アインに悪意はなくても、巨大化してしまった体は明らかに危険なものであった。 今もアインにじゃれつかれようとしているあかねは思い切り逃げ回っており、一度捕まれば危ないではすまない。 こすり付けられる鼻先ですりつぶされるか、叩きつけられた猫パンチで煎餅の如くぺしゃんこにされるか。 そうならない為にもアインをとめなければならないのだが、その方法は二種類しかない。 攻撃で怯ませるか、防御で受けとめるか。 どちらも大小の差はあれ、アインがダメージを受けてしまう点で、あかねは選択することが出来なかった。 「とりあえず、なのはが来たら僕がアインの気を引いて、その間に封印してもらうしか」 本当はすぐそこまで着ていたなのはとユーノが唖然としているのだが、逃げ回るのに必死なあかねは気付いていなかった。 何時まで自分の体が持つだろうか、増幅魔法が切れ始めた足はガクガクと震え始めていた。 刹那、あかねの肌がピリピリとざわめいた。 違和感の正体がつかめないまま閃光が駆け抜け、アインを貫いていた。 ぐらりと体を揺らしたアインが、悲鳴をあげながら躓いて転ぶ。 なのはの射撃に似ていたが閃光の色は金色、まるで電撃のようなそれが放たれた先へと視線を向ける。 かなり遠い場所からの狙撃であった。 森を潜り抜けた向こう、すずかの家の敷地を出たさらに先の電柱の上、そこに少女が立っていた。 流れるような金糸を両側でくくり、杖からマントまで一切を黒で覆った少女であった。 「バルディッシュ、フォトンランサー電撃」 「Photon lancer. Full auto fire」 なのはと同じような杖を持った少女の口が動き、デバイスが宝玉を明暗させ応えていた。 またあの砲撃が来ると、あかねは倒れこんだアインの前に躍り出た。 「Be careful、Brother. Her bombardment is strong. Jet flier」 相変わらずゴールデンサンの言葉の意味は理解できていなかったが、それが注意だとはなんとなく解った。 彼女自身が集めた魔力の影で姿が見えなくなり、やがてその集められた魔力が放出された。 なのはの一撃必殺系の砲撃とは違う、手数を揃えた乱れ撃ちであった。 コートから噴出した炎によって体を浮かせたあかねは、両手を突き出しアインを守るように立ちふさがる。 「Wide area protection」 アインごと防御の幕で包み込み、全ての砲撃を受け止める。 一撃、また一撃と終わることのない砲撃が続くが、その一撃、一撃が重い。 しかも正確にアインに直撃するコースを辿っていた。 「くっ、ゴールデンサンこのままじゃ持たない。同時に魔力を増幅してください」 「Amplify magical」 防御魔法の上から魔力増幅を重ね掛けして、強化をはかる。 プロテクションの厚みが増していき、一撃受けるたびの衝撃が随分和らいで行く。 この調子ならと思った所で、唐突に砲撃の乱れ撃ちが止んだ。 撃ちすぎによる魔力不足にでも陥ったのか、それとも諦めたのかとあかねは防御魔法を解いた。 「みぃ」 「大丈夫、アインは僕がまも」 不安そうに脅えたアインへと振り返った瞬間、何かが自分の横を通り過ぎた。 止んだはずの砲撃がアインに直撃して弾けていた。 一度砲撃を止ませたのは、強化した防御魔法を解かせるためだったのだ。 見事に思惑に乗ってしまったあかねは防御魔法を再開するが、それまでの間にアインに数発の砲撃魔法が直撃してしまっていた。 今度こそ衝撃を受けてアインが倒れこんでしまい、悲鳴の続きもあげられることはなかった。 アインの足を止める事が目的だったのか、気がつけば砲撃は収まっていた。 「ごめんなさい、お待たせあかね君」 靴から羽を生み出したなのはが、空を飛んで一気に駆けつけてきた。 あかねはそんななのはの声が届いていないかのように、倒れて気絶したアインをずっと見ていた。 手を強く握り締め、ゴールデンサンのグローブがギチリと音を立てる。 あかねやなのはが目をそらした隙に砲撃を放った少女も、空を飛び近くの木の枝の上にその足を止めていた。 