機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第十話[妖精たちの願い事]


コクト君の予想が当たったのかしら?
私たちがサツキミドリについたときには敵反応は無かったけど、傷ついた彼の機体。

「ミナトさん、エステバリスを回収後、サツキミドリの誘導にしたがって艦をドックに入れてください。」

「了解艦長、メグちゃん向こうは何処に入れって言って来てる?」

「十五番ドック、だそうです。今データ渡します。」

すぐにメグちゃんが、サツキミドリから渡されたデータをウィンドウにして寄越してくれる。
なんだ、要するにこのまま真っ直ぐ行けって事じゃない。
船速を落としてエステバリスを回収しやすいようにし、後はあちらの誘導ビームに乗せるだけ。
よく車庫入れって表現するけど、マニュアル操作でお尻のほうからドックに入れる人いるのかしら?
バックミラーなんて洒落た物ないのに。



「艦長、ただいま戻りました。」

「ご苦労様です。そちらの人たちは?」

戻ってきたコクト君の後ろには、パイロットスーツを来た女の子が三人。
まさか、女の子がさっきのエステバリスに?

「おう、新しく来たパイロットのスバル リョーコだ。」

「同じく、パイロットのアマノ ヒカルでーす。」

「マキ イズミ、よろしく。」

「私が艦長のミスマル ユリカです。よろしく。」

艦長が握手のために手を差し出すけど、三人の興味はすでにコクト君に移ってて無視される形になる。

「二度手間だなんて言いやがって、お前も自己紹介しやがれ。」

「うう、無視された・・ユリカ艦長さんなのに。」

可哀想だけど相手がコクト君じゃ、どちらが興味を引くかっていったらね。

「テンカワ コクト、本来はネルガルのテストパイロットだが、軍に出向中のパイロットだ。」

「軍に出向って、ここにいるじゃねえか・・それよりなんか聞いたことある名前だな。」

「何言ってるのよ、テンカワ コクトって言ったら最強のエステバリスライダーの名前じゃない。それにさっきの機体黒かったし。」

「だから、地上用のエステで宇宙戦をこなすなんて無茶ができたのね。」

「何が最強だ。お前ちょっと来い、シュミレーターで相手してやる。」

リョーコちゃんって男の子見たいな喋り方なのね、ちょっとトキア君を思い出しちゃうな。
外見女の子で喋り方が男の子、結構気が合うんじゃないかな?

「少し待て、プロスこれからのナデシコのサツキミドリでの行動は?」

「ゼロG戦フレームほかエステバリス用兵器、および一般資材を搬入ですな。ブリッジおよび一般クルーは十二時間後の出航まで、艦内サツキミドリ内問わず自由行動です。」

艦長がいじけてちゃってるから、プロスさんに聞くコクト君。
アオイ君もこういう時慰めるんじゃなくて、もっとしっかりしろとかはっきり言えばいいのに。
惚れた方が負けって奴かな?

「艦長、車庫入れ終わったわよ。」

「サツキミドリの方から挨拶の準備が整ってるそうなので、艦長と提督そしてプロスさんを指名してきてます。」

「えー!折角の自由時間だから、アキトを誘ってお買い物でもしてこようかと思ってたのに。」

本当にアキト君のことばっかりね、艦長は。
ただ・・今のアキト君が、のんきに買い物になんて付き合うなんて思えないけど。
ルリルリとラピラピどうしてるかしら、できれば気分転換させてあげたいけど無理かなぁ。

「それでは、これから十二時間を自由行動とします。メグミさん、艦内にそう放送してください。さあ、艦長行きますよ。」

「私がいなくても、何とかならないんですか?プロスさん。」

「艦長、私が言ったことを覚えているかね?」

提督が言った台詞でピタっと艦長が止まる。
艦長って・・もしかしておじいちゃんっ子だったとか?妙に提督に弱いわよね。

「う・・認めてもらいたければそれなりの行動で示すこと、です。」

「そういうことだ。それに十二時間も挨拶をするわけではない、挨拶が終わり搬入のチェックを終えれば自由だ。」

「そうですね!じゃんじゃん行きましょう、待っててねアキト。私がんばっちゃうんだから。」

右手を振り上げて張り切る艦長。
搬入のリストだって少なくはないだろうし、その頃にはすでに疲れちゃってると思うんだけど。

「ミナト、後で少し話がある。直ぐ戻る、ここで待っていてくれ。」

頼まれごとをされるなんて少し意外だったけど、オッケーと返すと新しいパイロットの子達とブリッジを出て行くコクト君。
そういえばシュミレーターするって言ってたような、そんなに直ぐ終わるものなの?
続いて艦長たちもブリッジを出て行きゴートさんも付いていく、アオイ君はここにお留守番みたい。

