悠久幻想曲  月と太陽と

 

俺はなんでいつもこんなに甘いんだ

 

                          狙いはアスカ一人なのに

 

                          いつもあいつを助けちまう

 

                           放っておけないんだよ

 

                       放っておけば何するかわからねえ

 

                           だから・・・助けちまう

 

                              ーシャドウー

 
 
                                              
悠久幻想曲
 
                第十三話 大雨
 
今日は昨日の夜から雨が降り続いているそんな日だった
少々濡れている新聞を読んでいたアスカは食後のお茶を手にして一口のどに通す
「この様子だと止みそうにないわね」
「そうですね、これ飲んだらみんなに今日は仕事中止だって言ってきますよ」
「伝えなくてもわかるんじゃないッスか」
テディの言い分が十分にわかるほどの大雨なのだがそんな曖昧なことで万が一があっては困る
それにどちらにせよ中止の事を仕事先にも伝えなければならない言ってしまえばついでだ
「万が一にも外に出たら危ないだろ・・川も増水してるだろうし」
お茶を飲んだら行ってこようかなと考えていると勢いよく玄関が開き一つの人影とともにたくさんの雨が振り込んでくる
「アスカ〜手伝いに来てやったぞ」
玄関を開けたのはアレフだが雨具も何も持っておらずずぶ濡れである
アリサはすぐに洗面所にタオルを取りに行きテディは寒そうッスと身震いをする
「お前馬鹿か雨具もなしに」
「折角手伝いに来た心友に馬鹿はないだろ、傘は差したんだけど強風でぶっ壊れたから途中で捨ててきた」
アリサからタオルを受け取ったアレフに今日は仕事は中止だということを伝えるがそれは承知の上でどうやら元々中止を告げ
る手伝いをしに着たらしい
「それじゃあ俺がシーラ、マリア、エルのところ言ってくるからお前はパティとセントウェザー教会とシーフギルドと後魔術師ギル
ドに行ってくれ」
「え〜なんでお前のほうが女のこの所が多いんだよ」
数より女の子に視点を置いて突っ込むアレフ
「・・・お前シーラの家に居れてもらえるのか?それに方向的にもこれがベストなんだよ」
以前しつこくシーラをデートに誘ったアレフは出入り禁止を食らっているためうっと言葉に詰まる
「この雨じゃ帰るのめんどくせえだろ今日は泊まってけ、アリサさんこれから行ってくるから風呂いれといてください」
「ええわかったわ」
お茶を飲み終わったアスカはそうアリサに伝えるとカッパを着込みアレフを連れて外へと出る
「こら俺にもカッパよこせ」
「どうせそこまで濡れてるんだあってもなくても一緒だろ?」
「気持ちの問題だくらえ水溜りの水」
「汚えな」
扉を閉めても豪雨の音と共に聞こえてくる二人の声
「無駄に元気ッス」
「若いっていいわね」
 
 
 
「でっかい家ってのは天気の悪い日はむちゃくちゃ不気味だな」
シーラの家を見たのは初めてだが最初の感想がこれである
雷こそないがこの薄暗い天気の中そびえたつ豪邸はおそらく普段とは違った威圧感を解き放っているのだろう
ぼけっと見ていてもしょうがないので無駄に広い庭を通って玄関口までたどり着く
「ジョートショップのものですけど、シーラいますかぁ」
勝手に玄関を開けて叫ぶが帰ってきたのは沈黙
誰も居ないのかと思い始めた頃ようやく奥のほうから二つのパタパタと走る足音が聞こえてきた
「お待ちくださいお嬢様」
「何よジュディ早くしないとアスカ君が帰っちゃうじゃない」
「そうではなくて、いいからお待ちください」
二つのうち一つはシーラだが走るシーラを追いかけているのは侍女か
「どうしたのアスカ君こんなはやくに」
「・・シーラ髪の毛がすごいことになってる」
パジャマの上に上着を羽織っただけのシーラはアスカに言われるままに髪の毛を触ろうとすると違和感がする
寝癖でありえない方向に髪の毛が跳ね上がっっていた
「きゃーーーーーーーーーーー」
シーラが今度は奥の方へ走っていくと変わりにアスカの元にたどり着くジュディ
「いらっしゃいませアスカ様今日はどのようなご用件で?」
「え・・あいや今日は大雨だから仕事は中止だって言いにきたんだけど、シーラって家ではいつもああなの?」
「私には特別はしゃいでいたようにしか見えませんが」
にこやかにそう言われてもアスカにはさっぱりである
とにかくそういうことだからと玄関からアスカが去ると奥に行ったとばかり思っていたシーラが柱の影からひょっこり顔を出す
「う〜・・・ジュディなんで教えてくれなかったのよ」
「私はお待ちくださいといいましたが」
シーラの恨みがましそうな目線をあっさり交わし応えるジュディ
自分でも言われていたことは覚えているのか恨みがましそうにするだけでシーラもそれ以上突っ込んでこない
「さあお嬢様こちらへまずはその寝癖を直しましょう」
 
