術師殿に頼んで特殊な結界をこの部屋に張ってもらったんじゃ。この砂が落ちている間は持ち主が若返ると言う寸法じゃ」 「お師匠様が……って事は、最初の兵士の人たちもグルなの?!」 「え、そうなの?! だって兵士の人たちすっごく守る気満々だったじゃん!」 「演技よ演技。今思えばあんなに魔物が溜まってるのに気づかないわけが無いでしょうが! あんなハッキリとした城の弱点なら、監視も厳しいはずでしょうが!」 「そっか、全然わかんなかった。みんなさり気に演技派だったのか!」 「あー! 壮絶に悔しい、なんか手のひらで踊ってたみたいで壮絶に悔しい!」 「これこれ、落ち着きなさいお前達」 ギャアギャアと騒ぎ出したフレイとアムルを落ち着かせるように、頭に手を置くダイダ。 もちろんそれだけでは気持ちに収まりがつかないが、次のダイダの言葉には二人を黙らせるだけの威力があった。 「それで、二人の最終試験の結果じゃが」 ピタリと騒ぐのをやめ、ダイダの言葉を待つ。 「一応合格じゃ。アムルの単独行動など問題はあるが、最初の敵陣突破への迅速な判断。現戦力で押し切れない相手に勝つ方法を思いついた事。お前達なら上手くやっていけるじゃろう」 「やったわね、アム! これで父さんを探しにいけるわ」 「うん、これで父さんを。アリアハンから旅立てる」 抱き合いながら喜びを示す姉弟を見ながら、ふぅっとダイダは息を抜いた。 旅立つ事に十分な力は確かにあるのだが、問題が無いわけではない。 ダイダの視線はアムルへと向いていた。 腫上がりそうな程に赤みがささり、所によっては血が滲んでいる両手を。
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