絶え間なく輝くわけではなく
一瞬、瞬きほどの一瞬だけ輝く
俺だけが知っている宝石
俺だけしか気づいていない宝石
親友と言う名の宝石
一アレフ・コールソン一
第4話 親友
□ 「アスカ君。急なんだけど、短期のバイトの子を紹介するわ。」朝食後、何故か外から戻ってきたアリサはお茶を飲んでいるアスカに話し掛けた。ニコニコしているアリサとは対照的に、アスカそしてテディでさえ聞いてなかったらしく呆けている。「はあ・・かまいませんけど、相談ぐらいしてください。」「そうッス、隠し事はなしッスよ。」テディはアリサに相談されなかったことが寂しかったのだが、アスカはただ単に必要ないと感じているからである。「ごめんなさいね、決まったのはさっきだから。」呆けた状態から再起動した二人は、アリサの台詞によって再度呆けさせられる。「もういいですから・・誰ですか?」「うぅ〜、ご主人様。」なんとか再再起動は果たしたがアスカはどこか諦めがはいっており、テディにいたっては涙眼であった。「二人ともよく知ってる人よ、さあ入ってきて。」ニコニコ顔からアリサには珍しく、いたずらが成功したような顔になると、玄関のドアの向こうに声をかける。「アレフ・コールソンでーす。」ドアから入ってきたのは、何故か右手を上げて自己主張しているアレフ・コールソンであった。アレフ的には和やかな雰囲気にもっていきたかったのだろうが、アスカとテディの眼差しはとても冷たくアスカの口から出た台詞は、「カエレ」の一言だけだった。 昼過ぎ、正午などの一般的に昼食をとる時間ではなく正真正銘昼の二時。アスカは“短期のバイト”のアレフを連れて、ラッシュの時間を避けサクラ亭に来ていた。「ぢがれたぁ〜。」机にうつぶせになってバテているのはアレフで、アスカはそんなアレフを無視して昼飯をたべている。「だ〜、・・お前よく飯なんか食えるな。」「腹、減ってるからな。」返ってきた答えはアレフの欲した答えとはずれていたが、アレフも気にはせず恨みがましくアスカをみている。アスカも特にアレフと会話する気もなく昼食を食べていると、昼を過ぎているため暇を持て余したのかパティと、同じく暇そうにしていたリサが近づいてきた。「坊や、何があったんだい?」「口に合わなくて悪かったわね。」リサはアレフの様子がおかしくて聞いてきただけだが、パティにはアレフの『よく飯なんか食えるな』が中途半端に聞こえていたのか少し怒っている。「口に合わないわけ無いだろ、愛は最高の調味料さ。」いつもならここでパティの手を握ろうとするのだが、体がついてゆかず微笑むだけで、今日はそれさえ力が無い。「別に、ただ引越しの手伝いしてただけだけど。」「アレの何処が『ただ』だよ。普通タンスの中身抜かずに、タンス運ぼうとするか?」「いちいち抜いてたらめんどくさいだろうが。」アレフは少なからず語尾が荒くなっているが、アスカはめんどくさそうにのらりくらりとかわしている。二人ともリサの問いかけには応えいないが、二人の言葉から大体のことはわかってきた。「でも、なんでアレフがアスカの手伝いなんかしてるのよ?」「バイト、理由はきいてないけどアリサさんがやとった。」リサとパティは驚いたが、バイトと言うことより理由を聞かないアスカの無頓着さに呆れた。「あんた、理由ぐらい聞いておきなさいよ。」「ん〜、そだな〜。」パティに言われてなんとなくアスカはアレフのほうをみると、何故か冷や汗を浮かべながらアレフは愛想笑いを浮かべている。「バイトってことは金が欲しい。アレフの場合使い道はファッションおよびデート、ファッションの場合工夫しだいで妥協できるから、・・妥協できないデートのほうかな。」