機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第二十六話[新兵器対新兵器]


チューリップが動き出したことで遊ぶことを後回しにし、ナデシコのクルーは動き出した。
ルリのことは心配ではあったが、トキアとアキトが向かったのであれば大丈夫だろう。

【昼飯前だってのに、ついてないぜ全く。】

【同感だ。さっさとやっつけようぜ、リョーコ。】

【・・・・ああ。】

今回は俺とヤマダとアカツキが空戦フレームで、スバルとアマノとマキが陸戦フレームでの出撃だ。
自機のエステの高度を上げると見えたのは、普通のチューリップよりは少し小さなチューリップ。だが、あるはずだったバリアはすでに解け、動き出していた。
本当の花の様に開いたチューリップから現れたのは巨大なジョロではなく、巨大なエステバリスだった。

【これ、どう見てもエステバリスだよね?】

【どう見ても蜥蜴の仲間には、見えないわね。】

【コクト、これは敵なのか?】

アマノやヤマダへの返答に困っていると、普通の三、四倍はありそうなエステバリスがゆっくりと動き出した。
その両腕を水平にすると腕の部分のシャッターが開き、ミサイルの発射口がむき出しになる。
もう二人への返答は無用だった。発射されたミサイルは全て、俺たちのエステをロックしていたからだ。

ドゴォォォン!    ズェガァァァン、ドォォン!!

【どうやらこのチューリップは、ゲートではなくただの輸送艇の様な物のようね。それに出てきたエステバリス、どうやら木製蜥蜴もこちらの兵器を研究・・・・技術を盗まれちゃったみたいね。】

【イネスさんそこらへんの説明は、後です。エステバリス各機へ、相手の戦力は不明です。距離をとりつつ情報を集めてください。】

とりあえずはジュンの考えをとり、ライフルを持ったイズミやラピッドライフルをもったアマノとアカツキが射撃をするがその全てが、巨大エステバリスのフィールドに弾かれてしまう。
弾丸を全く苦にしないこのフィールドの強度、機体の大きさや鈍さなど、ジンタイプと変わらないな。

【このエステバリス、フィールドがかたすぎるよ〜。】

【あまり身持ちがかたいと、お嫁にいけないよ。】

【かたい子も大きな子も好きじゃないんだけどな。やっぱこう女の子はちぃ・・・っとっと!】

効果は無いが射撃がうざったいのか、射撃をする三人に向けてミサイルをばら撒いていく。
腕だけでなく、足や胸部・・・他にもあるのか、まるで歩く武器庫だな。

「全員下がれ。射撃じゃ効果が無い、俺が一度取り付いてフィールドを破ってみる。チャンスを待て。」

ミサイルの止んだ時を見計らい、エステの両腕にフィールドを集め突撃する。
フィールドは恐ろしくかたいが、巨大な分動きは全くといっていいほど鈍い。
すぐに背後をとりフィールドに両手を差し込むが

ガギッ・・ギギギィィィィィィィン!!      ビキッ ィン!

強固なフィールド同士のせめぎあいで、俺のエステバリスの両手が先に悲鳴をあげだす。
しかし、急にその音が止んだかと思うと、ふわっと俺のエステが浮いたような感覚。
すぐにミサイルの射出口が向けられた事に気付いて、慌てて離脱。ミサイルの回避に、専念する。

ズガァァン  ドォォォォォン!

「ラピス、ルイン。このエステバリスの弱点、フィールドの出力の一番弱い点などはないのか?」

【さっきから、探してるけどないよ。】

【唯一フィールドが弱まるのは、ミサイルの発射時です。ですが、そんな時に突っ込めば、確実に死にます。】

少し慌てたラピスの声と、ひどく冷静なルインの返答が返ってくる。
ミサイルの発射時にだけ、フィールドが弱まる・・いけるか?

【ちょっとコクト君。馬鹿なこと考えてるんじゃないでしょうね!】

【危ないよ、コクトにぃ。】

【そうだ。こんな時は、このウリバタケ様を頼りやがれ。こんなこともあろうかと!こんなこともあろうかと!!】

「セイヤさん、いいものあるならさっさと言ってくれ。」

ミナトとラピスの通信に割り込んできたのは、聞きなれた前口上を伴ったセイヤさん。

【コクトさんは一時、ナデシコに帰還。セイヤさんはブリッジにもそれのデータを送ってください。他のパイロット皆さんは、できるだけ目標の注意を引き付けておいてください。】

【【【【【了解!】】】】】



格納庫に戻ると、いちいちコックピットを開けることはせず通信で会話をする。

「セイヤさん、この状況を打破する何がある?」

【右手にあるコンテナの中から槍みたいなのがあるだろ、それがそうだ。名づけてフィールドランサー、これでフィールドの中和はもちろんディストーションスフィアーの応用で、純粋に斬ることもできる。】

