機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第二十話[休暇中、恋に仕事に大忙し]


俺が会長室の会長の部屋でキーボードを叩いていると、アカツキが入ってくる。
アカツキが遊びまわっているせいで、会長の机は事実上俺のものとなっている。

「トキア君、一つ聞きたいんだが、一体君はいつ寝てるんだい?」

「お前が、遊びまわってる時だよ。」

アカツキの顔が、ピキッと引きつる。
俺達は地球に戻ってから、プロスさんの言うとおり長期休暇に入った。
俺はもちろん以前から兵器研究にたずさわると決めていたのだが、皆がとった行動は本当に色んなものがあった。家に帰るもの、ネルガルにそのまま残るもの、一部例外が外で働く者。

「お前が何時、何処で遊んでいるかは置いておいて・・ミナトさんは、アレからなんか行動起したか?」

「特にこれと言って表立っては行動していないけど、コクト君ももったいないねあんな美人を。」

「手出したら殺すぞ・・まあ、相手にされないだろうけど。」

少し本気でクギをさしておくと、アカツキの顔がさらに引きつる。ちょっと考えてたな。
一番驚くべき行動を取ったのは、ミナトさん。噂だけどアリウムのあの静音って人に宣戦布告をしたらしく、仕事もせず毎日ルリちゃんとラピスの面倒を見つつ、コクトの面倒も見ていたりする。
静音も忙しい軍の行動の合間をぬって、コクトに会いに来ている。どっちを応援すべきか・・・

「ほらアカツキ、この書類をイネスの所に、こっちをエリナの所に持っていってくれ。急げよ。」

「僕は君の秘書じゃないんだけど・・」

「さっさと行け、そしたらこの前持ってきた魔法少女の服きてやるから。」

「こっちがイネス君で、こっちがエリナ君だね。直ぐに行って来るよ!」

あっさりと手のひらを返す。
着るわけないだろバーカ。

「トキア、この書類の事だけど・・・」

「お邪魔するわよ、トキアちゃん。」

アカツキが走って出て行ってから、そうしないうちに入ってくるエリナとイネス。

「あれ、アカツキ見なかったか?」

「入れ違いじゃないかしら・・どうでもいいけど。」

「私も同意見ね。アカツキ君に悪いけど、トキアちゃんに比べたら欠片の興味もないわ。」

「本当に、何でいるんだろアイツ。」

「トキアには感謝しているわ。貴方が会長の仕事をしてくれるおかげで、私のストレスがほぼゼロになったわ!」

感謝されても困るんだけど、エリナのストレスって対アカツキ関係のみなんだな。
地球に帰ってきたばかりの頃は、本当に顔色悪かったからな。よっぽどアカツキが酷かったんだろう。
実際、酷いんだけどさ

「アカツキの悪口は置いておいて、二人とも何の用だったの?」

「私は、そうたいしたことじゃないわ。ナデシコシリーズの建設状況と、新エステの開発状況の報告よ。」

イネスのほうが重要なのか、言うだけ言うとエリナはイネスのほうを振り向く。

「貴方が主に手がけているシステム ドーリスだけど、本当にこれを使うつもり?」

「必要な力だと思うけど。」

「力も度が過ぎてるわ。確かに貴方なら動かせるけど、常人だと脳神経に異常をきたすのよ。ただじゃすまないわ。」

「平気、平気。エリナ、カキツバタは言ったとおりに完全ワンマンオペレーションにしてくれた?」

「ええ、さらにAIにはオペレーターがいなくてもある程度は、艦を運行できるようにもする予定よ。」

簡単にイネスの言葉をあしらったことで睨まれてしまうが、仕方が無い。
多分今のナデシコのエステバリス隊でもかなり良い所まで戦えるとはおもうが、それはまだ相手が無人兵器だから。有人兵器が出てきたらどうなるかなんて、解らない。

