悠久幻想曲  月と太陽と

 

俺はまだ若い!

 

                          だがガキってわけでもない

 

                       だから青春って奴は過去の話しさ

 

                         それでもちょっと憧れてみたり

 

                       いいか俺に手伝って欲しかったら

 

                       俺にお前の青春見せやがれアスカ

 

                           ーホワイト・キャンパスー

 
 
                                              
悠久幻想曲
 
             第十一話 ラブレター
 
客のまばらなサクラ亭の中でテーブルにうつむき何かをせっせと書いているアスカ
しばらくすると紙を丸めテーブルの上に無造作にほかる
先ほどは真後ろにほかっていたのだがパティにゴミを捨てるなと殴られたせいだ
「なにやってんだお前」
手元が暗くなったために顔をあげるとそこにいたのは白衣を着た男ホワイト・キャンパスというあからさ
まに偽名のような名を持った以前メロディを追いかけていた集団のリーダー格だった男である
「頼まれ事だ、それより真昼間にでてきていいのか」
「あんな間抜けな連中につかまるようなへまはしないさ」
ホワイトはそう言うとパティにコーヒーを頼みアスカの向かいに座る
「お前の話は面白いんだが何しろこれが足りなくてな」
人差し指と親指をつなげ円を作ったホワイトを見るとアスカは無言のまま懐からある紙片を取り出す
ホワイトはそれを受け取るとニヤっと笑う、受け取った紙片は個人が持つには大きすぎる金額の小切手
「本当に面白いよお前さんは」
「それだけのために出てきたのか?」
アスカに問われ言葉を詰まらせるホワイト
正直それだけのために隠れ家から出てきたのだが、なんとなく他に理由を探してあたりを見渡すと何故か
サクラ亭の入り口から隠れてこちらをうかがっている桃色の髪の少女
「面白そうな予感がしたんでな」
とりあえずその場しのぎにアスカの手元を指して言うホワイト
「面白いも何もただのラブレターだぞ」
アスカの言葉のすぐ後に二人の近くで何かが割れる音が響く
音の発生源には信じられないと言った顔のパティが足元にホワイトが頼んだであろうコーヒーカップを落
としていた
「で・・相手は誰なの」
「何怒ってるんだよ」
すばやく割れたカップの処理を終えるとパティはドスンと音を立てアスカの隣に座る
「本当に面白いことが起こるとは・・」
ホワイトの視界にはアスカの言葉を盗み聞いた桃色の髪の少女、ローラが走り去る姿が映っていた
「それで相手は誰なんだ」
「俺が知るかよ」
「知らないって一目惚れかよ若いね〜、年上か下か?髪は長いのか短いのか?」
一目惚れという言葉にパティの知っている友人たちは一斉に却下されるアスカの女の子の知り合いは全員
知っているつもりだったが、仕事柄アスカはエンフィールド中を動き回っているのだ
パティが知らない人に一目惚れしてもおかしくは無い
「だから知らないって言ってるだろ」
心底うっとおしそうにするアスカとその言動に疑問を感じたパティはアスカの手紙をとりあげる
そして手紙の文面を見たパティはあることに気付くが
「ちょっとこれ相「アスカ君!好きな子ができてラブレター書いてるって本当?」」
よほど急いで走ってきたのかうっすら額に汗をかきつつあらわれたシーラの声にパティの疑問はさえぎら
れる
「アスカさんが学園の生徒に一目惚れしてラブレター書いてるって本当」
「アスカが学園の生徒に手当たりしだいラブレター書いてるって本当」
「アスカさん学園の教員に手を出すなんて見損ないましたよ」
そしてトリーシャ、マリア、クリスそしてさり気にシェリルと順にエンフィールド学園組が現れパティの
声は無かったものとされてしまう
それぞれ聞かされた言葉が食い違っていることに気付いたシーラと学園組は急遽話し合いにもつれ込んだ
何故か当事者のアスカを蚊帳の外にして
「よくわからんが俺帰るわ」
「しらけたし俺も穴蔵に戻るかな」
他人が騒いでいるのを見たせいか気をそがれたホワイトはアスカにつづきサクラ亭を去っていく
サクラ亭から少し離れた所で何気なしに振り向くとローラがサクラ亭に入っていくのが見えた
「あー!!なんでパティちゃんがアスカおにいちゃんのラブレター持ってるの」
二人のもとにまで届いた叫び声にホワイトはアスカを見るが我関せずといった顔をされる
アスカはパティが手紙の相手の名前が空欄になっていることを主張することがわかっていたからだが、必
ずしもそれがパティに宛てた手紙ではないと言い切れないことまでには頭が回らなかった
 