 
「次はマリアの家はっと」
ジョートショップで見た地図の記憶を頼りに走っていくとこれまたシーラの家と似たような豪邸
シーラの家ですでに豪邸の威圧感を受けていたせいか今度はさくさくと歩いていくアスカ
マリアの家の玄関をノックすると何度か見たことのある執事が玄関を開けてくる
「ジョートショップのアスカですけどマリアいますか?」
「マリア様ならすでにジョートショップに向かわれましたが」
「こんな大雨の日に止めなかったんですか」
「なにやら今日中に欲しいものがあるから寄りたい所があると申されまして」
困ったように言う執事になんとなくわがまま言ったのかなと予想する
「それじゃあジョートショップに居たら責任もって送り返すんで」
それだけ言うと今度はエルが居るマーシャル武器店へと足を向ける
 
 
「おーい、エルかマーシャルいるか」
何故こんな大雨の日に店を開けているのか聞いてみたいが店主であるマーシャルどころかエルさえ出てこない
マリアと同じく入れ違いかなとも思ったが武器店の倉庫のほうから人の気配というかなにかが伝わってくる
雨音でほとんど聞き取れないが目をつぶり聴力を最大にするとかすかに聞こえるマーシャルの声
「助けてくれある〜」
その声をたどって行き着いたのは人一人は入れそうなぐらい大きな完全密封型の金庫
「マーシャル居るのか居たら声じゃなくて側面を叩け」
金庫に耳をつけると中からゴンゴンと叩く音が聞こえてくる
ダイヤル式の金庫なのでなんとか中のマーシャルとコミュニケーションを図りダイヤルを合わせ救出する
「助かったアルアスカ、湿気に弱い札とかを入れてたら閉じ込められたアルよ」
マーシャルが出てきたと同時に床にばら撒かれた札を一枚手に取る・・明らかに紙が湿気っている
「な〜マーシャル普通こういう札とかって湿気対策がしてあって雨の湿気程度じゃなんともならないはずだぞ、思いっきり濡らし
たならともかく」
「え・・ってことは」
「全部とは言わないが半分以上が偽物だなこれ」
「それは本当アルか、だまされたアル〜」
頭を抱えて天を仰ぐマーシャルを見てあきれる
知識がないのにマジックアイテムを扱うなと
「アスカこういうのに詳しいあるか今度教えて欲しいある」
「解ったから離せ、それよりエルはどこだ」
急にしがみついてきたマーシャルを引き剥がすとエルの所在を尋ねる
そもそもマーシャルの救出に来たわけではなくエルを探しに来たのだから
「エルさんならとっくにジョートショップに向かったアルよ」
それを聞いて舌打ちをするアスカ、三人のうち二人がすでにジョートショップに向かったのだ
急いで帰ってまた送り返さねばならない
なんだかいやな予感がするアスカは約束アルよ〜っと叫んでいるマーシャルを無視して全速力でジョートショップに向かった
 
 
 
勢いよくジョートショップの玄関を開けるとすでに帰ってきていたアレフが勝手にアスカの服を着てアリサとテディとお茶をしてい
「エルとマリアは?もう帰ったのか?」
アスカの第一声の意味がすぐにはわからなかったのかキョトンとする二人と一匹
だがすぐに言葉の意味がわかったのかアレフは立ち上がり奥から自分で見つけ出したカッパを引っ張り出してくる
「二人ともまだ着てない探すなら俺も行くぞアスカ」
「最悪の事態が避けられればいい川だ川を捜す、アレフは一度自警団に行ってくれ俺じゃあ動いてくれねえ」
いやな予感が的中してしまったアスカは一度アレフと別れ再び外へと飛び出していった
 
