機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第十九話[ナデシコ参戦、第一次月面会戦]


両手に持ったイミディエットナイフで、敵を迎え撃ちその場にとどめる。

【静音、前に出すぎです。戻りなさい!】

「私が下がったら、誰が敵を抑えると言うのですか!」

【コクトの真似事をする必要なんてねえ。戻れ、静音!】

新見さんと三村さんの言いたいことは、わかってはいるつもりですけど。
この大群の中で、私が下がったら私たちは一気に押し切られてしまいます。

「無理をするつもりはありません。もう少しなんです!」

人に言ったら笑われてしまうかもしれませんが、帰ってくるんです、隊長が。
ほんの噂程度ですが、ナデシコが火星を脱出して月に向かっていると。

【新見の姐さん、俺が前に出る。援護してくれ!】

【仕方ありません、頼みます。】

三村さんが私の横に並んできます。つき合わせてしまいましたね。

「感謝します、三村さん。」

【これぐらい、何でもねえよ。お前に何かあったら、コクトに悪いだろ?】

【陸奈と七海は、補給がすんだら久利と八牧と交代。二人は補給に。】

【来る。】

久利さんの呟きは、はじめ何のことだかわかりませんでした。

ギュィィィィォォォオオン

     ドゴォォォォン   ズィガァァァァァァン

ですが、その直ぐ後に宇宙に走ったグラビティブラストが、木製蜥蜴の戦艦を落としていきます。

【どういうことだ?木星側から来たグラビティブラストが、木星の戦艦落としてるぞ。】

【八牧、ナデシコ。】

「噂は、本当だったんですわ。ナデシコが帰ってくると言う。」

グラビティブラストが放たれた後に、ナデシコから発進した七機のエステバリス。
そしてあの、黒いエステバリスは紛れもなく隊長ですわ。
黒と白銀のエステバリスが先陣をきり、戦艦だけではなくチューリップまで破壊していきます。
白銀の方は、確か妹さんのトキアさんでしょうか。

【連合軍に通達。こちらネルガル企業所属艦ナデシコ、当方はこれより連合軍を援護します。】

いきなり開いたウィンドウでは、一人の殿方が話しています。
確かナデシコの艦長は、女性だったはずですが・・・

【挟み撃ちにされたことで、敵が乱れています。この好機を逃す手はありません、一気に上がります。】

【了解、姐さん。】

「承りました。」

考えている暇は、なさそうです。ただ確実に隊長は帰ってきてくれました。
戦闘中だというのに不謹慎ではありますが、今はただそれが嬉しいのです。







【コクト、帰ってきたのに挨拶は後回しか?】

「当たり前だ。今は敵を撃つ、それだけだ。」

短く答えると、トキアとは左右に別れ無人機を撃ち落していく。
俺達のすべきことは、チューリップを落とすこと。戦艦や無人機は他のものに任せればいい。
チューリップそのものに脅威はないが、その転送能力は危険だ。

「いいか、俺とトキアがチューリップを落とすまで無理はしなくていい。ヤマダ、お前が指揮をとれ。」

【了解だ。リョーコ、俺と前に出るぞ、他の奴はナデシコの護衛と俺たちの援護だ。】

【呼び捨てにすんじゃねえ!】

【ちゃん付けもどうかと思うよ、リョーコ?】

【そう呼んでいいのは、リョーコの王子様ただ一人。】

【うるせー!!】

言葉では遊んではいるが、その手の中の銃で正確に無人機を落としている。
俺はそのまま振り返ることなく、自機を飛ばす。
この場にいるチューリップは情報より減っていて十三隻、いくら挟み撃ちにしていてもすべてを単独で落とすのは無理か。

【コクト、先にいっただきー!】

考え事をしているうちに、トキアがまずチューリップの一隻目を落としていく。
さらに敵戦艦に触れると、ハッキングをしそのまま反転させグラビティブラストを撃たせる。

ギュイイイィィォォン

「トキア、こっちにも撃ってチューリップへの道を作ってくれ。」

【了解、当たるなよ。】

ナデシコのグラビティブラストを使ってもいいのだが、他に使えるものがあるのなら使う。
俺は放たれたグラビティブラストに続いて、チューリップへと突っ込んでいった。
防いだ所で弱ったフィールドをこじ開けると、拳をつきいれ離脱する。

ズュディオォォォォン

沈んでいくチューリップの弔いか、無人機どもが群がってくるが構っている暇はない。

「トキア、戦艦一つに拘るな。狙うのはチューリップだけだ。」

【んじゃ、最後に特攻してもらいますか。】

ハッキングした戦艦を使って遊んでいたトキアを注意すると、また別のチューリップに自機を向かわせる。
挟み撃ちを決行したがナデシコサイドはナデシコ一隻、できるだけ早く多くのチューリップを沈めなければならない。

