機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第四話[それぞれの一年〜アキトの場合〜]
俺が転がり込んだのは、トキアに紹介された雪谷食堂という店だった。
絵に描いたような頑固な店主と、うまい料理、初めて食べた時は感動したよ。
「サイゾウさん。あんかけチャーハンに、とんこつ二つに、醤油が一つに、大盛り味噌一つはいりました!」
「あいよー。おら、カニ玉あがったぞ!」
全く、今日も忙しいなここは。たまには休みでもとりたいな。
「ボケっとしてんじゃねえ、アキト!皿下げてテーブルふかねえか!!」
「はいはい、いまやりますよ。」
とに・・確かにおいしいけど、ここまで忙しいものかな?
多分店としては喜ぶべき所だけど、美味さ以上にこの四人が原因なんだろうな。
俺の視線の先にはメイド服を着たトキアと、こちらは普通の服だがルリちゃんとラピスついでにアカツキ。
今では味以上に、銀髪のメイドが現れる食堂として有名なんだよ。ここは!
「こっち、注文まだぁ?」
「少々、お待ちを!」
ああ、もう!まかないの時間は、まだか!!
今現在、午後二時。ランチタイムが終わりようやく一段落。
まかないを食べつつ、テレビを見てると政府公報のニュースが流れる。
【皆を護るアリウムのエステバリス。さあ、君も軍に入って地球を護ろう!】
「コクト兄さんのアリウム、今や時の部隊だね。」
そこには黒いバイザーをしたタレントかなにかが、エステバリスに乗り込むシーンが流れている。
「あそこは、一番最初のエステバリス部隊だからな。強くもなるさ。」
「なに、怒ってるんだよ。」
「その状態で、お前はそういうことを言うか。」
その状態と言われ、回りを見てみる・・・
丸いテーブルを五人で囲って、俺の正面にトキア、トキアの横にはアカツキ、俺の両脇にルリちゃんとラピスがいてやたらと構って欲しそうに見てくる。
いいじゃん、別に妹が兄貴に甘えてるだけだろ?
『俺は、そう言う風に甘えられたこと無いんだよ!!』
いきなりリンクシステムで話し掛けられ、少し驚く。
どうせ甘えてもらいたいけど、口には出せないとかそんな理由からだろう。
『そんな格好してるからだろ。』
何処の世界に、メイド服を着た兄貴に甘える妹が居る。
俺の言葉に反論できなかったのか、トキアが顔をそむける。
「ところで、アカツキ。ナデシコの乗組員ってどうなってるんだ?」
「プロス君が上手くやってるよ。ただ、コックが足りないとか愚痴ってたっけ。」
俺も厨房に入るんだから、過労にはなりたくないな。
そういや、ナデシコって何のために造られてるんだろ。今度、トキアに聞いとくか。
「アキト、いつまで飯食ってるんだ。仕込みはじめるぞ。」
「あっはい!って・・」
何で気付かなかったんだろ、腕のいいコックなら凄い身近にいるじゃないか。
アカツキも今それに気付いたのか、サイゾウさんのほうを見てる。
「サイゾウさん、ちょっと話があるんですけど。」
「んだよ、後にしやがれ。」
「大事な話、なんですってば。」
しつこく頼んだらようやく聞いてくれる気になったのか、トキアの横、アカツキとは逆の位置に腰掛ける。
それにしても、いつまですねてるんだよトキアは。
「今ネルガルで戦艦造ってるんですけど、サイゾウさんそこのコックになりませんか?」
「そりゃ、唐突な話だな。アカツキよ、アキトはこう言ってるが、俺なんかが乗ってもいいもんなのか?」
「事実コックは足りてないから、僕としても、ネルガルの会長としても乗って欲しいよ。」
アカツキの言葉を聞いて、サイゾウさんが腕を組み悩む素振りを見せる。
そんなにすぐ答えが出るたぐいのもんでもないし、時間をあげるべきか。
出航まで、まだ1ヵ月以上はあるし。
「よし!いっちょ武者修行気分で、行ってみるか。」
「マジッすか?」
「自分から話ふっといて、なんだその態度は。弟子をホッポリ出すのも気が引けるし、お姫様たちが俺なんぞに期待してるしな。」
そう言ったサイゾウさんの視線の先には、目を輝かせたルリちゃんとラピス。
悔しいけど、俺やトキアが作る料理以上に好きだもんな。サイゾウさんの料理。
アカツキはすぐさま、携帯で本社に連絡をとってる。多分相手はプロスさんかな、十分もしないうちにくるだろう。
「話が決まったなら、仕込み始めるぞアキト。」
「はい!」
「それじゃあ、僕らも会社に戻ろうか。」
「アキト兄さん、がんばって。」
「アキトにぃ、がんばれ。」
アカツキに連れられ店を出て行く二人の声援に手を振って応える。
ちなみにトキアは未だにふてくされていて、三人に置いていかれたが、すぐに席を立ち外に走っていった。
「俺だってまだ兄ってよばれたことないのに、二人の馬鹿ー!!」
店の外から大きな叫び声が聞こえ、俺とサイゾウさんの間に微妙な時間が流れる。
「トキアだけは、わからねえな。」
「俺もッス。」
その夜、俺は布団の中で考え込む。
俺があの時、コクト兄さんとトキアに出会ってから、後少しで一年。
コックとして、ナデシコに乗るときが近づいてる。
「俺は、何故ナデシコを知っていた?」
あの時頭に浮かんだ女の子は、ルリちゃんだった。それじゃあ、青髪の女の人は誰?
覚えていないのに、知っている。これは記憶と呼べるものなのか?
一度、二人に聞いてみたが二人とも知らないと言っていた。
二人は何かを隠している。・・勘だけど。
ナデシコ、俺達が乗る戦艦。
俺は、ほとんど乗らなくてはいけないという、漠然とした想いから。
それじゃあ、あの二人は何のために乗る?
トキアは、何のために?
コクト兄さんは、何のために?
『なにまた考え込んでるんだよ、アキト。』
『トキアか・・』
頭に響くトキアの声、見えない糸で繋がれたリンクシステム。
今はもう慣れたけど、最初は大変だったよな。
『トキアは、何のためにナデシコに乗るんだ?』
『自分のために決まってるだろ。』
ひどく単純で、どうとでもとれる回答。
『んなもん、乗ってから考えればいいんだよ。その場に居ないのに解るはずが無い。』
『それも、そうか。』
『俺はもう寝るからな。お前も、もう寝ろよ。』
トキアの方からリンクが閉じられ、俺も言われたままに眠りについた。
『コクトか・・俺を止めてくれ。』
忘れてしまっていた事実を思い出させられた、出会い
アキトのいう青い髪の女性に会ったことで、トキアは戦場という場所に逃げ込む
トキアは心の軋みを群がる機械の虫達へと向けだし
やがてその標的は、味方にさえも向かいだす
次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[コクトVSトキア、大空舞う貴婦人]