アスカの推理に、愛想笑いを浮かべていたアレフは渇いた笑いをしていかにも図星ですといっている。「さて、そろそろ次いくぞ。」「げっ・・もういくのかよ。」アレフはアスカが席をたつのをみて嫌そうな顔をしたが、デートのためだと諦めて痛い身体を無理やり起こす。「パティ、金置いとくから。」「毎度、またどーぞ。アレフしっかり働きなさいよ。」「わかってるって・・よっ。」アスカから料金を受け取ったパティはぎこちなく歩くアレフに声をかけ、アレフもそれに応えるように身体をほぐしながら歩いていく。 「それで、次は何するんだ?」「嫌そうな顔すんな、力仕事じゃねーよ。屋根の修理。」さすがに午前の引越しには嫌気がさしたのか顔に出てしまったが、アスカの台詞にホッとしたその瞬間、二人の目の前を1匹の鴉が低空飛行で通り過ぎていく。「危ね〜。さっきまで気付かなかったけど、なんかやけに数おおくねえか?」アレフに言われて上を見てみるとたしかに多い・・多すぎる。建物の屋根にとまっているだけでなく、空を飛んでいるものもあわせて五十匹はこえている。そして気のせいか、二人を中心に集まっているように見える。「何時の間にって言いたいところだが・・アレフ鴉に恨みでもかったのか?」「鴉をナンパしたことはさすがにないな。」「そうか、なら偶然だないくぞ。」鴉に囲まれているという異常事態を偶然で済ますと、アスカはさっさと仕事場に行こうとするが、二人が移動しただけ鴉たちも移動するので偶然では済まされなくなった。どうしたものかと立ち止まると、同じく立ち止まったアレフの腰にある鍵束がチャリっとなる。「「あっ。」」二人同時に同じところをみて同じことを考えた瞬間、二人の視界は黒一色で染められた。「ぶわっ、なんだよこいつらアスカ!」「あ〜、めんどくせ〜。」「何、落ち着いてるんだよ。なんとかならいのか。」つつかれたりといった攻撃は無いが、タダでさえ鴉の集団に周りが見えないほど囲まれて、パニックにおちいるアレフを冷静なアスカが更にパニックにさせている。「なんとかしていいのか?」「いいにきまってるだろ!」アレフにせかされて、鴉の羽を吸い込まないように気をつけて息を思いっきり吸うと、 「静まれ!」 不特定多数の視界を埋め尽くす鴉に向かって叫ぶ。鴉に向かって叫ぶと言うある意味バカらしい行動にアレフは呆れたが、効果はあったらしく鴉たちはバラバラにではあるが森のほうへ帰っていく。「助かった・・のか?」「まぁ、被害が鍵束一つだしな。」安心したのもつかの間アスカの一言にアレフの顔が青ざめ、頭より先に体が動き始め鴉を追いかけ始める。「まてぇ〜!!俺の愛の結晶を返せ〜!!」土煙を上げながら全力疾走するアレフを見送りながら、アスカはポツリとつぶやく。「めんどくせ。」 「ぜ〜・・ぜ〜・・・愛の返せ・・・俺の結晶。」障害物の無い空を飛ぶ鴉を見失わないように追いかけたアレフの執念はすさまじいが、森の足場の悪さにさすがに息も絶え絶えである。「んで、・・鍵持った奴はどっちに行った?」反対に域の乱れが無いのは、何時の間にかアレフに追いついたアスカである。「あっちの方だけど・・なんで追いかけてきたんだ?」「ん〜、鍵束はどうでもいいんだが、さっきの鴉たち言葉が通じないほど興奮してたから何かあったんじゃないかと思ってな。」本当にどうでもよさそうな言い方だが、アレフには後半の台詞が気にかかった。「言葉って、動物の言葉がわかるのか?」「お前・・わからないのか?」