「支援型は敵じゃない。もう一人は未知数だけど、おそらくは私と同系の魔導師」 砲撃の主が自分と同じぐらいの年の頃の少女だと気付いて、なのはが少しうろたえていた。 「ロストロギアの探索者か」 少女の再びの呟きを聞いて、近くの茂みに隠れていたユーノがハッと声をあげた。 「間違いない、僕と同じ世界の住人。そしてこの子ジュエルシードの正体を……」 思わず声をあげてしまったユーノの位置も目ざとく確認した少女は、なのはの持つレイジングハートへと注目した。 一人一人の戦力を予想して把握し、障害となるならば排除するつもりなのだろう。 「バルディッシュと同系のインテリジェントデバイス」 「バルディッシュ?」 その名は少女が持つ斧に似た形をするデバイスの名であった。 「ロストロギア、ジュエルシードを」 「Scythe form. Set up」 バルディッシュの声の後に少女が杖を振るうと、刃の部分が九十度傾いていった。 刃だと思っていた部分はただの装飾部分だったらしく、その下から三日月形の刃が生み出された。 魔力の刃を得て、大きな鎌となったバルディッシュを少女が構えた。 これまでのジュエルシードを取り込んだ動物とは種類の違う迫力になのはが後ずさり息を呑んだ。 殺気だけならこれまでの相手の方がすごかったが、表現できない凄みは目の前の女の子の方が上のように感じた。 「申し訳ないけど、頂いていきます」 少女が立っていた木の枝を蹴りつけ、飛翔魔法を加えて加速した。 「言いたい事は、それだけか!」 「Round shield」 大鎌を振りかぶり向かってくる少女へと、振り向きざまにあかねが右の拳を突き出していた。 バルディッシュの刃とゴールデンサンの盾がぶつかり合い火花を散らす。 単純な攻撃力で言えば直接攻撃の方が砲撃よりも威力がたかいはずなのに、受け止められた事で少女の瞳が揺れた。 その少女の目の前に左手を突き出したあかねは、あれ以来一度として口にしていない言葉を口にした。 「貫け、光の刃!」 「Error. Shine Knife is fails」 やっぱりかと歯噛みし、まさかこうもあからさまな失敗魔法を見せられるとはと驚いている少女を睨みつける。 原因不明のエラーは相変わらずで、他の方法はと考えをめぐらし一つだけ方法を思いつく。 先日、一つのビルを食い破りつきぬけた方法である。 「だったら、突っ込むまでだ!」 「Change to protection. Jet flier」 「あかね君!」 盾から球体状の防御魔法へと変化させたあかねは、そのままの状態でコートから炎を吹き出し加速した。 地面を削りながら少女を巻き込んで押し流し、押しつぶしていく。 考えたこともないような出鱈目な行動に戸惑いながらも、少女は的確な行動を行っていた。 このままでは木がへし折れるほどの勢いで叩きつけられると、バルディッシュを真下へ向ける。 「バ、バルディッシュ」 「Yes sir. Device form. Foton lancer」 刃を閉じたバルディッシュから高出力のフォトンランサーを撃ち放たれる。 すぐに地面とぶつかったフォトンランサーが弾け真下から少女を押し上げた。 後は魔力の流れにのるだけで少女は体当たりからすり抜け、あかねは目標を失ったまま突き進むしかなかった。 案の定、あかねは自分一人で大きな木に体当たりするはめとなった。 防御魔法を纏った体当たりはそれなりの威力を発揮したようで、大きな木が見事にへし折れて倒れていった。 馬鹿みたいな攻撃だが迂闊には受けられないと少女はバルディッシュを向け、あかねは息を乱しながら振り返る。 その目はまだぎらついており、重度の興奮から脱してはいなかった。 「どうして、どうして撃った。アインは、まだ子猫なのに。再来週には貰われていって、新しい里親のもとで」 興奮しすぎて思わずあかねの瞳から大粒の涙が零れ落ちていた。 そんなアインを容赦なく撃った少女も許せなければ、守れなかった自分にもっと腹が立っていた。 気付いてすぐに拭うと、思わぬ言葉が投げつけられた。 