機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第三十二話[木星艦隊へ行こう]


目を覚ますと、そこは見慣れた医務室の天井。
余り嬉しい光景ではないのだが、見慣れてしまった事はしょうがない。
起き抜けのだるさを振り払うと思い出すのは、ジャンプフィールドの遠隔操作。すごい力だけど反動が大きすぎる。
制止した物体にしか使えない事なんかも考えると、あんまり使えない力だよな。

「もともとアレは、貴方が本当の意味で電子の皇帝となった時の力です。私も反動で遺跡との接続が切れかけました。」

ルインの声に振り向くと、隣のベッドで寝かされている。
接続が切れたってのは、気絶したって事か?

「あら、二人とも起きたようね。」

「また世話になったみたいだな。あれからどうなった?」

「そんな何時間も経ってないわ。戦闘の事後処理が終わって、今からブリッジで会議よ。」

カーテンを開けて、イネスがひょこっと顔を出す。
顔出しといた方がいいかな。コクトがどうなったかも、ミナトさんと静音に説明しなきゃならないし。
ベッドから降りると足に力が入らず、カクッと折れ慌ててベッドにしがみつく。

「無理は良くないわよ、トキアちゃん。隠してるつもりみたいだけど、貴方血を吐いたの一度や二度じゃないでしょ?」

「まだ、平気だよ。たまに力が抜ける程度で支障は無いよ。」

「それは生活にかしら、それとも戦闘?」

「戦闘ってことにしといて。ルイン、ブリッジにいくぞ。」

「会議ならコミュニケで行えます。私は寝ていることを勧めますが・・」

「それじゃあ心配かけるだろ、いくぞ。」

俺はイネスとルインの制止を無視して、ブリッジへと向かった。





【俺が居るのは、月だ。】

ブリッジに入ると、丁度コクトからの通信が来たころらしい。
事後処理後に寄ったのかアリウムのメンバーはもちろん、ミナトさんと静音の顔は無事を喜ぶ表情でいっぱいだ。

「プロスさん、なにがどうなってるの?」

「おお、トキアさんにルインさん、体のほうはもうよろしいので?」

「たいしたことではありません。」

ブリッジメンバーはコクトの通信に夢中で、俺とルインが入ってきたことに気づいていない。

「ウリバタケさんが何か報告があったそうですが、丁度コクトさんからの通信が届いた所です。」

てことは、九十九はすでに艦内か。後でオモイカネに、クルーのデータに無い人物をスキャンさせよう。
一応ルインも木星艦隊につれてくか、ボソンジャンプできると便利だし。

「それではナデシコは月に進路を向け、コクトさんを迎えにいきましょう。プロスさん、かまいませんね?」

「そうですな。エースが不在というのは、心細いものです。」

「まるで俺らが不甲斐無いみたいじゃねえか?」

「でも、コクト君と比べられるとねぇ〜。」

「いえいえ、失言でしたね。」

リョーコとヒカルの言葉に慌ててプロスさんが言い直す

【それでは、月で待っている。】

「待てください、隊長。いえ・・コクトさん。」

コクトが通信をきろうとした時に、静音がコクトを名前で呼ぶ。
待ったをかけたことより、名前で呼んだことに対して二人に視線が集中する。

「私も、月に参ります。」

【アリウムの方はどうする。】

「もう、偶然戦場が一緒になるまで、コクトさんに会えないのは嫌ですわ。アリウムの皆さんには申し訳ありませんが、私はナデシコに乗艦いたします。」

【・・好きにしろ。】

冷たいとは思うけど、それだけ言うと通信をきるコクト。
嫌われたいのなら突き放せばいいのに、それさえ出来ない優しい馬鹿か。
向いてないよな。

「静音ちゃん、いつ決めてたの?ちょっと寂しいけど、頑張ってきなよ。」

「頑張れ。」

「静音が抜けるのか・・どうせなら三村あたりだと、揉め事がへるんだがなあ。」

「ヤッさん、そりゃひどいぞ。」

順に、夏樹、久利、八牧そして三村。

「プロスさん、なんか勝手に盛り上がってるけど、静音って乗艦許可もらいに来たの?」

「コクトさんがボソンジャンプをした後、真っ先に取りに来ました。信じていたのでしょうね、彼の事を。」

そうですねっと、プロスさんに返しておく。
本当にコクトみたいな自虐馬鹿には、もったいない娘だよ。
結局ナデシコの向かう先は月と決まってしまったため、この後の会議ではウリバタケさんの侵入者の疑いがあるという報告だけだった。みんなは当然のごとく軍からのスパイだと思っていたが・・・





「あ・・エリナ、悪かったなCCなんか取りに行かせちまって。怪我は平気か?」

「実験やってた研究所に取りに行った私も、馬鹿だったけどね。」

オモイカネでスキャンをかけた結果、九十九はメグミの部屋に居ることがわかった。
部屋に向かう途中、廊下でエリナとばったり会う。
一番大きそうな怪我は腕だけで、それでもシップか何かを張って包帯をしてる程度だ。

