機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第四十四話[たった二人だけの王国]


遺跡の深部、遺跡の核の前で、俺とルインは並んで座っている。
時が止まっているかのように静かな時間。

「黒の執行者も白の抑制者もおらず、居るのは私と電子の皇帝である貴方だけ。」

「たった二人で二つの軍を相手にしようなんて馬鹿、過去に居たか?」

「いたとしたら・・・良い友になれたでしょう。」

二人で肩を寄せ合い笑いあう。
電子の皇帝、それが俺がこの時代に来た本当の役目。
黒の執行者、それがコクトがこの時代に来た本当の役目。
白の抑制者、それがアキトがこの時代に来た本当の役目。
電子の皇帝がこの世の全てのコンピューターを操り、黒の執行者が電子の皇帝に逆らう全ての敵を薙ぎ払う剣、白の抑制者が電子の皇帝に向かう刃を防ぐ盾。
この三つがそろって、はじめてこの太陽系全てが皇帝の支配下に置かれる。
それがルインに与えられた計画。

「ごめんな、俺の我侭で優秀な兵士を捨てちゃって。」

「慣れてます。私も、我侭ですから。」

また、二人して笑う。
なんでこんなに笑えるんだろう。それとも、笑うしかないのか。

「それに巻き込みたくない気持ち、今の私になら少しわかります。」

「そっか。お前も生きてきたんだな、ナデシコで。」

「トキアが懸命に生きたからこそ、私も生きる事が出来ました。」

「本当に俺は生きてたのかな?」

自分の存在意義に関わる疑問。
俺が馬鹿なことをしなければ、ネルガルやみんなは連合軍に睨まれる事は無かった。
すぐに俺だけでも、ルインの言う通りにしていれば。

「トキアは一生懸命生きてきました。それは、近くで見ていた私が一番良く知っています。」

俺と同じ金色の瞳がみつめてくる。

「なあ、俺の最後の我侭聞いてくれるか?」

ルインの計画は、三人がそろっただけでは終わらない。
三人がそろい、遺跡と一つになることで、永遠にこの世の管理者となること。
つまり、すでに俺は遺跡と一つになることを決心している・・・だけど。

「この戦争だけは最後まで人として、ですね。」

言いたいことを言い当てられ苦笑い。

「よく、解ったな。」

「ずっとトキアのことは見てましたから。」

「惚れた?」

「はい、ずっと前から。」

冗談で言ったつもりなのに・・真顔で肯定されて、こっちが赤面。
平然としているルインを恨めしそうに睨んでいると、ルインがキッと顔を引き締める。

「でも、覚悟してください。私とは仮初めの契約で電子の皇帝の力を引き出せますが、その有効範囲は火星だけです。」

「十分だ。全てが終わったら・・」

言いよどんでいると、疑問符を浮かべたルインが俺の顔を覗き込んでくる。
切り出したのが向こうからだってのはアレだが、俺も男だ。そこん所は、はっきりしたい。

「全てが終わったら、ずっと一緒だ。千年でも一万年でも、ずっとだ。」

「はい。」

快く了承してくれたのは良いが、意味わかってんのか?

「あ〜・・・その、なんだ。今のはある意味プロポーズなんだが。」

「プロポーズ?」

やっぱりか!

「俺は電子の皇帝だから、王妃になってってことだ。王妃、わかるか?妻だ。」

「はい!」

今までで一番、つってもごく最近からだけど、その短い間での最高の笑顔。
そして目を閉じるルイン・・・なんでプロポーズ知らないくせに、こんなこと知ってるかな。
もちろん、応えた。



契約は簡単なものだった。一度遺跡に取り込まれて、出てくる。取り込まれてる間の記憶は無い。
それだけだけど、両手のナノマシンの文様が体中に広がり形も変化した。
詳しくは解らないが、一応何かしら古代火星人の何かを表しているのかもな。

「文様以外は、見た目に何の変化も無いな。」

「あくまで、仮ですから。それと、これを着てください。皇帝がメイド服では威厳もなにもないです。」

「そらそう・・」

同意しかけて、はっと気づく。
俺ってば、メイド服の女装のままプロポーズしちゃっってるよ!
頭を抱え一人苦悩してるいるが、ルインには何をしてるかわからなかったのか、首をかしげている。
プロポーズって一生物だぞ!そんな恥ずかしい経歴のまま、千年も一万年も一緒にって拷問か!!
いっそこのまま、寿命を待たず死んでしまいたかったが、そんなわけにもいかず。

