機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第三十一話[電子の皇帝、トキアの力]


「ネルガルでのボソンジャンプの研究はどうなっている?」

「一時的に中止してるよ。ドーリス使った時に、全部説明しといたから。」

テンカワ家の自室で、コクトと出前のラーメンをすすりながら向かい合う。

「では、九十九は今度はこれないのか?」

「そうでもないと思う。今までだって、何しても大抵同じような結果になっただろ。ヤマダの代わりに俺が撃たれたり、テニシアン島ではルリちゃんが誘拐されたし、これ見てみろよ。」

「これは・・」

「ネルガルの研究員が、秘密裏に起こしてる行動のタイムスケジュール。」

ウィンドに映し出されたのは、タイムスケジュールだけでなく有人ボソンジャンプの履歴も混ぜてある。
会長のアカツキが中止命令を出しても、止まらない奴はたくさんいるってことだ。

「全員死亡、何故だ。何故止めなかった!」

「落ち着けよ。俺は大抵の情報は望むままに手に入れられるが、全てを知っているのと同義じゃない。むしろ知らない事の方が多い。」

怒鳴ってきたコクトをなだめ続ける。

「たぶん近いうちに九十九は来る。ジンタイプじゃなくて、エステバリスに乗ってね。」

「それはかまわないが、その頭にのってるのは何だ。」

「クリスマスのコスパは知ってるだろ、アカツキがうるさくてな。」

どういう原理なのかは知らないが、微妙な力を入れると頭の上で飾りのネコ耳がピコピコ動く。

「・・そうか」

諦めと同情様々な意味が込められたため息。
もう今更アカツキの趣味をどうこう言わんが、どこでどう仕入れてくるんだか。
市場潰したら、アイツ手首掻っ切るかな。





「メリ〜クリスマ〜ス、素敵な夢は来る!!っと。」

ユリカの声が聞こえたのでそちらを見ると、今度あるクリスマスパーティのポスターを貼っていた。
コスパってことはやっぱり、アカツキが絡んでるんだろうな。

「クリスマスパーティ、ねぇ。」

「ほぉ〜〜〜〜。」

「ちょっとまがってない?」

「そうかな〜・・あ、アキトはもちろん参加だよね?」

「プロスさんからテンカワ家は、絶対に全員参加って言ってたからね。」

「え〜、何で?」

「説明しましょう!」

イネスさん一体何処から・・みんなも驚いてる。

「テンカワ家が別にパーティを開いた場合、ユリカ嬢はもちろんのこと、ミナトさんにメグミさん、ヤマダ君にアカツキ君とほとんどのメンバーがそちらへ顔を出すことになるわ。ネルガルが主催しておいて、人が集まらなかったら格好がつかないものね。アキト君、鍋焼きうどんお願いね。」

「わかりました。サイゾウさん、鍋焼きうどん一つ入りました。」

「あいよ。アキト、くっちゃべって無いで働け。」

せっつかれた為、おしゃべりを中断し厨房に入る。
そういえば、コスパだったよな・・どうしようか、アカツキにでも適当に頼んどくか。





軍にヨコスカベイのドックを借り受け入港を終えると、そのままクリスマスパーティに突入した。
今回は軍に編入されることは無かった・・・よっぽど嫌われたなナデシコも。

「みなさーん、今日はコスプレクリスマスパーティです。衣装が用意できなかった人もこちらで用意して置きましたので、申し出ていただければた〜くっさんありまーす。」

「ネコ耳、ウサ耳を問わずフリルからゴスロリと種類はさまざま。ちなみに野郎は知ったこっちゃ無いので、よろしく。」

メグミの司会はまだいいのだが、アカツキの台詞は参加者をちょっと引かせた。
衣装にあんな偏りがあれば、誰でも引くと思うんだけど。

「ちなみに完成品はこうなります、トキアくんだ。見よこの完璧なはまりっぷり、見慣れたメイド服もネコ耳一つでこうも新鮮に!!」

「もうやけだ。どうだ整備班、かわいいと言え!!」

「「「「「「「「「「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」」

うなり声は上がったが、視線は完全に俺から離れている。
誰だ、この中でライバルと呼べるのは!

「なぜか視線が集まってる気がしますが・・衣装のせいでしょうか?」

「くっ・・アカツキ、他には無いのか現時点で負けてるぞ。」

皆の視線を集めているのは、西洋のお姫様のようなドレスを着たルインだった。

「正統派には変化球で勝負だ。トキア君、こっちのゴスロリなんてどうだい?」

「よし!着替えてくる。」

「待ちたまえ、トキア君。更衣はここでするんだ!」

アカツキが指し示したのは簡易用の更衣幕で、人が外から持ち上げるタイプ・・
もしかしてアレか?一分以内に着替えないとお色気シーンってやつか?

