機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第三十六話[追いつ追われつ、二人の気持ち]


【貴様らの任務は囮である。くれぐれも余計なことはしないように、以上だ!】

「これはまた、かなり上の方からきましたね。」

偉そうな態度の軍人が映ったウィンドが消えたことで、やれやれとジュンがため息をつく。
言葉では囮だとか任務だとか言っているけど、結局はナデシコの力を借りたいってことだ。
あんな大人にはなりたくない・・・いや、無理。

「でもジュン君、何も資料送ってきてないけど、何に対して囮をすればいいのかな?」

「そういえば・・・」

「ご心配なく。それに関する資料は昨日の内に軍のメインコンピューターからとってきておいたから、ルイン出して。」

いまだオペレーター席に居場所のないトキアが、ルインちゃんに頼むとウィンドに映像が流れる。
何の変哲もない戦闘の映像だけど、被弾したわけでもないのに一隻の戦艦が爆発し墜落していく。
ブリッジにいるクルー全員に疑問符が浮かんだ。

「どうなってるんだ、やられっぱなしじゃないか!」

リョーコちゃんが叫ぶのも無理ないわけで、落ちた戦艦は一隻だけに留まらず次々と落とされていっている。

「資料を渡さなかったってことは、ナデシコにもこうなって欲しいのかね。」

トキアの何気ない一言がブリッジを凍りつかせる。
一応冗談だよと言ってるけど・・怪しい。

「不穏な話は置いておいて、まずはあのカラクリを・・」

【説明ね、説明よね。すぐ行くわ、二十秒ほど待ってなさい。】

「説く必要はないようですな。」

「待たせたわね!」

勢い良くイネスさんがブリッジに入ってきたのはいいけど、二十秒たってませんよ?
それに前はホワイトボードだったのに、今回はなんですか?紙芝居?

「さてお立会い。今回木星側がどのような兵器を使い、連合軍の戦艦を落としたのか。」

「それは「ちなみにトキアちゃんは解答権を持っていないのであしからず。」」

トキアが答えようとした所を、先にイネスさんがさえぎる。
少し勝ち誇った顔をするイネスさんに対し、チッと舌打ちをするトキア。
それは置いておいて、皆首をひねるだけで解答が出てこない。いきなり爆発して戦闘不能か、思い当たるのは・・

「ボソンジャンプ?」

「はい、アキト君正解。敵は爆弾を直接相手の戦艦内部にボソンジャンプさせることによって沈めている。正解者のアキト君には、チョコを進呈。」

「どうも。」

イネスさんから傘の形をしたチョコを受け取ると、ユリカが手を挙げる。

「イネスさん、ボソンジャンプってなんですか?」

「貴方達は何度も見ているはずよ。木星の兵器がどうやって地球に送り込まれているのか。」

「チューリップから送られるあの現象がボソンジャンプ?」

「ワープと言ってしまえば、それに近いものがあるわ。」

この時頭をひねっているのはジュンとユリカだけ、特にパイロット達はよくわからなくなってきたのか聞いてなかったりする。

「要するに物をいきなり出現させるから危ないんだろ?」

「要点はそこね。あとは戦闘のプロに任せるわ。」

ぼんやりと考えをまとめたのはヤマダ。言いたいことを言えたのですっきりしたのか、足取り軽く去っていくイネスさん。
まあ確かに原因究明は研究者、対抗策は戦闘のプロ間違ってはいないか。