「メグちゃんはどうするの?」

「そうですね。サツキミドリの中少し歩いてお花でも買ってこようかと、その後でトキアちゃんのお見舞いに。」

「それなら一緒にいかない?初めての場所は、一人だと何かと不安だし。」

メグちゃんはそうですねって言ってくれたけど、シュミレーターっていつまで掛かるのかしら?
そう思ってたら、本当にすぐにコクト君が戻ってきた。

「一発で終わらせてきた。」

この時は一回だけと思ったんだけど、後で聞いた話だと弾一発という意味だったみたい。

「本当に早かったわね、それで用ってデートのお誘いか何か?」

もちろん冗談でコクト君は表情一つ変えないけど、メグちゃんが嫌そうな顔をする。
たぶん私がさっき誘ったことで邪魔者になると思ったのかもしれないけど、コクト君が表情一つ変えなかったのはちょっと傷ついたわよ。

「ルリとラピスのことだ。寝てる時以外はトキアのそばを離れようとしない、少しサツキミドリ内で気分転換させてやってくれ。」

それはさっき私が考えていたこととほとんど同じ。やっぱりお兄さんだよね、コクト君は。
私はもちろんその意見に賛成し、メグちゃんも賛成してくれた。





ルリルリとラピラピの状態は、思った以上に悪かった。
白い肌はさらに白くなり眼にもクマができている。ほとんど寝れていないのかも・・

「二人ともどこか行きたいところとか、食べたいものある?」

私の言葉に、うつむいたまま首を横に振る二人。
困ったわね・・まるっきり気が進んでない感じ。困った顔でメグちゃんと顔を見合わせる。

「と・・とりあえず、何か美味しい物でも食べに行きましょうよ。何処へ行くかは、食べながら考えるってことで。」

「そうね、お姉さんが奢ってあげるから食べにいきましょうか。」

二人が頷いてはくれたけど大丈夫かしら。

「本当ですか?私、がんばってたべちゃいますよ?」

「メグちゃんはだ〜め。大人なんだからちゃんと自分で払うの。」

「え〜?奢ってくださいよ〜。」

「だめったらだめ、癖になったら困るでしょ。」

「ペットじゃないんですから、大丈夫ですって。」

メグちゃんと、ルリルリとラピラピをはさんではしゃいで見せながら歩くけど、無反応な二人。
コクト君は絶対にトキア君は目を覚ますって言ってたけど、本当にそうなってもらわないとこの子達が心配よ。
本当に今にも消えてしまいそうな感じで、手をつないでないとこっちも不安になる。
私はラピラピの手を握る手にほんの少しだけ力を強く込め、二人がここにいることをようやく実感した。



一般の生活区にくると広がる光景は、天井をできるだけ高くし、圧迫感を与えないように設計された、地上とそんなに変わらない風景。
コロニーって来たの初めてだけど、こういう所ならそう変わらない生活を遅れそう。

「なんだか・・上を見なければ、普通の所ですよね。」

メグちゃんも私と同じ意見のよう。
気が付くとルリルリもラピラピも少しだけ顔を上げて、辺りを見渡す。
まだ顔に元気は無いけど、良い兆候。ナデシコから連れ出しただけでも、少しは気分転換になったのかしら。

「地図を見ると、レストランとかはあっちみたいですね。」

メグちゃんが開いていたウィンドウを覗き込む。
他の場所にも無いわけじゃないけど、あっちの方が色んな店が固まっている。

「それじゃあ、行きましょうか。」

しばらく歩きつづけると、レストランだけでなく雑貨屋など様々な店があり道路には露天商なども出ている。
でもこれだけ店があると、一体何処がいいのかわからないわね。
辺りを見渡しながら歩いていると不意にラピラピの足が止まり、手をつないでいた私とルリルリの手が引っ張られる形になる。

「どうしたの、ラピラピ?」

「あれ。」

指差した先にはアクセサリーの露天商。

「いたって普通の、露天商ですよね?」

「何か気に入ったアクセサリーでもあったの?」

「違うけど、これ。」

ラピラピが指差したのは並べられたアクセサリーとは少し離れて置かれている、少し変わった形のネックレス。
そこには紙にプロミスリングと書かれていて、ラピラピだけでなくルリルリも興味深そうに見る。

「なにこれ?」

「願掛けの道具か何かですか?」

「嬢ちゃん達いい所に目をつけたな、コイツは俺が作った最高傑作だ。鎖の両端が知恵の輪になってるだろ?これをつなげて身につけておいて、無理やりじゃなくて自然に外れたら掛けた願いがかなうって代物だ。」

