第五話 裸では付き合いきれない心なの?(後編)
 夜もふけ、大人の時間を前にあかねたちは一つの部屋で布団に寝かされていた。
 ファリンがどこからか持ってきた本を読んでくれてはいるが、あかねは全くその内容を聞いてはいなかった。
 男の子と女の子の割合が一対三なので、内容にも偏りがある事もあったが、もっと大きな理由は昼間のあの出来事のせいであった。
 なんら悪い事はしていないのに、終始なのはやアリサ、すずかにまで非難の目を向けられたから疲れていたのだ。
 助けてくれと再び恭也に助けを求めたが、肩に優しく手を置かれ諦めろと解りやすい言葉を貰うほどであった。
(あ〜、早く寝てしまいたいです。明日になればさすがになのはたちの機嫌も直ってるだろうから)
 ごろごろと何度も寝返りをうっていたあかねは、あれっと布団を払い起き上がった。
 いつの間にか規則正しい寝息が三つ、並んでいた。
「やっぱりあかね君には面白くないお話だったかな?」
 自分だけ寝そびれたと思っていると、本をたたんだファリンが話かけてきた。
「ああ、大丈夫です。すぐに寝てしまうので、ファリンさんは向こう側で楽しんできてください」
「そう言うわけにはいかないです。さあ、おやすみなさい」
「そこまで子供ではないのですが」
 跳ね起きたあかねを布団に寝かせたファリンは、布団をかけなおしその上からリズム良く布団を叩いてくれた。
 子供ではないといったくせに、それで眠くなってしまう自分が少し腹立たしいあかねであった。
 段々と重たくなったまぶたが落ちていき、ぱたりと閉じられる。
 言葉遣いは丁寧でもやはり子供だなとファリンは苦笑を浮かべて、そのまま静かに部屋を出て行った。
 そこで完全にあかねの意識は途切れたのだが、なのはの声がそんなあかねを起こしていた。
『あかね君、起きてる』
「…………ん、はい?」
『あ、ごめんなさい。昼間の事謝りたくて。ユーノ君から聞いたの。あかね君がいきなり攻撃されたことや、あの人があの女の子の関係者だって事を』
『大丈夫です。起きてます』
 最初は寝ぼけて肉声で返したあかねも、すぐに念話に切り替えていた。
 それでも言葉遣いが多少たどたどしかった。
『ただ僕らを見るためだけに近くに居たとは考えにくい。恐らくは、この近くにジュエルシードがあるのかもしれない』
『そうなんだ。なら、またあの子と戦わなきゃいけないんだね』
『その可能性は高いよ。だから今回から僕も戦いに加わるからね』
 ユーノからの突然の宣告に、あやうくなのはもあかねも飛び起きかけていた。
 この会話が念話である事を思い出して、なんとか寝返りを打つだけにとどめた。
 寝転がった状態でユーノを見ると、アリサに握られたままで言葉とは裏腹に少し間抜けな格好であった。
『君たちと出会ってから随分経つし、体力も魔力も完全に回復してる。もう君たちだけに面倒を押し付けたりしない、僕も一緒に戦う』
『ユーノ君、誰も面倒だなんて思ってなんかないよ。私も、あかね君も。心からユーノ君を手伝ってあげたいって思ってる』
『それにユーノさんを手伝うって決めたのは自分自身の意志です。それにあの子の事を放っておけません』
『ありがとう、二人とも』
 出会った当初は何を言っても謝罪の言葉ばかりであったユーノが素直にありがとうと言ってくれた。
 なのはとあかねは互いに顔を向け合って微笑んだ。
 そして示し合わせたわけでもないのだが、二人同時に同じ意味の言葉を発していた。
『けれど次にあの子が現れたら、私一人に任せて欲しいの』
『だけど次にあの子が現れたら、僕一人に任せて欲しいんです』
 今一度互いに顔を向け合った二人は、笑顔を消して表情を厳しくして言った。
『一緒に戦おうって言うのならまだしも、あかね君がどうやって一人で戦うって言うの? ここは私に任せておいて、ちゃんと一人で立派に戦ってみせるよ』
『なにも攻撃魔法を使うことばかりが戦いじゃありません。それになのははあの子を撃っては駄目なんです』
『すぐに戦うわけじゃないよ。ちゃんとお話を聞かせてもらって、戦うのは最後の手段だもん』
『最後だろうと何だろうと、戦ってはいけないんです』
『ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!』