「イネス、心配しなくても無理なことはしないから、大丈夫だって。」

「とりあえず、嘘には騙されて置いて上げるわ。」

「サンキュ。それじゃあ俺はちょっと休憩入れて、皆の所をまわってくるよ。」

そのまま外に出ると、社員食堂へと向かう。
皆ってネルガルにいない奴も入ってるんだけど、別に言う必要ないか。

「トキア、戦争には勝てそうですか?」

「人の心配なんて珍しいと言うか、どういう風の吹き回しだ?」

廊下を歩いていると話し掛けてきたのは遺跡・・なんか久しぶりだな、話すのも。

「別に、心配をしているわけではありません。ただ・・少し、気になっただけです。」

「勝てるさ、俺が勝たせてみせる。」

「そうですか。私が言えた事ではありませんが、期待しています。」

遺跡はそれっきり黙ってしまったが、なんだか態度が軟化しているというか変わってないか?
気にならないわけではないが、気にしても意味がないのでとりあえず放っておく事にした。
事実あの頃より、確実に地球は戦況を押している。勝って戦争を終わらせる、それだけだ。





とりあえずは、食堂へと向かう。ネルガルの食堂にはアキトとサイゾウさんだけじゃなく、ホウメイさんやホウメイガールズも臨時で働いている。
そのおかげでナデシコのメンバーは、自然と食堂に集まるようになっている。

「セイヤさん、なにやってんの?」

食堂で机にうつ伏せになっているセイヤさんを発見し、セイヤさんにではなく近くで笑っていたミナトさんに聞く。

「ウリバタケさんが家に戻ってないって話を聞いたから、ルリルリとラピラピ連れて無理やり連れて行ったのよ。そしたら、愛人とその子供に間違われて。」

「ウリバタケさん、奥さんに凄く殴られてました。」

「大丈夫、ウリバタケ?」

「酷いと思わないか、トキアちゃん?勘違いしたのはオリエの方なのに、謝りもせず放ったらかしで。」

顔を上げたセイヤさんの顔には、青あざがそこかしこにあってちょっと怖い。
この場合、家に帰らなかったセイヤさんも悪いと思うけど。
ミナトさんに疑わしげな目線を送ると、人差し指を口元につけた。解っててやったみたいだ。

「両方悪いと言うことで。それよりミナトさん、コクトのところにいなくていいの?」

「ん〜、皆そう言うんだけど・・静音ちゃんがたまにしか来れないのに、四六時中付きまとうのもね。」

「ねえねえトキア、ミナトはいつミナトねぇになるの?」

ラピスの微妙な質問・・どう答えたら良いのか。

『アキト、ちょっとラピスを呼べ。』

『え・・なんで?』

『なんでも、いいから!』

「あ、ほらラピラピ、厨房の方でアキト君が呼んでるわよ。ルリルリついていってあげて。」

ルリちゃんがラピスを連れて行ったことで、ほっと息をつく。
しかし、誰が吹き込んだんだ?アキトやコクトは絶対言わないだろうし、ルリちゃんかな?

「ミナトさん、よう。実際どうするんだ?相手に遠慮ばっかしてちゃ、動けないぜ。」

「ひいきするわけじゃないけど、俺もセイヤさんと同じ意見だよ。このままじゃ絶対に、コクトは心を開かないよ?」

「それよ、トキア君。コクト君は貴方にしか心を開かない、アキト君もルリルリやラピラピも例外じゃないわ。」

「別に、俺にも完全に開いてるわけじゃないよ。コクトは嘘は下手だけど、隠すことは完全に隠すから。」

コロニー落としの罪を背負っているなんて言えないけど、コクトもいつまで拘ってるんだか・・・
三人でどうしたもんかと天井を見上げていると、食堂に映し出されていたウィンドウから聞きなれた声が聞こえた。

【みなさーん、こんにちわー。メグミお姉さんでーす!】

休暇中にとった行動が、一番例外中の例外のメグミだ。
メグミはなぜかナデシコの休暇中を利用して、アイドルとしでデビューした。
もちろんバックアップにネルガルがついているが、火星に行ってきたことで今注目度No1である。