 
「おーい、アスカ」
少しサクラ通りを歩いていると手を振りながらアレフが走ってくる
「っと、誰だこのおっ」
「俺はまだおっさんなんて歳じゃないからな」
ホワイトに気付いたアレフがおっさんと言いかけるとホワイトは懐に手を入れメスを取り出すとアレフの
首に突きつけ脅す
アレフは無言で首を縦に激しく振るとホワイトに目を合わせないようにしてアスカに話し掛ける
「れいの奴は書けたのか?」
「いや、さっき書いてたんだが邪魔が入った」
「なんださっきのラブレターはお前さんの代筆かい」
二人の会話からピンときたホワイトの予想は慌てたアレフの様子から間違いないようだ
「なんでおっ・・じゃなくてお前が知ってるんだよ」
おっの所で懐に手を入れたホワイトを見てアレフは言い直す
「なんでもなにもコイツ堂々とサクラ亭で書いてたぞ」
「アスカ・・・何やってるんだよ」
ホワイトに指差さされきょとんとしているアスカを見て肩を落とすアレフ
「さっきから気になってるんだけど何で手紙出すだけでそんなに騒ぐんだ?」
本当に意味がわかってないのか真顔で尋ねてくるアスカに二人はしばし頭を抱え時を止める
ホワイトとアレフは顔を見合わせた後思い切ってラブレターとは何かと尋ねてみる
「何って手紙だろ?最近会ってない奴とか遠くに住んでる奴に出したりする」
「間違っては居ないが正解には果てしなく遠いな」
「お前に頼んだ俺が馬鹿だったよ」
アスカの返答にさらに肩を落としたアレフはその場を去ろうとするがやけに目を輝かせたホワイトがそれ
を止める
「落ち込むのはまだ早いぞ若人よ、まだここに人生の先達が居るではないか」
ホワイトの言葉に同じく目を輝かせるアレフ
だが二人の目の輝きは玩具を見つけた時の子供の目の輝きと希望を見つけた時の目の輝きと全く異なるも
のであった
「・・・でラブレターってなんなんだ?」
 
 
「なるほど・・最近ローラと言う子が夢に出てきて自分がその子を好きなのではないかと」
「何度かデートに誘おうと思ったんだが柄にも無く緊張して」
「な〜なんで俺の部屋に居るんだよお前ら」
特に理由は無いのだがアスカの部屋に居座り話し合う二人、どうやらアスカは無視らしく聞こえてはいる
のだろうが相手にする気はないらしい
「だが夢に出てくるというのは昔は相手が自分を思っているから出てくると言われていたんだぞ」
「なに、そうなのか!・・・でもそうだと俺が緊張するわけないし」
「無視か?おーい」
さらに無視されたアスカは居座られることを諦め声に出さずブラッドに話し掛ける
(ブラッドはラブレターって知ってるか?)
『好きと言う想いを伝えるために出す手紙のことだ』
(好きも何も嫌いだったら元々手紙なんてださねえだろ)
『そういう意味の好きではなくもっとこう深い・・』
「よし!わかったぜホワイト膳は急げだ」
ブラッドが言葉を選んでいるうちに何か進展があったのか何か力を込めた言葉を残してアレフが走って部
屋をでていってしまった
「アレフを尾行するぞアスカ」
「なんで?」
「いいから行くぞ」
いちいち説明している暇がないのかアスカの疑問には答えずホワイトはアスカを引っ張って連れて行く
その時のホワイトの目は悪巧みが上手くいったようにさらにその輝きを増していた
 
 
 
「面白いか?」
「馬鹿野郎、これから面白くなるんだよ」
アスカとホワイトの視線の先では少し緊張気味のアレフがセントウィンザー教会の前でローラをデートに
誘おうとしている
普段ナンパしているアレフを見たことは無いが余裕が無いような焦っているように見える
だが成功したのか何処かへ向かおうと歩き出した
 
「面白いか?」
「これからそうなる・・と思うぞ」
陽のあたる丘公園を横切りアレフとローラがやってきたのは夜鳴鳥雑貨店、小物などを手にとっている
同じように店に入るわけにも行かずホワイトとアスカは窓から店内を覗いている
少し余裕が出てきたのかアレフは流行の物の話を取り混ぜるなどして会話を途切れることのない様に広げ
ているようにみえる
 
「面白いか?」
「・・・・つまらん」
さっきと同じく店外から窓を覗いている二人
雑貨店を見回った後はラ・ルナで軽くお茶をしているアレフとローラ、先の夜鳴鳥雑貨店でローラが気に
入っていた小物をプレゼントするなどちゃっかりしている
「ってーか何であんなに手馴れてるんだよ、ラブレター一つかけないうぶな奴じゃなかったのか!」
「アレフ一応エンフィールド一のナンパ師を自称してるぞ」
連れまわされることに疲れたのかホワイトの疑問に疲れた声で返答する
「何でそんな奴がラブレターの代筆頼んでるんだよ!」
「しらねえよ、そもそもラブレターの意味がわからんし」
「常識知らずめ、ちょっとそこで待ってろ!」
一人で盛り上がり雑踏に消えていくホワイト、言葉通りならすぐに戻っては来るだろう
ただアスカは今日と言う一日を酷く無駄にしているような気になっていた
 
