機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第十一話[航海日誌その内容は?]


私達がサツキミドリを発ち火星が刻一刻と近づくなか、クルーの士気は落ちる所まで落ちました。
そもそも艦長がアキト兄さんにちょっかいを掛ける現場が、各所で見られたのが主な理由ですが・・
唯一落ちてない所は、パイロットの一部の人たちだけでしょうか。
ちなみに、いまブリッジにいるのは私と艦長と雑誌にクギ付けのメグミさんです。

「はぁ〜、・・暇だね。」

「暇なら仕事してください、艦長。」

航海日誌は本来艦長が書くものですよ。
それに艦長が仕事をすれば、アキト兄さんにちょっかいを出す機会が減ります。
これはもちろん、いち妹としての言い分です。

「だって最近アキトってば急がしそうにしてて、あんまり相手にしてくれないんだもん。」

「返答になってませんよ。」

サツキミドリを出てからアキト兄さんがようやくコックに復帰したのはいいんですけど、何故かパイロットにも志願しました。
もちろんラピスと私は止めましたが、アキト兄さんの意思は固かったです。
ちょっと、シュミレータールームを覗いてみましょうか。





【アキト、距離を詰められたからといって慌てすぎだ。】

【そんなこと、言ったって・・うわ!】

【アキト下がれ!ここは俺が・・】

アキト兄さんをかばったヤマダさんの機体がコクト兄さんの機体に破壊され、結局そのすぐ後にアキト兄さんも。
シュミレーターから出てきました。今いるのは三人だけでリョーコさんたちはいないようです。

【ヤマダ、仲間を守る事と自己犠牲は違うと言っただろう。】

【わかってる、まだまだこれからだ!】

【そうやって直ぐに熱くなる所もなおせ、仲間をもっと信頼しろ。一人で何でもしようとするな。】

ヤマダさんは、まだトキアさんのこと気にしてるみたいです。
以前、ヤマダさんがゲキガンガーのディスクを捨てた事件がありました。
ヒカルさんが貰うことで事が収まりましたが、少し行動が極端で心配です。
私とラピスもあの時はこのように危なげだったのでしょうか。

【アキトは操縦は慣れてきたようだが、まだまだ素人の域を脱していない。相手を見るな戦場そのものを見ろ。】

【戦場を?】

【相手だけじゃない、仲間の位置、自分の位置、何処にどんな障害物があるのか全てを認識しながら動け。】

【やってみる、もう一度だ。】

再び、三人ともシュミレーターに入っていきます。
アキト兄さんはコクト兄さんとトキアさんをエステバリスで投げ飛ばした事があるのに、今の動きは私達が見ても素人だとわかります。
実戦向きということでしょうか?





「そうなのねアキト、アキトは私を守る為に危険なパイロットに!」

耳元でうるさいです艦長。
いつの間にか、私の手元のウィンドウを艦長だけでなくメグミさんまで見てました。

「本当の所は、どうなのかなルリちゃん。」

「本当も何もアキトは私が大好きなんだから、私を守る為にだよメグちゃん。」

メグミさん・・その眼は怖いですよ。

「捨てられただけなんじゃないんですか?」

「うわぁ〜〜〜ん、アキトー!!」

艦長が泣きながら走って行きました。行き先は聞かなくてもわかります。
それにしても物凄いこと言いますね、メグミさんは。

「ほら・・独り身は寂しいじゃない。」

私の視線に気付いたのか言い訳をしてきますが、理由になってない気が・・

「私、少女ですから、そういうことはわかりません。」

「そう言わずに、これ見てよルリちゃん。」

なんかの雑誌ですね、ナデシコ良い男ランキングですか?
こっちには美少女ランキングまでありますね・・・あれ?見間違いじゃないようです。
美少女のほうに、トキアさんがランクインしてます。
いまだにばれてなかったんですね。

