アレだけ雨に打たれて
風邪をひかないほうがおかしい
特に俺はずぶぬれだったし
まあアスカが風邪ひかないのはいいとして
嫌がらせもほどほどにしとけ
絶対素でやってるんだろうけどさ
ーアレフ・コールソンー
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悠久幻想曲
第十三.二話 お見舞い
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「あ〜・・だりぃ」
当然といえば当然なのだが、先日大雨の中走り回ったアレフは風邪をひいていた
今日は仕事も休みをもらい一人布団の中で安静にしているのだが、そう何時間も寝れるはずもなく寝返りを繰り返し
ているとノックされるドア
「お〜いアレフ見舞いに来てやったぞ」
「開いてるぞ」
かすれた声で鍵が掛かってないことを伝えるとアスカがドアを開け入ってくる
「本当に風邪だったんだな」
「心友を疑うのか」
「前に二、三度風邪だって言ってデート行ってただろ」
「・・悪いアスカ水くれ」
話をそらす為なのか本当に欲しいのか、目をそらしたという事は前者だろう
何度か着た事のあるアスカは迷うことなく戸棚からコップを取り出し水を汲む
ベッドから体を起こしたアレフはコップを受け取ると一気に飲み干す
「それでただ単に見舞いに来たわけじゃないだろ」
アスカに向かって両手を差し出すアレフ、見舞いの品を要求しているのだ
「手ぶらじゃ駄目だってアリサさんに言われたからな、ほれ受け取れ」
差し出された手に置かれたのは大量の本
漫画ではないかといって小説でもなく、魔法等の実用書である
「これをどうしろと?」
「読むんだよ、本を食うのかお前は」
アスカが「なんて冗談だよ」と言う性格ではないのは知っているがすがるようにアスカの顔を見てしまう
風邪で全身がだるく頭痛がするときに何故さらに頭の痛くなるような実用書を読まねばならないのか
「・・・もしかして嬉しくないのか?」
真顔で言ってきたアスカに対しアレフは不貞寝を決め込んだ
「おい無視するなよ」
不貞寝してしまったアレフに相手にしてもらえず帰路につくアスカ
「なにが悪かったんだ?」
『相手には得手不得手があるものだ、見舞いといえば果物だろう』
「でも一人暮らしで大量の果物もらっても腐らすだけだぞ」
妙な所で頭の回るアスカはブラッドの考えを覆す
このまま不貞腐れられても嫌だから必死に頭を働かせるアスカ
そのとき目の前でさくら亭に入っていくクリスが目に入り、一つの考えがひらめく
「こういうのはやっぱ人に聞くのが一番か特に同性」
『建設的な意見だな』
ブラッドの了解も取れたことなので少し歩調を速めさくら亭に急ぐ
時間的に客が居ないころなのかパティはもちろんだがシーラにシェリルそして少し離れた所にクリスが座っていた
軽く手を上げて挨拶を交わすとクリスの正面まで行くアスカ
「どうしたのアスカ君」
真剣なアスカの顔を不思議に思ったのかクリスの方から話しかけてくる
「クリス付き合ってくれ」
「・・・えっ」
何を言われたのか解らなかったクリスは疑問符を浮かべるので精一杯、そもそも言葉が足りなすぎである
この時さくら亭内にいた女の子三人の顔が赤かったがそれはそれ
「アスカ君ごめん僕男だから」
数秒経ってから冷や汗をだらだらと流した後さくら亭をダッシュで去っていくクリス
取り残されたアスカはなんでと首をかしげるが参考程度にとシーラたちの方を振り返るが三人とも目をそらし
アスカが一歩近づくと同時にビクっと体を振るわせる
「なあシェリル」
「わ・・私宿題があるので」
