機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第十二話[火星突入、そして消えたトキア]


何も見えない、聞こえない。
でも、確かに俺はいるここにいるんだ。
それじゃあ俺の名前は?

『目覚めるのです・・テンカワ アキト。』

テンカワ アキト?それが俺の・・
違う!俺はアキトじゃないトキアだ。
コクトとアキトの弟、ルリちゃんとラピスの兄貴のテンカワ トキアだ!

『目覚めなさい、そして我が元へ。』

アンタは誰だ、その声何処かで・・・

『貴方はまだ、倒れるべき時ではありません。』

何処かで・・

『さあ、私の手を取りなさいテンカワ アキト。いえ・・・電子の皇帝。』

俺は疑問を持ちながらも、何も感じない手で確かに声の主の手をとった。







戦いのなか、意識を戦い以外に向けることは自殺行為だとはわかってる。
でも、今感じたのはなんだ?

『コクト兄さん、今何か感じなかった?』

『確かに・・だが今は戦いに集中するんだ。確かめるのは後でいい。』

『わかったよ、コクト兄さん。』

リンクをきり、目の前の戦場へと再び意識を戻す。
目の前に広がるのは、無数の戦艦と数えるのが馬鹿らしいほどの無人兵器。
俺は出撃前に言われたとおり突っ込むことはせず、ライフルを構え狙い打つ。

【残弾数は絶えず頭に入れておけアキト、ただし手だけは休めるな。】

【了解。】

俺達は三人でチームを組みそれぞれが近、中、遠と距離を受け持っている。
一番危険な近距離がもちろんコクト兄さん、突っ込む癖が治りつつあるヤマダは中距離で俺を護衛しつつ射撃。
そして俺は、比較的に安全な遠距離から撃ちまくる。

【オラオラ、ちんたらやってんじゃねえよ。まとめて蹴散らせ!】

【リョーコ、突っ込みすぎだよ〜。】

【言っても聞かないわ、私たちも行くわよ。】

俺達がいる場所とは逆から、リョーコちゃんたちがまとまって敵に突っ込んでいく。
確かに撃ち漏らさなければ、突破されないけど。

「そこだ!」

ドゥン

突っ込んできた三人を大きくかわして、ナデシコに取り付こうとした一機を破壊し、その後続を足止めする。

「ヤマダ、こっちはいいから、ここの反対側を護衛してくれ。」

【初陣の癖に馬鹿を言うな、お前はどうするんだ。】

「ナデシコが落とされたら、意味無いだろ!」

【わかった、自分で言い出したんだ絶対にやられるんじゃないぞ。】

先ほど足止めした一団に、ヤマダが対応しに行き少しほっとする。
でもまだ始まったばかりだ気は抜けない。
それにしてもコクト兄さんは凄いな、敵の真っ只中にいるのに全く攻撃を受けていない。

【だー!やっぱり異常だアイツは。】

【そう思うなら、コクト君のマネしようとしないでよ。】

【ちっ、わかったよ。イズミ、少し下がるぞ。】

【とっくに下がってるわ。】

なんだかんだ言ってもあの三人も十分に凄い、相手の攻撃もかすり傷程度にしか受けていないのだから。

カチッ

「しまった!」

そんな残弾数のことは言われたばっかなのに、きれるまで気付かないなんて。
無人機も弾切れに気付いたのか、好機とばかりに迫ってくる。

【アキト!!】

ヤマダに続いて他にも誰かが名前を呼んだ気がしたけど、聞こえない。
まるで第三者のように客観的に自分を見ているような、この特徴的な感覚はあの時と同じ。
ライフルを捨てイミディエットナイフを取り出し、向かってきた敵をただ処理する。

ドガァァァァン

【アキト、大丈夫なのアキト!】

【アキト兄さん。】

【アキトにぃ。】

ユリカと妹たちの声で、感覚が戻ってくる。
これで二度、いや三度目か一体なんなんだアレは。

【アキト、まだいけるか?】

「まだいけるよ。」

【心配させるんじゃねえ、アキト。】

「すまない、ヤマダ。」

コクト兄さんとヤマダの通信に答えると、二、三度手のひらを開いたり閉じたりする。
大丈夫だ普段と変わらない、けど・・試してみるか。

「ウリバタケさん、ライフルを二丁射出してください。」

【二丁って、扱えるのかお前?】

「これから試すんですから、わかりません。」

【初陣だから当たり前か・・わかった。だがあんまり無駄弾は打つなよ。】

射出されたライフルを二丁手にとり構え、同時に休まず放つ。
コクト兄さんは援護するまでも無かったが、リョーコちゃんやヒカルちゃんの撃ち漏らしを撃ち。
ヤマダとイズミさんが処理しきれなかった、無人機を撃つ。
おかしい当たりすぎる。さっきはライフル一丁で命中率三十%をきっていたのに、今回は二丁なのに六十%を優に越えている。

