殺してやる
殺してやるぞシャドウ
お前は絶対にやっちゃいけないことをしたんだ
理由なんてどうだっていい
お前だけは俺が殺してやる
絶対に
ーアスカ・パンドーラー
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悠久幻想曲
第十五話 殺意
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ほとんどの者にとって気だるい昼食後の時間サクラ亭にはジョートショップに籍を置くものが出揃っていた
それも仕事の合間を縫っての食事などではなくただ単に時間をもてあましてだ
「しっかし、仕事が無いってのも暇なもんだな」
ぐでんとテーブルに体を預けていたアレフの一言にアスカは読んでいた本をたたむ
「暇ならなんかすればいいだろどうせしばらくまともな依頼なんて無いぞ」
「エンフィールドの人たちって結構疑い深かったのね」
「普通だって、火のないところに煙はたたぬとも言うし」
テーブルに頬杖つきながら改まって自分の住む街の評価を下すマリアに冷静に返すアスカ
アスカによるマリア誘拐未遂事件があってから三日、冤罪だと言うことはすぐに認められたが事の顛末は誰にも知ら
されていない
さらにどん底の精神状態から脱したマリアは少しだけだが大人びた雰囲気を纏うようになりアスカと一緒に居る時間
が増えた、このことに関してはシーラやシェリルは気が気でない
「あのねアスカ君」
思い切って何があったのか聞いてみようとしたシーラだが勢い良くサクラ亭のドアを開けて入ってきたローラのため
に言葉をさえぎられる
「アスカお兄ちゃんトリーシャちゃんを泣かせたでしょ!」
「なんで?」
「知らないわよさっきトリーシャちゃんが泣いて向こうのほうに走って行っちゃったんだもん」
「いや・・そうじゃなくて何で俺って決め付けてるの?」
アスカの素朴な疑問に対してローラが出したのはなんとなくと言うものだった
ちなみに少しどもっていた
「アスカなら暇そうに午前中からずっとここに居たわよ」
「暇そうとは失礼な、ちゃんと読書しとったわい」
「はいはい、それにしても今日ってトリーシャの誕生日よねなんでまたそんな日に」
軽くアスカをいなして続けるパティ
みんなが首をひねる中アスカがぽつりと漏らす
「そういやリカルドって出張から帰ってきてたっけ?」
それだっと全員の声が重なった
みんなでの誕生会は一日ずらして明日やる予定で、今日はリカルドと二人だけで祝うはずだった
もしかするとリカルドが帰って来れなくなったのかもしれない
「ローラ自警団の事務所に行ってアルベルトにさっき俺に言った台詞そっくりそのまま言ってきて」
「え?・・いいけど」
不思議がるローラを自警団に向かわせると重そうに腰を上げると伸びをする
午前からずっと同じ格好で本を読んでいたのだボキボキと骨がなる
「どうせ暇だし探しにいきますか」
ローラが向こうと指差したのはサクラ亭から北西の方角だったためとりあえずはと西の門まで歩いていった
無いとは思うが西の門を出ていなければトリーシャがまだ街にいるはずだったのだが
「お〜い、起きろ」
トリーシャの行方を聞こうとした門の番人がうつ伏せで倒れるように寝ていた
アスカが後頭部をペシペシ叩くが反応は無く仰向けになるように転がしてみるとその額には一枚の符が張られていた
「マリアこれ見てみろ」
「これって」
マリアをちょいちょいと呼び寄せるとやはり見覚えがあるようだ二人して頷きあう
だがそれがいけなかった
「アスカ君マリアちゃんと二人だけで解り合ってないで説明してくれない?」
当然の申し出だがなんとも言えぬ笑顔のシーラに二人は頷くので精一杯だった
「本当にトリーシャは街の外に居るのか?」
「だからさっき説明したろ、あの符はシャドウの物だし意味無く門番に張るわけない」