「ごめんなさい」 とても小さく、囁くような声に一瞬聞き間違いとも思えた。 「謝るな。謝らないで、くそ。謝らないでくださいよ!」 怒りが誘った興奮が動揺へと変わっていっていた。 謝罪が本心だと直感できたからだ。 言葉遣いが平時のそれへと戻っていくと、なのはの声が念話で届いてきた。 『あかね君、聞こえる? 聞こえたら返事をして!』 『はい……先ほどようやく正気に戻りました。手短にお願いします』 『ユーノ君が今のうちにジュエルシードを封印した方が良いっていうから。あかね君、もう少しだけその子をひきつけておいて。それとアインはちゃんと息してるから、良く解らないけど非殺傷設定だとかで』 非殺傷設定と聞いて思い出したのは、相手を肉体的には傷つけず精神を攻撃することだと教えられたのを憶えている。 もちろん威力が強すぎれば過度に衰弱して危険だが、そこまでの高出力はなかなか得られないはずだ。 大きな勘違いであった。 アインを攻撃されて激昂したあげく、その可能性を忘れてしまっていた。 むしろ見方によっては少女は大きな体で甘えようとするアインから、救い出してくれたようなものだ。 「こちらこそ、申し訳ありませんでした」 ぺこりと頭を下げると、少女の方も驚いている様子であった。 「非殺傷設定の事を忘れていました。だけど、アインを撃ったことに関して全部が全部許せるわけではありません」 「Scyth form」 「うん。私も訂正する。貴方は少しだけ厄介な相手。おそらくはさっきの子が攻撃型の魔導師で、貴方があらゆる面からサポートを」 少女が再びバルディッシュから刃を生み出すと同時に何かに気付いた。 慎重に辺りを見渡してすぐに、アインが居るであろう方向へと勢い良く振り返った。 周りになのはの姿も、ユーノの姿もないとわかりその意図を察したのだろう。 気付かれるのが早すぎると、あかねが動くより先に地面を蹴って空へと飛びあがる。 「やられた。急がないと」 「待ってください!」 「Jet flier」 少女が飛ぶ後をあかねもすぐに追いかけた。 アインが居た場所から距離にして百メートルと少しぐらいしか離れていない。 その距離の短さは加速を続けることで速さを上げていくタイプの飛行であるあかねにとって不利であった。 少女の飛行は初速から最大速度を出すタイプらしく、飛び出した直後のスピードは明らかに少女の方が速かった。 『なのは、急いでください。バレました!』 『も、もうなの?!』 あの子が居ないうちにこっそり封印する作戦がばれた事を聞いてなのはの焦った声が返ってくる。 僅か目と鼻の先で封印の時に現れる閃光が空を突き抜けていった。 なのはが封印を行う際に現れる桃色の光である。 少女の位置からも封印の光だけでなく、なのはの姿が確実に見えていたはずだ。 あとはレイジングハートに取り込んでさえしてしまえばと言う所で、少女がバルディッシュをなのはへと向けた。 「バルディッシュ、もう一度フォトンランサー」 「Foton lancer」 ぞくりと嫌な汗が浮き出るのをあかねは感じた。 「やめてください、なのはは。なのはは!」 おいつかないとわかっていても、それを止めようとあかねは手を伸ばしていた。 だが無常にもバルディッシュの声が響いた。 「Fire」 撃ち放たれた光弾が、空からなのはへと向けて落ちていった。 直撃しもうもうと土煙を上げる様を見て、あかねは飛行の足を止めてしまっていた。 いくら非殺傷設定だとわかってはいても、実際になのはが撃たれる様を見て動揺しないはずがない。 その間に少女はなのはが封印したジュエルシードをその手に掠め取り、逃げるようにその場から移動していった。 少女の動きに違和感を感じたあかねは、土煙が晴れた時にその理由を知った。 「び、びっくりした。ありがとう、レイジングハート」 「No ploblem. But jewel seed deprived」 フォトンランサーを打ち込まれたなのはは、レイジングハートの防御魔法でしっかりと守られていたのだ。 