非常に胡散臭い、何処にでも転がっていそうな話。
私が疑わしげにみていると、店主は笑いかけて言ってくる。

「嘘じゃねえよ。実際に俺が着けてた時は、自然と外れた。おかげで近々、この近くにちゃんとした店をもつんだ。」

「欲しい。」

「売り物ですか?」

ラピラピの一言でルリルリが値段を聞くが、返ってきたのは意外な答え。

「コイツは売り物じゃないんだ。俺の願いがかなった時に、この知恵の輪をはめれた奴に次は渡すって決めたんだ。」

その言葉を聞くと、すぐにプロミスリングを手にとって知恵の輪をはめようとするラピラピ。
十分ほど挑戦していたら今度はルリルリが試し、また十分ほどで交代。
最初はただ物珍しさに挑戦しているだけだと思ったけど、それは大きな間違い。
ちょっと考えれば直ぐにわかる。二人が今一番かなって欲しい願いが・・

「どうします?ミナトさん。」

「時間はたっぷりあるし、やりたいようにやらせるしかないわ。ごめんね、メグちゃん。」

「私はいいですよ、二人の願いはわかってるつもりですから。」

店主と私たちが見守るなか二人の挑戦は続く。
交代しては頭を休め、また交代して挑戦する。その間は、ただ街行く人のざわめきだけが耳に入る。



そして開始から二時間になるかならないかの時、二人の努力が実る。

カチッ

小さな音を出して繋がった知恵の輪を握り締め、二人は顔を綻ばせる。

「よくやったよ二人とも、普通の人なら五分も経たずに辞めてしまうのに。これでそのプロミスリングは、君たちのものだよ。」

それでどっちがそのリングをつけるんだいと店主が尋ねるが、ルリルリもラピラピも私じゃないと言う。
願いを込めたのは二人だけど、ソレを身につける人物はただ一人。

「ミナトさん、すみませんけど私たち、すぐにでもナデシコに戻ります。」

「トキアにあげるの、すぐにでもあげたいの。」

「二人が何を考えていたかは、お姉さんはお見通しよ。私たちも、もちろん一緒に行くわよ。」

「そうそう、はめたのはルリちゃんとラピスちゃんだけど、ちゃんと私たちも願掛けたんだから。」

私たちの言葉を聞いて微笑を浮かべると、ナデシコに向かって駆け出す二人。
二人の笑顔を見たのはかなり久しぶりだけど、感動する前に走らないと置いていかれてしまう。
私とメグちゃんも、慌てて走り出した。





私にメグちゃん、コクト君にアキト君にヤマダ君と見守る中、ルリルリとラピラピが協力してトキア君にプロミスリングをかけてあげている。
こんなことで目を覚ますとは思えない・・けど期待してしまう。
そして首に掛け長い髪をひっかからないように通し終えると、二人が一歩離れる。
一秒・・十五秒と時間は過ぎていっても、トキア君に変化は無い。
誰もが私と同じように奇跡を信じたのか、ため息こそつかないが落胆の意は隠せていない。

「残念なんかじゃ、ないですよ。」

私たちが見つめるなか、振り向かずに喋ったルリルリの言葉はとても強く、落胆などしてはいない。
そして、ラピラピも同じく落胆などしていなかった。

「ちゃんと願いは込めた。次はトキアが、がんばる番。」

「そうです、私たちは絶対に諦めません。もしトキアさんが諦めたら、ほっぺたひっぱたいて上げます。」

そう宣言をすると、崩れ落ちるように倒れた二人を慌てて助け起す。

「大丈夫、眠ってるだけ。」

私が二人を抱き起こし確かめると、周りからほっとため息が漏れる。
それにしても・・この子達は、なんて強い子だろう。
たしかに私やコクト君、他の皆も歩き出すために手は差し伸べたけれど、結局二人は自分たち自身で歩き始めた。
多分もう二人は心配要らない、後はトキア君が目覚めるのを待つだけ。
早く目を覚ましなさいトキア君、君はこんなにも皆に愛されてるのだから。



















「メグミさん、今のは痛かったんじゃないですか?」

地球を発ってからそろそろ一ヶ月、ナデシコは本来の明るさを取り戻していた
落ち込んでいるよりはと言うものの、それがかえって事件を巻き起こす
ルリはそんな彼らに呆れつつも日々の日誌をつけていく
そして、ついにナデシコは火星へとたどりつく

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[航海日誌その内容は?]