 段々と口調が荒くなり出した二人の剣幕に、ユーノがストップの声を挙げるも二人は止まらなかった。
『おかしいよ、あかね君。ジュエルシードがかかってるのに、戦っちゃ駄目って。やっぱり昼間にあの女の人だけじゃなくて、あの子にも会ったの?』
『関係ないことを蒸し返さないでください。あの子にも会ってはいません。僕は僕なりにあの子とどう渡り合うか考えてみたんです』
『そんな事、私だって』
「キューッ!!」
 突然のユーノの肉声に、二人がびくりと体をビクつかせた。
 ドキドキと高鳴る胸を押さえるように布団に潜っていると、ユーノの声に目を覚ましたアリサとすずかが起きてしまう。
 目をこすりながら起き上がったアリサは、ずっと自分がユーノを握り締めていたことに気付く。
「あっ、ごめんユーノ。つぶれてない? ほら、広い所で寝なさい。すずか、ごめんね」
「びっくりしただけだから。なのはちゃんとあかねさんは寝てるみたいだね」
「今のでおきないなんて、図太いんだから……ふぁ」
 ユーノを手放したアリサは、再び睡魔に襲われこてんと倒れこみ、すずかもそれに倣って布団に倒れこんだ。
 しばらくなのはもあかねも布団の中で静かにしていると、すぐにすやすやと二つの寝息が耳に届いてきた。
 もぞりと布団から顔をだし、起きていた事がばれなかったことにホッとする。
 すると互いに目が合ってしまい、どちらともなく目をそらす。
『二人とも仲直りして。ちゃんと二人が協力しないとあの子には勝てないんだ。解ったら、少し仮眠を取ろう。今夜にでも来るかもしれないんだから』
 ユーノの言葉を聞いて大人しく眠り始めた二人であったが、互いに仲直りの為の言葉を口にする事はなかった。
 こんなことで大丈夫なんだろうかと、ユーノは布団にもぐりこんだ二人を心配そうに見ていた。





 仮眠をとっていたなのはとあかねが、同時に布団を跳ね上げ体を起こす。
 睡眠から覚めたばかりの二人の瞳は瞬くこともせず、脳裏に走った魔力のうねりだけを捉えていた。
 すでに隣の部屋からも大人たちの声は聞こえず、それだけで深夜以降だということがわかる。
 顔を向け合ったなのはとあかねの表情には若干の硬さがあるものの、確認しあうように頷いていた。
『行こう、ジュエルシードの反応は飛べばすぐの場所だ』
 ユーノの言葉にも促され、アリサとすずかを起こさないように布団を抜け出し着替えを済ませる。
 隣の部屋で寝ていた大人たちの前を横切る時はことさら気を使ったが、誰かが寝ぼけてもトイレと誤魔化し部屋を抜け出す。
 抜け出してさえしまえばこちらのもので、パタパタと旅館の廊下を駆け抜ける。
 玄関で靴を履いて外へ出ると、ジュエルシードの輝きが空へとのぼっていくのが確認できた。
 森の中へと続く獣道をある程度進み、旅館から離れた所でそろそろいいだろうとユーノが言った。
「二人とも変身して。走ってちゃ間に合わない」
「レイジングハート、お願い」
「ゴールデンサン、セットアップ」
「「Stand by ready. Set up」」
 ここに来るまで両者ともほぼ無言であったのだが、レイジングハートとゴールデンサンの声が重なることで嫌がおうにも互いを意識しなければいけなかった。
 互いに何を思っているのかちゃんと話し合ってはいないが、今は大人しく話し合っているわけにも行かない。
 桃色の光と太陽の光が絡み合うように立ち上り、二人の姿を変えた。
 何度も一緒に戦ってきた白の衣装を着たなのはと、黄金のコートを纏ったあかねがそばで走っている。
 あかねがなのはへとその手を伸ばした。
「最初は初速が速いなのはが引っ張って。加速がつき次第僕が引っ張る」
「うん、わかったよ」
「Flier fin」
「Jet flier」
 なのはの靴から桃色に光る羽が生えあかねを引っ張りあげた。
 続いてあかねのコートから炎が噴出し、徐々になのはのスピードを越えて逆になのはを引っ張る形となる。
 月明かりしかない森を上空から見下ろすと、ほぼ黒一色の影にしか見えなかった。
 道標となる印はジュエルシードが示す魔力のみであったが、それに加えもう一つの道標が姿を見せた。
 ジュエルシードのものとは違う光が、空へとのぼっていったのだ。
「あれは……」