 
 
 
 
アスカとアレフそして自警団までもが捜索を開始する中当事者であるマリアは雨の中アレフと同じように雨具もなしに歩いてい
ただアレフと違ったのはしっかり傘を持ってはいるのだがこの大雨で傘の意味がなく塗れる事を諦めていることだろう
「今日中にあの薬草欲しかったのにまさかお店が休みだなんて・・」
少しだけしょんぼりしてみる
一体何のために早起きまでしたのかわからなくなる
「はぁ〜・・・あれ?」
ため息と共に顔を上げると今川の中で緑色のなにかが動いたような気がした
水草かなにかかとも思ったが何かが違うと思い興味から近づいてみる
動いたものは水草でもなんでもなく人だった、そしてマリアが知る限り緑色の髪はエンフィールドでそう多くない
「エルそんな所でなにやってるのよ」
「なんだ馬鹿マリアか・・なんでもないお前には関係ないだろ」
エルが居るのは増水した川の中央にある中州でどうやら点々と顔を出している三つの石を渡ったのだろう
だがエルが何かを抱いているらしいのだがそこまではマリアの位置から見えなかった
「そうだ☆」
いいことを思いついたようにマリアは現在位置から距離をとり身をかがめる
「馬鹿やめろ」
「エルには関係ないでしょ☆」
マリアの行動に気づいたエルが止めるがマリアが止まるはずもなく川辺から助走をつけてジャンプした
一つ目の石に足を突くと次は二つ目の石に足をつき再び跳ぼうとするが足元の石がぐらつきマリアが大きく体勢を崩しのけぞ
エルはそれを見ると抱えていたものを投げ出しマリア側から見て三つ目の石に足を突くとマリアの手を握り石を軸に無理やり
方向転換をして元の中州へと倒れ込む
「危なかった〜」
「危なかったですむかこの馬鹿マリア」
「いいじゃない助かったんだからそれに元はといえばエルが隠し事するからでしょ」
エルの叱咤も気にした様子はなくプイっとそっぽを向くと子犬がエルに向かって唸っているのに気づく
「放り出して悪かったよ誤るからそう唸るな」
「可愛いどうしたのこの子」
「この中州に取り残されてたから私が助けに着たんだ」
「へ〜いい所あるわねエルも、隠さなくてもいいのに」
少し照れたのか子犬を抱えてそっぽを向くエル
「それじゃあもうここには用はないわね、増水してるしさっさと・・」
ジョートショップに行こうと言いたかったのだがある事でマリアがぴたりと止まる
不審に思ったエルもマリアと同じく帰るために三つ在った石を見るがどう見ても一つしかない
向こう岸から数えて一つ目は在るのだが先ほどマリアがぐらついた石そしてエルが力を込めた石が沈んでしまったのかきれい
さっぱり消えてしまっていた
「エル・・あそこまで跳べる?」
「跳べたらいいな」
それはつまり跳べないということだ
どうみてもあそこの石までは中州から五メートルはある
しばし互いに無言で雨にさらされ続けるが
「そうだマリアにいい考えが」
「断る!」
折角破れた沈黙も得るの一言で即座に却下される
「ぶ〜☆まだマリア何も言ってないのに」
「マリアのやりそうなことならすぐわかる、魔法は却下だ却下絶対に無理」
大人しくマリアが黙ったことでひとまず安心したエルだがすぐにこれからどうするべきかで頭をフル回転させていた
こんな大雨の日に誰かが外出するなんて考えられないしかも増水した川の近くはなおさらだ
ここから民家が見えないことはないがこちらに気づくとも思えない
エルがなんとか使用と考え込んでいる間マリアも一応は何とかしようとしていた・・・ただし魔法で
「別にエルにいちいち言わなきゃいいのよね、助かればいいんだから」
エルに隠れて魔法の印を組むマリア
「おいマリアお前もちゃんと・・何やってるんだ」
「シーンクラビア☆」
エルの静止は間に合わずマリアは最後の呪文まで唱えてしまう
それから三十秒、一分と待っても何も起こらない・・それが良い事なのか悪いことなのか
「エヘ、失敗しちゃった☆」
「魔法は使うなって言っただろ、何が起こるかわからないんだ」
何が起こるかわからないので何も起こらなかったことに一安心したがそれは甘かった
エルフの優秀な耳が捉えたのは何かが押し寄せる音
音が聞こえる方を見ると川幅きっちりに調節された奇妙な高波が上流からこちらへ向かってきていた
 
