機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第六話[必然と運命の銃弾、垣間見えた力]
「それじゃあ、俺は食堂に戻るから。」
先の戦闘が一段楽し、アリウムのメンバーとトキアとでブリッジへと赴く。
「コクト、硬い挨拶は苦手だから、俺も食堂行ってくるわ。」
「それなら、僕も。」
「夏樹も楽したいし、そっちかな。」
「同行。」
硬い挨拶は絶対無いと思うが、特に止める理由も無いか。
「全く、隊長念のため俺もあいつらに付いて行く。あいつらが騒ぐと大変だからな。」
そう言って付いて行ったのは八牧、苦労をかけるな。
結局残った面々は、トキアに新見と紫之森そして俺。
「お前は行かなくて良いのか、紫之森。」
「私が付いて行く殿方は、隊長ただ一人ですわ。」
「もしかして、あの人コクトにラブラブなのか?」
「ラ・・ラブラブ、そんなこと知りません!隊長さっさとブリッジに行きましょう。」
何を慌てているんだ新見は、そんなに早くブリッジに行きたいのか?
「なんて言うか、大変そうだな。」
「そういうところが、また素敵ですのよ。」
ブリッジの扉の前に来ると、いきなりトキアが足を止める。
「どうした?」
「いや・・ちょっと心の準備を。」
そう言うと、しゃがみこんで唸りだす。
そういえば、アキトの話ではルリとラピスがずいぶん心配してたそうだからな。
ラピスはあっさりしてるが、ルリはしつこい所があるし。
「隊長、この子は何を迷ってるんです?」
「妹たちに心配かけたことで、言い訳でも考えているんだろう。」
「隊長は、ご兄妹が大勢いるのですわね。」
そのうち二人は、双子以上に近い存在だがな。
「トキア、悩んでいても仕方ない。ドアを開けるぞ。」
「あ、ちょっと待って。」
「あれ〜?そんな所で集まって、どうしたんですか?」
「腹でも壊したのか?」
後ろからかけられた声は忘れもしない声、かつて愛した人、そして親友になりえた男。
俺達の中で誰よりも早くその声に反応したのは、トキアだ。
「なんで、なんで助けてくれないんだー!!」
「きゃぁぁぁぁ!」
「グゥーー!ア"ーー!!」
「とりあえず、しばらくはそうしてろ。」
ユリカに襲い掛かったトキアを後ろから殴り、気絶させた俺はトキアをオペレーター席に縛り上げる。
特に猿轡に意味はないのだが、それをしたのはルリとラピスの二人だ・・なぜなら。
「すまなかったな、艦長」
「あははは、しょうがないですよ。トキアちゃんも気になる年頃なんだし。」
「トキアさんは、いつもお風呂で悩んでました。」
「胸、無いから。」
「ヴゥー!ぅ〜・・」
哀れみの眼がトキアに集中する。
ルリとラピスはトキアが取り乱した理由を、ユリカの胸を見て嫉妬に狂ったと無理やりクルーに納得させたからだ。
「トキアちゃん、大丈夫よ。まだ、私たちには未来があるんだから。」
「女は胸じゃないって言ったでしょ、トキア君。」
「びーぁーヴー。」
追い討ちを掛けてるな二人とも。
「あの人、よくこんな会話の中平気でいますよね。」
「・・・むぅ。」
「男はこういう時、肩身が狭いものですからな〜。」
「妹がいると違うのかもしれないぞ。」
何がどう違うんだガイ・・、全く内緒話のつもりだろうが全て聞こえているぞお前ら。
だが俺も肩身が狭いのには変わりない、話を止めるか。
「フクベ提督、ミスマル艦長、地球連合軍エステバリス部隊アリウム所属、テンカワ コクト特尉、現時点を持ってネルガル所有の戦艦ナデシコ護衛の任務につきます。」
「うむ。」
「貴方があの有名な、会えて光栄です。」
少し無理やりだったが敬礼することで場の雰囲気が静かになった
「同じくアリウム所属、新見 欄です。」
「同じくアリウム所属、紫之森 静音ですわ。」
「この艦はアリウムの方が三人も乗艦するのですか?」
「いえ、乗るのは隊長だけですわ。本当はついていきたいのですけれど。」
【そういうわけには、いかないのよねぇ。】
突如コミュニケの映像が現れたかと思うと、ブリッジに銃を構えた軍人がなだれ込んでくる。
完全に油断していた。今はまだナデシコは出航すらしていないのに、もうムネタケが動き出した。
