悠久幻想曲  月と太陽と

 

                       アスカ(光)とシャドウ(影)

 

                     名前は正反対なのに似てる二人

 

                外見だけじゃなくてもっと人の本質みたいなものが

 

                   アタシは学がないからうまくいえないけど

 

                          体より心、心より魂

 

                       詩人にはなれそうも無いね

 

                         ーリサ・メッカーノー

 

            第七話 新装開店
 
 
「新装開店って、普通客が増えるもんだけど・・」
アレフ達が店を手伝うと言い出した次の日の朝、アスカは朝食後のお茶を飲みながら、みんなのシフト表と仕事の依
頼書を両手にとって見ている。
今日の依頼はアクセサリーへの宝石(偽者)付けと、マーシャル武器店での店番および武具の整理。
「減ってるなぁ。」
予想の範囲内だが、少ないいつもは少なくて六、七件の依頼があるやはり事件のことが響いてるらしい。
「弱気になっちゃダメよ、アスカ君。依頼があるってことは、アスカ君を信じてる人がいる証拠だもの。」
「弱気は敗北の始まりッス。」
朝食の後片付けが終わったのか、エプロンで手を拭きながらアリサがテーブルに近づく。
テディはアリサの頭の上にちょこんと乗っている。
「弱気には、なってないんだけど・・」
そう言いつつ、アスカは弱気な声を出していたのか自問自答する。
仕事が少なければ、その分自分の好きなことができる。むしろアスカには好都合だった。
「仕事が少ない方が、やることが増えるってのもどういうことだ?」
完全な独り言だったのだが、ポロっと口から出ていたらしい。
アリサとテディは意味がわからずに首をかしげている。
「独り言です。さぁ〜、仕事だ仕事。」
そう言ってアスカがいすから立ち上がった時、玄関が開き複数の挨拶が奏でられた。
「「「「おはようございます。」」」」
 
「あんまり意味無いけど、一応点呼とるぞ。」
口では一応と言うが、ソレは嘘で声の調子から体調を知るのがアスカの目的である。
「シーラ。」
「はい。」
「マリア。」
「は〜い☆」
「エル。」
「ああ。」
「リサ。」
「はいはい。」
声だけで全てわかるわけではないが、体調不良者もいなさそうなので依頼書の紙をそれぞれの担当に配る。
担当はシーラ、マリア、エルがマーシャル武器店へ、リサとアスカがアクセサリー。
アスカには考え合っての配役なのだが・・
「ちょっと、坊や。これっておもいっきりミスキャストじゃないのかい?」
「ぶ〜☆なんでマリアがエルと一緒なのよ!」
「アタシもこんな爆発娘とは、嫌だね。」
非難ごうごうである。
シーラだけは文句が無いのか、3人からは離れこれ幸い(?)にアスカのそばによっている。
「あーもぅ、文句は一人ずつ言えよ。」
いちいち説明したくは無いのだが、納得してもらえなければ仕事もしてくれなさそうなので諦める。
「とりあえず、今日は初日なんだ。シーラとマリアには仕事の辛さを知ってもらうためにあえて体力系、エ
ルは元々の仕事先だからそのフォローだ。リサには悪いが、消去法で細々とした作業にまわって貰った。」
他にまだ言いたい事はあるかと三人を見るが、一応は納得したようだ。
一応であってマリアあたりは、また後で何か言ってきそうだ。
「愚痴は後でいくらでも聞いてやるから、仕事場へGO!」
GOの言葉と同時にマーシャル武器店の方向を指差すと、何故かマリアとエルはほぼ全速力に近いスピードで走り出
した。
「マリアちゃんも、エルさんも待って〜」
慌ててシーラも走り出すが、二人ははるかに先を走っている。
「ライバルってやつか?」
「当たらずとも遠からず、じゃないかい?」
アスカとリサの呟きは、マリアとエルの起こした砂煙にまぎれ消えていった。
 