「あの子の方が早かったみたいですね」
 互いに繋いでいた手に力を込め、すれ違ったままの思いを心に誓う。
(大丈夫、私は一人前の魔導師だから。ちゃんと話し合って、あの子の想いを受け取って。それでも駄目なら、戦う)
(あの子にも、もちろんなのはにも、もう撃たせない。僕が全部防いで、戦うことが無駄だと悟らせる。それから、話し合う)
 二人とも考えている事は似通ってはいるのだが、互いに考えの前提が完全に食い違っていた。
 なのはは一人前であることにこだわり一人で戦うことを前提にし、あかねはなのはに撃たせないことにこだわり自分が一人で全てを受け止めることを前提としている。
 共通しているのは今手を繋いでいる相手に、手を出して欲しくはないということであった。
 そんな二人をユーノが不安そうに見つめていると、清流が流れる河に掛かった橋の落下防止柵に立つあの子が見えた。
 急降下して二人が降り立つと、あの子が丁度封印したジュエルシードをその手にする所であった。
「二つ目……」
 なのはとあかねが空から現れたことに気付くと、女の子とその隣にいたあの女性がふりかえる。
 その顔は酷く真剣なものであったが、女性だけはあかねのバリアジャケットを見て少し顔を崩していた。
「って、本当にキンキラキンのバリアジャケット。実際に見ると少し面食らうね」
「そう? 私はそうは思わないけど」
「女の子なんだからセンスは磨いておきなよ。アレはセンスが悪い」
 相変わらず散々な言われようだが、あかねは耳は貸さずに聞き流していた。
 少しばかり聞き流すことに失敗して、おでこがひくついているのはご愛嬌である。
「あらあら怒らせちゃったかね」
「やっぱり貴方はその子の使い魔だったのか。ジュエルシードをどうするつもりだ。それは危険なものなんだ」
 昼間であった時とは違い、獣の耳と尻尾をだした女性はあざけるように言った。
「さあねえ。答える理由が見当たらないよ。それに言ったはずだよ、あまり首を突っ込みすぎるとガブッと行くよって」
 女性の眼が見開き、力が込められ形相が変わる。
 髪の毛がうねり見せ付けるように挙げて見せた腕が膨れ上がり、獣のそれへと変化する。
 人の姿をしていた時にも出ていた耳と尻尾が示すように、一瞬にして赤い毛皮を持つ猛々しい狼の姿へと変貌した。
 抑え切れない猛りが抑えきれずにいたのか、そのまま月の浮かぶ空へと遠吠えが響き渡る。
「これが使い魔?」
「そうさ、私はこの子に造って貰った魔法生命。製作者の魔力で生きる変わり、命と力の全てを賭けて守ってあげるんだ」
「命と力の全てを……」
 よどみなく言い切られた狼の台詞から、心惹かれるようにあかねが呟いていた。
 恐らくは普段自分が口にする守るという言葉と、重みが違う。
 けれど重かろうが軽かろうが、まぶたに浮かぶ父の背中に誓い口にした言葉に嘘偽りはない。
「先に帰ってて、すぐに追いつくから」
「うん、無茶しないでね」
 女の子に心配された狼は、了承の言葉と共に飛びかかってきた。
 あかねたちの腕一本ぐらいかるく千切っていけそうな口を大きく開き、近づいてくる。
 すぐに防御魔法を使おうとしたあかねであったが、その前にユーノが飛び出した。
 次の瞬間にはなのはとあかねを結界が包み込み狼の突撃を受け止めていた。
「二人ともこいつは僕に任せて。協力してあの子からジュエルシードを取り返して。いいね、二人でちゃんと協力するんだ!」
 ユーノの防御魔法を打ち破ろうと狼がその前足を振りかぶるが、同時に足元に大きな魔方陣が生まれていた。
「移動魔法? まずい」
「逃がすか!」
 狼が事態のまずさに気付き撤退をはかるが、ユーノの魔法の完成の方が早かった。
 ユーノの特色である緑色の魔力が膨れ上がり、包み込んだ狼とユーノ自身をかき消していた。
 辺りを見渡してもその姿は見えず、まるで最初から二匹がいなかったかのようにさえ感じる。
「結界に、強制転移魔法。良い使い魔を持っている」
 残された三人の中で唯一現状を理解した女の子が呟いた。
「ユーノ君は使い魔って奴じゃないよ。私たちの大切な友達」
 なのはの反論に、なぜか女の子が若干表情を変えた。
 苛立つようにその瞳を僅かにきつくする。
「それでどうするの?」
 問われ、戸惑うようになのはとあかねは互いを見合った。
