悠久幻想曲  月と太陽と

 

居心地がいいのだここは

 

                     だがそのせいでアスカに迷惑が掛かっている

 

                       その証拠ともいえるのかシャドウの存在

 

私はここから離れるべきなのか

 

                             しかし今でなくとも

 

                          そう思うのは弱さなのだろうか

 

                              ーブラッドー

 
 
                                              
悠久幻想曲
 
              第十七話 四人の王
 
「ちょっとピート、飾り付けするならもっと均等にしなさいよ!」
「均等ってなんだ?」
「ああもう、メロディこんなときにお昼寝しないで。」
「パティちゃ〜ん、量とか味付けはこれぐらいかしら。」
「今行くから、ちょっと待ってて。」
シーラに呼ばれて表から厨房へと引っ込んでいこうとしたが、
「友達のための忙しさ、それは今限りの青春だ。良いねぇ〜。」
何のためにここに居るのか忙しそうにするパティをぼーっと見ていたホワイトは、メロディと違いパティのメガトン
パンチがもらえた。
「全く、なんでこいつが・・」
気を取り直して厨房へと向かう。
パティ一人が忙しそうだが、実はそんなことは無く全員が忙しいはずだ。
今日は前から決まっていた、日にちをずらしてのトリーシャの誕生会なのだ。
ただ、シャドウとアスカの入院によってさらに日にちはずれたが、
「うん、上出来上出来。うちにアルバイトに来て欲しいぐらい。」
「え・・そうかな。」
ほめられていやな気がするはず無く、シーラは喜び照れる。
料理に関してはアスカのためにと涙ぐましい努力があるのだが・・今回は関係ないので詳しいことは割愛。
「それじゃあ後は・・」
「パティ学校終わったよー☆」
「まだお手伝いできること残ってますか?」
表から聞こえたのはマリアとシェリルの声、おそらくクリスもその後ろにいるのだろう。
「パティさん、トリーシャさんは予定通りエルさんがここに来ないように連れ出してくれました。」
表に出るとクリスが現状を報告してくれる。
予定通りとは、実はトリーシャには誕生会を日をずらしてまで行うことは秘密なのだ。
貸切日が増えて店的には痛かったのだが、それはパティの胸のうちに留まっている。
「料理はできてるから、後は飾りつけでもしましょうか。」
店の中を見渡すと一応見た目は出来ているのだが、折り紙で作られた鎖が一部妙に垂れていたり紙の花は歪だった。
ピートとメロディに頼んだパティも悪いのだがアレフとリサはお菓子やケーキ他パーティ道具の調達、そして日をず
らす原因になった張本人二人は久しぶりに来た仕事に行っていた。
要は適材適所ができるほど人手がいなかったのだ。
 
 
「色んな物の買出し終わったぞ。」
「準備は終わってるかい?」
アレフとリサが帰ってきた頃にはすでに飾りの直しは終わっており、皆が近くのテーブルに固まって座っていた。
パティは二人にお帰りというと、荷物の置く場所を指示して二人にお茶を用意する。
「ってことは後はアスカとシャドウだけか。」
重たかったのかさっさと荷物を置いてくるとテーブルに着くアレフ。
「はい、お茶。」
「さんきゅ。」
お茶をテーブルに置き再び椅子に座る。
「それにしても、アスカの魂の欠片ってのは本当なのかね。」
「なによリサ、シャドウが嘘言ってるとでも言うの。」
ギロっと睨んできたマリアにやりにくいなあと思いつつ、違うといってやる。
「魂って概念はよく解らないから、双子って言ってくれた方がまだ納得するのさ。」
「確かに・・髪の毛の色とかは違うけど、目を隠してたバンダナ取ったらアスカそのものだったもんな。」
アレフがそれでさと話を続ける。
アスカとシャドウをネタに盛り上がっている中、パティは視線を皆からそらし一人考えこんでいた。
一応アスカからシャドウはフェニックス美術館の話を利用しただけで、あの時の連れという話も出鱈目だと言われた。
だがなんとなく感に引っかかるのだ、アスカはまだ何かシャドウに関して隠しているのではないかと。
「どうしたのパティちゃん?ぼ〜っとして。」
「ううん、なんでもない。」
そう?っと可愛らしく首をかしげる仕草ができるシーラを少しうらやましいと思いつつ、なるようにしかならないわ
ねと心の整理をつける。
それはアスカと知り合ってからパティが見につけた考え方であった。
 