チマチマチマチマ。
チマチマチマチマ、チマチマチマチマ。
チマチマチマチマ、チマチマチマチマ、チマチマチマチマ。
ポロッ・・カツーン、コロコロポテ。
沈黙の中アクセサリー造りを進めるリサの手から、イミテーションの宝石が机の上に零れ落ちる。
「やっぱり納得できない。と言うか無理!私にこんな細かい作業は、向いてない!!」
「叫ぶ暇あったら、手動かしたほうがいいぞ。まだダンボールに三箱あるからな。」
今日すでに五回目になるリサの必死の叫びも、アスカ相手では効果が薄い。
実際アスカは喋りながらも、リサとは比べ物にならない速さでイミテーションを所定の位置に固定している。
「そもそも、私は傭兵だよ。それがこんな内職みたいなこと・・クソッ!」
すでに始めて二時間半ちょいだが相当イライラがたまってるらしく、また手元から机に転がり落ちたイミテーション
に悪態をつく。
「内職って・・ほとんどその通りだけど。どんな仕事がしたいんだ?」
「別に仕事を差別するつもりは無いよ。でもせめて体力系、できればモンスター退治ってとこだね!」
喋っていたせいか台詞の最後のところで、再びイミテーションを落とし今度は机ではなく床の上に落としてしまう。
アスカはため息をつきながら、自分の足元まで転がってきたイミテーションを拾い上げる。
「不器用で悪かったね、坊や。」
リサに睨まれても、気にすることなくイミテーションを渡す。
「そっちじゃなくて、モンスター退治。」
「どういう事だい?」
「昨日も言ったけど、危ないことはさせない。だからモンスター退治は受けない。」
「坊や、あんた私をなめてんのかい?」
アスカはあたりまえのことを言っただけなのだが、リサにとっては聞き捨てなら無かったのか再び睨まれた。
別にアスカはリサが弱いといってるわけでもない。当然だが、強くても危ないことに変わりは無い。
「あ〜もぅ、怒んなよ。別にリサが個人的に自警団からでも仕事とるなら邪魔はしないけど、ジョートショップとし
ては一切受けないって言ってるだけ。」
「なんでだい?モンスター退治は実入りもいいし、住民の受けもいいんだよ。」
なんだか、どんどん質問攻めにあっていきそうな雰囲気になってきた。
アスカにとってはめんどくさい事この上ないが、納得してもらえなければ作業を続行してもらえそうに無い。
実際、リサの手元の作業は先ほどから止まりっぱなしである。
「金は他に当てがあるから、みんなのバイト代を払っていければそれでいいし。再審請求までの仮釈放は一年もある
んだ。それだけあれば十万G稼げる。」
アスカがそれを知ったのはごく最近だが、人と言うのは隠されれば知りたくなるもの。
ある程度のことさえ喋ってしまえば、たとえそれが本心でなくても相手には納得してもらえ、追求されない。
「わかったよ。もう、モンスター退治のことは言わないよ。それで当てってのはなんだい?」
「錬「アスカ君、マリアちゃんが大変なの!」
アスカの返答は、息を切らせてジョートショップに飛び込んできたシーラの声によって遮られた。
 