獣道を先頭で歩くアスカに後ろからエルが尋ねる
門番を起こして何があったのかを聞いてみると誰かに肩を叩かれ振り向いたあたりから記憶が無いらしい
そこでシャドウに符を張られたのだろう、トリーシャのこともわからないと言われた
本当はこんな捜索じみた事自警団に任せてもいいのだが、泣きながら走った所で木にぶつかるか転ぶかして遠くまで
行けないだろうと探しに来たのだ
「それにしても坊やこれ以上遠くへ行くのはまずくないかい」
リサはこの場に居るメロディやピートといった年少組みをみて呟く
思ったより遠くまで来てしまったのか体力の無いクリスやシェリルは息も絶え絶え
「これ以上は自警団の仕事か」
諦めて来た道を戻ろうかと思ったとき感高い悲鳴とギャアギャアという声が聞こえた
発生源はすぐ隣の茂みの向こうなのかこっそり覗くと、そこには二匹のハーピーに突っつかれたり引っかかれたりし
ているフサの子供が一匹
「なんだフサとハーピーか」
目の前の光景をなんでもない風に言うアスカだが、同じくその光景をみたリサはナイフを取り出しエルやアレフもそ
の辺の棒切れを持ち出す
「ちょっと待て何するつもりだよ」
「決まってるアタシはああいうのが大嫌いでね」
つまりはフサの子供助け出すと言うことなのだがエルとアレフも同じだと言い
シェリルやシーラの普段大人しい二人までもがなにか自分に出来るのではと身を乗り出そうとしている
「だから待てって俺らはトリーシャを探しにきたんだろ」
「怖いならそこで震えてな」
「行くよ」
エルがアスカを見損なったかのように言った後リサの合図で全員が飛び出した
だがそれと同時に全員の後方から放たれた光の玉が一瞬にして全員を追い抜きハーピーたちの目の前で弾けた
目も開けられぬ閃光がおさまると光に驚いたハーピーが逃げていくのが見えた
みんなが何だったのかと驚いて振り返るとアスカが魔銃を構えていた
「まったく・・生きてるか」
アスカは魔銃を収めるとボロボロになったフサに近づく
「アリガトウタスカッタフサ」
アスカは手のひらサイズのフサの子供をマリアに放って魔法で治療してやるように言う
「ちょっと治療ならシェリルとかクリスの方が」
口に出したのはパティだが気持ちは全員同じらしいがアスカに良いからと止められる
せめてフサの子供が爆死するようなスプラッタなことにはならない様に祈ったがそんなことはなく出来ることが当た
り前のようにマリアはあっさりと魔法で治療を終える
「これでよし☆」
「マリアちゃんいつのまに」
「完璧に制御できてる」
「今頃エンフィールドが天変地異で消えてるなんてないわよね」
「失礼ねマリアの魔法そんなに酷くないもん」
シェリルとクリスの驚き方はともかくパティの台詞には突っ込むマリア
「んなことより、あのさ髪の毛が茶色で黄色いリボンした女の子見なかったか?」
マリアの手のひらからフサを取り上げるとトリーシャのことを聞いてみたが首というか体全体を左右に振られた
「デモチョウロウナラシッテルカモフサ、チョウロウモリノコトクワシイ」
「それじゃあさ長老に会わせてくれない?」
「フサノムラアッチ」
フサの子供を頭に乗せ歩いていこうとするアスカを慌てて全員が追いかける
「それにしても坊やどうせ助けるならなんで止めたんだい?」
「助けるつもりは無かったけどあのままじゃみんなが危ないだろ」
「つもりが無かったって」
リサだけじゃなく話を聞いていた者が何故と疑問を浮かべる
どうしてそんな冷たいことを言うのかと
「弱肉強食それが獣のルールだから、あのハーピーだっていじめて遊んでたわけじゃないよああやって空から獲物を
弱らせるのがハーピー式の狩の仕方なんだから」
わかんないかなぁっと後頭部をぽりぽりひっかくが誰からも同意はなかった