「なにをしているのです?」

「なんでもない・・ってこれ、コクトが着てるのと似たような黒服だな。どこにあったんだ?」

「私を構成しているのと同じ、三次元プログラムです。好みがあれば意思である程度変化できます。」

俺の目の前でルインの服がネルガル支給品から淡い青のワンピース、タンクトップに短パンと次々と変わり、最終的に黒いドレスで落ち着いた。
特に着たい服もないし、このまま黒の服でマントをかける。ただ、怪しすぎるからバイザーはしなかった。

「それでは、現状の確認とこれからのことを考えましょう。現在、木星軍および連合軍ともに火星を目指すために戦力を蓄えています。どうやら連合軍も、この場所のことを知ったみたいです。」

ネルガルの技術やデータを吸収したんだから、ボソンジャンプの秘密や遺跡のことを知っていてもおかしくない。

「いきなり本体をジャンプさせることはしないだろうから、まずは先行部隊か。」

「そうですね。お互い潰し合ってもらうのが理想ですが、こちらの力を見せ付けるためにも三つ巴と行きましょう。先行部隊が着く前に、こちらから名乗りをあげましょう。」

「それなら、俺たちの軍の名前でいいのがあるんだけど。」

誰も居ないけど、ノリでルインをちょいちょいと呼び寄せ耳打ち。

「それはまた・・皮肉ですか?」

「気が利いてるって言ってよ。」

呆れはしたけど、反論なしって事で採用。
ちなみに今は、俺たちが持ってる唯一の戦艦ユーチャリスへと移動中。もちろん全宇宙への宣戦布告に、善は急げってね。
途中ユーチャリスの格納庫中にはブラックサレナが置いてあったけど、今の俺には扱えない代物なので、戦闘時には持参のカトレアを使うつもりだ。

「さ〜て、それじゃあどんな風にしようか。」

「なんだか楽しんでませんか?」

「人前ではちゃんとするさ。威厳がなきゃ、これからするのは、ただの電波ジャックで終わっちゃうだろ。」


あーでもない、こーでもないと数十分。


とりあえず神秘的に攻めてみることにしました。
ユーチャリスのブリッジで二人ならんで、火星の極寒遺跡から地球、木星、宇宙にある全てのコロニーや船に通信網を伸ばす。
電子の皇帝の力を使わなくても、俺とルインなら簡単な作業だ。
そして、最小最強の国家がここからはじまる。

「私は電子の皇帝。」

「私は電子の王妃。」

「「私達は、火星の後継者だ(です)!」」





オモイカネに掛けられたプロテクトをようやく破壊し、これからの火星へ赴こうとブリッジで会議が始められた時だった。
ウィンドに映ったのは、髪を短くし黒の服を着たトキアと、ゆったりとした黒いドレスを着たルインだった。
もちろん驚いたが、それ以上に驚かされたのは二人が放った台詞だった。

【私は電子の皇帝。】

【私は電子の王妃。】

【【私達は、火星の後継者だ(です)!】】

この時、ルインが俺のことを黒の執行者と呼んだことを不意に思い出した。
火星の後継者か・・この名が出てくると言うことは、アレは間違いなくトキアだ。
駄目元でリンクをつなげてみようとするが、何も反応は返ってこない。

「電子の皇帝?王妃?何を言ってるんだ二人とも。ルリちゃん、通信の発信源を逆探知できる?」

ジュンがすぐさま命令を下すが、ルリは呆然としているためラピスが変わって逆探知を始める。

「王妃はともかく皇帝って、トキアちゃんは女の子じゃないですか。」

メグミの素朴な疑問に、ミナトが俺の方を見てくる。
今更隠すようなことでもないため、簡潔に事実を言う。

「トキアは元から男だ。」

「「「えーーーー!!」」」

「驚くようなことかな。まあ、女装させたのは僕だけど。」

「トキアさんは、見た目以外は完璧に男でしたからなぁ。」

「酷くどうでも良いことに気が行ってるわね。」

驚いたのはメグミ、ジュン、久美。意外と少ない。
ブリッジメンバーのほとんどは知っていたことだ。ただ、副艦長の姿が見えないが。
すぐに他の場所食堂、格納庫などあらゆる場所からコミュニケが開かれるが、今はそんな場合ではないので通信をオフにする。
今はトキアが何をしようとしているかの方が大事だ。