 
説明すら受けずにマーシャル武器店に走った三人が見たものは、何故か刀を振り回しシャドウと格闘しているマリア
だった。
「あー!アスカなんとかしてよ〜。」
アスカ達に気づいたマリアが、涙声で叫んでくる。
顔はアスカ達に向けているのだが、そのままでシャドウに正確に斬り付けているさまは、すごく奇妙な光景だった。
「何とかと言われても・・・何やってんだ、お前等?」
「さあねぇ?」
リサがアスカの言葉に相づちを打つが、状況は一向に解らない。
「あ、エルさんこっちです。こっち。」
どうやら姿の見えなかったエルはマーシャルを呼びに行っていた様で、手を振るシーラの呼びかけに気づき近づいて
くる。
「コロシアムの試合が始まってたせいで、連れてくるのが遅れた。」
「ひどいアルヨ、エルさん。私の不敗神話が、途中棄権で終わってしまうだなんて。」
「それよりマーシャル、あの刀って何?なんか見てる限りでは呪われてるっぽいけど。」
マーシャルの不敗神話うんぬんはあっさり無視して、アスカは現状の確認を優先させる。
どのみち不敗神話は腐敗神話なのだから、誰も無視したことにはつっこまない。
「見たところ妖刀の様アルけど・・ウチの商品じゃないアル。刀でちょっと前に酷い目にあったから、刀はほとんど
処分したアルよ。」
仮にも主人なのでマーシャルの言葉は信用できる。よって刀を持ってきたもう一人の有力候補を呼ぶ。
「お〜い、シャドウ。何がどうなってるのか説明してくれ〜。」
どうもアスカの周りは時間の流れがゆるいのかのんびりしている感じを受けるが、マリアは既に半泣きどころか本気
(マジ)泣きが入り始めている。
「誰でも良いから、とめてぇ〜!」
「ちょっと、待ってろ!」
どっちに対していったのかは解らないが、叫ぶと同時にシャドウは横なぎにされた刀を大きくジャンプして避けた。
そのままアスカの近くに着地する。
「あれは元々、お前に持たせるために持ってきたんだが・・ここにお前がいなくて帰ろうとしたときに、あの嬢ちゃ
んが『これって妖刀じゃないの?見せて見せて〜☆』とか言って、封印破って刀抜きやがった。」
「あんなもん人に持たせようとすんなよ、バカたれ。んで・・また封、印できんのか?」
妖刀を持たせようとしたシャドウに悪態はつくものの、それよりも妖刀とわかっていて封印をといたマリアに呆れて
しまう。
「封印はできないことは無いが・・」
「は〜っはっはっは!無駄じゃ無駄じゃ〜、ワシの刃をかわしつつ封印など。悔しかろう!」
シャドウの声を遮って威張った声が響く。
よく見ると、刀のツバに顔らしきものが現れ喋っているようだ。
「戦争はまだ終わってはいないのだ。ワシがいる限り人斬りの時代は!おわら、痛ぁ!」
「この☆この☆何が戦争よ。半世紀も昔のこと、マリアには関係ないじゃない!」
「こらやめんか小娘!刃こぼれしたらどうする。」
どうやら喋りながら人の体を操るのができないのか、体の自由を取り戻したマリアにその辺の石にたたきつけられて
いる。
「え〜い、お喋りは終わうぉ!欠けたではないか!」
「ぶ〜☆まだマリアの気がす、あ〜、また体が勝手に!」
数回石にぶつけられ懲りたのか、喋るのをやめマリアの体を支配することに集中する刀。
そしてそのまま、マリアの体で自分を正眼にかまえさせる。
「とにかく、封印自体はできるんだ。時間を稼げ!」
そう言いつつシャドウは、マリアと刀・・シメ鯖丸のやり取りにあきれていたアスカを、斬りかかって来るマリアの
方に突き飛ばす。
アスカの文句は聞こえない振りをして、懐から出した紙切れに特殊な液で文字や記号を書き符を造りだした。
一方突き飛ばされたアスカは必死に刀の斬撃をかわし続ける。
「シャドウ早くしろ!あ〜、ちきしょう!」
アスカはちらりとリサやエルをみるが、マリア相手では援護ももらえない。
シャドウはいまだ札を造っているし、シーラやマーシャルには期待する事自体間違っている。
「くそ、マリアちょっと嫌な感触するけど我慢しろよ。」
これ以上避けつづけるのは無理と判断したアスカは、一歩踏み込んで上段から振り下ろされる予定の刀のツバ近くを
右手で掴んだ。
ツバ近くは切れ難いと言っても難いだけで、実際は切れるしさらに食い込む。
「アスカ君!」
シーラの悲鳴が聞こえたが、それどころではないぐらい痛い。
手が切れてなおかつ刃を握っているのだからあたりまえだが、離すわけにはいかない。
アスカであろうと誰であろうと、知り合いの女の子に辻斬りされたくはない。
「ア・・アスカ。」
「心配すんな。避けきれなくなって斬られるよりは、マシだ。」
自分の意志ではないとはいえ、自分の行為に顔色を青くしているマリアにフォローにもならない言葉をかける。
しかし、その間にも刃は少しずつ右手にくい込んでいる。
「シャドウ、まだか!」
アスカは普段声を荒げることは少ないが、右手の痛みに耐えかねて怒鳴る。
「もう少し・・後一枚・・・・・・よし!」