フサの子供に案内されたのはグルグルと森をさまよった先にある開けた場所にある村だった
毛皮の材料になると乱獲され絶滅寸前のはずのフサだがコノ村には結構な数のフサがいるようだ
「幼子を助けてくれたことには感謝する、だが強力はできない」
フサの長老が発した言葉はそれだけであった
さっきの子供とは違い流暢に人間の言葉を話すだけあって心情が読みやすかった
人間は森にはいってくるなと
「感謝してるならちょっとぐらい協力してくれてもいいだろ」
「人間などに強力などしたくもないわ」
「チョウロウコノヒトタチイイヒト、タスケテクレタ」
なんでだよと頭を抱えるアレフ
子供のフサが味方をしてはくれているが長老は頑なに拒否を続ける
アレフだけでなくメロディやクリスたちも長老に頼むが結果は変わらなかった
『アスカよこのままでは無駄に時が過ぎる、長老に魔眼をみせてやれ』
仕方ないとばかりにアスカの頭にブラッドの言葉が響く
なんでこんな時にとも思ったがアスカは右目に力を込めると長老の前に座り込む
「な〜な〜爺ちゃんちょっとこっち向いてよ」
「くどいなんと言われ・・なっ!」
アスカの赤く染まった右目を見た途端硬直する長老
「俺たち友達探してるだけなんだ、何でも良いんだ黄色いリボンした髪の長い女の子みなかった」
「人間が貴方様の友?その子ならドラゴンに生贄に差し出しました、急にこの村に現れ差し出さねばこの村を滅ぼす
と言われ・・お許しを」
震える長老の言葉にアスカはそうかとだけ答えるが他のものはそうはいかなかった
リサは長老をつかみ上げなんでそんなことをしたと詰め寄り誰もその行動を止めようとしない
むしろ長老だけでなくフサの村にいる全てのフサに敵意を抱いている
「仕方が無かったんじゃ」
「仕方が無いで済むと思ってるのか!」
「はいはい、ストーップ」
誰もが激昂するなか場違いな声でリサから長老を取り上げるアスカ
「言っただろ弱肉強食は獣のルールだって」
「そんなこと言葉で納得できるはず無いだろ!」
「んなことわかってるよ、それで爺ちゃんドラゴンはどっちにいった?」
「山の頂上ですじゃ」
「頂上か・・ってちょっと待てお前ら!」
それを聞いた途端山の頂上目掛けて走り出した皆を慌てて止めるが誰も立ち止まろうとしない
唯一アスカ以外にもシャドウが関わっている意味を知るマリアすらも走っていってしまった
「馬鹿何考えてるんだドラゴンなんかが出た時点で完璧自警団の出番だぞ!」
「見損なったぞアスカ」
「そんなの待ってられないわ」
「心配なの〜」
メロディの間延びした声以外誰がだれだかわからなかった
一人フサの村に置いてきぼりにされたアスカは頭を抱えどうしようか悩み結局は自分も山頂へと足を向ける
「早まった真似だけはするなよ」
「お待ちくだされ、何故貴方様が人間などと共に居られるのですかそれに魔眼が片目だけとは」
長老の言葉に足を止め振り向くが何のことだかわからないアスカは一言だけ答えた
「知らねぇ」
急いで山頂まで駆け上がったアスカはまだ皆が岩場の影から山頂の開けた場所を窺っているだけなのを見て安心する
と自分も岩場から覗き込み眠っているらしきドラゴンを確認する
寝そべって丸くなっているので正確な大きさはわからないが五、六メートルはある
そしてドラゴンの後ろに岩牢のようなものが見えるおそらくそこにトリーシャがいるのだろう
「アスカ君やっぱり来てくれたんだ」
「来ざるを得ないだろ、俺だと自警団が動いてくれないんだよ」
小声でうれしそうな声を上げるシーラだがアスカは憮然としたものである
長老にドラゴンのことを聞いた時点で誰か一人でもいいので自警団へ駆け込むべきだったのだが色々と前科のあるア
スカでは確実に自警団は動いてくれない
一度ため息をつくとアスカは顔を引き締め円陣をくませる
「いいかこれから俺が言うことを絶対に守れよ」
