機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第二十五話[姿を見せた影と木星の新兵器]


「一番乗りだお前ら!」

「女に負けるな、野郎ども続け〜!!」

リョーコさんたちが先頭を走り、ヤマダさんが男性クルーを引きつれて浜辺へと走り出します。
軍から頼まれた任務はこの島に落ちた新型チューリップの調査。
いくら今回の任務先が南の島だからって、遊んでいていいのでしょうか?

「待ちたまえ君達!」

叫んだのはアカツキさん。
隠しているとは言え、さすがネルガルの会ちょ

「スクール水着じゃないって、どういうことだ!!」

南の島なのに・・・冷たい風が吹きました。
確かに、慣れてる私でもけっこうくる物があります。慣れてない皆さんには衝撃でしょう。
しかし、その冷たい風をものともせず、スクール水着の素晴しさを説きつつ歩いたアカツキさんは。

ズボッ!

落とし穴?落ちました。

「変態新人が、かかったぞ!」

「埋めろ、埋めろ!」

「なんだ!?やめて・・・あ。」

ヤマダさんとリョーコさんの号令で、埋められていくアカツキさん。
ところでイズミさん、なんで目隠ししてバット持ってるんですか?

「ちょっと、貴方たちわかってるの?任務で来たのよ。」

さすがに、エリナさんが止めに入りました。

「だから、これを読むのよ。危ないところへは行かない。サンオイルは自然分解性のものを使う・・・って聞きなさいよ、貴方たち!」

そんなお小言聞きたくないので、エリナさんがしおりを読み上げている間に皆さん逃亡。
結局はエリナさんも水着を着込んでいたようで、服を脱ぎ捨て走っていってしまいます。

「エリナ君・・まさか、そんな嘘・・・・だよね?い〜〜や〜〜〜〜〜!!」

途中アカツキさんを踏みつけたのは、わざとでしょう。何処からかスパイクを取り出して、サンダルと履き替えてから踏みましたし。
しおりをわざわざ作るなんて、もしかしてナデシコ雑誌もエリナさんの差し金ですか?
皆さんやる時はやるのでしょうが、肩の力抜きすぎです。まじめなジュンさんでさえウリバタケさんの出店でラーメン食べてますが、そのラーメンを食べたサイゾウさんにウリバタケさんが怒られてます。

「キョロキョロして、どうしたのルリちゃん?」

「色々と・・なんでもないです。」

「そう?せっかく海にきたんだもん楽しまなきゃ損だよ。」

副艦長に言われたとおり私も遊ぼうかなと思いラピスを探すと、アキト兄さんとコクト兄さんがバーベキューの準備をしていて、ミナトさんと一緒にその手伝いをしていました。
ラピスはカナヅチでしたね。私も泳いだことが無いので、トキアさんにでも教えてもらいましょうか。

「副艦長、トキアさん見ませんでした?」

「見てないけど・・・トキアちゃんってどんな水着着てくるのかな?やっぱりルリちゃんと同じような水色かな?」

副艦長の何気ない一言で、事情を知るプロスさんとミナトさんそしてテンカワ家の全員がピタッと動きを止めます。
男物ならまだ正体がばれるだけですが、女物なら大変なことになりそうな。

「残念副艦長、普段着でした。」

こちらとしては正解です。
トキアさんの声のしたほうを振り向くと、言葉どおりメイド服を着ているトキアさんと前に街で買ったワンピースを着たルインさん。
明らかにみなさんほっとしてます。

「え〜、折角海に来たんだよ泳がなきゃ駄目だよ〜」

「楽しみ方は人それぞれだよ。ルインあっちほのほう行くか。」

「わかりました。」

「なんだか最近のトキア君って、ルインちゃんにばかりかまってるわね。」

歩いていく二人を見て、ミナトさんがつぶやきます。
それは私も気づいてました。嫉妬、なんでしょうかこの気持ちは?
私だっていつまでも自分の気持ちに気づかないままじゃないです。でもどうすればいいのか、私にはわかりません。

「ルリルリ、何処行くの?」

「ちょっと散歩してきます。」

「あまり遠くへ行っちゃ駄目よ。」

一応返事は返しておきましたが、私の足は森へ向かっていました。
私はトキアさんが好きです。でもトキアさんは、ルインさんが好きなのでしょうか?





えっと・・先ほどはこちらからこちらへ歩いて、今度はこっちへ行ってみましょう。
しばらく歩いていると、また見覚えのある木が正面に現れてしまいました。
木の一本一本見分けがつくわけではなく、さっき石で目印をつけておいたんです。

「困りましたね。迷ってしまったみたいです。」

落ち着くために、現状を言葉にしてみました。
みなさん私がいないことに気づいたら探しに来てくれるでしょうが、そもそも気づくでしょうか?
あのビーチには、ナデシコクルーの二百人近くが遊んでいるんですから。
少し途方にくれていると、先ほどは無かったはずの帽子が落ちてました。
女の人の帽子のようですが、他にも誰かいるみたいです。

「みつけた、私の王子様。」

帽子を拾い上げると、茂みから女の人が飛び出してきて抱き疲れました。

「私、少女です。」

「え?あら・・」

意外そうな顔をされても困ります。
何なんでしょうかこの人は・・王子様って、副艦長と同類の方でしょうか?