「何処かの誰かが自主制作してる雑誌だけど、ルリちゃんも今のうちから良い人探し解いた方がいいよ。」

「少女ですけど・・あ、コクト兄さんとアキト兄さんが上位にいますね。」

「二人はランクに関係なく、競争率高いわよ。ミナトさんも最近よくコクトさんに話し掛けてるし。」

それは初耳ですね、ミナトさんが姉に・・ちょっといいかもしれません。
ラピスもミナトさんがお姉さんになったら、喜ぶに違いありません。

「私としては、ヤマダさんが結構穴だと思うんだけど。」

ギリギリ十位ですか、でもランクの上昇率が半端じゃないです。
コメントの所に、最近ついてきた落ち着きと、元来の熱い心を持ち合わせた将来有望株とありますね。

「あの〜。」

後ろを振り返ると、いつの間にか戻ってきた艦長がブリッジのドアから顔だけを覗かせてます。

「ルリちゃん悪いんだけど・・アキトに私のこと聞いてくれないかな〜、なんて。」

「もしかして、自分で聞くのが怖いんですか艦長?」

「ちがうもん!アキトは私が大好きなんだからーーー!!」

メグミさんストレートに言い過ぎです、また走って行っちゃいましたよ。

「メグミさん、今のは痛かったんじゃないですか?」

「そうかな?」

「そうですよ。」

「そうかな?」

「そうですよ。」

「・・・そっか、しかたないよね。良い人見つからないし。」

だから、理由になってないですよメグミさん。





手元にトキアさんの病室を映して見ることは、勤務時の習慣になってます。
トキアさんが撃たれてからもう直ぐ一ヶ月、いまだ何の兆候も現れません。

「ねえルリちゃん、艦長帰ってこないけどどうしちゃったのかな?」

「いじめすぎたんじゃないですか?」

「やっぱり、そうかな。」

「気になるなら、探してみましょう。」

ちょっとメグミさんが困った顔をしたので、手元のウィンドウを消して正面に大きなウィンドを出します。

「自室や食堂にもいませんね。」

他に心当たりは無いので公共施設を検索すると出てきた結果は、瞑想ルームに艦長を発見です。
ちょっと、ウィンドウに出してみましょうか。

【アキトは私が大好き・・大好きなんだから。】

艦長、それ座禅のつもりでしょうが・・それはただ単にあぐらをかいてるだけですよ。
やっぱりさっきのことで、色々考え込んでるみたいです。

【アキトは私の王子様、絶対にそうなんだから。】

「心配して損したような・・でももう直ぐ火星につくのに艦長不在はまずくない?」

「そうですね。代わりといってはなんですが、休暇中のアオイさんを呼びましょう。」

「もう、来てるよ。」

その声を聞いた私とメグミさんが振り向くと、いつの間にかアオイさんが艦長席にいました。
遠い眼をして正面のウィンドウを見てます。

「さっき、廊下でユリカとすれ違ってね・・・もしやと思って。」

さすがにアオイさんは慣れてますね、すれ違っただけでブリッジに足を運ぶとは。
関心していいのか少しなやんでいると、ブリッジの扉が開き走りこんでくるリョーコさんたち。

「よし!ブリッジを占拠だ、ちょうど良いお前来い!」

「え?なんで、痛い痛いよ!」

「ジュン君ごめんね、ちょ〜っと人質になってもらうだけだから。」

運悪くそこにいたアオイさんを締め上げると、銃を突きつけてます。
占拠と人質・・つまり反乱?