フィールドランサーが出てくるのはもっと後のはずなんだが、使える物は使うか。
俺一人が呼ばれたということは、試作品でまだ一本しかないのだろう。俺はそれを両手に持ち、再び戦場へと飛び出していった。

【おいこら、コクト。説明がまだ終わってねぇ!】

【なぁに?もう行っちゃったの?・・・折角ホワイトボード持ってきたのに。】

ゴロゴロ   ゴロゴロ  ゴロ

セイヤさんとの通信を閉じる数秒前に、金髪の誰かさんが荒い息でやってきていた。
通信をつながれては意味は無いのだが、エステのスピードをマックスに上げる。気持ちの問題だ。
巨大エステバリスのところまで戻ると、みんなは攻撃は思い出したように射撃をするだけで、ほとんどがからかうような回避行動であった。

「またせたな。下がっていろ。」

【なんだよそれ、槍か?】

【ランサーの方がかっこいいよ。】

【ランサー使えば、どんな敵でもらくさー・・・スランプね。】

【前座は去るのみ・・かな?】

【去ってどうする!変態とヒカルとイズミは、射程以上下がるなよ。】

皆が距離をおくと、巨大エステバリス目掛け加速していく。
予想通りこちらを撃墜する為、フィールドを弱めミサイルを放ってくる。そこで更に加速させる。

ズガァァァァァン!!

ミサイルの爆発の衝撃は後ろからだった。
俺はフィールドが再び強化される攻撃の隙間を狙って、巨大エステバリスの正面からフィールドにランサーを突き入れた。

イェギィィィィィィィン    ギィン!!

三十秒にも満たないわずかなせめぎ合いの中で、フィールドランサーがフィールドを消失させた。
そのままランサーを巨大エステバリスの胸部に突き刺し、離脱。

「今だ、全ての弾丸を撃ち込んでやれ!」

その場を離脱すると、同時に射撃を命じる。
しばらくは撃たれるままになっていた巨大エステバリスだが、小刻みに振動を始めた。

【敵内部に高エネルギー反応、どんどん高まってる!!】

【ジュン君、もしかして・・・・あの機体って自爆しようとしてるんじゃ?】

【じば!エステバリス各機、緊急離脱。ナデシコもできるだけこの場から離脱してください!】

【自爆だぁ!一体何考えてんだ!!】

【蜥蜴に考えなんてあるわけ無いよ〜。】

【喋ってないでつかまれ、お前ら!】

重量超過を無視し陸戦フレームであるスバル達を拾い上げ、その場を離脱。

キィィィィィィィン!

できるだけ・・・遠くに!

ズァガァオオオオオォォォォォォン!!!














「アカツキ、アレは一体どういうことだ?」

「ちょっと前に、うちの工場で爆破事件が起きてね。エステバリスが盗まれたのさ。あ、アキト君そっちの肉頂戴。」

「アカツキ〜。肉ばっか食うなよな。ほれ、ニンジン焼けてるぞ。」

「ニンジンは勘弁してくれないかな・・」

「アキトー、私にもお肉頂戴。」

「はいはい、ちょっと待ってろって。」

これが正常なのか、ナデシコだからなのか。
あの爆発で島が三分の一も吹き飛んだというのに、ビーチが奇跡的に残っていたので、やりそこなったバーベキューに突入していた。
昼飯前だったため依存は無いが・・・・あのエステの破片なのか、所々に残骸が突き刺さっている。

「あれ〜?ルリルリ、なんだかいいことでもあった?」

「ちょっとだけですけど、はい。」

「へ〜、あやしいな。何があったのか教えてよ、ルリちゃん。」

「いくらミナトさんやメグミさんでも駄目です。少女の秘密です。」

少しうれしそうに顔を赤らめるルリだが、アキトとトキアが迎えにいったことでなにかあったのか?

「何かあったのか、アキト?」

「痺れ薬飲まされて机に突っ伏してたけど・・トキアが助けに行ったこと以外は、特に。」

「・・・で、そのトキアはどこだ?」

戦闘中にアキトとルリが帰還したことは聞いていたが、トキアが帰還した報告は受けていない。
まさか・・あの爆発に巻き込まれたのか?
妙な間が場を占める

「ちゃんと生きてるよ。ギリギリだけど。」

「余裕はあるみたいですね。」

森の中から、ルインに肩を貸されて歩いてくるトキア。
生きていたのは良かったが、全員存在を忘れていたといううしろめたさで目をそらす。

「まったく、ルイン以外全員俺のこと忘れてやがって。おかげで自爆の余波をもろに受けたよ。」

もろに受けていて歩けるトキアもすごいと思うのだが・・ボソンジャンプで逃げたのか?