【いきなりどうしちまったんだよアキト、やるじゃねえか!】

【ヤマダ君の言うとおり!いきなり腕が上がった感じ〜。】

【急成長ね。昔の苗字が長さん・・・旧姓、長。】

コレでもかというほど頭を左右に振る。こびりつきそうだ。
・・これは成長なのか。俺が感じているのは成長ではなく、ただ以前できたことを思い出しただけのような。
懐かしいと、凄く良く似ている感覚。

【グラビティブラストを発射後、火星に突入します。パイロット各員、直ちに帰還してください。】

ルリちゃんの通信で、直ぐに格納庫に戻る。
この感覚を忘れないように、後でまたヤマダにシュミレーションに付き合ってもらうか。
しばらくすると、グラビティブラストを撃った振動が伝わってくる。
それにしても火星か、絶対にアイちゃんを探し出さなくっちゃな。
決意を拳に込めて握っていると、何故かよろめいた。

「あれ?なんか・・傾いてるような〜〜。」

後で聞いた話だと、突入後にもグラビティブラストを撃ったそうだ。
でもそんなことを知らなかった俺は、床を滑り落ちていった。

「イズミ〜、本当に急成長したと思う?」

「見事に、落ちていったわね。体を張って落ちをつけるなんて・・・やるわね、彼。」

「だー!変な所さわるなヤマダ。」

「だったら、離れろ!」

他のパイロットたちは、何故か平然と立っていたコクト兄さんにしがみついて難を逃れていた。

「重いんだが・・」

「ちくしょう、うらやましい〜!」

ウリバタケさん・・・ヤマダに抱き疲れたいですか?





「さて、ナデシコは、これからネルガルの研究所があるオリンポス山に向かう予定ですが・・」

「予定が変わったんですか?」

プロスさんが途中で言葉を濁らせた為、ユリカが手を挙げる。

「予定は変わりませんが少し困ったことに、トキアさんが行方不明になりました。」

あまりのようだがに訪れた静寂、そしてきっかり十秒後。

「「「「「「「「えーーーーーーーーー!!」」」」」」」」

「トキアって、誰だ?」

「コクト君とアキト君の妹らしいよ。結構有名で、知らないのリョーコぐらいのもんだよ。」

「ちょっと待ってください、行方不明って事は目を覚ましたということですか?」

「いえ、行方不明とは状況を指しているだけで、実際には消えました。」

「消えた?」

「論より証拠、こちらをご覧ください。」

ラピスとルリちゃんを制して出したウィンドウには、光を伴い一瞬にして消えてしまうトキアの姿が映った。
皆が大口開けて驚いているなか、コクト兄さんだけが何かを知っているような反応をしていた。

『何か知ってるの、コクト兄さん?』

『アレはボソンジャンプだ。だが、ボソンジャンプにはチューリップクリスタルが必要なはず。』

『行き先はわからないの?』

『ジャンプする先は、本人のイメージしだいだ。わからない。』

ボソンジャンプか、確か以前説明聞いたけど瞬間移動みたいなものだっけ。
難しくて、よくわからなかったんだよね。

『ジャンプだということは、皆には伏せておけ。』

『わかったよ、コクト兄さん。』

本当は秘密にする理由もわからないけど、こんな現象話しても理解してもらえると思えないし。
変人扱いはされたくない・・トキアは元々アレだけど。

「捜索隊を出しますか?」

「そうしたいのは、やまやまですが・・アオイさんは何処を探せとおっしゃるので?」

「それは・・」

「私どももトキアさんのことを諦めたわけではありませんが、今は手がありません。ここはひとまずオリンポス山に向かうということで、艦長。」

「お腹がすけば、トキアちゃんも帰ってくるでしょう。それじゃあ、張り切ってオリンポス山に。」

ユリカじゃないんだから、そんなんで帰ってくるわけいだろ。
それにトキアのことはひとまず置いておいて、ユートピアコロニーへは行かないのかな?
いかないんだったら、エステ借りて行ってこよう。

「プロス、オリンポス山の後で良いから一度ユートピアコロニーへ寄ってくれないか?」

コクト兄さんナイス!言い難いことをあっさりと。

「ユートピアコロニーって、私とアキトの故郷のユートピアコロニーですか?」

「ん〜・・かまいませんが、あそこはほぼ全滅してますから・・・下手な希望は抱かない方が。」

「かまわない。」

俺はこのとき気付かなかった。コクト兄さんがユートピアコロニーのことを口にした時の、提督の後悔の表情を。
ユートピアコロニー、俺とユリカの故郷、そしてアイちゃんと出会った場所。
絶対に、助けに行かなくちゃいけないんだ。