「おい、ルリ!艦長とプロスを呼び出せ。」

とりあえず私は言われるままに、二人だけでなくブリッジクルーを全員呼び出しました。
命は大事にすべきです。特にアオイさんがいないと大変なことになるので。






「反乱って、どういうことですか?」

慌ててきた艦長の後ろには、眠そうなミナトさんとラピス。
ブリッジに来た艦長が開口一番私に聞きますが、そういうことは本人達に聞いてください。

「火星に行くのは良い、ここの飯は美味いし若い子もいる!」

若い子って、ウリバタケさん貴方既婚者じゃ・・

「これを見ろ、艦長。」

「え〜っと、なになに男女交際は手を繋ぐまで・・なんですこれ?」

「見てのとおりだ。お手て繋いでって、ここは保育園か!」

「「調子に乗るな!」」

どさくさにまぎれてリョーコさんとヒカルさんの手を握ったウリバタケさんが、二人から肘打ちうけました。
男女交際で反乱起すなんて、少女にはよくわかりません。

「クルー全員が守ってるならそれもしょうがない。でも・・艦長が率先してやぶってるじゃねえか!」

リョーコさんの言い分はもっともで、こちら側であるはずのミナトさんやメグミさんも頷いてます。
艦長が各所でアキト兄さんに抱きついたり、ちょっかい掛けてるのは周知の事実。

「でも、ユリカとアキトは既に恋人同士だし。」

「普通にアキトの奴は嫌がってるだろうが!」

あ、艦長が凹んだ。
そういえば座禅中に呼び出したから、まだ悩んでいたんですね。

「ルリちゃん、なんでそんなに冷静なの?」

「そうですね。本当に危険なら、とっくにコクト兄さんが現れてますから。」

ブリッジクルーだけでなくコクト兄さんにも連絡を入れまいしたが、大丈夫だと一言だけでした。

「艦長のことは後で減給なりなんなりと罰を与えるとして、契約は契約です。守っていただきましょうか。」

「でやがったな、悪の権化。」

「正義だろうと悪だろうと契約は、守らなくてはいけません。」

「てめえ、これが見えねえか。」

一歩も引かないプロスさんにウリバタケさんがスパナを向けました・・どういう意味でしょうか?
リョーコさんたちはアオイさんに銃を向けてました。脅し、力づくということでしたか。

「この契約書も見てもらいましょうか。」

スパナを前にして契約書を掲げて、あたりまえですが涼しい顔をしているプロスさん。
アオイさんの命が風前の灯なんですけど・・さすがに私も、この無神経なやりとりはムッとしました。
しかしどうすることもできず、プロスさん対反乱軍のにらみ合いが続きましたが・・

ドゴォォォォォォン!!

艦内が激しく揺れました。
みんな立っていられなかたようで、座り込んでいます。

【こちらコクト機、出るぞ!】

【ヤマダ機も出る!】

【アキト機もだ!】

状況確認する前に現れたのは三つのウィンドウ、そして三機のエステバリスが発進していきました。
オモイカネに聞く前に状況がわかりました。間違いなく敵の砲撃です。

「みなさんの不満は後で必ず話し合います。ですから今は戦ってください、戦わないと恋愛どころじゃありません!」

艦長が珍しく真面目な顔で演説してます。
ですがその不満の矛先は大部分艦長なんですけど・・・もしかして、ごまかしてません?

「メグちゃん、艦内に放送を各員配置について一般クルーは外壁に近いところには近づかない事。ミナトさんは艦の回避行動を、ラピスちゃんはその補助を、ルリちゃんはパイロットの補助をお願い。」

はじめはぼけっとしていたみんなも、艦長の声で急いで配置につき自分の仕事をします。

「俺らも行くぞ、アキトだけには遅れをとるな!」

「またずいぶんと低い目標だね、リョーコ。」

「うるせえ、コクトの奴が異常なんだよ。ヤマダもあなどれねえ。」

「いいから早くしてください!そのアキトが危ないじゃないですか!」

艦長の怒声で、ヒカルさんと言い合いになったリョーコさんが慌ててブリッジを出て行きました。
動機はあれですけど、ようやく艦長らしくなってきました。
トキアさん、私たちはようやく火星の目前にまでやってきました。
アキト兄さんと艦長の故郷である火星は、いまや木製蜥蜴の巣窟です。
火星の人たちを助け出して無事に帰るまで、トキアさん私たちを見守っていてください。



















「本当に、それが俺達の意味か?」

戦闘中に異変を感じたコクトとアキト
後に知らされたのは、トキアの行方不明というありえない事実
一人ある場所を訪れさせられたトキアは、そこで信じたくない現実を知らされる
三人のアキトの意味そして自分自身の・・

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[火星突入、そして消えたトキア]