悠久幻想曲  月と太陽と

探し、求めていた
 
                   海を渡り、山を越え、いくつもの街をみて
 
                         探し、求めていた
 
                   たくさんのモノを、大切なモノを友と共に
 
                       そして俺達はたどり着いた
 
                      その街の名はエンフィールド
 
                       一 アスカ・パンドーラ 一
 
          第一話  エンフィールド
 
 
 
エンフィールドは雷鳴山、ローズレイク、ムーンリバーと自然に囲まれ、一見ゆったりとした街だが、旧王立図書館や数種のギ
ルドといった大きな施設や組織もみられる。
このエンフィールドにあるサクラ亭は、
『食事をするなら、サクラ亭かラ・ルナだ』
と言われるほどの人気スポットであると同時に、エンフィールドでも1,2を誇るトラブルスポットでもある。
昼のかきいれ時を過ぎた午後、サクラ亭には暇を持て余した人ばかりが集まっていた。
「ねえねえ、みんな知ってる?」
そう言って話を振るのはトリーシャ・フォスター。
彼女がこう切り出す時は決まってエンフィールドにある最先端の噂のため、未確認の情報もかなりある。
「アレフ、今日なにかあったっけ?」
「ん〜、ローラがまた誰かに惚れたって話も聞いてないし、マリアが変な魔法実験したとも聞いてないし、シーラは?」
「え、私?私も特に。」
パティから順にアレフ、シーラと話を振るが誰も答えがわからず、シーラがトリーシャに助け舟を求める。
「えへへ、実はアルベルトさんが、トーヤ先生の所に運び込まれたらしいよ。」
アルベルトとは自警団第一部隊の隊員で、職業柄怪我をすることが珍しくないため医者に行くことは珍しくない。
そのためみんなの反応は「へ〜」と一言で終ってしまうのだが、トリーシャはしてやったりという顔である。
「でもね、ただ運び込まれただけじゃなくて、たった一人の男の子にボコにされちゃったらしいよ。しかも、アルベルトさん以外に
自警団員は複数いたらしいの!」
「おぃおぃ、マジかよ〜。」
「そんなことできる奴、本当にいるの?」
「 ・ ・ ・ 」
トリーシャの狙いどおり、みんな信じられないといった顔である。
アルベルトは自警団内でもかなりの強さで、第一部隊隊長リカルドには及ばないものの彼の実力は誰もが認めている。
さらに、他にも自警団員がいたとなると、相手の男は驚異的な強さと言ってよい。
「そいつは、にわかに信じられない話だね。手合わせ願いたいぐらいだよ。」
さすがに聞き捨てていられないのか、遠巻きに話を聞いていたリサが戦士特有の感想を口にし、話しに加わってくる。
 
そこへカランと、カウベルの音が鳴り来客を知らせる。
「いらっしゃい。」
「パティさん、ランチ二つお願いします。」
「お代は、アレン持ちで。」
入ってきたのは、アルベルトと同じ自警団の第三部隊隊員で見知った顔であるアレンと、見たことのない黒髪の少年であった。
 