 ユーノが協力し合えとは言ったが、二人ともそのつもりはなかったのだ。
 抱えた気持ちを譲らないであろう事を互いに表情から悟り、なのはが一歩進み出た。
「話し合いでなんとかできるってことない?」
 なのはの問いかけに関しては、あかねは横から口を出すつもりはなかった。
 一応は聞いてはおきたい事柄であったし、それ位なら譲れないこともなかったからだ。
「私はロストロギアのかけらを。ジュエルシードを集めなきゃいけない。そしてあなた達も同じ目的なら、私たちはジュエルシードを賭けて戦う敵同士って事になる」
「だから、そう言うことを簡単に決めつけないために話し合いって必要なんだと思う」
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらない。伝わらない」
 突然の交渉決裂に、女の子がバルディッシュを突きつけてきた。
 目を見開き息を呑んだなのはとあかねの真後ろに、女の子が回りこんでいた。
 電光石火の動きに会話が断ち切られたばかりのなのはの動きが鈍かった。
 振りかぶられたバルディッシュを体のさばきでかわそうとするが、バルディッシュの一撃は見慣れた防御魔法によって受け止められた。
「Round Shield」
「あかね君!」
「今互いに口に出来るのはここまでが限界です。ここからは僕の好きなようにさせてもらいます。なのはは手を出さないでください」
「まだ話し合ってる途中で、それは聞けないよ!」
「Shooting mode. Devine buster」
 なのはのレイジングハートが変形したことで女の子が空へと飛び上がる。
「例え二対一でも私は負けられない。バルディッシュ、フォトンランサー」
「Photon Lancer. Get set」
「待って私が一人で、あかね君は下がっていて」
「聞けません。撃たせない、なのはにもあの子にも!」
 すでに戦闘が開始されたこの場で言い合う二人を見て、チャンスだと女の子がバルディッシュを真下に向けた。
「Full auto fire」
 バルディッシュに集められた魔力が放電しながら集束し、撃ち放たれた。
 目の前を一色に染められてしまうほどの砲撃量に逃げ場は見られなかった。
 避けることが出来ないのなら、受け止めるしかない。
 もとよりそのつもりだとあかねは両手を空へと向けた。
「Wide area protection」
 なのはだけでなく、無駄に辺り一面包み込む防御魔法が展開された。
 一撃とて受け止め漏らさないように、展開されたそれへと女の子の砲撃魔法が着弾していく。
 解ってはいたことだがやはり一撃が重いと、あかねの額に汗が浮かぶ。
「あかね君、やっぱり見てられないよ。レイジングハート」
「Devine」
「なのは!」
「Amplify brother」
「Buster」
 なのはの最大出力の砲撃魔法が空を貫き、落ちてくる砲撃をなぎ払う。
 多少の撃ちもらしが地面に穴を開け土煙を巻き上げたことで若干なのはの視界を奪っていた。
 女の子の魔力を感に撃ったが当たったであろうかと、なのはが空を見上げる。
 月が照らす空の上に一点、月明かりを曇らせる煙が見えた。
 当たったのだろうかと目を凝らしたなのはは見てしまった。
 女の子の前で防御魔法を使ってなのはの渾身の砲撃を防いだあかねの姿を。
 だが間に合うはずがない。
 あかねの飛翔魔法は最高速度が高い代わりにスピードが出るまでに時間がかかるはずである。
 砲撃を放つその時に自分の隣にいたあかねが、女の子を砲撃から守れるはずがない。
「自分の大きな魔力で自分の視界を狭めて見えなかっただけ。この子は、貴方の砲撃が放たれるその一瞬で貴方の前に飛び出した。そして」
 女の子の前に立っていたあかねの防御魔法が消え、その体がぐらりと傾いた。
「あかね君!」
「Flier fin」
 受け止めようと地面すれすれを飛んだなのはが追いつくよりも先に、あの女の子があかねの腕をとって落下を食い止めた。
 そのまま地面まで降ろし、向かってくるなのはへとバルディッシュを向けた。
 思わず足を止めたなのはは、あかねの惨状に気付いて口元を手で覆った。