「貴方、ルインを連れてこんな所で、ブリッジはいいの?」

「優秀な妹が二人居るから、侵入者のこと聞いただろ。これからそいつ連れて木星艦隊に行ってくるわ。」

「貴方って、いつもさらりととんでもない事言うわね。」

エリナが引きつり気味に笑う。

「お前も来るか?」

「やめておくわ、一応怪我人だしね。それで、もう木星蜥蜴の正体ばらすつもり?」

「ネルガル・・ナデシコが、木星のエステバリス回収しただろ?今ばらしとかないと、後でばれた時ナデシコも隠匿した一味だと思われるぞ。」

「それもそうか。・・わかったわ、行ってらっしゃい。」

「おぅ、行ってくる。」

「行ってきます。」

エリナに右手の握り拳を振り上げ応えると、ルインもぺこりとお辞儀をする。
なんだか物凄くそれがおかしくて、エリナと顔を見合わせて笑う。

「・・・ルインって、あんなふうに挨拶するキャラだっけ?」

「最近、少し変わったんじゃないかな。」





オモイカネに頼んで、メグミの部屋の鍵を勝手に開ける。犯罪だが・・非常時と言うことで。
めざすはウサギのぬいぐるみ。あの中に九十九が居るみたいなんだけど、どうやってこの部屋に侵入したんだ?
もしかして自爆時に慌ててボソンジャンプした先が、あの中だったのか。

「白鳥 九十九。馬鹿なことやってないで出てきなさい。」

「地球人が何故私の名・・を・・・・・メイド?」

サイズが違うんだから当たり前だけど、ぬいぐるみを破って長い手足が出てくる。
うさたんIN九十九だ。ちなみに俺も負けず劣らずメイドINトキアだ。

「何で知ってるかは置いておいて、逃げるの手伝ってやるから着いて来い。」

「ど・・・どういうつもりか知らないが、かたじけない。」

「どうしてあっさり信じられるのでしょうか?」

「メイドの力は偉大なのだ。」

もちろん冗談だったが、冷たい視線をかえされてしまった。そういう所は表情豊かにならんでいいです。
実際はどうだか、勝手に頭の中で、敵の少女が敵である自分に惚れたとかいうエピソードでも作っているのだろうか。
九十九にヤマダの制服(勝手に拝借)を着せ、廊下を堂々と歩く。

「ところで、先ほどからすれ違う人たちが何も反応をしないのですが。何故です?」

「お前にすっごく似てる奴が、この艦にはいるんだよ。」

そんなに似てるのかと頭を抱える九十九をよそに、さっさと格納庫へと行く。
木星エステに脱出用の機能があればいいけど、なければヒナギクで行くか。
途中でリョーコに出会っちゃったり、アキトが歩いてきたりと色々あったが、何とか切り抜け格納庫へと到達する。
木星エステはウリバタケさんによってバラバラにされていたので、結局ヒナギクへと乗り込み発信準備を進める。

【トキアちゃん、一体ヒナギクで何を・・ヤマダさんはブリッジに、居るよね?】

通信をつなげておいて、即座にブリッジにいるヤマダを確認するジュン。
気持ちは痛いほどわかるぞ。

【本当に、ヤマダさんとそっくりさんだ。】

【ヤマダさんって、実は双子だったんですか?】

【俺は兄貴はいるが双子じゃない。誰だ、お前は!】

ブリッジから通信を繋げられたが、まあ勝手に発進準備を進めれば当然か。
ジュンに続いて、ユリカ、メグミとヤマダを見、ヤマダは九十九を指差し怒鳴ってくる。
事前に似ている奴がいるとは聞いていても、予想以上だったのか、自分を指差すヤマダを見て目を丸くする九十九。

「事情は後で話すよ。ハッチ開けるから、整備班を引っ込めてね。」

【そんなことできるわけないよ。ルリちゃん、ハッチは絶対に開けないで!】

【さっきからそうしてるんですけど、能力的にトキアさんのほうが私たちよりはるかに上なんです。止められません!】

「私のために、いいのですか?」

「九十九のためじゃなくて、自分のためだよ。ヒナギク、発進しまーす。」

そのうち、クルーに色々説明しなきゃな。
ボソンジャンプのこととか色々と、戦争の正体がばれたらついでに言えばいいか。





宇宙に出ると、急加速でスピードをマックスにしてナデシコを離れる。
エステで連れ戻されても面倒だし・・・急なGで九十九が、グェっとカエルがつぶれたような声を出したが、ほうっておこう。
さすがパイロット、数分で復活した。
そして九十九の案内を聞きいれ、そのまま数時間飛び続けると木星艦隊が見えてくる。