【コクト兄さん、一度グラビティブラストを広域放射します。下がってください。】

【トキアも下がって。】

【了解、ラピス。】

「了解、だが艦長にフィールド出力だけは下げるなと伝えてくれ。」

【伝えておきます。】

さすがに火星宙域からも戦力を集めただけあって、今までのように一気に戦局を動かすことは出来ない。

【コクト、勝てないとは言わないけど、もし連合軍が引いたらまずくないか?】

「確かに、今は敵が乱れているから良いが・・・トキア、ナデシコのグラビティブラスト後、一気に沈めるぞ!」

【しんどそうだけど、やるしかないか。】

「俺は十時の方向を責める、お前は二時の方向を責めろ。」

ギュィィィィィオオオオオォォォン

グラビティブラストが発射されると、無人機はもちろん直撃した戦艦も沈んでいく。
その機会を逃すことなく、俺とトキアは最大出力でエステバリスを飛ばした。
全てのチューリップを沈めなくとも、今のうちに戦局を大半決めなければならない。
多少の無理は承知、明らかにチューリップを狙って来た俺を無人機は警戒するが、全て無視し自機を進める。

「邪魔をするな!」

苛立ちをぶつけるのは、無人機ではなくチューリップ。
先ほどと同じように、両の手でフィールドをこじ開け一撃を加え沈める。

「トキア、そっちはどうだ?」

【ちょっと待ってろ、今落としてやる。】

離脱中にトキアのいる方向を見ると、大きな光が宇宙空間を走る。
これで落としたチューリップは四隻、残りは九隻のはずだが・・念のためブリッジに確認を入れる。

【ルリ、ラピス、残りのチューリップの数と位置を転送してくれ。】

【最初は十三隻でしたが、残りのチューリップは六隻です。位置から考えて、連合軍の人たちです。】

【今、送ったよ。ついでにトキアにも。】

連合軍も月にくるぐらいだから、やられっぱなしではないだろうが予想以上の戦果だ。

【艦長、完全ではないが戦局は決まった。ナデシコを連合軍に合流させろ。】

【敵の真中を突っ切るんですか!?】

【無理に敵を全滅させようとすれば、こちらの被害も大きくなる。ルートはルリとラピスに探させろ。】

【わかりました。ルリちゃんラピスちゃん聞いたとおりだよ、最も被害の少ないルートを探して。】

【了解です。】

【わかった。】

ここで無理をすれば、どんなしっぺ返しを食うか解らない。
敵の真中を突っ切るのは無茶に聞こえるかもしれないが、フィールドを最大にしていれば大概の攻撃は防げるし、敵も同士討ちを恐れグラビティブラストは撃ってこないだろう。

「チューリップはもういい、トキアこれからナデシコが敵陣を突っ切る防衛するぞ。」

【無茶させるな、お前も。】

「俺達が防戦に徹すれば、無茶じゃない。」

そう言うとナデシコを護っていたヤマダたちと合流し、ナデシコを護る為に防衛線を展開する。
俺とトキアがナデシコの前面両脇を固め、ヤマダとスバルが側面両脇を固める。
アキトとマキ、アマノはライフルやラピッドライフルで敵を狙い打つ。

【ナデシコは、これより船速を最大にし敵陣を突破します。パイロット各員は、置いていかれないように注意してください。】

【置いていかれたら、しゃれにならないもんね〜。】

【そう・・しゃれにならないのね。】

【イズミさんが言うと、すっごく怖いんだけど。】

アキトの言葉は皆の背筋を寒くしたが、メグミの放送後ナデシコは動き出した。
俺とトキアがチューリップを落としたことで、無人機たちも少し防衛に入ったのか積極的に責めてくるものはごく一部。
少数で責めてきたものは、俺達によって瞬く間に処理された。

【つまんねー奴ら、ほとんど責めてこねーじゃねえか。】

【馬鹿なこと言うな、リョーコ。おかげで助かってるじゃねーか。】

【だから、呼び捨てにするんじゃねえヤマダ!】

「おそらく木星側はすでに引く気なんだろう、下手に刺激して戦闘を長期化させたくないだけだ。」

【引く変わりに、月はあげますってことか。】

油断は出来ないが、トキアの言うとおりほぼそれは確定だろう。
連合軍だけならまだしも、ナデシコが背後に現れた時点で木星の負けは決まった。
後はいかに戦力を持ち帰れるか、連合軍が無茶な追い込みをかけなければ良いが・・・
俺の心配をよそに連合軍は月を奪還したことで満足し、その場にとどまりナデシコは無傷のまま合流を果たすことになった。