「あ〜、ほらトキア君。けが人なんだから騒がないでね。医務室いきましょう、ルリルリ連れてってあげて。」

「はい。さ、トキアさん歩けますか?」

「ちょっと、ルリちゃん引っ張らないで・・」

ミナトがルリの背中を押すが・・・どう見ても肩を貸すには背丈が足りない。トキアがものすごく歩きにくそうだ。
トキアをここまで連れてきたルインが着いていこうとするが、ミナトに止められる。

「だめだよルインちゃん、トキア君を独り占めしちゃ。ほら、食べて食べて。」

「いただきます。」

「ほらルインちゃん、これもおいしいわよ。どんどん食べて。」

ルインの皿にどんどん焼けたものをミナトが置いていくが、どうもごまかしているような。
まあ、なんでもいいいだろう。木星軍がエステを手に入れた事については、また今度トキアと話し合うか。





身長差をなんとか気力でねじ伏せ医務室にたどり着くと、そこにはエリナとイネスがいた。
たぶん、俺が戻ったことを聞いて先回りしたんだろう。

「ここまでくればもう大丈夫だから、ルリちゃんは先に戻ってていいよ。」

「でも・・私にも何か手伝えること。」

「安心しなさい、ルリちゃん。トキアちゃんの治療は私がしておくから。」

ルリちゃんの頭をなでて、もう一度大丈夫だからと言ってやると、ようやく納得し医務室を出て行った。

「それにしてもあの爆発の中どうやって逃げたのよ、トキア?」

「まあ、ボソンジャンプで。」

「そうでしょうね。島が吹き飛ぶほどの爆発を人間が受けて、平気なはずが無いわ。」

擦り傷などを治療しながらイネスが言葉を続けるが、本当のところは自爆の時こっそりブリッジを抜け出したルインが拾ってくれた。
ずっと消えたままでいられないので、俺をジャンプさせるとすぐにブリッジに戻っていってしまった。
ジャンプアウト時にポイッと捨てられた傷は・・・ここ。なんてぞんざいな扱いだ。

「それにしても木星にエステバリスの技術を盗まれるなんて、悔しいわね。」

「遠くで見てたけど、あの防御力は脅威的だったな。アレが実戦投入されたら、やっかいだぞ?」

「今のままじゃ脅威だけど、ウリバタケさんの創ったフィールドランサーが」

イネスが首筋の傷に触れたことで、言葉を止める。

「トキアちゃん、この傷・・誰にやられたの?ここだけ刃物でできた傷よ。」

「木星側のエージェントがいて、ちょっとやり合ったら殺されかけた。」

「無茶は良くないわよ。ただでさえ貴方の体の状態は、良くないんだから。」

「イネス、その話は・・・」

「大丈夫よ、トキア。元々私もイネスから聞いてたから。」

伏せた顔にかげりが出る。相変わらず、お優しいこと。
そういう顔、嫌だな。笑ってる方が奇麗なのに・・

「でも、本当に残念だわ。本当なら貴方に会長の席についてもらいたいのに、護衛もいらない、情報は望むがまま、何よりも普通に働いてくれる。最高の会長じゃない。」

「たしかにアレ、じゃあな。」

エリナの無理に作った笑顔に苦笑しつつ、相槌をいれる。
笑わなきゃ。平気な顔して、なんでもない事のように。

「治療はこれでおしまい。普通にしてる分には全く支障ないけど、貴方も参加するでしょ?バーベキュー。」

「当たり前だろ。腹減りまくりだよ、俺は。」





「あれ、三人とも今頃どうしたの?もう全部、終わっちゃったよ。」

三人で戻ると、すでにバーベキューは終わっており、クルーは全員また遊びに出かけてしまっていた。
この場にいたのはアキトやサイゾウさん達、厨房の人たちだけ。
そりゃ二百人もいるんだから、とっておくとかそういう芸当は難しいかもしれない。だけどもうちょっと・・・気持ち程度に。なんかあるだろ?
俺とイネスとエリナは顔を見合わせて、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。引きつったアキトの顔が印象的だ。

「イネス、任務終了の宣言聞いたか?」

「聞いてないわね。てことは、今は未だ任務の途中ということ。」

「任務中に遊び歩いて、クルー全員減俸ものね。」

もちろん後で文句は出たが、俺とイネスとエリナの三人に真っ向から歯向かう勇気のあるものは居らず、クルー全員減俸処分となった。



















「わかっています。トキアの命は、私が守ります。」

たった一発で軍を壊滅に追い込める、ナナフシの主砲
さらに軍から言い渡されたのは、なんとナナフシの捕獲作戦
軍との危うい関係からそれを断れないネルガルは捕獲作戦を展開する
しかし再び奴が現れたことで作戦は加速度的に狂っていく

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[ナナフシ捕獲作戦]