 
 
一方その頃全治三ヶ月を三日で治したアスカとシャドウは、久しぶりに入った仕事をしていた。
ちなみに、そのことについてトーヤは人間かと呆れていた。
そしてその仕事の内容はカッセルじいさんの家の草刈なのだが、依頼料は無料だったりする。
「それでハメットってショート家の秘書が、独断で動いてるみたいだな。」
黙って草を刈るのも疲れるので、アスカはシャドウからフェニックス美術館の事件の詳しいことを聞いていた。
以前シャドウが連れと言ったのはそのショート家の秘書で、アリサに金を貸したのもそいつらしい。
どうやらある大規模な実験をするために清い土地が必要になり、その条件を満たしているのがジョートショップだと。
ただシャドウも詳しいことは聞かされておらず、憶測と自分で調べたことも混じっていた。
「それでどうするよ、ショート家を訴えるか?」
「あ〜、無駄無駄。正規の住人ならともかく、俺らみたいな通りすがりの奴なんて無視されるだけだよ。」
手をひらひら振って無駄を強調するアスカ。
ショート家はエンフィールドに大きな影響を持つ名家なのだ。一個人それも通りすがりの旅人が訴えても笑い話にしかならない。一応シャドウという証人はいるが、兄弟を差し出すわけにも行かない。
それにショート家はマリアの家なのだ。
「絶対ショート家が関わってること、誰にも言うなよ。」
「俺が言うはず無いだろ。」
「そりゃそうか。」
それを知って一番苦しむのはマリアなのだ、シャドウが言うはず無い。
結局はアリサに十万ゴールド渡して、エンフィールドから逃げるのが一番なのだとアスカは結論付ける。
再審請求を行ってもショート家の鶴の一声があればすぐに有罪なのだ。
逃げる前になんとか旧王立図書館の禁書読めないかなっと考えていると、全く関係ないことを思い出した。
「そういや、シャドウってブラッドのこと知ってたよな。」
「俺を育てたじいさんが教えてくれたんだよ。俺の変わりに魂の欠損を埋めている存在がいるって。」
「一体何者だよ・・そのじいさん。」
さあ?っと両肩をすくめるシャドウ。
ただ「すっげえスケベで怪しいじいさんで俺の符術の師匠」と付け加えた。
「まあいいや、それでブラッドって何者なんだろ。」
「知るか、ってか十年も一緒にいて聞かないほうがおかしいぞ。」
そういうものかとアスカはブラッドへと音ならぬ言葉を発するが、返事が返ってこない。
聞いて欲しくないのか、ただ単に寝ているのか。
そのままシャドウとのお喋りも終わり、草刈に集中していると家の中からカッセルじいさんが出てくる。
「これはまた、ずいぶんと頑張ったものだな。」
「しばらく仕事無かったから知らずに張り切ったかもね。食えそうなのや薬草は分けといたから。」
煮ても焼いても食えないものや、逆に毒になりそうなものとは別に袋に採っておいたものをアスカがカッセルに渡す。
長い時間しゃがんでいたせいか腰が痛くとんとんと叩く、シャドウも同じことをしている。
「それはわざわざすまんの。」
「目ざとい奴だな、俺なんか手当たりしだい刈ってたのに。」
「シャドウが刈った奴からもちゃんと抜いたさ。」
「ご苦労なこって。」
その台詞を聞いてシャドウは感心を通り越して呆れる。
薬草のお礼にせめてお茶でも飲んでいけとカッセルにいわれたが、トリーシャの誕生会のことがあるので断る。
それじゃあと帰ろうとした時、ふと思いついたようにアスカは振り返ってカッセルに声をかけた。
「じいさん、一つ聞きたいことあるんだけど。」
「なんじゃ?」
「魔眼って知らない?」
それはブラッドを知るには一番の近道だと思った質問。
人には大きすぎる力で、アスカが右目にシャドウが左目に持つ特別な瞳。
「また唐突だな・・・古い話じゃ。伝承とはまた違い、知名度の低く嘘か本当かもわからない。」
カッセルじいさんは目をつぶり、一つ一つ順番に思い出したように話し出す。
「いつの頃からかその四人はいた。神の時代からか、生命というものができた頃からか、四人の王は確かにいた。全
てを奪う空の王ジェノサイドアイ、全てを砕く在の王グラビトンアイ、全てを燃やす獣の王ブラッディアイ、全て
を凍らす時の女王クロノスアイ。四人が国を持っていたのか、何かの象徴なのか、それすら今となってはわからな
い。だが四人は大きな力を持っていた、それが魔眼と呼ばれるもの。」
そこでカッセルじいさんの話は終わった。
終わったというより「ワシが知っているのはそれぐらいじゃ」と終わらせたのだが。
「しかし、一体何処で魔眼など知ったのだ?」
「いや〜、ちょっとね。んじゃ、またなんかあったら言ってくれじいさん。」
ごまかすようにアスカはシャドウを引っ張っていってしまう。
その場に残されたカッセルじいさんは、アスカとシャドウが去った方をしばらくじっと見つめていた。
そして誰に言うわけでもなくそっと呟く。
「どうやら、ワシらが思うよりずっと厄介ごとを抱えているようじゃな。・・・どうするアリサよ。」
 