「それでは作戦実行時まで待機とします。副艦長とコクトさん、トキアちゃん、提督は艦長室まで来てください。」





待機といってもすぐに格納庫に向かえる所に居ればいいわけで、食堂に着たんだけど。
一人広いテーブルにぽつんと座っているのは、たしか・・久美ちゃん。

「どうしたの久美ちゃん?」

「あ・・アキトさん。」

「どうしたの、元気なさそうだけど?」

「今更ですけど、ナデシコって戦争してるんだなって。」

「怖くなったの?」

久美ちゃんが伏せていた顔を上げ首を横に振るけど、すぐにやめる。

「やっぱり、少し怖いですけど・・私コクトさんの力になりたくてナデシコに乗ったのに、できることあるのかな。」

いきなり月で乗ってきた子だけど、そんな理由があったのか・・知らんかった。
ミナトさんや静音さんはしってるのかな。

「そのためにメグミさんに色々教わって、通信士やってるんでしょ。」

「でも、通信士やったからって・・」

「影ながら相手を支えることだって、相手のためなる事にはかわらないよ。」

俺の言葉を聞いて久美ちゃんが立ち上がる。
表情が晴れてて・・少しは役に立ったのだろうか。

「アキトさん、ありがとうございます。私、もう少しがんばって見ます。」

手を振りながら走り去る久美ちゃんを見送ると、目をつぶって心の中で「いいってことよ」と呟く。

かっこーん

「おらアキト!職場で女口説いてんじゃねえ。」

「サイゾウさん、お玉投げないでくださいよ。ホウメイさんに言いつけますよ。」

「う・・いいからそれ洗って厨房入れ。」

サイゾウさんが怯んだのは一瞬、お玉が当たった頭を抑えながら厨房に入ろうとすると服が引っ張られる。
振り向くとそこには、先ほどの久美ちゃんと同じように顔を伏せたユリカ。

「アキト、ちょっといいかな?」

サイゾウさんの方を見ると、行って来いとのお許しが出た。



ユリカが先を歩き、着いたのは展望室。
なんか他の人には聴かれたくない話でもあるようだ。

「ねえ、アキトはいつまでパイロットするの?コックさんになるんじゃなかったの?」

唐突な質問で返す言葉がない。
それに今まで考えたこともなかった。いつまでだなんて・・戦争が終わるまでか?

「今までだって危なかったし、それに相手は人間かもしれないんだよ?」

答えのないままユリカが続ける。

「アキト、あんなに苦しんでたじゃない。もう十分だよ。」

「ユリカ、もしかして今回の作戦となにか関係あるのか?」

「うん。大まかには、敵艦を宇宙に誘い出してからナデシコのエンジンを止めてエステバリス単体で敵艦を落としに行くの。」

つまり敵艦に人が乗ってるかもしれないってことか。

「トキアちゃんとコクトさんが言ってたの。最新鋭の戦艦だから人が乗っているはずだって。」

「だからって、俺じゃなきゃ人を殺してもいいってわけにもいかないだろ。」

「そう・・だけど。」

自分でも言ってるころがおかしい事に気づいてるのか、ユリカが目をそらす。

「確かにエステバリスに乗ったきっかけは、人を殺した償いだけど。今は、理由が違うんだ。」

「理由が違う?」

「今はナデシコを守るために乗ってる。償いじゃないんだ。だから、ごめん。」

両手をユリカの肩に乗せ説得するけど、ユリカはまたうつむいてしまう。
しょうがない。いくらユリカの頼みでも、エステバリスを降りることはできない。
コクト兄さんやトキアのエステの操縦を見ていると、自分の力がどれだけ小さいか何時も思い知らされる。
自惚れる暇も無いけど・・・今エステを降りたら、俺はきっと後悔する。

「アキトが頑張ってることは解った・・だから。」

言葉を途中で区切られユリカの顔を覗き込もうとしたが、

「辛くなったらいつでも私が慰めてあげる!」

「だー、やめんか!」

抱きつかれた。
それも勢い良く抱きつかれたものだから、押し倒された。
いきなりいつものユリカに戻るなよ。むちゃくちゃ不意をつかれた!

ぷしゅー

展望室だから中から鍵ができるはずもなく、ユリカの下でもがいてる姿を見られた。リョーコちゃんとヤマダに。

「な・・なにやってんだお前ら!」

「馬鹿野郎、野暮なこと聞くな。すまんアキト、邪魔したな!」

すぐにドアを閉め、リョーコちゃんの手を引っ張って走り去っていくヤマダ。
勘違いするなヤマダ、助けてくれ!!

