機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第十三話[トキア帰還、迎えたのは・・]


前回と同じく、オリンポス山の研究所には生き残りはいなかった。
だがネルガルの狙いは研究データと、ナデシコその物のプロパガンダ。
目的は、ほとんど果たしているだろう。

「私たち・・何しに火星まで来たのかな?」

「まだ一箇所しか見ていなから、諦めるのは早いよユリカ。」

「そうだよね。ユートピアコロニーの他にも、まだまわる所はたくさんあるよね。」

ジュンは慰めてはいるが、少なからずネルガルの目的が研究データであることに気付いているだろう。
それに木製蜥蜴の巣窟である。火星にそれほど長居できるほど余裕は無い。

「地図によると・・もうすぐユートピアコロニーだけど、このままコロニーに入っちゃっていいの?」

「ユートピアコロニーの中心にチューリップが一隻あるので、そのまま入ったら危険ですよ。」

「地図のこの辺りに、隠れるのにちょうどいい場所がある。」

「えー!!ユリカとアキトの思い出の街なのに、行けないの〜?」

「ではそちらの地図の場所に、ナデシコを停めて捜索隊を出しましょうか。」

ラピスがウィンドウに出した場所は、イネスがいるであろう地下から大分離れている。これならもし敵がきても大丈夫だろう。

「少し思い当たる場所がある、俺とアキトがエステで行こう。」

「そうでしたね。アキトさんはここらの地理に詳しいはずですし、反対する人は・・」

「はーい!私もこの辺りなら詳しいでーす。」

「いないようなので、お二人にお任せします。」

ユリカが自己主張をするが、あっさり無視される。

「うう・・また無視されたよぉ。」

「艦長が艦を離れて良い訳無いだろ、ユリカ。」

「あの、私もできるならアキト兄さんの故郷見たいんですけど・・」

「ルリねぇが行くなら、私も行きたい。」

ユリカの言葉に触発されたのか、ルリとラピスが手を挙げるが・・オペレーターが二人も離れるのはまずい。
トキアがいれば、アイツが留守番で事が収まるのだが・・どうする。

「多分、行かない方がいいよ二人とも。あそこはもう、街とは呼べないから見ても辛いだけだよ。」

「そうなんですか、わかりました。」

「うん、アキトにぃがそう言うなら行かない。」

アキトが二人の頭を撫でながら説得し、あっさり受け入れられる。
おまえ自身も辛くないわけ無いのに、それに提督のこともどうするか問題だな。



【だから、目の前で消えたんだよ。確かにそこにあったのに、煙みてえによ!】

【わかったから、下がってくださいウリバタケさん。発進しますよ。】

まったく・・何がどうなっているのか、セイヤさんの目の前でトキアのカトレアがジャンプしたらしい。
もっとも何も知らないセイヤさんには、消えたように見えたのだろうが。
俺達の知らないところで何が起こっているんだ。

「コクト機、発進する!」

【続いて、アキト機も出ます!ウリバタケさん、本当に離れてください。踏みますよ。】

【信じてくれよ、消えたんだー!】

いつ敵に発見されるかわからない以上、無駄な時間は使えない。
俺はアキトに、エステにしがみつくセイヤさんを振り落とさせた。

【何で誰も信じてくれないんだ、俺は正常だー!!】





「思い当たる場所って・・何も無いよ、コクト兄さん。」

「地上ではなく、地下にあるんだが・・・」

前回は偶然落ちたため、記憶が曖昧だったが思い当たる場所を歩き回る。
壊れたショベルカーやヘルメットが落ちているので、この辺りには間違いない。

ボコッ

「うわぁ!」

アキトの声にそちらを見ると、既にその場に姿は無く足元に大きな穴があいていたため、続いて飛び降りた。

「いててて・・」

「受身ぐらい取れ、アキト。」

「歓迎すべきか、招かれざる客か・・とりあえずコーヒーぐらいは出そう。」

アキトに手を貸してやっていると、現れたのはバイザーとフードをした女性。
間違いなくイネス フレサンジュだ。

「コーヒーは必要ない。用があるのはイネス フレサンジュ、貴方だけだ。」

「直ぐにその名前が出るって事は、やはりネルガルのようね。」

「ちょっと待ってよ、コクト兄さん。この人だけって、他にも人がいるんじゃないの?それにアイちゃんは?」

ズゥゥゥゥゥゥゥン

アキトの問にどう答えるべきか迷っていると、地下が大きく揺れ、パラパラと土が落ちてくる。
俺はまさかとは思い、俺達が入ってきた穴から空を見上げるとそこにはナデシコがあった。

【やっほーい、アキトー私も来ちゃったー。】

馬鹿な、ブリッジのクルーは止めなかったのか!