何故だ、何が目的で。
「この艦、そしてテンカワ コクトは軍がもらうわ。」
「血迷ったか、ムネタケ!」
「血迷ったのはあなたの方です、提督。最新鋭の戦艦と地球最強のエステバリスライダー、この二つを軍が手放すとお思いで?」
どうする・・この場にいる敵は十人を超えている。
何とかならないことも無いが。
「テンカワ コクト、妹を殺したくなかったら動かないことね。それにほら、お迎えがきたわ。」
「ヴー−!!」
部下に命じて銃口をトキアに向けさせるムネタケ。
くそ、こんなことなら対縄抜け用の縛り方なんてするんじゃなかった。
「基地上空に戦艦を三隻確認、どれも地球連合軍所属艦です。」
【ユリカ――――――――――――――!!】
あまりの絶叫音に、ブリッジにいた全員が耳をふさぐ。
どうやら軍人たちはあらかじめ耳栓をしていたようだが、耳をふさげなかったトキアは気絶した。
「お父様。」
「お〜ユリカ元気だったか?少しやせたんじゃないのか?」
「お別れしてまだ三日です。ところで、これはどういうことですかお父様。」
「お前は知らなくてもいい、戦艦のキーとテンカワ特尉をこちらへわたしなさい。」
「黙って聞いてれば、人を物のように言ってくれるな、ミスマル提督。」
まさか自分のせいでムネタケの計画が早まるとは・・よみが甘かったな。
「なんなら、俺は現時点を持って軍への出向をとりやめる。まさかただの民間人を銃で脅して、無理やり連れては行かないな。」
「でしたら、私も軍を抜けますわ。これなら隊長に何処へでも付いてゆけますし。」
「私も、隊長のいない軍に興味はありません。抜けさせてもらいます。」
「何言ってるのよアンタ達、そんな我侭が通ると思ってるの!」
「何が我侭だ!相手を銃で脅しておいて、よくもそんなことがいえるな!!」
軍が人質をとるなら、俺は俺の価値を人質に取ってやる。そこまで求める人材に軍を抜けられたらさぞかし自分の立場が悪くなるだろうな。
案の定、ミスマル提督が譲歩してくる。
「解った。話し合おうじゃないかテンカワ特尉、ただし艦長とマスターキーは預からせてくれ。」
結局はあの時とあまりかわらないか・・
とりあえず俺はクルーの安全を最優先させることにし、プロスとユリカとジュンを連れて提督の艦へと向かった。
ちゃんと皆を護ってくれよトキア、それにアキト。
「なんだか私たちって、置いてきぼりくらってません?」
「命があるだけましよメグちゃん。トキア君、気絶してるけど大丈夫かしら。」
「はぁ〜、自由への航路は出航すらせずに終わるか。」
「諦めるな、希望はまだそこにある!!」
ガイの叫びも空しく誰も取り合うものもいない。
そりゃ一般人がいきなり銃つきつけられれば、びびりもするか。
大変なことになったな、歴史が変わってきてるとはいえここにあのチューリップが来ないとも限らないし。
「トキア、どうしたの?まだ耳痛い?」
「違うよ、ラピス。ちょっと考え事をね。」
心配そうに顔を覗き込んできたラピスの頭を撫でてやる。
前回はユリカの位置が解ってたけど、今回は基地内につれていかれたし、そっちはコクトに任すか。
「それにしても、大丈夫かなあの人たち。酷い目にあわされてなければ良いけど。」
「大丈夫でしょ、艦長らしき人がお父様って言ってたし。」
「コクト兄さんなら大丈夫です、強いですから。」
その通りだけど、ついて行ったのが俺だったら、同じように言ってくれるかな。
「兄さんって、お嬢ちゃんあのコクトの兄妹か?」
「私だけじゃなくて、こっちのラピスもです。」
「あと、俺とあそこでジャガイモ剥いてるアキトもそうだぞ。」
たしか、三村だっけこいつ。
よくみたら、アリウムのメンバーも食堂に集められてるじゃねえか。
「妹さんが三人に弟さんですか、隊長兄弟多かったんですね。」
「メイド。」
否定する所が二つあるんだけど。
行動するにもまだ時間は早いし、ちょっとからかうか。
「これは、兄の趣味なんです。昔っから兄はメイドとかフリル系の服とか好きでしたから。」
「なにー!!」
「隊長が、少女趣味・・」
「どうりで静音ちゃんのアタックにも、欄ちゃんの視線にも気付かないわけだ。」