「メグミちゃんも、何を考えてるのか?」

「元々声優だったんでしょ、案外向いてるんじゃないかしら?」

「休暇中だけの話だから、今は顔見せ程度じゃないの?戦争後も続けるかは、わからないけど。」

「メグちゃん、がんばってるんだ。」

明らかにミナトさんは悩んでいるけど、これは当人とコクトの問題だしな。
俺が出来ることは、無いんだろうな・・・

「あのミナトさん、少しお話があるのですが・・・」

声のしたほうを振り向くと、そこにいたのは紫之森 静音。
来てたのかと驚く前に、俺とセイヤさんは席を外した。

「何の話ですかね?」

「コクトのことだろうな、間違いなく。」

「だから恋敵同士、何を話すって言うんですか?」

「トキアちゃんは相手に遠慮されて、恋人と一緒になって嬉しいか?俺は絶対に嫌だね、多分そういうことだ。」

お〜っと唸り、納得する。
さすが大人、見てるとこは見てるねぇ。

「本当に、もったいねえ奴だな。コクトは。」

そっちが本心なのか・・どうでもいいけど、家に帰ったらどうですかセイヤさん?
家に入れてもらえなくなっても知りませんよ。





「トキアちょうどよかったわ、これを見て!」

数時間後会長室に戻ると今までいたのか、ちょっと前にきたのかエリナとイネスがいた。
アカツキはいなかったのだが、エリナは慌てていてイネスは普段どおりクールだった。
見せられたのは、ネルガルが所有しているエステバリス生産工場の監視映像で、その工場を外から映していた。

「これが、どうかしたのか?」

「問題はこの三十秒後、目をつぶるんじゃないわよ。」

言われたとおり三十秒待ってみると、生産工場がいきなり爆発した。
監視映像であるので、音が無い分現実感が薄かったが間違いはなかった。
爆発後は炎上し、黒い煙が上がっている。

「爆破だな。」

「そうね。表向きには生産工程のアクシデントとしてあるけど、これは明らかに狙われた犯行よ。」

「現地に向かった調査団によると、従業員の遺体はバラバラになって焼けてはいたけど、死因は首をばっさりやられているものなど様々。さらに工場にあるはずのエステの部品や、設計データが抜かれた後があったらしいの。どう思う、トキアちゃん?」

「軍がエステバリスを導入したことで、利権にあぶれた企業って思いたいが・・」

他に、心当たりはある。今最も軍事力を欲しているのは、木星。
ボソンジャンプが出来なくても地球に来るだけなら出来るし、この全ての証拠を隠滅する手口。
実際に現場に出向かないと解らないが、北辰の奴が早くも舞台に姿をちらつかせたということかもしれない。

「他の工場も狙われる可能性があるから、プロスとゴートに連絡して警備を強化。イネスは、盗られたと思わしきものを全てリストアップしてくれ。」

「わかったわ。それにしても、ただのエステバリス工場で助かったわね。これがもしドーリスの工場だったら・・・」

エリナがごくっと喉を鳴らすが、例えドーリスを盗まれても使えるのは俺だけだからいいが。
未確認でも北辰が出てきたのはまずいな、アイツに勝てるのはコクトだけだ。
出来れば俺一人でかたをつけたいが、せめてエステバリス戦にもちこめればなんとかならないこともない。
厄介なことになったもんだ。

「私はこれから現地に飛ぶわ。エリナ、ヘリを用意してくれない?」

「念のため、俺も着いて行く。イネスに何かあったら大変だからな。」

「って事は何?私が一人で、あの極楽オタクの相手をするの?」

「俺が来る前はそうしてたんだろ?がんばれ、エリナ。」

「・・・しょうがないわね。チャッチャとやってチャッチャと帰ってきなさいよ、二人とも。」

エリナが諦め顔になってヘリを調達しだすと、会長室のドアが開いた。
入ってきたのはアカツキだが、なんていうか・・闇を背負ってる。

「トキア君・・・二人とも居なかったよ。嗚呼、これじゃあ僕の魔法少女が!って・・ここにいたのか。」

あ〜嫌だ、嫌だ。

「二人とも、ヘリの用意は出来たわ。屋上に行って頂戴。」

「エリナのためにも、チャッチャといってきましょう。」

「そうだな。」

俺とイネスは、アカツキを無視して会長室を出て行く。
いちいち説明するのが面倒なのか、それともすでにアカツキは部外者なのか・・・

「あれ?エリナ君、あの二人は何処へ行くんだい?」

「仕事してくれとは言いません。せめて邪魔だけはしないでください、会長。」

「何処へ行くんだい、エリナ君?おーい、誰か・・何がどうなってるのか、説明してくれないのかい?」

やっぱり、部外者なんじゃないのアカツキって?



















「ふぅ・・少し休んだら厨房か、本当にどっちが本職かわからないな。」

休暇が終わると、再び戦場へと向かうナデシコ
そのなかでコックとパイロットの両立をさせるアキトの揺れる胸中
未だ記憶にこびりつく、人の命を絶った感触
忘れたいのか・・・だがそれは忘れてはいけない過去だった

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[夢と言う名の残酷なアルバム]