「事情が変わった。イネス、断るというなら力づくでも連れて行く。」

「誰も行かないとは、言ってないわ。ただ説明しに行ってあげる。」

このときイネスは嘲笑するように唇の端をあげたが、俺はそれ所では無く全く見ていなかった。
サツキミドリの時もそうだ・・俺はいつも、つめが甘い。
なんのための未来の記憶なんだ・・今度こそ全員救ってみせる!





「ミナト、直ちに艦を浮上させて現在地を全速で離脱だ!」

「え・・コクト君?」

「いいから、早くしろ!」

ミナトがいきなり入ってきて命令した俺に戸惑い、ユリカに目線を向けるが一喝して従わせる。
ブリッジクルー全員が何故という顔をしているが、構っている暇は無い。

「両オペレーターは、絶えず索敵を続けろ。通信士は艦内放送でパイロットを呼び出し、待機させろ!」

「ちょっと待ってください、お兄さん何を・・」

「艦長、それに提督も、貴方たちには失望した。副提督の権限により、一時指揮権を剥奪する。」

「副提督?コクトさんが?」

「お〜、忘れておりました。そういえばコクトさんは、ムネタケ前副提督の変わりに副提督の権限を持っておりましたな。」

まさか俺も使う日が来るとは、思っていなかったさ。

「あの子は待機だから、道案内を読んでわざわざ一人で着たのに・・なんだかお取り込み中のようね。」

「イネス、悪いが適当な所に座っていてくれ。最悪、シェルターの真上で戦闘になる。」

俺の言葉でやっと自分のしたことがわかったのか、ユリカが青ざめる。

「コクト兄さん、前方よりチューリップ一機近づいてます!」

「戦艦、護衛艦、どんどん数が増えてるよ!」

「遅かったか・・・ミナト、まだ艦は動かないのか!」

「一旦着陸すると時間が掛かるのよ。」

「大丈夫、グラビティーブラストを撃てば・・」

ドォォォオオオォォン

止める暇は無かった。艦長権限を剥奪だと言ったのに、確かにナデシコは軍じゃない。だが、これじゃあ最悪だ!
予想通り手傷を負ったのはほんの一部、しかも全く航行に支障をきたしていない。

「今のでエネルギー残量が減り、艦の発進がさらに遅れるわ!」

「そんな、何で効いてないの・・」

「答えは簡単、相手もディストーションフィールドを持っている。そして、グラビティブラストもね。」

「なおも敵、増大中!」

「後五分で包囲される!」

「発進も後五分、掛かるわ!」

みんながユリカや提督でなく、俺を見てくる。
どうしようもない不安と、何かしらの作戦を期待して。
だが今の俺に、この状況を打破する策は無い・・逃げるだけならできるかも知れないが、それには・・・

「ルリ、ラピス、ディストーションフィールド発生を、艦長席から操作できるようにしてくれ。」

二人の手を汚させるわけにはいかない、俺なら・・いまさらだ。
木星の戦艦に前後左右そして上空を囲まれ、敵は既にグラビティブラストの準備をしはじめている。

「艦長、提督よく見ておけ、これがお前たちのとった行動の結果だ。」

ディストーションフィールドを発生させるボタンに、俺の手が伸びる。

【諦めてんじゃねえぞ、コクト!】

突然ブリッジに入ってきたトキアの声、手を押しとどめると俺は感に従った。

「ミナト、浮上だ!」

感通りグラビティブラストがナデシコ上空をかすめ敵を破壊していき、包囲網が空けた場所からナデシコを脱出させる。
そして再び放たれたグラビティブラストが、残りの戦艦を破壊する。
グラビティブラストをスタンバイしていたからとはいえ、たった一撃でその大半の艦を落とす威力。
今はまだ出来ないはずの連射、そして俺は確かに見た。アレは・・・ユーチャリス。

【安心するのはまだ早いぞコクト、奇跡はここまで。チューリップはまだ健在だ、何とかしてみろ。】

本当に奇跡なのか、ユーチャリスはボソンジャンプで消えてしまい。残ったのは、トキアのカトレア一機。
考えるのは後か、俺はこの場の指揮をアオイに頼み出撃した。







「助かったよ、サンキューな。」

「手を貸すのは、今回だけです。それに二人のアキトに死なれては、困ります。」

胸元のチューリップクリスタルから聞こえた声は、相変わらずの感情の無い声だが、それが逆に照れているように聞こえ苦笑する。
笑ってばかりもいられない、目前にはチューリップ。そしてカトレアを発見したせいか、質より量とばかりに小型無人兵器を多くばらまき始めた。

「準備運動ぐらいにはなってくれよ。」

「無人兵器など、貴方の敵ではありません。」

「そりゃどうも!」

カトレアを加速させ敵陣に突っ込んでいく、もちろん目的は敵の誘惑。
無人機にカトレアの手が触れる一瞬で、ハッキングを終える。
やろうと思えば百機ぐらいは軽くできるが、ハッキリ言って他の人が敵との区別が出来なくなるので、六機を誘惑しカトレアの両腕、両肩、そして両足に装着させる。