「アキトー、これでクルー公認よ!」

「狙ってたなユリカ!!」

結局何時ものユリカに戻ったわけで、よかった・・・・・・かな?





ユリカから聞いた作戦は、本当におおまかだった。
ジュンから説明された正確な作戦は、敵艦を宇宙にさそいだしナデシコのエンジンを停止させ相手をかく乱。
ミサイルを時限式にてばら撒き相手がそれに突っ込めばよし、そうでなければ迂回した所をエステバリス隊でしとめるとのこと。

「以上が作戦の概要ですが、質問はありますか?」

「エステバリスで出るのはいいけど、十五人全員出るのか?」

「まさか、ちゃんと二部隊に分けてあります。第一部隊が敵艦へ、万が一を考え第二部隊はナデシコの護衛のため残ります。」

質問したのは三村さんだけど、みんなから当たり前のことを聞くなと攻められてる。
よかった・・・質問しなくて。

「では二つに分けた部隊を発表します。敵艦に攻める部隊を第一部隊とし、隊長コクトさん副隊長をヤマダさん、リョーコさんに紫之森さん三村さんに八牧さん、そしてアキトとイズミさんこの八名で攻めてもらいます。」

「艦長、万が一もいいけど敵艦を攻めるのなら、トキアちゃんも第一部隊に入れた方が良いんじゃないですか?」

「それは僕達も考えたんですけど、ウリバタケさんが言うにはカトレアの新兵器はナデシコから離れて運用できないそうで、力が発揮できないぐらいだったらということです。」

メグミさんの質問は予想されたことなのか、すぐに訂正される。

「第二部隊はトキアちゃんが隊長で新見さんが副隊長、失礼ですが残りは省きます。」

名前を呼ばれなかったヒカルちゃんと夏樹さんと七海君がジュンに向かってブーイングをするけど、どう見ても七海君は無理やりやらされてる。

「以上で作戦およびエステバリス部隊の発表を終わります。パイロット各員は作戦実行時まで格納庫で待機、クルーも戦闘配備。」

各自ばらばらで格納庫に向かうと、寄ってくるヤマダ。
ちなみにトキアだけは、ブリッジでの待機。

「ようアキト、さっきは悪かったな。いいところで邪魔して。」

「ば、ばか言うな!俺とユリカはなんでもないんだ。」

思わず大声を出してしまったため、格納庫に向かっていたパイロット全員の視線が集まる。
コクト兄さんだけは足を止めることなく行っちゃったけど、大体の人がいや〜な笑みを送ってくる。
恨めしい視線をヤマダに送るが、そっぽを向いて口笛吹きやがった。

「だめだよアキト君。そんなこと言っちゃ、ユリカちゃんがかわいそうだよ。」

「いや・・ですから別に俺とユリカは・・」

一番に食いついてきたのは夏樹さん。ユリカとはまた違った意味で苦手かもしれない。

「あ、ユリカちゃん。」

「え、あいや違うぞユリカ。これはだな!」

夏樹さんが俺の背後を見てユリカだなんていうから振り向いていい訳をするが・・誰も居ない。
騙されたと思って文句を言おうとしても、再び振り向いた所には誰もいなかった。
向こうの方で呆れた一段がやってられないと言う雰囲気で歩いてる。
違うんだ!って、どっちがって突っ込まれたら・・・いや、何処がだ?
自分で考えててわからなくなってきた。

「何なんだ一体・・」

「からかわれたってことだけは確かだな。」

慰めにもならないが、ヤマダに背中を叩かれてしまった。
たしかにユリカは嫌いじゃないけど、追われたら逃げたくなるもんで・・・
あ〜、戦闘前に悩むようなことか、これ?



















「北辰、御託は抜きだ。全力で行く!」

しつこいように作戦行動のたびに現れる北辰
いつもは不意打ちであったが、トキアは今回の北辰の来襲を予測していた
迎え撃ったトキアは新しいカトレアの力、システム ドーリスFを始動させる
そして、ついに長かった北辰との決着が・・・

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[深い宇宙がもたらすものは?]