 
もう尾行はやめなのかラ・ルナの前の通りに居るのだが人の流れが二人を避けているかある事情で二人を
円を描くように囲んでいる
「っと言うわけでこれからデートの邪魔をするぞ」
戻ってきたホワイトが抱えていたのは三流スパイが来ていそうな黒服でアスカも強制的に着させられ、二
人して黒ずくめでサングラスをしているので避けられもする
「恐ろしく似合ってないな」
「うるさい!」
普段から黒系の服を着ているアスカは大通りにさえ居なければ違和感ないのだが、年がら年中白衣を来て
いるホワイトは似合う似合わないを通り越して変だった
「俺はな若いやつらの甘くて酸っぱいようなでも甘いかな的な青春を見て若かりし頃を思い出したかった
んだ!・・それをアレフの奴は裏切りやがって」
右手の拳を振り上げ宣言するホワイトに若干の観衆がどよめく・・耳をすますと同情の声だが
「っと言うわけでローラ嬢を掛けて勝負しろアレフ!!」
「なんだ?お前ホワイトか、めちゃくちゃ似合ってないぞ」
ラ・ルナから調度出てきたアレフを目ざとく見つけたホワイトだが、今まで店内にいたアレフに事情をわ
かれというのも酷なことで困惑顔である
ここでアスカが進み出て説明すればいいのだがホワイトが拳を振り上げ宣言しているあたりでわざと群集
に紛れ込み他人の振りをしている
「きゃー!何々二人の男が私を取り合って勝負するの?燃えるような恋の予感」
厳密には違うがローラに異存は無いようで
「行くぞアレフ!」
ホワイトがアレフに向かい走り出し拳を突き出す
年中屋内に篭っているもやしな研究員と最近始めたばかりとはいえ戦闘訓練をしているアレフ、不意をつ
いているとはいえ結果は明らかであった
「大丈夫かホワイト」
「・・くっこれで勝ったと思うなよ」
アレフの一撃で地面に沈んだホワイトは捨て台詞を残し気絶した
「は〜いすいませんね〜、ちょっとごめんなさいよ〜」
困惑しているアレフの目の前を群集を掻き分けやる気の無い声でアスカが現れホワイトを回収した後群集
にまぎれ消えていく
「アスカまであんな格好して何やってんだ」
「アレフ君かっこいー、勝利した男と女は幸せになるのよね」
飛びついてきたローラを受け止めると何を思ったのか一部始終見ていた群衆は二人に向かって拍手を送り
出す、訳がわからないがとりあえずアレフは拍手に送られその場を去ることにした
 
 
 
「俺だってよぉ・・若い頃はブイブイいわせてたんだぜぇ・・・・聞いてるかマスター、あの頃は良かっ
たなぁ・・・あの日に帰りてぇ〜」
「俺はマスターなんかじゃねえぞ」
とりあえずホワイトをどうしようか困ったアスカはサクラ亭につれてきたのだが気絶から回復したホワイ
トは飲んだくれて繰り返し同じ事をパティの父相手に喋っている
一方アスカはというとなかなかのピンチを迎えていた
「よくもあの場から消えてくれたわねアスカ、おかげで大変だったわよ〜シーラの怒涛の質問攻めに、シ
ェリルの無言の重圧辛かったわ〜」
「ふふふ、いやだパティちゃんったら怒涛だなんて」
「・・私は重圧なんてかけてません」
アスカはテーブルに座らされ左手をシーラ、右手をシェリルに取られそして背後からパティが両肩に手を
置き言葉一つ吐くたびに肩に置いた手に力が入っていった
「完璧な布陣よね☆」
「僕なら十分も立たずに気絶しそうだよ」
「二人とも静かにしてよ、一字一句聞き落とさないように注意しなきゃ」
そしてアスカの前面に右からクリス、トリーシャ、マリアの三人が座っていてトリーシャは早ければ夜に
でも噂を広める気満々である
「よく解らんがとりあえずラブレターの意味を教えてくれないかな〜なんて」
根本の意味がわかっておらず聞いてはみるものの
「アスカ〜アンタって冗談のセンスがあったのね、とっても面白いわそれ」
「本当にそうよね」
「私は・・おもしろくないです」
全くの逆効果だったようでそれぞれの手に込められる力がさらに大きくなっていく
特に両肩からは骨がきしむような音が聞こえる気がする、幻聴であって欲しいが確かに聞こえた
「俺も面白くないぞ〜」
ちょっとやけが入り始めるアスカ
「それにしても、パティさんはどっちを怒ってるのか解らないけどシーラさんやシェリルは好きですって
言ってるようなもんだよね」
「でもアスカ君もよく解ってないみたいだけど」
「アスカってば本当にラブレターの意味知らなかったりして☆」
マリアの言葉の後の一瞬の沈黙の後、互いに顔を見合わせて渇いた笑いをする三人
未だパティのネチネチとしたお仕置きは続いておりシーラとシェリルがそれに続いている
結局このお仕置きは何故かずぶ濡れの状態で現れたアレフが本当にアスカがラブレターの意味を知らない
ということを伝えるまで続いたという
そしてホワイトは自分が望んだ状態が飲んだくれていた自分のすぐ後ろで繰り広げられていたことに気付
かなかった事を本気で悔やみ涙を流したらしい