 
 
夕方のサクラ亭ではアスカとシャドウの仕事が終わったため、ようやくトリーシャの誕生パーティが始まっていた。
その顔ぶれはいつも顔をあわせているものから、アレンやアルベルトと肝心のリカルド、それからマーシャルやトーヤなどと手当たりしだいである。
それいはアスカの双子としてシャドウのお披露目の意味もあるのだが、それを知るものはほとんどいない。
「みんな、今日は本当にありがとう!」
お決まりのように、まずはトリーシャからの挨拶。
そしてみんなからのおめでとうの言葉が飛ぶと、それがパーティの始まりの合図となった。
「クリスくーん、こっちで一緒に飲みましょう。」
「や・・やめてください由羅さん。」
「お姉ちゃ〜ん、白衣の人がいるぅ〜。」
「ちょっとあんた、なにうちのメロディ怖がらせてるのよ!」
「いや〜痴女よ痴女!脱がさないで〜!」
白衣だけは絶対脱がんと意地を張るホワイトだが、
「由羅さんが痴女とは、聞き捨ててなりませんね。」
真剣をマジ顔で突きつけるアレンによって急いで脱ぎだした。
そんなしょっぱなからアクセル全開な場所は置いておいて、アスカとシャドウがいるテーブルにはアレフとパティと
シーラがいた。
「しっかし、お前ら本当にそっくりだな。」
「双子みたいなものなんだから、そんなもんでしょ。」
「そうかしら?見分けは付くとは思うんだけど。」
アレフとパティはそんなシーラの台詞を聞くと、いいことを思いついたとばかりにバンダナを二つ取り出す。
シーラを後ろ向かせて二人の唯一の相違点の髪の毛をバンダナで隠してしまい、二人の位置をシャッフルする。
ちなみにアスカとシャドウは喋るとばれるから黙ってろと言われた。
「さあシーラ、アスカはどっちだ?」
「見分けつくんだよね、シーラ。」
再び振り向かせられたシーラは戸惑った。
唯一の相違点が隠されているのだ、しかしここでわからないとはさすがに言えない。
「えっと・・」
視線をさまよわせる。
「・・・う゛〜」
ついに涙目になってしまったため、パティがよしよしと慰める。
元が同じ魂であるのだから、双子などより似ているという点ではよっぽどたちが悪い。
もう喋ってもいいのかと、アスカが喋ろうとしたがアレフがそれを止める。
「そういう時は、こうすればいいんだよシーラ。」
「きゃっ!」
小さな悲鳴の後、どこっとすごい音がした。
アレフが他でお喋りしていたマリアに抱きつき、シャドウがアレフを蹴り飛ばしたのだ。
マリアは何が起こったのか目をぱちくりさせている。
「ふっふっふ、お前がシャドウだ敗れたり。」
「しまったつい!」
「体を張った証明の仕方だな。」
「・・・自分でしといて今ごろ、そう思った。」
アスカが呆れるのも当たり前で、偉そうなことを言っているがアレフは床に転がっている。
「へ〜、よかったじゃないマリア。」
「はっ?・・・なにが?」
「もう、素直に喜んだらマリアちゃん。」
パティがからかう様にシーラが少し羨ましそうに言う。
しばらくしてマリアがそういうことかと納得するが、特に嬉しそうにするわけでもなくシャドウの方に振り向く。
「ん〜・・ねえシャドウ、私別にシャドウのこと好きってわけじゃないよ。」
あっさり言ってのけた、しかもわざわざ本人の目の前で。
「え゛・・・だっ。」
「そりゃ色々シャドウのことで泣いたりもしたけど、普通知らない人がいきなり記憶の中にいてさらに避けられもし
たら混乱するでしょ?」
「いや・・ちょっとあのマリア・・さん?」
「それじゃあね☆」
最後の最後はいつものマリアらしく、無邪気に笑うとパーティの中に混ざって行ってしまう。
残されたのは両手を床についてうなだれるシャドウと、痛ましいものを見てしまったアスカたち。
そしてそんな場面をホワイトが見逃すはずも無く、酒のグラスを片手にシャドウの背中に手をぽんとおくと無言で酒をすすめ、シャドウも無言で受け取った。
ただ・・明らかにホワイトの顔はにやけていた。
 