「でもまあ、いいわ。貴方迷子なの?ついてらしゃい。」

強引に手を引かれ連れて行かれました。
誘拐ってわけではなさそうですが、いやな予感がしました。



連れて行かれた先は、豪邸でした。
たしかこの島はどこかのグループの所有でしたが、この人のものなのかもしれません。

「私はアクア、お腹すいてない?たくさん食べてもいいのよ。」

「はぁ・・私は、テンカワ ルリですけど。」

いきなり屋敷につれてこられて、テーブルに豪華なお食事が並べられてもなにがなんだか。
いったいアクアさんは、何がしたいのでしょうか?
こんな人が何かするとは思えないので、とりあえず食事に手をつけましたが・・おいしくないです。なんだか変な味が混ざってて。

「おいしい?」

「はぁ・・まあ。」

「そうよかった。私はこの島で一人ぼっち、でも貴方に会えた。」

今度は遠い目をして身辺を話し始めました。
副艦長、さっきはアクアさんと同一視してごめんなさい。アクアさんのほうが何枚も上のようです。
それが解っただけでも、早々に退散するに限ります。

「あの、私みなさんが探してるといけ・・あ・・いけらいのれ。」

何ですか?体がしびれて、椅子をたつことすらできません。
もしかして、さっきの変な味は痺れ薬かなにかですか!

「ふふふ・・思ったより早く効いてきたわね。体が小さかったせいかしら?」

先ほどまでのはかなげな雰囲気から一転、アクアさんのしゃべり方が変化しました。

「らりを・・うるるもりれすか?」

「貴方みたいな普通の家庭に生まれ、普通に過ごしてきた方に私の悩みがわかって!欲しいものは何でも与えられ、すべてを持っていたのが私の不幸。偶然出会った二人の親友は、戦争のさなか手をとりあい散っていくの!」

副艦長、やっぱりごめんなさい!比較する事自体間違ってました。
とんでもないことを暴露しつつアクアさんが向いた方向には、今回調査するはずだった新型のチューリップがありました。
まさか、こんな近くにまできていたなんて。

「そう、あれは神様からの贈り物なの。さあ、一緒に不幸になりましょうルリ。」

「やれす、ろきああーん!!」

私は貴方という人にかかわってしまったことが、すでに不幸です。
助けてください、トキアさん!









誰かに呼ばれた気がして、みんながいる浜辺を振り返る。

「どうかしましたか?」

「ん・・誰かに呼ばれた気がしてな。」

この数日は本当に大変だった。ルインは人のこと何も知らないから、一から教えて。
ホログラムのようなもののはずなのに、飯も食えるし寝もする。不思議だ・・・本当に。

「これが海、なんですか?」

「どう見ても海だな。夏とかこんな南の島では、人が泳ぐところ。」

「何か意味があるのですか?」

「楽しいからじゃないのかな?ナデシコのクルー見てみると、楽しそうにしてる奴らばっかだろ。」

足元に押し寄せた波が足を少しだけ飲み込み、冷たいと一言ルインが漏らす。
たまには全てを忘れて、こんな時間もいいなと思っていると、アキトが何かを叫びながら走ってくる。

「トキア、こっちにルリちゃんこなかった?」

「来てないけど、どうしたんだ?」

「散歩してくるって何処か行ったまま、帰ってこないんだよ。もう、昼なのに。」

アキトの台詞に頭を抑える。
ルリちゃんが単独行動するなんて予想外だけど、クルー全体に通告しとくべきだった。
思い浮かんだ犯人は、金髪の痛い女の子。そろそろチューリップが動き出してもおかしくない頃だ。

「思い当たる場所がある。ルイン、先に戻って俺とアキトが探しに行ったことを、コクトに伝えてくれ。チューリップの調査は、予定通り始めていいから。」

「わかりました。伝えておきます。」

「それじゃあ行くぞ、アキト。」

俺はルインの胸元のCCを利用して、ジャンプした。
行き先はもちろん、アクアの屋敷内だ。



直接ではなく、屋敷の手前にジャンプアウトする。
テラスに直接しなかったのは、万が一にも有人ボソンジャンプの情報を悟られないためだ。
マスコミのせいでナデシコのメインオペレーターである俺は、顔が売れちゃってる。それ以前に企業間でも色々、売れちゃってたけど。