書きあがった八枚のうち、五枚をアスカとマリアの回りに置き星をかたどり、一枚は刀の鞘に貼り付ける。
「いくぞ、符術封魔五星陣!」
シャドウの言葉をキーワードに地面に置かれた札が輝き、互いを光の線で結び魔法陣が出来上がる。
魔方陣のおかげでシメ鯖丸の力が抑えられているはずなのだが、気のせいかシメ鯖丸の刃はどんどんアスカに近づい
てきている。
「なにやってんだい、坊や!」
「力が・・抜ける・・・」
「アスカ、冗談やってる場合じゃないよ!」
「アスカ君!」
いくつかの叱咤が飛ぶが、一方的に押されている。
言葉どおり力が抜けているらしく、このままではシメ鯖丸が力尽きる前にアスカが斬られてしまう。
「もう・・駄目だー!」
アスカの手が鍔元から離れた瞬間、シメ鯖丸は最後の力でマリアの腕を振りかぶらせそのまま振り下ろさせた。
その瞬間アスカは目をつぶり、他のものも目の前の惨劇から目をそらした。
しかし刃がアスカに届く前に飛び出したシャドウが、鞘で刃を受け止めた。
「終わりだ、シメ鯖丸。」
鞘で刃を受け止めたまま、残り二枚の札をすばやく貼り付ける。
シメ鯖丸は力を完全に失ったのか、操っていたマリアの手から零れ落ちガシャンと音を立てた。
「間一髪ってとこか・・右手斬れたけど。」
恐る恐る目を開けたアスカは右手の痛みに顔をしかめながらも座り込んで、安堵のため息をつく。
他の面々も騒動の収集にほっとする、一人を除いて。
「アスカ・・ごめんなさい、ごめんなさい・・ごめんなさい。」
呼ばれて顔を上げたアスカ我見たのは、正面に立っていたマリアが涙を流し謝り続ける姿だった。
「気にすんな、別にマリアのせいじゃない。」
ここで無理してても笑顔で言えばマリアもアスカに縋って泣けるのだが、いつもどおりぶっきらぼうに言うものだか
ら、マリアは泣き止むことも謝罪を止めることもできず泣き謝り続ける。
「馬鹿か、テメェは。」
アスカの態度に呆れたシャドウは、マリアの肩を掴んで無理やり自分のほうに振り向かせた。
そのままマリアのおでこに符を張ると、マリアはグッタリしたようにシャドウにもたれかかる。
「忘却の符だ。今から二,三時間の記憶は失せるから、変なトラウマにもならんだろ。」
グッタリしたマリアに駆け寄るリサ達を手で制して符の説明をすると、シャドウはマリアを抱き寄せ子供をあやすよ
うに頭を撫でてやる。
「やけに穏便にすすめるんだな。」
「今回のことは、俺にとっても不本意だ。俺とお前のことに極力他人は関わらせたくない・・利用はするがな。」
そう言うとシャドウはマリアをリサに預け、封印したシメ鯖丸を鞘に収めそれをアスカに投げてよこす。
「お前にやる、好きに使え。」
最小限のことだけ言うと、シャドウは振り向くことなくこの場を去っていく。
「アスカ君、大丈夫?手・・痛くない?」
シャドウとアスカの間に割り込めなかったのか、シャドウが去った途端にシーラが聞かなくても解るようなことを聞いてくる。焦っているのだろう。
「痛くないわけ無いけど、とりあえず応急処置だ。マーシャル、救急箱かしてくれ。最低限消毒ぐらいしてぇ。」
解ったアルと言ったマーシャルが、エルを引き連れて店の中に駆け込んでいく。
一人で行ってもよさそうだが、場所がわからないかそれとも奥のほうにしまい込んであるのか・・
病院へ直行したほうが早いかもしれない。
「それにしても、坊や。シャドウってのと知り合い見たいだけど、何者だい?事の張本人はアイツみたいだけど、マ
リアに対する態度を見た限りじゃ、悪い奴とも思えない。」
「俺も名前ぐらいしか知らないから、解らん。それより念のために、マリアを魔術師ギルドで診てもらってきてくれ。
記憶を消せても、後遺症があったら話しにならん。」
リサはシャドウについて納得したわけではないが、この場はマリアを優先させておぶって連れて行った。
意図したわけでもなくアスカとシーラとで二人きりになるが、あんなことがあった後でしかもアスカが右手から流血
していているので特に何もせず黙っている。
「ねえ、アスカ君・・」
痛みをまぎらわせる意味があるかどうかは知らないが、流した血を飲んだらまた血にならないかなと考えていた所にシーラが意を決したように喋りかけてくる。
「ん〜?」
「こんな怖いこと・・アスカ君が傷つくような事、もうないよね?」
「さあな〜。」っといつも通りぶっきらぼうに応えようとした瞬間「馬鹿かテメェは」と言うシャドウの言葉を思い
出す。
「そうだな。仕事でもモンスター退治はやんねえし、普通に過ごしてりゃもうねえよ。」
「本当に?」
「本当、痛いのは俺も嫌だからな。」
アスカの言葉でずっと青い顔をしていたシーラにわずかながら笑顔が戻る。
普通に過ごしていれば、確かに世間一般の普通で言えばアスカは傷つくこともなくやっていけるだろう。
しかしアスカは自分が普通にやっていけないことを知っている。
(まっ、嘘は言ってないよな。)
そこで出血のせいかアスカの意識は暗転した。