【トキアさん、トキアさんなんですね?】

「帰ってきたよ、ルリちゃん。とりあえず挨拶は戦闘後にね。」

【トキア、お帰り!】

【何処いってたのよ、トキア君。】

【心配したんだから。】

「だから、後だってばみんな・・」

無人機をまとめて殴りつけていると、キリがなさそうなので通信を切ってしまう。
後で文句を言われるかもしれないけど、今は集中してもらわないと。

「あの方たちは、何故戦闘の邪魔をするのですか?」

「久しぶりに会ったから、喜んでるんだよ。」

「人は喜ぶと、戦闘の邪魔をするのですね。覚えておきます。」

脱力して、訂正する気にもなれない。
とりあえず無視して、両手両肩の無人機からミサイルをばらまく。

シュバァァァァン
             ドゥゥゥゥオォォン

適当にばら撒いたので、煙から出てきた無人機を片っ端から殴りつける。

【帰ってきたんだな、トキア。】

【トキア、すまーーーーーーーーん!!】

【トキア、ここの指揮は任す。俺は、チューリップを破壊しに行く。】

ようやくナデシコからコクトたちが出てきたっていうか、なんでアキトまで出てくるの?
あとお前ら、俺とブリッジの通信聞いてたか?集中しろって。

「コクトがチューリップを落とすまでは、防衛線だ。無理せず、確実に落としていけ。」

酷く大雑把だけどわざわざ出てきたんだ、やって見せろよ二人とも。

【だー!また強そうなのが、出てきやがった。】

【私たちナデシコに着てから、まだ活躍してないもんね。】

【目立っても、死んだら負けよ・・】

この怖い言葉はイズミか、活躍がないってコクトの奴はりきりすぎたか?
俺はミサイルを撃ち尽くすと操っていた無人機を投げつけ自爆させると、破壊し新しいのと取り替える。

【もらったー!!】

ドォォォォォォォォォン

コクトの叫びが通信から聞こえてくると同時に、チューリップが黒煙を吐き出しながら落ちていく。

【後は、現存の無人機の掃討だ。】

「だったら少しあそばせて貰うぞ、コクト。」

ナデシコの守りは他の奴に任せて、一人一番敵の多い場所に突っ込んでいく。
そしてその場に静止すると、群がってくる無人機向けてありったけのミサイルを放った。
このままじゃ俺まで爆発に巻き込まれるが、そこはちょっと裏技を使う。

ドゥガァァァアアアン

目の前で起こる爆発の瞬間に、数秒先の未来へジャンプする。
ジャンプアウトした時には爆煙のみで、衝撃は無い。

【ビックリさせんな、トキア!死んだかと思ったじゃねえか!!】

【自殺志願じゃなかったのね。】

【トキア、皆を驚かせるのはいいがブリッジで大目玉を覚悟しておけ。】

「あ・・通信きったままだっけ、忘れてた。」

コクトの言葉で、ブリッジからは自爆したように見えたかなと思い、汗が頬を伝う。
今ので無人機は半数以上を失い、もはや掃討に二十分も掛からなかった。



ナデシコに着艦しカトレアを降りると、カトレアに向かってひれ伏してるセイヤさんがいる。
なんだか、お神酒とか用意しだしてるけど・・

「はぁ〜、神様仏様カトレア様、迷わず成仏してください〜。」

・・・気にするのはよそう。
そしてわざわざブリッジからきたのか、ルリちゃんにラピス、それにミナトさんとメグミの姿もあった。
俺に向かって、笑顔で走ってくる。

「トキアさん!」

「トキア!」

「トキア君!」

「トキアちゃん!」

「た・・ただいまルリちゃん、ラピス。それにミナトさんも、メグミも。」

さっきの自爆にも見える荒技のせいで怒ってるかと思ったけど・・ひとまず安心したけど甘かった。

「なんて危ない事、するんですか!」

「罰として一週間、私たちの言うこと聞いてもらうから。」

「あら、いいわね二人とも。私もきいてもらおうかしら?」

「当然、私にもその権利はあるよね?」

「俺・・まだ、一応病み上がりなんだけど。」

「それなら、それらしくしてください!」

真剣に怒ってるルリちゃんにかなうはずも無く、結局俺は頷くしかなかった。
返ってきたのはいいけど、やることは山済みだ。遺跡のこと、地球に帰ってからのこと。
それにこれからの八ヶ月は俺たちの知らない未踏の時間、上手くやっていくしかない。



















「だから、今度は俺が言うよ。俺は皆が何を言ってもユリカの味方だから、ユリカを信じてる。」

謹慎処分となったユリカの元を、訪れようとするアキト
そこに現れたコクトとトキアは、一度は止めるものの結局は行かせてしまう
落ち込むユリカに励ますアキト、以前とは全く逆の立場になる
そしてトキアの不穏な言動に疑問を感じたコクトは、驚愕の事実を知らされる

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[味方は幼馴染、そしてトキアの思惑]