「よくわかんないけど、便利な力だな。トキアはいつでもできるのか?」

「ルインが持ってるネックレスの、石の力がないとできないんだよ。」

「だったら、なんであげちゃったんだ?」

前も言ったけど、本当に貸してるだけなんだ。
あのCCは遺跡との中継器だから、あれから離れてルインは実体化ができない・・って言えるわけが無い。
アキトの疑問には答えず、スカートの中から小銃を取り出しアキトに渡す。

「一応、持ってろ。なにがあるかわからん。」

「持ってろって・・ここ誰ん家?」

「クリムゾンって企業の会長の孫娘の別荘、たぶんSPはいないだろうけど、行くぞ。」

小銃を見て少しアキトが青ざめたが、今はルリちゃんの安全が第一だ。さっさと歩を進める。
屋敷のなかはガラガラで、本当に人がいるのかも怪しいぐらいだった。
考えれば色々と使用人のいない理由も思いつくが、思いつきたくなかった。怖いから。

「さあ、神様からの贈り物。その花を開いて、私を不幸な主人公にしてちょうだい!」

「いやーれーすー。ろきああーん!」

大広間の階段をのぼり二階へ出ると、聞こえてきたのは少し逝っちゃってる声と、ルリちゃんの声。
・・・あれ?助けを求めるのはいいけど、アキトじゃなくて、なんで俺を呼ぶの?
少々の疑問はおいておいて、テラスへと扉を蹴破っておどり出る。

「誰ですか貴方たちは!もしや二人の親友を引き裂く卑劣な悪漢と、すでに毒牙にかかった悲劇の脇役!!」

「ろきああーん、あきろにいあーん」

一瞬何を言われたのか、アキトと顔を見合わせる。って、誰が脇役じゃい!
文句の一つでも言ってやろうかと思っていると、屋敷全体を揺るがすような地響き。あの新型チューリップが動いている。
机にうつ伏せになって、こちらを見ているルリちゃんはかわいそうだったけど、それ以上に気になったのが木星軍の新型機。
てっきりあの時と同じ巨大なジョロかと思いきや、現れたのは通常の三,四倍はありそうな巨大なエステバリス。
やはりあの爆破事件は、木星の手によるものか。エステバリスの技術をぱくりやがった!

「誰ですかと聞いているんです!」

「うるさい、馬鹿タレが!」

構っている暇はなくなったので、悲劇を気取るアクアの背後に回りこんで即効気絶させる。
そして、机の上でだるそうにしているルリちゃんを抱え上げる。

「う〜、こわかったれす。」

「もうだいじょ・・・アキト、急いでここから離れろ。」

少しは痺れが抜けたのかろれつが回り始め、安心したのか涙目のルリちゃんを抱きしめてやるが、すぐにアキトに預ける。
体中からいやな汗が出る。そしてこの視線は・・・確信は無いが、見張られている。
アキトも何かわからないまでも何かを感じたのか頷くと、ルリちゃんを抱えテラスを出て屋敷を行く。

「そこにいるんだろ、北辰。」

「我の位置を探り当てるだけではなく、この外道の名を知っているとは・・・貴様、何者だ。」

「そんなことはどうでもいい。お前が何故ここにいる。何が目的だ。」

「任務、姿を見られたからには・・滅。」

ゆらりとその場に立っていたかと思うと、一瞬で間を詰めてくる。速い!
右手に握られた北辰の小刀を、操った鋼線で絡めとるが、囮だった。すぐに使われてなかった左腕を横に一閃してくる。
首を後ろにそらすと同時に、北辰の腹をけり距離をとる。首筋が少し切れたのか、触れると粘着質。血がにじむ。

「我が一撃を・・囮を見破りかわすとは。貴様、名をなんと言う。」

「テンカワ トキアだ。」

「我が任務は、新兵器の観察だ。小娘に邪魔されたが・・結果は、まあよかろう。」

北辰が顔を向けたのは、気絶しているアクアと巨大なエステバリスと戦うコクトたち。

「テンカワ トキア、この名覚えておくぞ。次にあうのが楽しみだ。」

長い舌で唇をなめると、すばやくこの場から去っていく北辰。
一人残された俺は、首筋の傷に触れ青ざめる。自分で表に誘い出しておいてあれだけど、引いてくれて助かった。
おそらく任務優先ということだろうが、どうする?今ので俺じゃ北辰に勝てないことがわかった。
ほとんど一分にも満たない攻防だが・・・首にかろうじてだが傷を負った俺と、無傷のままの北辰。
コクトに相談するか?それとも、相打ち覚悟で戦うのか。



















「セイヤさん、この状況を打破する何がある?」

輸送用チューリップから出てきた巨大なエステバリス
雨のごとく降り注ぐミサイルに、何人も寄せ付ける事の無いフィールド
攻めあぐねる皆が聞いたのは、よくある前口上
こんな事もあろうかと!

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[新兵器対新兵器]