【そこの輸送艇、止まれ。これ以上近づけば、撃ち落とす。】

「待て、俺だ。白鳥 九十九だ。地球人のお二人に助けられ、敵船からこの船を奪取してきた。客人を出迎える準備をしてくれ。」

当然だが不審船ととられ、警告が音声のみで送られてきた。
すぐさま九十九が出ると、向こうの雰囲気が和らぐ。

【艦長、無事だったんですね。わかりました、用意しておきます。】

「お二人には、できる限りのおもてなしをさせてもらいます。・・えっと、お名前をまだ聞いてませんでしたね。」

「俺がトキアで、こっちがルイン。」

「いまさらですが、よろしく。」





「ゲキガンビ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ム!!」

やたらとピカピカ光る画面。ごめん、もうおなかイッパイ。
なんか知らんが、あの時のミナトさんとメグミもこういう歓迎の仕方をされたのか?
ゲキガンガーのアニメ見させられて、良くミナトさん九十九に興味を持ったよな。

「木星人のもてなしって、アニメを見せることなのか?」

「お気に召しませんでしたか?我々にとっては最高のもてなしなのですが・・ゲキガンガーとは、愛と勇気を兼ね備えた最高のアニメです!」

「色々な人が居る・・っということですね。」

「そうとるしかないな。」

少々どころか、あきらかにルインは呆れ顔。
九十九はそれに気づかず、ゲキガンガーがいかにすばらしいアニメかを語っている。
すると襖の向こうからドタドタと品の無い足音が・・・
「お兄ちゃん!やっと帰ってきたと思ったら、地球人なんかもてなして、なに考えてるのよ!」

「ユキナ、何故ここに!」

「そんなことより地球人に助けられたって、どうせお兄ちゃんをたぶらかそうとしてるスパイにきま・・て・・・」

ルインと俺を指差して、ユキナが止まる。

「可愛いけど、おにいちゃんをたぶらかすのは無理そうね。色気ないもん。」

どう答えたもんか・・色気と言われても、悔しがるのも変だ。
ルインと顔を見合わせて困っていると、再びドタドタと足音が。

「色気はなくとも、スパイには違いないはずだ!」

「源一郎、お前も無事だったようだな。」

「ジンがやられて跳躍したのは良いが、咄嗟だったから直接戻っては来れなかったけどな。」

次から次へとよく出てくるなこいつら。しかも客人ほったらかしだし。
アニメはとりあえず無視して、目の前の食事をぱくつく。戦艦だからか、30点だな。

「それはともかく、その二人から離れろ九十九。婦女子を使うとは、腐った地球人のやりそうなことだ!」

「腐ったね。だったら木星人が、地球でなんて呼ばれてるか知ってる?」

「どうせ自分たちのしたことを棚にあげて、口汚くののしっているのだろう。」

心底馬鹿にしたように月臣が言うが、まあ木星の認識なんてそんなもんだろう。

「はずれ。地球人の軍人も含め、一般人は木星人の存在自体しらないよ。」

「そんな馬鹿な!だったら、何故あなた方は私の存在を疑問にも思わず助け出したのですか?」

「俺とルインは、これでも社会の裏を色々と知ってる人間だから。地球人は木星人の存在を知らず、向かってくる敵は正体不明の木星蜥蜴と呼称して未知の侵略者と言ってるよ。」

「なによそれ。私たちは宣戦布告まで政府に送ってるのに。」

「揉み消しだよ、揉み消し。政府が過去に行った愚行のせいで戦争が起こったら、突き上げが激しくなるだろ?だから相手は正体不明の侵略者。おそらく戦力を木星まで押し切ったら、二度と未知の侵略者が来ないようにとか言って、また核でも撃ち込むんじゃないの。」

前に政府のメインコンピューターに忍び込んだら、見つけちゃったんだよね。そういう計画書。
さすがに木星間近に行ったら、木星人が出てくるから没案になってたけどね。

「卑劣な地球人め。また百年前の惨劇を繰り返すつもりか!」

月臣がこぶしを握り締め、比較的柔和な九十九もうつむく。
ユキナも例外ではないが、なんだかこの三人に、木星人に危うさを感じた。
スパイだと罵った相手の言葉を鵜呑みにして・・・お人よしとかじゃなくて、思考が流されやすい?

「いくら政府に言っても、揉み消されるだけ。だったら、自分たちの存在を民衆に直接アピールしたら?」

「そんな事できるのですか?」

「お前たちは正義、なんだろ?だったらできないはずない。俺が手伝ってやるよ。」

「俺もその時はついて行くぞ、九十九!」

「お兄ちゃん、私も行く!」

あくまで三人の自主性に任せたつもりだけど、ルインがポツリと一言。

「・・・トキアはまるで、裏で糸を引く悪役ですね。」

「否定できないな。」

どんどんテンションをあげて盛り上がっていく三人を見て、ルインと二人でつぶやく。
あとは世界中に木星人の演説流して、木星蜥蜴の正体をばらすだけ。
こんどは月周辺じゃなくて、地球全土、宇宙全域。政府にどんな突き上げが行くか、楽しみだなぁ。
ニヤリと笑ったら、ルインが俺から距離とりやがった。



















「硬い手、男の人の、パイロットの手。」

月でコクトは食堂の娘、久美に出会い想いを寄せられる
時と場所、相手さえ違うのに、それはいつか聞かされた言葉と似ていた

ほんのきまぐれか、少しだけだが自らの心をさらけ出すコクト
答えはみつかるのだろうか

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[本当の意味での戦争]