それだけに留まらず、レイジングハートの形態を変えて少女に突きつけた。 「Shooting mode. Devine buster. Set up」 「お願い、それを返して。それはとっても危ないものだから、きちんとした場所に返さなきゃいけないの」 「危険なのは知ってる。でも、返せない。必要だから」 「なのは!」 無事だと知って駆け寄ってくるあかねを見て、少女がこれ以上はと退く素振りを見せた。 「待って、どうして必要なの? ジュエルシードを集めてどうするの?」 「教えても意味がない」 その言葉を最後に、少女の姿は消えた。 追おうにも短距離での彼女の移動速度には叶わず、初動が遅れた今、見失ったも同然であった。 なのはが変身を解くと、同じく変身を解いたあかねが駆け寄ってくる。 「とられちゃったね」 悔しそうに言ったなのはの両肩を、必死の形相のあかねが掴んだ。 あまりのあかねの勢いに退こうとしたが、がっちり肩をつかまれてかなわなかった。 「大丈夫ですか、怪我していませんか。痛かったら、苦しい所があったらすぐに言ってください!」 「あうあうあう」 「あかね、そんなに揺らしたらなのはも答えられないよ」 茂みから出てきたユーノが諌めるも、あかねはなのはを揺さぶることをやめなかった。 ぐらぐらと揺さぶられ続けたなのはは、そのうちに目を回し出しまともに立てないほどであった。 こんなに取り乱したあかねは初めてだと、大人しく言葉で諌めていたユーノが最後の手段として噛み付くまであかねの暴走は続いた。 それだけ心配していたということなのだろうが、少しやりすぎであった。 ユーノに噛まれた首筋を押さえながら、あかねは座り込んでいるなのはへと顔を覗き込んで聞いた。 「申し訳ないです、改めて聞きますけれど大丈夫ですか?」 「ちょっと頭がくらくらするけど、大丈夫。レイジングハートが守ってくれたから」 そのくらくらもあかねが与えたダメージであり、あの少女との激突のなかではほとんど無傷ということである。 「そうだよ、なのは防御魔法がちゃんと使えるようになったんだね。あかねは相変わらず攻撃魔法が使えないけど」 「これで欠陥魔導師は僕だけ……というか、カッとなって僕はなんて危険な真似を。ビルさえ突き抜ける方法で女の子を……」 ずんと落ち込んだ様子を見せたあかねを見て、もしかしてとユーノは一つの可能性を考えた。 それは二人がコレまで、あかねは今もだが攻撃と防御どちらかしか出来なかったわけである。 先に発覚したのは、あかねが攻撃魔法を使えないと言う事実であった。 これは単純にあかねの性格から来る心因性のものなのではないのかという結論である。 誰かを守るということを人一倍気にするあかねは、根本的に誰かを攻撃するという考えが欠如している。 今回はたまたまぶち切れ状態となってあの少女へと遠回りな手を使って攻撃を行ったが。 ぶち切れ状態でさえ遠回りな手を使ってようやく攻撃できたと考えると、その根が深いことも想像できる。 魔法は確立された一つの技術と言っても、まだまだ不明瞭な心という部分に密接に絡んだ技術でもある。 ゆえにこの仮説が全く当ての外れたものだとも思えない。 さらになのはが防御魔法を使えなかった理由は、あかねが攻撃魔法を使えなかったことに絡んでくる。 あかねが攻撃を行えないということを聞いて、なのははだったら自分が攻撃魔法を担当して一緒に戦えばと思ったことだろう。 それがなのはが防御魔法を使えなくなった心因性の原因であったと思われる。 あかねよりは若干理由が浅く、一応は防御魔法を発動するまでにいたっていたとすればつじつまがあう。 (そして今回なのはが防御魔法が使えるようになったのは、なのはが魔導師として一つの壁を越えようとしたから。多分前回のジュエルシードの時に、なのはは自分が欠陥魔導師である事へ不満を抱き、一人前になろうと一歩を踏み出した) だがあくまでそれはユーノの個人的な考えであり、専門家でもない限りは解らないことだろう。 だからユーノは改めて二人にそのことを告げるつもりもなかった。 魔導師となってから日が浅いとは言え、二人は十分に強い。 