何の説明もしていないのにシェリルは言い訳をしてクリスと同じようにダッシュでさくら亭を去ってしまう
そのことでさらに何かがおかしいと思うアスカだが気を取り直してパティとシーラに声をかけようとするが、パティ
がシーラの手を引っ張って二階へと駆け込んでしまう
「・・・なんだぁ?」
『言葉が足りなすぎたようだな』
たしかに言葉は足りなかったがそれがなんでとまた首をかしげているとさくら亭のドアが壊れそうなほどの勢いで開
かれる
「クリスとシェリルちゃんが逃げるように出てきたが何事だ!」
アルベルトは店内に一人のアスカを見るとすぐに槍を突きつけて貴様かと叫んでくる
事情がさっぱり読み込めないアスカはアルベルトでもいいかとクリスにかけた言葉と同じ言葉を掛ける
「アルベルトでも良いや付き合え」
例外なくアルベルトもピキっと固まるがそのとき二階から救世主が降りてくる
「アンタはみさかいがないのか!!」
階段を駆け下りてきた勢いそのままにアスカの頬にパティの拳が炸裂する
勢いをつけたからだと思いたいがアルベルトを巻き込んで店の外まで飛ばされるアスカ
「あ〜もぅ!馬鹿」
「・・パティちゃん」
肩を上下させながら憤るパティを見て冷や汗を流すシーラ
「なんで・・」
店の外では未だに状況が見えないアスカが地面に寝転がり空を見上げたままぽつりとつぶやいた
「全くそういうことなら早く言いなさいよね」
「言う前にみんな逃げたじゃねえか」
両手で林檎が入った袋を抱えながら正論を言うアスカ、結局見舞いの品は果物となった
あの後一から説明をしてすぐに納得してもらえたのはいいがパティの拳がはいった頬は今だ痛い
「アレフ君の風邪ってひどいの?」
「普通に喋ってたし一日もあれば治るんじゃないの」
「馬鹿じゃなかったのねアレフも」
三人が向かうのはもちろんアレフのアパート
先ほど来た時と同じように扉をノックする
「アレフまた来たぞ」
「もう見舞いはいいから寝させてくれ〜」
本を渡そうとしたことをまだ根に持っていたのかだるそうな声が聞こえる
「こらわざわざ来てやったんだから開けなさいアレフ」
「アレフ君大丈夫?」
「ぜ〜んぜん平気、いや〜二人がお見舞いに来てくれるなんてさあ入って入って」
アスカのときの態度は何処へ行ったのか、パティとシーラの声が聞こえた途端にドアを開け元気そうにするアレフ
元気じゃねえかと突っ込んだアスカの声は無視された
「ほらアスカそれかして、はいお見舞いの林檎」
「それじゃあお大事にアレフ君」
「あれ?ちょっと二人とも」
アスカから林檎を受け取りそれをアレフに渡すとさっさと帰ろうとするパティとシーラ
アレフに恨めしそうな目を向けられるがアスカにはどうすることもできないしするつもりもない
「アスカ帰るわよ」
「まぁ・・早く治せアレフ」
「ちくしょ〜!!」
パティに呼ばれたため帰る前にアレフに一応言葉を掛けるがアレフはすぐに部屋にこもってしまう
部屋の中から異様なスピードでシャリシャリと皮をむく音が聞こえるが放っておくことにした
「嫌がらせか、両手に花かアスカー!!」
さらになにやら叫びが聞こえたが聞かない振りをした
「イテェ!指切った」
「・・・ふっ、酸っぱいぜ」
一部始終を双眼鏡で見ていた白衣の男が呟いたがそれを聞いていた者は誰も居ない
次の日アレフは風邪を治ししっかりと出勤してきた
それはそれで今日のアスカの仕事はエンフィールド学園への配達
校長の部屋がわからずにあたりを見回すとクリスとシェリルを発見
「お〜いクリス、シェリル〜」
声をかけこちらに気づいた途端走り去ってしまう二人
さらにあたりを見回すと奇異な視線を向ける者や嬉しそうな視線を向ける者
誤解が解ける日は遠い