 
食べにくい、決してランチが不味いわけじゃなくまわりから好奇の目を向けられると。
「この店では、人が飯食うのを観察するのが流行りなのか?」
「そう言う話は、聞いたことないですけど。」
「流行りって訳じゃないけど、みんなあんたのことが気になるのさ。」
少年の皮肉にリサが含みのある答えをかえし、パティらも便乗して首を縦に振る。
「もしかして、アルのことじゃないですか?」
「あ〜、そういや、そんなこともあったな。ってもう噂になってんのか?」
「エンフィールドには、優秀な情報屋がいますからね。」
チラリと笑いながらトリーシャの方をアレンが見ると、少年は「なるほど」と呟く。
このまま好奇の目にさらされ続けるのも、いい気がしないので事の真相を説明する。
『元はアルベルトの勘違いから始まったことで、街道で盗賊の追いはぎにあい返り討ちにしたのはいいが、そこにやってきたア
ルベルト以下自警団員数名、ものの見事に盗賊の仲間割れと勘違い。さぁ大変、人の話は聞かない、挙句に問答無用に捕
縛劇のち病院送り、そして牢屋行き。』
「つーわけで、俺は悪くないぞ。」
「悪かねーけど、胸張って言う事か?」
「「どーかん。」」
「私も、ちょっと。」
「アルベルトらしいってところだね。」
胸を張って説明する少年だが、帰ってきた反応は呆れたの一言で充分であった。
「もともと誤認が起こした事件なんで、条件付きで釈放ですけど。」
「ホレホレこれで気がすんだだろ?散った散った。」
犬を遠ざけるように手を払う少年だが、暇を持て余している人間にこれほど魅力的な暇つぶしの種はないわけで。
簡単に引き下がるほど、押しの弱い連中ではない。
「せめて、自己紹介ぐらいしろよな〜。」
「アスカ。」
「年は?」
「十八.」
「旅人なのかい?」
「イエス。」
「何のために?」
「探しモノ。」
「えっと、何を探しているんですか?」
「記憶。」
「「「「記憶?!」」」」
相手にするのが面倒で、アレフ、パティ、リサ、トリーシャ、シーラの順にこれ以上にないというほど完結に応えていたアスカだが。
最後の一言には、しまったと言う顔をしている。
「あの・・ごめんなさい。」
アスカが顔をしかめているため、聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったシーラだが。
アスカにとってはこの一言で、また質問攻めにあい飯が食えないと言った意味でしかない。
この場合は、今までの経験から先手必勝が鉄則と言うことはわかっているので。
「あ〜もぅ、メンドクセー!!記憶喪失に関しては気にしてないので謝らなくていい!
 記憶がないのは8歳以前で親も知らねば兄弟知らず!
 記憶もそうだが探し物はほかにもある!
                       ・
                       ・
                       ・
 朝飯はパン派でもなければ飯派でもねぇ!
 風呂では腕から洗う派だ!
 そして、今一番したいことは飯を食うことだ、以上!!」
最後の方は、物凄くどうでもいいことがまじってはいたが、アスカの剣幕に気おされてしまっている。
5人を見渡し、質問がなさそうなので「よし」と呟いて昼食を食べようとすると、サクラ亭の扉が開けられる。
「いらっしゃいませ。」
「パティちゃん、ここにアレン君とアスカって男の子来てないかしら。」
条件反射的にさきほどの硬直から抜け出したパティが、出迎えるのはジョートショップ主人のアリサ・アスティア。
「アリサさん、こっちですよ。」
「あなたがアスカ・“パンドーラ”君ね?」
アレンがアリサを呼ぶと、二人の机の前にきたアリサがアスカの眼を見つめる。
パンドーラに妙な含みがあるような気がするが、あえて気にせず問い返す。
「そうだけど、あなたは?」
「私はアリサ・アスティア。貴方の釈放条件にあった監視監督役よ。これからよろしくね。」
たしかに、誤認とはいえ街を守る自警団員を病院送りにしたのは事実であるから、監視監督はしかたがない。
それにしてもアリサの物言いはとてもそれに当てはまらず、軽く犬猫を人から預かるような感じである。
「「「「「「えー!」」」」」」
一時の間を置いて、アリサとアレン以外が驚きに声を上げる。
そもそも監視はまだいいが、監督となるとある程度の抑止力がひつようなわけで、どう見ても監督には不向きである。
「でもね、私は監視監督だなんて名目はどうでもいいの。家族が増える、それはとても嬉しいことだから。」
家族と言う言葉を使ったアリサが本当に嬉しそうで、それまで素性の知れないアスカに不安を抱いていたパティたち
だが、こうまで言われたらもう何も言うことはできない。
「うちにきてくれるかしら、アスカ君。」
「断る理由なんかないですよ、しばらく旅に出るまでお世話になります。」
そう言って、アスカは頭を下げる。
「それじゃあ、人を集めてきますか。パティさん今夜パーティの準備をお願いします。」
「了解、何人来ても大丈夫なようにしっかり料理用意しとく。」
「私も手伝うわ、パティちゃん。」
「俺も、人集め協力するぜ。」
「まちなアレフ、あんたはサクラ亭の飾り付けだよ。あんたが行くと女の子しかつれてこないからね。」
リサの正論に一同笑いがもれる。
「俺は、一体何をすりゃいいんだ?」
「何言ってんだよ、主役はお前なんだからゆっくりしてればいいんだよ。」
「そうよ、これはアスカ君の『エンフィールドへようこそパーティ』なんだから。」
そういいながらアスカに向かって微笑むアリサ。
そしてアリサに見えないように、アレンが皆に目配せをし呼吸を合わせる。
「そして「「「「『アリサさんの家族お披露目パーティ』なんだから」」」」
 
 
パーティからアリサの家のジョートショップに帰り着いたアスカは、用意されていた一室のベッドに寝転がっていた。
由羅とかいうライシアンに飲まされた酒のせいで、体が火照っているためシーツの冷たさが心地よい。
「はじめはゴタゴタがあったけど、結構良い街かもな。」
どうやら独り言のようで、アスカに応える声は部屋には響かない。
「しばらくココにいてもいいよな、なぁブラッド。」
『私のことは気にするな、お前はお前がやりたいことをすればいいのだから。』
「わりぃ。」
『気にするな。』
部屋には響かないが会話をするアスカの頭には酔ってはいても、しっかりと声が聞こえていた。