 
その後シャドウがホワイトと飲み明かしている間、アスカは隣ですすめられた酒のグラスをもてあそびながら考え事をしていた。
それはもちろんカッセルが言っていた四人の王の話、その中の獣の王ブラッディアイのことを。
「なあブラッド、お前もしかして獣の王とか言う奴なのか?」
小さく声に出して自分の中にいるブラッドに聞くアスカ。
魔眼を持つもの、そしてあの時のフサの長老の畏れ、ブラッドがもしその獣の王なら全てが合致する。
ブラッドからの返答はしばらくしてからであり、言葉も短かった。
『そうだ。』
こりゃまたすごい奴が自分の中にいるもんだと思ったアスカは、当たり前のように次の疑問にぶち当たった。
全ての獣の王、そんな大層な名を持つものがなんで自分の中、シャドウの言っていたとおりなら自分の魂の欠損などをうめているのか。
十年も前から当たり前の様に自分といるもんだから、疑問に思わなかったのだ。
そしてその疑問を問いかけようとしたとき、ブラッドが先に口を開いた。
『すまん、今は・・今はまだ聞かないでほしい。』
少しその言葉の中に迷いを感じ、アスカは素直に従った。
そして今自分が持ってしまった疑問を忘れようとするかのように、再びパーティの輪の中へと入っていった。
 
 
 
その頃ショート家の中にある秘書室では、仮面をつけた男が一人の男から報告を受けていた。
「所詮、野良犬は野良犬・・ということですか。」
仮面の男が野良犬と称したのはシャドウのことだった。
今報告でシャドウが裏切り、アスカの元にいるということを聞いたのだ。
「全く、これで裏切り者が二人とは・・・近々大規模な綱紀粛正でも行いますかね。」
「裏切り者のホワイト共々、始末しますか?」
「ホワイトは我々にも必要な男、それに今騒ぎを起こし嗅ぎ回られるのもつまらないですからね。」
「では、監視だけは続けます。」
報告をした男が去ろうとした時、仮面の男が引き止める。
「少しお待ちなさい。報告を聞いた限りでアスカ君はどうやら自分より他人を心配する性格のようですね。」
「かしこまりました。本人だけでなくその身辺も同時に調べます。」
「結構です。」
男が去った後仮面の男、ハメットは机から立ち上がると夜を写す窓を通し外を見る。
「アスカ君、私は君が羨ましい。なんの力も持たぬ君がそこまで慕われ・・私はそれができなかった。」
ハメットが思い出すのは、亡き母の遺言。
全てを果たすことはできなかった。だからこそ自分は少しでも多くのことを成すのだと。
例えそれがどんなに暗く薄汚れた道であっても。