たしか、あの時とっさにヤマダをかばって・・ここは何処だ?
俺が目を覚ました時、俺は見知らぬ場所に横たわっていた。

「場所もそうだが、何で病人みたいな服着てるんだ?」

「それは貴方が、一ヶ月ほど昏睡状態だったからです。」

声のしたほうを振り向くと、そこには俺と同じぐらいの歳の女の子がいた。
だけど凄い違和感がある、無機質な声に意思の見えない瞳。
まるで、そこにいるのにいないような感じだ。

「アンタ誰だ?それに一ヶ月って、ナデシコはもう火星についているのか?」

目の前の女の子は全てを知っていそうで、ナデシコのことまで聞いてしまった。

「先ほどナデシコは、オリンポス山へ向かいました。」

「なるほど。それはわかったが、もう一つの質問に答えてない。」

「辺りを見回しても、まだわかりませんか?」

女の子の言い草にちょっとムッとしたが、冷静になってもう一度辺りを見回す。
何の物質で出来ているのか、わからない壁と床。こんな所は地球では絶対にお目にかかれないが、一つだけ心に引っかかったのは・・

「火星、極寒遺跡か?」

「そう、私は遺跡の番人とでも呼べる存在。そして、遺跡そのものでもあります。」

「・・遺跡って、女だったのか?」

他に驚くべきことはあったが、驚きが大きすぎてどうでもいい事を口走ってしまう。

「この姿に、特に決まりはありません。ただ女性型のほうが、安心できるだろうという配慮です。」

「あっそう。それで遺跡の番人が、俺に何のようだ?」

「一つは、貴方を目覚めさせること。そしてもう一つは、全てを伝えるためです。三人のアキトの意味、これから貴方が進むべき道。」

「ちょっとまった!三人のアキトの意味とか進むべき道とか、まさかこの時代へ俺達を飛ばしたのはお前か?」

「そうです。私は遺跡のために争いが起こった時に、目覚めるようにプログラムされていました。そして私は目覚め、貴方を選びました。」

なんだか気に食わない・・選んだとか進むべき道だとか、他人の手のひらで踊ってるようで。
だがそう思いつつも、俺は黙って遺跡の話を聞いた。手のひらというステージを脱出するために。







「本当に、それが俺達の意味か?」

「はい。貴方たちが各々の役目を果たせば、戦争は終わり二度と遺跡に関した争いは起きません。」

それは悪魔のささやきか神の啓示か、だが今の話が本当なら俺達はただの生贄じゃないか!
結局は俺達の犠牲によって戦争が終わって、自分たちのいない平和な世界・・・

「・・・認めない。」

「今なんと?」

「認めないって言ったんだよ!」

理不尽だと思った。何故また俺たちが・・

「認めてたまるか、俺は俺が幸せになるために帰ってきたんだ!それなのに今さら・・なんで・・・」

「そうですか・・直ぐに決心しろと言うのも無理かもしれません。そのネックレスはいつも付けてますね?」

今ごろ気付いたのだが、首から落ちそうになっていた千切れたネックレスに遺跡の番人が手を触れる。
するとネックレスがつながり青い石が付いていた。

「それは貴方達の言う、高純度のチューリップクリスタルで出来た中継機です。それをつけていれば、何処にいても私と話せます。」

「絶対、呼ばねえよ!」

「それはそれで構いません。しかし覚えておきなさい。貴方が未来から受け継いだ力は、ナノマシンだということを。」

「どういう・・ことだ?」

酷く嫌な予感がしたが、聞かずにいられなかった。

「貴方の命はこのままでは、もって二年です。」

重大な宣言であるにもかかわらず、遺跡の顔にはいまだ感情というものがいっさい見えなかった。
そのため、俺は直ぐには言葉の意味を理解することができなかった。
たったの二年、だいたいこの戦争が終わるまで・・
このまま自分の意志で戦っても、遺跡の用意した道に従っても・・同じじゃないか。
戦争の終わりに待っているのは、確実な死。



















「ミナト、直ちに艦を浮上させて現在地を全速で離脱だ!」

未来を知るコクトは最善をつくそうとするが、くしくも艦長であるユリカによって崩される
誰かを犠牲にしてまで、生きなければならないのか
フィールドの発生を自ら行おうとするコクト
進んで罪を被ろうとするその行動は、勇気かただの諦めか

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[トキア帰還、迎えたのは・・]