「だが、仕方ない。勝つためだ!」

「さっきから何バグってるんですか、トキアさん!勝ち負けじゃないでしょう。」

「トキア、いつも以上に変。」

簡易用更衣室を使おうとしたら、ネコの気ぐるみを着たルリちゃんと髪の色と同じドレスを着たラピスに強制連行された。
結局視線はルインが独り占め。くそう、今度は負けないぞルイン。

「どうでもいいけど、ハメはずしすぎだぞトキア。」

「はずす時ははずすの、どうせしばらくはずせないし。」

アキトに応えた台詞の後半は、ボソッと言う。
コクトと話し合った結果、前回と同じように戦争の正体をここらでばらすことにした。
その為には九十九と誰かが木星艦体に行かなきゃならないんだけど、俺が行くことにした。
ミナトさんはコクトに夢中だしね。

「アーキートー、みんなとばっかお話してないでユリカともお話しようよ。」

「別に、ってユリカ!なんて格好してるんだ!」

アキトが慌てた理由は・・ユリカはエステバリスのコスプレで、体を覆う部分がかな〜り簡略化されているからだ。
風紀的にまずくないですか、プロスさん?

「ルリちゃん、ラピス、ここは大人の空間みたいだからあっち行こうか。」

「待ってくれトキア。置いてかないで〜。」

「アキトー、お話しよう。」

「くっつくな、馬鹿!」

観念しろアキト、ユリカは天然だが本気だ。
飲み放題のジュースをルリちゃんとラピスに渡し、周りを見渡すと結構色々なコスプレがいる。
リョーコはなんか中華っぽいし、ゴートはトナカイ、ガイはまわし・・・なんか違うぞ、それは。

「ジュンが居ないな・・それにコクトとミナトさんも。」

「コクト兄さんはブリッジで留守番してます。ミナトさんもついていきました。」

「ジュンも留守番だよ。」

それを聞いて、少しジュンを哀れに思った・・居心地悪かろう。
精神的に疲弊してなきゃいいけど。

ヴィーン、ヴィーン

ブリッジのことを考えていると、急にパーティ会場に響く警報音。
おいでになったようで。

【現在、木星蜥蜴と思わしき機動兵器が市街を破壊行動中。パイロット各員はエステへの搭乗を急いでください。ブリッジメンバーも至急ブリッジへ集合してください。】

コミュニケでジュンが放送したことでお祭り騒ぎから一転、パーティ参加者が走り回る。
カトレアはまだ戻ってきてないし、俺もブリッジへと行きますか。
「ルリちゃん、ラピス行くぞ。」





ブリッジへあがったのはいいけど、オペレーター席ではなく上段にあるベンチに座る。
オペレーター席は三人用だから、ルインが来たことで居場所が無いからだ。
それだけは、きっぱりと誤算だった。

【新見、接近戦は絶対にするな射撃のみにとどめろ。瞬間移動に巻き込まれたら、命は無いぞ。】

【了解です、隊長。みんな聞こえたわね。紫之森は一時ナデシコに寄り、ライフルを借り受けなさい。】

【了解ですわ。】

市街地が攻められたということで、すでに出撃していたアリウムにコクトから通信が行く。
これで死人が出ることは無いとは思う。

「ルリちゃん、市街地の被害はどうなってる?」

「アリウムが出撃していたことで、非難はほぼ終わっています。」

「みなさん非難はすでに終わっているもよう、人的被害は気にせず戦闘をしてください。」

【人的被害って事は、物的被害は気にしろって事かよ、艦長。】

【そういうことは蜥蜴さんに言ってよね。】

リョーコとヒカルが、木星エステバリスの小型グラビティーブラストを避けながら愚痴る。
やはりやってきた木星の兵器は、エステバリスをベースとした巨大機動兵器だった。
ミサイル主体だった前回とは違い、フィールド系をさらに発展させ、武装はビーム兵器が主体で強化されていた。