『アスカ、普通の人間には一部の特殊なもの以外動物と話すことはできんのだ。』かみ合っていないようでかみ合っている会話に沈黙が訪れ、ブラッドの助け舟が出される。(そうなのか?・・・じゃあ、今までの俺の行動って変な人?)『犬に道聞いたり、鳥に歌を教えてもらっていてはな。』ちょこっとへこんだアスカだが、頭をすぐ切り替えて鴉を探す。「何処行っちゃったんだ、俺の鍵。」「おいアレフ、あそこの木にいる鴉がそうじゃないか?」アスカの指差した木の枝には、二人を待つように一羽の鴉がとまっている。「よーし、そこを動くなよ俺の鍵。」「すでに、鴉は目に映ってないな。」アレフが鴉が止まっている木に近づくと鴉は別の木に移り、その木に近づくとまた別の木に移りまるで二人を何処かへ導いているようである。「アレフ、あいつ俺らに着いてきて欲しいんじゃないのか?」「なに!俺の鍵束に意思が宿ったとでも言うのか?!」「いい加減に、鴉を写せよ!」とりあえず目覚めの一撃をアレフに加えると、ゆっくりと歩いて鴉についていく。しばらく歩いたその先にちょっとした広場みたいなものがあり、その中心に先ほどの鍵束を加えた鴉と森の動物たちが集まっていて、不思議な光景ではあったが。「アスカ・・これって魔法道具だよな?」「正確には、使用済みの魔法道具だな。」不法投棄されたらしき魔法道具が、全てをぶち壊していた。「つまり、君たち鴉は森の動物の代表みたいなものか・・やり方はあらっぽかったけど。」アスカが右腕を差し出すと、鴉は戸惑うことなくアスカの右腕に止まりアレフの鍵束を渡す。「カァーァー。」「ごめんね。もうみんなに迷惑をかけるようなことはしないから、僕たちを許してくれるかい?」普段は見せたことの無いやわらかい笑顔で鴉の頭をなで、すまなそうに動物たちに謝罪する。その時のアスカは、男のアレフが見ほれるほどの神々しさがあふれていた。「カァカァー。」「うん、約束は守るよ。」 どうせあんなずぼらな事をするのは公安あたりと見当をつけたアスカは、ゴミをまとめて公安の建物に放り込み事細かにエンフィールド新聞社に報告し、あとの判断は街全体にゆだねた。 カンカンっと釘と板を打つ音が、夜のエンフィールドの闇にすいこまれていく。「あ〜、・・なんで明日じゃ駄目なんだ?遅刻ったのは俺のせいじゃないのに、もう真っ暗だぞ。」『仕方あるまいどんな理由にせよ遅刻は遅刻、先に事情を説明しなかったお前の責任でもある。』「解ってても、納得できないことはあるぞ。」ブーたれてても手は動いており少しずつではあるが作業は進んでいく、っとそこへ屋根に登るために使ったはしごがガタガタゆれ誰かが登ってくる。「お〜い、アスカ。差し入れだぞ。」「お前、帰ったんじゃなかったのか?」登ってきたのはアレフで、片手にはバスケットが握られているためか、少し登り難そうではある。「遅刻の理由の半分は俺の鍵束だし、お礼だお礼」「俺は、何もしてねぇぞ。」「お前がいなきゃ、素直に鍵束返してくれたかわかんねぇだろ。」そう言ってアレフは、バスケットから水筒をだしお茶を差し出す。「ほらよ。それに『僕』なんていってる、珍しいアスカも見れたしな。」からかい100%のアレフの含み笑いにアスカの顔が赤く染まる。「忘れろ!お前は何も見てない、俺も何も行ってない!!」「お〜〜なんだよ、恥ずかしがるようなことでもないだろ。『僕たちを許してくれるかい?』なんつってな。」「忘れろって言ってるだろうが〜!」真っ赤になってアレフに詰め寄るアスカだが、今は何をしてもアレフのからかいの対象になり、アスカとアレフの二人だけの漫才は家主が注意にくるまで続いた。