「盲点、でしたわね。」
「私は、別に・・」
もちろん、しっかり声を高くしておいた。
「そっかぁ、トキア君ってお兄さんの趣味でこうなっちゃったんだ。」
「困ったもんです。」
『困ったもんですじゃない、お前は何をやっているんだ!』
あ・・やべ、思考をブロックしとくの忘れてた。
でも皆今の話題でたのしんでるし、今更嘘って言えないよね。
『女装趣味だってばらされたくなきゃ、俺が戻るまでに訂正しておけ!』
『趣味じゃねえ!・・もう行動起すのか?』
『軍は交渉の仕方を知らないらしい、こんな所もはや一秒でも居たくない。』
『わかったよ、発進準備はすすめておく。あと、艦内の掃除もね。』
どうやら軍はコクトを怒らせたみたいだな。軍への出向をとりやめたら、家族がどうなるかなとか脅したんだろ。
馬鹿だなぁ、交渉担当した奴、骨の一本ですめば良いけど。
まずは艦内にいる軍人の配置を調べないと、オモイカネに聞けば一発だ。
「オモイカネ、艦内索敵、艦内の地図と軍人の配置、あと食堂以外にクルーがいたらその位置もだして。」
「テンカワ トキア、何をするつもりだ。」
「何って、このウィンド見ればわかるだろ。と〜っても、楽しいこと。」
「暴れるなら、俺達もつきあうぜ。」
開いたウィンドと、今の会話で食堂内の視線が集まる。いや、・・軍属のアリウムが正面から軍に逆らったらまずいでしょ。
何故か負けじとガイがゲキガンガーディスクを出しアピールするが、誰にも見てもらえない。
「ナデシコを取り返したいのはやまやまだが、賛成はできない、危険すぎる。」
「大丈夫だって、我に秘策アリってね。オモイカネ、ブリッジと格納庫と食堂以外の艦内の空調止めて、定時連絡には監視映像から採取した情報を流しておいて。」
そういうことかとゴートが呟く。
ブリッジはその危険性から外部から空調を操れないし、格納庫は広すぎるから時間掛かるけど、ナデシコってオモイカネがあるかぎり絶対に乗っ取りができない仕組みになってるんだよね。
武器は呼吸困難で気絶した軍人からとればいい、あとはブリッジと格納庫誰にいかせるかな。
「はいは〜い、皆さん聞いてください。今からナデシコの奪還作戦を開始します。といっても乗り込んでいる軍人のほぼ八割は、今苦しんでるはずだから何も怖いことは無いです。」
「平気で空調とめちゃうトキアちゃんの方が怖いと思うのは、私だけかな?」
「悪いのは向こうなんだし、いいんじゃない?」
イメージ悪くなるんで、メグミの呟きには突っ込まない。
「アリウムの人は軍属だしここで皆を護って、ゴートは格納庫奪還チームのリーダーね。メンバーは整備班とか、適当なの見繕って。ブリッジは俺一人で行くから。」
「そうか、解った。無理はするな。」
「何を言ってるんですか、トキアさん。危険すぎます。」
「そうよ、トキア君。こういう事は、大人に任せれば良いじゃない。」
「私も行く。」
やっぱり反対意見が出たか、ラピスなんてついて来るって言うし。ゴートは俺のこと知ってるけど、どうやって説明したものか。
この中で一番強いからとか言っても、信じないだろうし。
「テンカワ トキアのことなら心配ない、信じろ。」
「は・・はい。」
「ゴート、怖い。」
あんまり二人に顔近づけないでくれるか、脅えてるじゃねえか。
(無理やり)納得してくれたから良いものの。
「そうそう、アキト。お前もゴートについていけよ。」
「え、何の話?」
お前ゲキガンガーに夢中で聞いてなかったな。話は道すがら聞いておけ。
さあ、楽しいひとときの始まりだ。
「はろぉ、ムネタケ。げんきしてた?」
「む・・胸無し、どうやってここに。ちょっとアンタ、定時連絡はしてたんでしょ!」
「間違いなく・・」
あ〜あ、可哀想。いわれの無いことで責められてるよ。
「それはただのダミー映像、ブリッジと格納庫以外の奴らは、仲良くおねんね中だ。」
「だから何よ、それで勝ったつもり?民間人だからってアタシは容赦しないわよ。」
ムネタケだけでなく、他の軍人たちも銃口を向けてくる。
俺だって何も考えずブリッジにはいりこんだわけじゃない、すでに両腕に武器を持っている。
体の未成熟な俺が選んだ、愛用の武器。
ドン!ドドン!!