「ジュン、前回のテニシアン島のこと覚えてるか?」

「忘れるわけ無い、あんな自爆が市街地で行われたら・・街がなくなってしまう。」

「その点は安心しろ。少し考えがあってパーティ中エリナに、ネルガル研究所にある物をとりに行ってもらってる。破壊を後回しにして、時間稼ぎを優先させてくれ。」

ジュンの言葉にブリッジ全員が息をのむが、フォローしておく。
もちろんとりに行ってもらったのは、チューリップクリスタルだけど・・いっこうに連絡が無い。

「トキアさん、それはもしやCCですかな?」

「まあね。自爆されそうになったら、コクトに跳んでもらう。」

「トキアさん、エリナさんなら軽傷ですけど、研究所の負傷者リストに載ってて病院に搬送されてますけど・・」

「うそ・・」

「本当です、ここに載ってます。」

ルリちゃんが出したウィンドは、ネルガル研究所の負傷者リスト。
そこにはしっかりとエリナ・キンジョウ・ウォンの名が・・・・どうしよう。
急いで俺がルインを連れて出撃するか?エステは・・全部出てる。

「コクト、CCが届きそうに無い。こうなったら自爆される前に、機能を停止させてくれ。」

【了解した。新見、一体はアリウムに任せた。瞬間移動直後はフィールドが消失しているから、移動地点を予測し狙撃しろ。予測はナデシコのラピスにさせる。】

【了解しました。ラピスさん、お願いします。】

「三十秒待ってて、完璧に予測する。」

【ヤマダ、こちらも基本は同じだ。自爆だけはなんとしても避けるぞ。ルリ、こちらの予測地点をだしてくれ。】

【わかりました。】

【おう、任せとけ。】

ボソンジャンプは瞬間移動と似てはいるが、実際には出現するまでにタイムラグがある。
出現の兆候である光の粒子を確認できれば予測は簡単だ。
だけど、自爆するまえに機能を停止なんてできるのか、コクトがフィールドランサーを持ってるとはいえ確率は低い。
こうやって悩んでいる間にアリウムもコクトたちも確実に出現予測地点に銃弾を撃ち込み、木星エステバリスを追い詰めていっている。

【新見の姐さん、木星の偽者野郎が停止しやがったぜ。】

【夏樹たちウィン、予測地点さえわかれば弱かったね。】

【隊長、そちらはどうですか?】

【今からとどめを刺す。】

コクトがフィールドランサーを構え、木星エステバリスのフィールドに突き立てる。
向こうもフィールドの消失を恐れたのか、コクトのほうに小型のグラビティブラストを放とうとする。
だがそこはヤマダたちが背後から実弾をお見舞いし、射線軸をそらす。
その間にフィールドの中和は終了してしまい、ヤマダたちだけでなくアリウムのメンバーもありったけの銃弾を撃ち込んだ。

「敵エステバリス内に高エネルギー反応!」

「また自爆のようです。コクト兄さん、急いで破壊してください!」

【わかっている。】

コクトがフィールドランサーを本体に直接突き立てようとするが、先ほどよりさらに強力になったフィールドがそれを妨げる。
自爆のために相転移エンジンを限界までまわしてるんだ。フィールドランサーじゃ、歯が立たない。
いまから撤退するにしても、エステの回収が間に合わない・・けど。

「ジュン、撤退だ!エステバリス隊も今すぐに離れろ。」

「わかっています。エステバリス隊、アリウムもすぐに撤退準備を!」

【今からじゃ間に合わない。なんとしても破壊する!】

「トキア、貴方なら皆を・・この街を救えます。」

ウィンドに向かって叫んでいると、いつの間にかオペレーター席から上がってきたルインが目の前に立っていた。
自分の焦りとは対照的な静けさに怒鳴ってしまいそうになったが、ルインの目がそれを抑えた。

「貴方なら、電子の皇帝と呼ばれるべき貴方なら。」

俺の手を握り自分の胸元へ、チューリップクリスタルへと導く。

「こんな時に何やってるんですか!」

「黙っていなさい、ルリ。この場を救えるのは、トキアの力だけです。トキア、イメージしなさい。貴方は電子の皇帝、貴方にならジャンプフィールドを操ることさえ容易い。」

「自爆まで予測一分をきってるよ。コクトにぃ、逃げて!」

「コクト君!!」

【隊長!!】

ラピスの叫び声が耳に入る。ルリちゃんだけじゃなく、ブリッジメンバー全員の視線が集まるのを感じる。
イメージ、前回にならっての事だろうか・・・その場所は月。

【これは、ジャンプフィールド?CCが間に合ったのか!】

最後に聞いたのはコクトの声・・うまくいったのか?
ただ、自分の意識が拡散するように、なにもわからなくなった。



















「・・・トキアはまるで、裏で糸を引く悪役ですね。」

目を覚ましたトキアは、ルインを伴ってナデシコ内の九十九を探し出す
堂々とナデシコ内を連れ格納庫へ向かうと、ヒナギクへと乗り込み宇宙空間へと出て行く
そして木星の艦隊ではユキナや月臣と出会い
少しずつ三人を自分の思い通りに誘導していった

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
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