機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第二話[それぞれの一年〜トキアの場合〜]


「どうしたもんかな。」

アキトとコクトと別れた翌日。ネルガルの本社前に来て見たものの、どうやってアカツキに連絡とろうか。
適当なSP捕まえて連絡させても良いけど、警戒されるのも嫌だしな。
とりあえず、受け付けに行くか。

「すいません、アカツキ呼んでもらえますか?」

「あら、お父さんに用があるのかしら。何課のアカツキさんかわかるかな?」

これが普通の反応だよな。
俺ってばどう見ても、可憐な男子中学生だから!
現実逃避してもな、どうしよ受付のお姉さんが待ってるよ。

「いやー、歩美君。今日も君の笑顔は美しいね。」

「もー、アカツキさんったら。あまりサボってばかりいちゃ、だめですよ。」

「息抜きは仕事を能率よくするためにも、必要なプロセスだよ。」

出た、大関スケコマシ。
社内でナンパとは・・人災と思って諦めろよ、アカツキ。

「そういえば、この子が探してる人もアカツキだったわね。」

「・・パパ。」

アカツキの服の裾を引っ張り、上目遣いで眼を潤ませる。

「って、いきなり何を言い出すんだ!ちっ違う、歩美君これは何かの間違い。」

「間違いって、この子が嘘を付いてるって言うんですか!!」

「だから、何かの間違いだって。」

「やるだけやっといて、知らんぷりですか!」

お〜お〜、過激な発言だこと。
効果絶大だ、忘れられてる気がするけど。





「全く、酷い目にあったな。」

俺もそう思う。どう見たら十四、五の俺が、アカツキの子供に見えるのか。
結局、説得を諦めたアカツキは、俺を会長室までダッシュで引っ張ってきてソファーに身を沈めた。
ご苦労様だよ。

「それで、君は一体何者だい?言っとくけどネルガルでアカツキは、僕だけだからね。」

アカツキの雰囲気が変わった。たぶん、こっちはネルガルの会長の顔だ。

「話しても良いけど、とりあえず隠れて銃口向けてるSP引っ込めてくれ。」

少し本気を出して、殺気をアカツキにぶつける。SPが慌てるが大丈夫だろう。

「わかったから・・その眼は、止めてくれない?」

アカツキが手を上げると遠ざかる殺気、これで落ち着いて話せるな。

「俺はテンカワ トキア、テンカワ夫妻の養子だ。」

俺の言葉にピクリと反応するアカツキ。
親父たちのことは、こいつも知ってはいたんだっけ。

「養子が居たとはね。・・で仇討ちでもするつもりかい?」

「いや、養子といっても書類上のだ。会ったことすらない。俺は、自分の目的のためにネルガルを利用する。そのかわり、ネルガルに力を貸してやる。ギブアンドテイクだ。」

「ギブアンドテイクね、何ができる?」

俺は、黙ってIFSの紋章を光らせアカツキに見せる。
マシンチャイルドを超えたマシンチャイルド、俺が未来から受け継いだものの一つ。
一分近く静かににらみ合うと、アカツキが息を抜いた後、ニヤリと笑う。

「よし、わかった!」

そう言って立ち上がったアカツキは、どこからともなく紙袋を取り出し俺に渡し、コミュニケで何処かへ連絡する。

「トキア君はこれに着替えてくれ。あっエリナ君、伝えたいことあるからプロス君と至急来てくれるかな?」

着替えって事は、ネルガルの制服か?
黒っぽい服だな・・・諜報員として雇う気か?その割にはすべすべしてて薄手だな。

「ちょっと会長、急に居なくなったと思ったら今度は呼び出してなんですか!」

「まあまあ、エリナさんここは穏便に。」

なんか、足元がスース―する服だな。

「よくきたね二人とも、紹介しよう。今日から僕のメイド、ついでに護衛役のトキア君だ!!」

あ〜、どうりで足元スース―するよ、スカートだもんな。
白いフリルなんかもついてて、ヒラヒラがまた黒い生地に映える。

「っておい!メイドってなんだ!!」

「もう、他に護衛はいらないから。いや〜、むさい護衛から解放されて、メイドも手に入った。今日はいい日だなぁ〜。」

「護衛はいらないって、そんなことできるわけ無いでしょ!仕事はさぼるし、社内でナンパして、さらにアニメが好きなどうしようもない会長でも、ネルガルの会長なのよ。貴方は!」

「そうそう、トキア君。掃除のときはこの竹箒を使ってくれたまえ。」

人の話聞いてないし、この腐れ会長は!
アカツキって、こんな奴だったのか?たしかにアニメが好きだったとか言ってたけど、ロボットアニメじゃなくて大きなお友達のアニメが好きだったなんて。

「会長の我侭もたまりませんな、ではトキアさんこの契約書に判子を。」

「エリナが怒りまくってるのに、冷静ですね。」

「人の趣味は、色々ですから。」

凄く納得したくは無いが、凄く納得できる言い分だった。









「今現在のAIは、考えるではなくただ計算するだけ。けどネルガルで開発中のナデシコに載せる予定のオモイカネは、計算だけじゃなく自分で判断し考えることもできるんだ。」

ここまではいいかなと、俺は二人の生徒に眼で確認する。
その生徒とはテンカワ ルリとテンカワ ラピスの少女二人だ。
ネルガルに入ったその日の内に連れて来た。もちろん、何か勘違いをしてた研究員の一部は左遷したけどね。
勝手に社員データいじって。

「トキアさん、質問があります。」

「トキア、私もある。」

ん〜、まだ兄とは呼んでくれないのよね。折角ネルガルに用意させた部屋に一緒に住んでるのに。
まあ、時間はたっぷりあるしそのうち呼んでくれるさ。

「何?ルリちゃんにラピス。」

「なんでメイド服なんですか?」

「メイド服なの?」

一生、兄とは呼んでくれないかもしれない。
仕方がないんだよ!アカツキの奴がこれ着なきゃ首だって言うから!
髪の毛だって腰に届きそうなのに切るなって、ポニーテールにしてるんだぞ!