【火星に争いを持ち込む者たちよ。】

【火星の秘めたる力を望む者たちよ。】

【【私達は火星を犯すものを許さない!】】

まるで歌うように言葉をつむぐ二人。

【自らに力を望む者たちよ。】

【自ら力を振りかざす者たちよ。】

【【火星の秘めたる力は諸刃の剣。知りなさい、自らの愚かさを!気づきなさい、争うことの醜さを!】】

「通信は火星の遺跡みたいな所だけど、変だよ。トキアがこんなに簡単に逆探知されるなんて、居場所を教えてるみたい。」

遺跡みたいなところ、極寒遺跡しかないな。
しかし、どういうことだ?二人の真意がどおあれ、言葉からは火星に来るなと聞こえる。
だが、実際には居場所を教えている。もしかして、言葉とはまったく逆に誘い出しているのか?
連合軍は知らないが、草壁がこれを知れば前回と同じように間違いなく火星は戦場になる。

【【自らの愚かさを知らず、醜さに気づかぬ者が火星に侵入した場合は。】】

【私、電子の皇帝が。】

【私、電子の王妃が。】

【【全力を持って、これを排除します!】】

「火星の後継者か・・プロス君、聞いた事あるかい?」

「ちとないですなぁ。」

「まさかたった二人で軍を相手取るつもりなの?」

プロスが聞いた事ないと言うのはあたりまえだ。現時点で火星の後継者がいるはずがないからだ。
たった二人で二つの軍を相手取る。よほど自信があるのか、もしくは自棄。

【私は電子の皇帝。】

【私は電子の王妃。】

【【私達は、火星を侵す者を許さない!】】

突然現れたウィンドは、同じように突然ぶつっと消えていった。
なんともいえない沈黙の中、ルリが声をあげてウィンドボールに座っているラピスと席を替わってくれと申しでる。

「勝手に消えて、勝手に現れて、勝手過ぎます。ちゃんと説明してください!」

マシンチャイルド用のナノマシンを持たない俺には、目まぐるしく動くウィンドボールの中で何が起こっているのかわからない。

「ルリねぇ、すごい。連鎖反応で崩れていく通信網を、最短距離を選んでリアルタイムで修復してる。」

「説明するまで、逃がしません!」

再びルリが叫ぶと、ウィンドが開き驚いた表情のトキアとルインが現れた。
よほどルリが通信を成功させたのが意外だったのだろう。

「トキアさん、何を考えているんですか。そんなことやめて、さっさと戻ってきてください。」

「トキア、居なくならないで。」

トキアに呼びかけたのは二人だけじゃない。ミナトやメグミはもちろん、ヤマダたちパイロットも食堂のサイゾウさんたちも。
だが驚いた顔をすぐに冷静な顔に戻したトキアが放ったのは、かつての残酷な言葉だった。

【君たちの知っているテンカワ トキアは死んだ。ここに居るのは、名も無き電子の皇帝だけだ。】

そんな言葉を放ったトキアを攻めることは俺には出来なかった。
知人を目の前にして、自分が死んだなどと言う辛さは知っている。

「貴方が・・トキアさんに何を吹き込んだんですか!」

【私は電子の王妃。王妃はただ、皇帝に従うのみです。】

ルリの目は、もはや仲間を見る目ではなく、自分の敵を見る目だ。
再びぶつりと通信が切れても、眼光はそのまま。
本当に、トキアが何を考えているのかわからなくなってきた。
大切なものを切り捨てて・・・その先でお前が得る物はなんなんだ。





「やってくれたよ。人の執念、か。」

「よかったのですか?あのようなことを言って。」

少しためらいがちに言うルイン。
自分がどんな酷い事を言ったのかはわかってる。
でも、もうみんなと共に歩いている時間は無い。

「ああでも言わなきゃ、俺の方の決心が鈍る。」

ちょっとしたアクシデントはあったけど、逆探知でこの場所がわかるってことが幸運にも確認できた。
もちろん、さっきの放送は軍にも送られている。発信源が重要な極寒遺跡だと解れば、両軍が慌てて出てくるだろう。
唯一無敵になれるこの火星で叩き潰す。
木星も、地球も、潰す。力あるもの、力を望むもの全てをだ。

「全てを・・・」

ギリっと音が鳴りそうなほど握った手。
その手に、口元から一滴の赤い雫が零れ落ちた。
もう・・血がのど元を過ぎた事すら気付かなかった。
俺の手を、その血ごと握り締めてくるルインの両手。

「私は、貴方の言葉、貴方の想いに従います。だけど、一つだけ我侭を言わせてください。」

「我侭?」

揺るがぬ瞳で呟いた言葉は、

「生きて。決して、死なないでください。」

とても我侭とは言えぬ、ごく自然の想いだった。



















【電子の皇帝より、無謀にも火星に侵入した両軍に判決を言い渡す。死ね。】

容赦なくその絶対的な力を振るうトキア
そんな力を持ちながらも、決して思い通りにならないものもある
それは人の想い。誰かを大切に想い守りたいという気持ち
彼らはきてしまったのだ。火星に

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