反論は許さないと言う意思のこもった言葉だった
「ドラゴンとまとも戦おうなんて思うなよ優先するのはトリーシャの救出と全員の安全だ」
これは当たり前のことだ、ちゃんとした戦う準備も無ければこちらはリサを覗いてただの村人の集まりだ
全員がしっかりと頷いたのを確認するとアスカは続ける
「まず俺が囮になるからエルとアレフが救出役だ、岩牢は自分達でなんとかしろ」
「わかった」
「私が力づくで壊してやるさ」
「リサは特にピートとメロディが飛び出さないように見てろ」
リサは私も囮に出るといったが誰かが回りに居ると気になって逃げ回れないとアスカに説得され不承不承了解する
「いいかトリーシャを救出したら俺に構わず一目散にエンフィールドまで逃げて自警団に行け、これが最後だトリー
シャを救出しようと言い出したのは俺だ」
最後の言葉の意味がわかったのはリサだけだった
言い終わると同時にアスカは眠っているドラゴンに向かって岩陰を飛び出していきエルとアレフも岩陰を利用して岩
牢へと近づいていった
「なんだよアスカ手柄を独り占めにするつもりか?」
言葉をそのまま受け取ればピートがそう思っても仕方が無い、仕方が無いがリサはピートの胸倉をつかんだ
「そんな馬鹿な理由なわけないだろ!馬鹿はアタシたちさ」
ピートから手を離すとゆっくりと口を動かす
「運良くトリーシャを助けられてもドラゴンが黙ってるはずが無い下手をすればエンフィールドまで追ってくるドラ
ゴンが街に来ればどうなるかぐらいわかるだろ」
最後は諭すように述べられようやく自分達がどんなことをしようとしていたのかを思い知らされる
もしもリサの言ったとおりになればエンフィールドに被害がおよび誰かが責任を問われる、アスカは自分が責任をと
ると言っているのだ
「そんなことになったらアスカ君今度こそエンフィールドに居られなくなっちゃう」
「一番の馬鹿は・・アスカよ」
シーラは顔を青くしパティは拳を強く握った
一方飛び出したアスカはドラゴンに近づきながらもどうドラゴンを起こすか迷っていた
魔眼を使えばドラゴンが起きる前に全てが終わるがドラゴンの命を奪うことになってしまうそれは嫌だった
そうこう考えているうちにドラゴンの目がパチっと開き目があった
むくりと体を起こしたドラゴンは寝起きにもかかわらず空が震えるような咆哮をあげるといきなりアスカに向かって
火を噴いた
「だーっこなくそ!!」
横っ飛びで炎を避け一瞬にして高温になった空気に肌を焼かれつつアスカは魔銃を抜くと水弾を撃ち出す
水弾はドラゴンに命中することはしたが身じろぎさせることも無く、焼け石に水ならぬドラゴンに水鉄砲と一瞬アス
カに馬鹿な考えを思い浮かばせるだけだった
ほんの一時だがアスカとドラゴンはお互いに見つめあいその均衡はドラゴンが尾を振り上げたことで終了した
「ストップ!ストップ!」
最後の悪あがきとばかりに制止を掛けてみるが無常にも尾は振り下ろされた
少し前までアスカが居た地面は小さなクレーターを形成しアスカは命からがら逃げ出した
振り回される尾や吐き出される炎からギャーギャーわめきながら逃げ回るアスカを見てパティはやっぱ馬鹿かもと思
ったがシーラやシェリルでさえ少しかっこ悪いと思ってしまっていた
「なんかなんかがおかしい!」
逃げ回りながらもアスカはドラゴンに対して少しの違和感を感じ始めていた
えさを守るためか睡眠を妨げられたせいなのか自分を襲ってくるのはわかるが攻撃がいかにも単調なのだ
フサの長老はドラゴンが村を滅ぼすと言ったと言っていた、つまりこのドラゴンは人語もしくはフサ語が話せるほど
知能が高いなのに言葉は通じず攻撃もただ尾を振り回し火を噴くだけとつじつまが合わない
『アスカアレを見ろ!』
「アレってどれだ、そもそもそんな余裕あるか!」
『いいから見ろ!』