特にちゃんとコンビネーションを発揮すれば、あの少女を十分に上回ることも可能なはずだからだ。 「ユーノさん、あの子また来ますよね? ジュエルシードのある場所に」 「多分、彼女もジュエルシードを集めているようだから。本当に理解しているんだろうか、アレが危険なものだって」 「あの子綺麗な目をしてたから、あの子の言葉は嘘じゃないと思う。ちゃんと解った上で、どうしても必要だから集めてるんだと思う」 確信めいてなのはが呟くと、あかねも少しだけぶつかり合った女の子を思い出した。 自分と似た色の魔力を持ち、ちゃんと人の激昂に謝罪ができて、強さと儚さが同居した感じを受ける女の子。 いつも頭に響く声で助けを乞われたわけではなかったが、なんとなく助けてあげたいと思うあかねであった。 もちろんジュエルシードは渡せないが、自分に出来る限りの力で。 「そろそろ戻ろう。あまり遅くなるとあの子たちも心配するから」 「そうだね」 「あ、なのはは動かないでください」 「え?」 座り込んでいたなのはが立ち上がろうとすると、あかねが目の前に手を出して止めた。 何故と首を傾げるなのはへと、あかねは気絶しているアインを拾って手渡した。 そしてなのはに背を向けてしゃがみ込んだ。 「なに、えっと」 「なのはを僕が背負います。頭がくらくらするんでしょう?」 「も、もう大丈夫だよ。全然平気、そもそもアレは」 「背負います、早くしてください」 有無を言わせぬ声とはこういうものなんだろうなと思いながら、なのはは諦めてあかねにおぶさることにした。 あかねの背中と自分の胸の間にアインを抱えると、あかねが危なげなくなのはを背負い立ち上がる。 自分の体重の事を考え、けっこう力持ちさんだと思ったなのはだが見てしまった。 あかねの腕と足に増幅の魔法が掛かっていることを。 なんと言うか、顔が思い切り引きつるのが自分でわかった瞬間であった。 「あかね君、増幅魔法をきってくれないかな、なんて」 「この方が楽なのですが、最近使用後の筋肉痛もなくなってきて僕は平気です」 (そのぶん、私の心が大ダメージだよ) 色々間違えてはいるが自分の事を思ってくれて背負うと言い出したあかねを責めるに責められず、心で泣いたなのはであった。 この時はあかねの増幅魔法を見たショックで思いつくことがなかったのだが、さらになのはを追い詰める出来事がこの後待っていた。 背負われたまま戻ってきたなのはを見て、すずかとアリサが大騒ぎをしたのだ。 「なのは、一体なんであかねにおぶさって、怪我でもしたわけ!」 「怪我?! 大変、ファリン薬箱を持ってきて」 言い訳なんて考えてなかったとなのはが困っていると、任せろとばかりにあかねが少し振り向いて目で伝えてきた。 「実は森の中でアインとユーノさんがばったり出くわしてしまって、また追いかけっこを始めてしまったんです。取り押さえようとしたは良かったのですが、どんくさいことにユーノさんを追いかけていてなのはが転んだんです。幸いたいした怪我はありませんでしたが」 「ど、どんくさい……」 『嘘をつくにはリアリティが必要です』 『どんくさいはいらないリアリティだよ!』 『でも、二人とも信じてるみたいだよ』 『え?!』 ユーノの念話に驚いたなのはが、二人に目を向けると本当に信じている様子であった。 すずかはそうだったんだと何処かほっとし、アリサは腰に両手を当ててあきれるように言った。 「まったく、相変わらずなんだからなのはは」 「うう、ごめん……」 あっさり信じられてしまい、落ち込んだなのはは見事なリアリティをかもし出していた。 本当に転んでしまった自分をなさけなく思っているように見えた。 違った意味でなのはが落ち込んでいると救急箱を持ってきたファリンが、恭也と忍、ノエルまで連れてきてしまった。 特に部屋で楽しんでいたであろう恭也と忍を呼びつける結果となってしまい、さらに気に病む事になったなのはであった。
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