ナデシコに帰還しブリッジに上がる頃には、すっかり木星軍の姿はなく連合軍も月へと降り立っていた。
おそらく、長い間放置されていた月基地へと向かったのだろう。

「お疲れ様です、みなさん。無事に月も奪還でき、後は本当に地球に戻るだけですな。」

「アキト、お疲れ様。」

「疲れてるのは俺だけじゃないんだぞ、ユリカ。」

「副艦長、私語は慎むように。」

「ぶー、ジュン君の意地悪。」

アキトがブリッジに上がってきたことで、直ぐにユリカが構おうとするがジュンにたしなめられる。
嫉妬からか艦長としての本分か、ユリカを注意できるようになったのは進歩した証拠だ。

「あの、アリウムの人たちが着艦許可求めてますけど、どうしますか?」

「許可してください。彼らは月には留まらず、地球に戻るためナデシコに乗る予定です。」

「わかりました。今からハッチを開けますから、順に着艦してください。」

【了解しました。着艦後ブリッジに向かうので、そちらの許可もお願いします。】

ウィンドウに映ったのは、約二ヶ月ぶりに見る顔の新見。
新見は本当にナデシコに挨拶に来たのだろうが、他の皆は俺に会いに来るだけだろう。

「それではアリウムの方が来る前に、簡単に今後の予定を言っておきましょう。地球に戻ったらまず、皆さんには長期休暇を出しますので自由に行動してくださって結構です。」

「自由って言ったって、俺達みたいなのは行くとこねえぞ。」

「それはご心配なく。そういう方のためにネルガルの社員寮を空けておりますので、それにパイロットの方は色々とご協力を願いたいので。」

「ルリルリとラピラピは、どうするの?」

「私たちは元々ネルガルにいたので、ちゃんと部屋があります。」

「帰ったら、掃除とかしないといけない。」

期間にもよるが、俺はどうするか。
一時的に軍に戻るか、このままネルガルでトキアのそばにいてやるべきか。

『トキア、おまえはどうするんだ?』

『もちろんネルガルで新兵器の開発、前に見せたアレを完成させたいし。』

『俺に手伝えることは、あるか?』

『新しいエステのテストパイロットとか、やることはいろいろあるさ。』

それぞれが好きに休暇中のことを話し合っていると、ブリッジのドアが開く。
そこにいたのはもちろんアリウムのメンバー、皆元気そうだがブリッジに挨拶をするどころか一向に入ってくる気配が無い。

「静音は、何やってんだよ。」

「好きな人の前では綺麗でいたいに決まってるじゃない、化粧よ化粧。」

「そんなの、後でいいでしょ。挨拶するわよ。」

「誰か姐さん止めろ!静音が最初に行く権利があるだろ。」

「僕は嫌ですよ〜。」

「了解。」

なにやらゴソゴソと会話していたかと思うと、乱闘をするかのように新見を押さえ込みだした。
本当に、何やっているんだお前ら・・・・
ブリッジクルーもアリウムのこんな姿を見るのは初めてなのか、大口開けてポカンと見ている。

「終わりましたわ。」

「よし、行け静音。」

ようやく静音がブリッジに踏み込んでくると、艦長のジュンを無視して俺の目の前に歩いてくる。

「お久しぶりですわ、隊長。お帰りなさいませ。」

「元気そうだな。」

「はい、隊長もお元気そうで良かったですわ。」

たったそれだけの一言で、紫之森の顔が笑顔になる。
本当に何でこんな俺なんかを、わからない。
だが早く答えてやらなければならないだろう、このままでは紫之森に悪い。
ちゃんと俺には応える事が出来ないと、言わなければ・・・









「お〜お〜、見せ付けちゃって。どうしますミナトさん、ポイント取られてますよ?」

「ご心配なく、あの子が出てきたからようやく本気出せるじゃない。」

「余裕ですね。」

「相手がいない時にって、趣味じゃないの。」

「早い者勝ちだと思うけど、人それぞれってことかなぁ。」

「そういうこと、トキア君もわかってるじゃない。」



















「そうね。表向きには生産工程のアクシデントとしてあるけど、これは明らかに狙われた犯行よ。」

誰もが長い休暇の中で、戦争を忘れ心を休める
ネルガルに残る者、久しぶりの我が家へ帰るもの
それぞれの想いや使命にしたがって行動する中
ネルガル所有のエステバリス工場に、爆破事件が勃発する

次回機動戦艦ナデシコースリーピース
[休暇中、恋に仕事に大忙し]