実際にブラッドが指差したわけではないが感覚的に指差されたのはドラゴンの腹
『なにかの紋章が見えるだろおそらくあのドラゴンは操られている』
「操られてるってシャドウか」
『そこまではわからん、頭を屈めろ!』
「おぉ?!」
アスカが走りながら身をかがめると頭すれすれをドラゴンの尾が掠めていく
『ドラゴンを正気に戻す呪文を言うから復唱しろ、汝を縛るは忌まわしき黒い鎖』
「汝を縛るは忌まわしき黒い鎖」
『我は望む汝の解放汝の求むるものを答えよ』
「我は望む汝の解放汝の求むるものを答えよ」
走り回りながら復唱すると右手に熱い光が宿る
自分が魔力を上手く扱えないのでブラッドが変わりに集めてくれたのだ
「それで次は!」
『奴の腹にある紋章目掛けてボディブローだ!』
こけたそれはもう盛大にこけた
「アホか!出来るわけ無いだろ」
一瞬自分が生と死のつり橋に居るのを忘れてブラッドに突っ込んだ
何故一瞬だったかと言うとドラゴンが自分の目前で立ち止まり自分がドラゴンの影にいたからだ
すでにドラゴンの口には吐き出されるのを待っている炎が荒れ狂るっていた
考えている暇は無かった炎を吐き出すためにドラゴンがためを作った瞬間脚力を最大限振り絞ってドラゴンにボディ
ブローを放つ
ほんのちょっぴり一センチほどドラゴンの体が浮くとそのまま地響きを立て沈んだ
「すっげー!!」
ピートが飛び出したがすぐにリサによって岩影に引っ張り込まれた
ドラゴンが再び起き上がったからだ、しかしアスカは座り込んでしまっている
リサが自分が飛び出すべきかと悩んでいるとドラゴンが口を開いた
「我が求めるは自由だ、勇気ある少年よ」
人間の声とは本質的に違う声だった
野太いを通り越した声は間違いなくドラゴンから発せられていた
「どっちかというと無謀な気がするけどね」
「は〜っはっは、私が保証しよう少年は間違いなく勇敢だ人の身でドラゴンにボディブローを決めるものはそうは居
まいて」
「歴史の教科書にでも載せてもらいたいよ本当に」
急にドラゴンと話し出したアスカにどうしてよいかわからず隠れていると立ち上がったアスカは座った時についた土
を払い立ち上がるとみんなが隠れて居る岩場の方を向いて声をかけてくる
「もう出てきて大丈夫だこいつは操られてただけだから」
アスカが再びドラゴンの方を向き直った時それは起こった
ゴム同士がすり合うような嫌な音とドラゴンの叫び声そして生暖かい何かがアスカの全身に張り付いた
真っ赤に染まった視界のドラゴンの向こうには手を真っ赤に染めたシャドウがたたずむ
そこにドラゴンが居るのに反対側に立つシャドウが見えたのだ、ドラゴンの腹にぽっかりとあいたのは大きな穴
「ちっ・・役立たずが」
再び倒れたドラゴンは起き上がってこなかった
「あ・・・あ・・・・・」
何が起こったのかアスカの頭が理解してくれない
ドラゴン、倒れた、お腹、大きな穴、血、文章にすらならない単語だけが頭を駆け巡る
ゆっくりと近づくきドラゴンの腹から流れ出る血を止めようとするが次から次へと指の間から流れ出ていく
「だめ・・いやだ」
服が血に染まるのも構わず流れ出る血を集め、自分の手のひらより明らかに大きな穴を押さえようとする
「死んじゃ・・」
「・・少年よ・・・・・頼む」
それが言葉が何を意味するのか
ただ一つの命がそこで終わりをつげた
「だめだって・・・・言ったのに・・死んじゃ」
アスカの流した涙が地面に広がった血と交じり合う
「なに泣いてんだよアスカ」
シャドウの楽しそうな声がアスカの涙を止める
「役立たずのトカゲが一匹死んだのがそんなに悲しいのか?」
容赦なく命の消えたドラゴンの頭を踏みつける
「殺してやる」
誰かを憎んだことさえ初めてだったのかもしれない
明確な殺意という意思がアスカの瞳に宿る
「あ〜?聞こえねえよバーカ」
「殺してやるぞシャドウ!!」