銃声が耳に届くより早く体を動かすと、ブリッジ内に光の煌きが駆け抜ける。
軍人の手元から、バラバラに分解され崩れ落ちる銃。
「そんな馬鹿な、不可能だわ。」
それは銃弾をかわしたことへの驚きか、銃を切り刻んだことへの驚きか。
俺の手の中にあるのは、言われても気付けないほどに細く強靭な鋼線。
「最近のメイドをなめんなよ、強くなけりゃやっていけないんでね。切り刻まれたくなかったら大人しくするんだな。」
平気で人に銃を向ける奴に、容赦はしない。
ただたんに腕を切り落とさなかったのは、ブリッジを血で汚したくなかったからだ。
「ゴートのだんな、思ったよりやばいぞこれは。」
「まさか、向こうから出向いてくるとはな。」
俺のすぐ目の前で弾丸が飛び交っていて、セイヤさんの口から焦りの言葉が出る。
どうやら格納庫にいた軍人は、すぐに異変に気付き行動を起していたらしい。鉢合わせた俺達は通路の曲がり角での銃撃戦に移り、俺も慣れない手つきで銃を握った。
【ゴート、こっちはブリッジを奪還した。そっちはどうだ?】
「少し、まずいことになった。応援にこれないか?」
【そっちで何とかしてくれ。マスターキー無しでも、できるだけ発進準備をすすめたい】
「解った、なんとかしてみる。」
そう言うとコミュニケのウィンドを閉じるゴートさん。
「何とかするって、いい案でもあるんですか?」
「ない。」
無いってどうするんですか。応援は無い、それにこっちはゴートさん以外素人なんですよ!
大体、なんでトキアはついて行けなんていったんだよ。
「無いが、奴らにこのまま突破されては、食堂の皆が危険だ。」
その言葉に俺も整備班の人たちも、ごくっと息を飲む。
自分たちの手に、クルーの安全が掛かっているのだ。
「艦長急げ、こっちだ。」
「ちょっと待ってください、私まだアキトの消息をお父様に聞いてない。」
「それどころではありませんよ、艦長。」
自分の名が呼ばれたことで後方に視線を向ける。
通路の突き当りをすばやく横切るコクトとプロスさん、だがそこで足を止めてしまったのはあの青髪の女の人。
その行動は彼女の直感か、今は状況が悪かった。向けられたのは銃口、放たれたのは冷たい弾丸。
気付いた時には、俺は飛び出していた。
ギィン!
どうやったのかなんて覚えていなかったが、俺は確実に弾丸を銃で受け止め弾いていた。
「何をしている、死にたいのか!!」
「え・・でもあの人。」
コクト兄さんに連れて行かれ遠ざかる声。
今度は呆然と立ち尽くす俺に向けられる銃口、その光景を俺は酷く冷静に見詰めていた。
そして体が流れる、できて当然かのように飛来する銃弾をかわしあとは簡単だった。
引き金を、必要な数だけ、引いた。
さっきの人・・私を護ってくれた?
それともただの偶然?
だめだめ他事考えちゃいけない、今私はこのナデシコの艦長さんなんだから。
「ただいま戻りました。皆さん、直ちに発進準備を」
「注水は既に完了しています、ゲートも開き中、あとはマスターキーと合図だけです。」
たしか、トキアちゃんだったよね。準備が良いんだから。
でもどうして拳握り締めてるのかしら?
「メグミさん、艦内に放送を。ミナトさん、機動戦艦ナデシコ発進です。」
「了解っと、気を付けてないと転ぶわよ〜。」
マスターキーを差込み、私は発進の命令を出す。
ナデシコの邪魔は誰にもさせない、私は絶対に火星に行くんだから。
待っててねアキト、ユリカが絶対火星から助け出してあげる!
その頃某食堂では
「れーつげーきがーいーーーん(涙)。」
「だれか〜、あの人とめておくれ。」
「「「「「うるさーい。」」」」」
「よし!ここは俺に任せな嬢ちゃんたち。」
「「「「「サイゾウさんカッコイイ、ヒューヒュー!」」」」」
「ぐぅ〜。」
さらに、某基地内
「ユリカ、まだおじさんとはなしてるのかなぁ。」
「アオイ君、いたのかね!」
「お礼なんていいよ。俺がしたのはただの、人殺し・・だから。」
事実は全て伏せられなかったことになった
だが自分の心にまで嘘をつけないアキトは全てを捨てようとする
一人展望室で膝を抱えるアキトの元に訪れた人は
互いに名も知らぬままやはり二人はひかれあう
次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[涙を受け止めた彼女の名は?]