 
 
 
 
この高波が起こったことで唯一つ幸運だったのはアスカとアレフがその高波を見たことで二人の居場所を知ったことだろう
「アスカあれ」
「わかってる、あんな非常識なことしでかすのはマリアしかいない」
丁度四つ角で出くわした二人は高波が発生した川まで一直線に走っていった
高波が発生している川まで辿り着くとそこには中州に取り残されているエルとマリア
「アレフ先に行くぞ」
二人を見つけたことでアスカは走るスピードを最大まで発揮する
だが二人を助けるのにロープを探しているような暇はない予測だが高波が中州を飲み込むまで五分もない
例え自分が中州までジャンプしても二人も助ける時間はない
「あ〜もう、めんどくせえ」
結局アスカは考えるのを放棄してとった行動は破れかぶれ
アスカが川岸からジャンプしようとすると反対側の川岸からも中州へとジャンプする影が・・
中州に着地すると確認したわけではないが影がマリアを連れて脱出したことがなんとなくわかった
「エルちょっとだけ我慢しろ、アレフ!」
「まかせとけ」
「ちょっと待てアスカ・・わっわーーーー!」
エルが子犬を抱えていたことは気になったが聞いている暇もなくアスカはエルをひっつかむとアレフめがけて投げつけた
放物線を描いたエルをアレフが受け止めたのを確認したと同時にアスカもジャンプして高波に食われるのを回避した
「ギリギリセーフ」
「人一人放り投げてジャンプして、相変わらず信じられん力してるな」
アレフのほうを見るとエルに肩を貸していた、放物線を描いたのが怖かったのか放心状態だ
「そういやマリアは?誰かが跳びこんだ気がしたんだけど」
「マリアならそこに・・」
アレフが指差した所に確かにマリアは居たが、逆に言えばマリアしか居ない
誰がマリアを助けたのかアレフとアスカとで首をかしげているとマリアの口から名前が漏れる
「シャドウ」
尻餅をついていたマリアがキョロキョロとあたりを見回しだす
「ちょっとなんで逃げるのよ、助けてくれたんでしょ聞いてるのシャドウ!」
シャドウの名が出たことでさらにアレフとアスカは顔を見合わせ首をひねる
アレフはシャドウが人助けをしたことに対して、アスカはシャドウがすぐに姿を消したことに
「お礼ぐらい、お礼ぐらい言わせてくれてもいいじゃない」
涙声になってマリアが叫ぶもシャドウは現れず、じきにマリアは探すのを諦め立ち尽くす
このままずぶ濡れで居るわけにも行かずアスカがジョートショップに帰ろうと言い出すまでずっとマリアは泣き続けていた
 
 
 
マリアとエルを送り返したその夜、アレフはアスカの部屋で泊まっていた
眠れないのかアレフが天井を見ながらアスカに問いかける
「結局マリアを助けたのはシャドウだったのか?」
「さあ一瞬だったしマリアがそう言ってるんだそうなんだろ」
アスカの次にシャドウと関わっているのはマリアなのだから言ったことには間違いないだろう
今日は疲れたのだからさっさと寝ようとしたアスカだがある気配を感じたためベッドから起き上がりドアに手をかける
「どうしたんだ?」
「別に、ただの便所」
そのまま納得して寝返りをうったアレフは気づいていなかったがアスカの顔は真剣であった
二階の自分の部屋から階下へ降りるとそのまま外へと出るアスカ、すでに雨は止み月まで出ている
「こんな夜中に何のようだ」
アスカが見つめる先には沈黙したままのシャドウがたたずんでいる
「お前俺を憎んでいるか」
「憎んでないけど怒ってはいるぞ」
アスカの返答を聞いても何も返さないシャドウにアスカが言葉を続ける
「マリアを助けてくれたのは感謝してる、けどそのまま消えるなマリアが泣いただろうが」
本気で怒るアスカだがシャドウは何も応えず突っ立ったままだ
しばらくアスカだけが睨みつける状況が続くがシャドウは何も語らないまま姿と気配を消して去っていった