「大人には大人の事情があるんだよ、今は聞かないでくれる?」

涙流してお願いをするが。

「すぐごまかして・・・大人ってずるね、ラピス。」

「トキアはずるい人?」

違う!違うんだ、二人ともそんな眼で見ないでくれ!
これも全部アカツキが悪いんだ。

「やあ!マイスウィートエンジェル達、今日も元気にがんばってるかい?」

「こんにちわ、アカツキさん。」

「こんにちわ、アカツキ。」

二人ともこんな奴に挨拶なんかしなくていい。
オタクが伝染したら大変じゃないか!

「いや〜、今日はエプロンドレスなんて物手に入れてみたんだけど、どうだい?」

「アカツキ・・邪魔だから出てけ。」

エプロンドレスを二人に勧めるアカツキに、怒りを必死に抑えて宣告するが。

「心配しなくてもトキア君のも、ちゃ〜んと用意してあるから大丈夫さ。」

「出てけー!!」

渾身のボディブローがアカツキを、U字に折り曲げた。
そのまま俺はアカツキを連れて出て行き、残されたのはルリちゃんとラピス、そして三着のエプロンドレス。





「痛てて。まったく、トキア君もう少し手加減してくれないか。」

教室として使っている部屋を出た廊下で、愚痴るアカツキの言葉に無言を返す。
今気になるのは、アカツキが持ってきた書類の束だ。

「アリウムの戦果は、上々か。ただ、まだ機体がコクトについていけてないな。」

「君の兄はとんでもない人だね。試しにウチのテストパイロットを何人か乗せてみたけど、乗りこなすどころか五体満足で帰ってきたものさえいなかったよ。」

アカツキは言い切ってから、しまったと言う顔をする。

「俺はむやみに乗せるなって、言わなかったか?」

兄とはもちろんコクトのことだが、あいつが配属されたのはエステを動員した実験部隊[アリウム]だ。
この時代、しかも試作品のエステがあいつについていけるはずも無く、俺がカリカリにチューンしてやった。
それでもコクトには物足りないだろうが。

「そうでもしないとデータが取れないじゃないか、君はチューニングのやり方さえ秘密にしてるし。」

「特別なことはしてない。一番大きいのは、リミッターを外したことかな。」

リミッターといっても機械の方ではなく、パイロットの生命を維持する上でのリミッターだ。
ふと書類から眼を離しアカツキを見ると、引きつっている。
そういえばコイツもパイロットだから、リミッターを外した時の危険度は知ってるか。

「ディストーション・スフィアーとシステム・ドーリスの方はどうなってる?」

「スフィアーの方はコクト君が試験的に使ってるよ。元々彼のアイディアだしね。ただ、ドーリスの方は理論はできてるけど、実際使えば脳神経が焼き切れるってさ。使い物になるのかい?」

スフィアーはコクトの提案だけど、ドーリスは俺が提案したアイディア。出航までには間に合うかな?

「普通のIFSを使ってたらね。戦艦クラス対応のIFS、つまりマシンチャイルドなら問題ないさ。」

「そうか、マシンチャイルドなら情報伝達と処理能力は比べ物にならないほど早い。」

ドーリスさえ完成すれば、戦力としては従来のエステ隊、まして木連のジンタイプなど話にならない。
あとは戦争に勝つだけだ。心配事は、何も無いさ。

「ちょっと早いけど、飯でも食いに行くか。アカツキ。」

「また、雪谷食堂かい?」

「嫌ならこなくていいよ、ルリちゃんとラピスと三人で行くから」





俺はアカツキをほかっておいて、もたれていたドアを開けた。
そこに居たのは、エプロンドレスを着たルリちゃんとラピス。
ルリちゃん・・真っ赤になるほど恥かしいのなら着なきゃ良いのに。

「・・・・ラピスが。」

「ルリとおそろい。」

「な・な・・なんて素晴らしいんだ。エプロンドレスを着こなすだけでなく、真っ赤になってうつむくなんて高等技術!ルリ君、君は素晴らしい才能を秘めている!!」

アカツキが壊れた。
嗚呼もう、ルリちゃんにラピス飯食いに行こう。こんなのほっといて。
俺は二人を呼び寄せると、手を引いて部屋の外へと連れ出す。

「何処へ行くんだ。トキア君、さあ君もこれを着るんだ!!」

「二人とも、先にロビーの方に行っててくれるかな?」

素直にロビーに手をつないで向かう二人。あの二人を見て暴走するのは、わからないでもない。
・・・でもな

「俺をまきこむんじゃねー!」

「ぎゃーーーーーーーーーーー!!」

俺が叫んでから十分ほど、アカツキは物言わぬサンドバックと化した

















「死ぬな、これが教官として最初に出す課題だ。」

ネルガルから出向、教官という形で軍にむかったコクト
その心中には確固たる意思は無く、自問自答を繰り返しただ戦っていく
そんな場所での新しい仲間達は、コクトに何を与えるのか
コクトの目に希望が映ることはあるのだろうか

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[それぞれの一年〜コクトの場合〜]