 あかねは全身から煙を上げ、本来あかねを守るはずのバリアジャケットも焦げ目や破けた後がそこかしこに見られた。
 いくら防御魔法が得意と入ってもさすがに至近距離でのなのはの砲撃は受け止め切れなかった様だった。
「まだ、やる?」
 問われ、反射的にレイジングハートを構えたなのはであったが、その手は震えていた。
 人を撃った事が、人の意識を刈り取るほどに巨大な力を放つ事の出来る魔法が怖かった。
 そしてそれを躊躇なく行使した自分が一番怖かった。
 目の前で女の子がバルディッシュを掲げてさえいなければ泣いてしまいたかった。
 レイジングハートを放り出して、倒れているあかねに縋りつきたかった。
「Stop girls」
 二人の緊張間に割り込んだのは、ゴールデンサンの声であった。
「The act of trampling down brother's feelings cannot be permitted」
「え、なに?」
「許さない。この子の気持ちを踏みにじる行為は許さない」
 意味が理解できなかったなのはの代わりに、女の子がゴールデンサンの言葉を解釈してくれた。
 なのはが思い出したのは、ここに来る前に喧嘩であかねが言い放った台詞であった。
 撃ってはいけない、戦ってはいけない。
 ゆっくりとレイジングハートを下げるなのはであったが、女の子はバルディッシュを下げはしなかった。
「でも私には関係ない」
「Gives it. Stand away」
 ゴールデンサンの宝玉から、ジュエルシードが一つ解放された。
「わかった。ご主人に似て強情だけど、少しだけ貴方の方が大人だね」
「No, Master. We are brother」
「アルフ」
 ゴールデンサンの言葉に若干の笑みを見せた女の子はジュエルシードを掴みその手におさめた。
 それから誰かの名を呼ぶと、ユーノに強制転移させられていた狼が戻ってきた。
 アルフは彼女の名前らしく、茂みから飛び出し再び人型となって女の子の隣に並ぶ。
「見てたけど、あれは戦いなんてもんじゃなかったね。特にコイツ、砲撃の前に飛び出すなんて馬鹿?」
「アルフ、やめて」
 あかねを足で突いていたアルフを女の子が叱る。
「何もしやしないよ。良く解らないけど、アタシのご主人を守ってくれたんだから。石っころ、起きたら坊やに伝えておいて。私の名前はアルフ、ご主人の名前はフェイト」
「Tell it from your mouth」
「む、偉そうな石っころだね」
「アルフ」
「はいはーい」
 今度こそフェイトという名らしき少女は、使い魔のアルフを伴って夜の空へと消えていった。
 元々の動揺に加え、目まぐるしくかわる状況になのははしばらく呆然としていた。
 そのなのはを動かしたのは、森の中から戻ってきたユーノの声であった。
「なのは、あかねは!」
「そ、そうだ。あかね君!」
 あかねに駆け寄ると、改めて己の力の凄さを実感されられたなのはであった。
 肉体的な損傷はないものの、あかねはうめき声一つ上げておらず、バリアジャケットもその大半が燃え尽きたように消えていた。
 あかねが必死に自分を止めようとした理由がわかった気がした。
「なのは、がんばってあかねを背負える? 布団に寝かせてから、僕が回復魔法をかけるから」
「大丈夫、できるよ」
 ゴールデンサンにあかねの変身をとかせ、四苦八苦しながら力のないあかねを背負う。
 自分と背丈は変わらないが、ずっしりとした重みが背中に掛かってくる。
 その重みさえ最初から知っていれば、あかねが伝えようとしたこともすぐに理解できたはずであった。
 だがと、なのはは空を駆けながら思う。
 自分の力は危険だけれども、あかねのやろうとした事はそれ以上に危険であった。
 あかねの優しさから来る行動は酷くあかね自身を傷つける。
(確かに私は私の力が少し怖い。でも、あかね君が傷つくのはもっと怖い。だからあの子、フェイトちゃんとは私が戦わなくちゃいけない。それに、フェイトちゃんはちゃんと知ってるのかな? 人を撃つ事がこんなにも心が痛い事だって)
 あかねの想いとは裏腹になのははフェイトと戦う事を選び、同時にフェイト自身の事も気にかけていた。

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