機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第一話[始まりは三人から]
「ここは・・・地獄か?」
冗談で言ったつもりは無く、自分にはそこが相応しいと思っている。
だが、満天の星空を前に地獄と言える自分に苦笑しつつ、仰向けに寝転がっていた体を起す。
背中で野草を押しつぶしたのか、ツンと青臭い臭いが鼻を突く。
「馬鹿な!」
無くしていた五感が戻っている事と、自分が生きていることに驚き立ち上がる。
俺が居たのは、どこか見覚えのある草原。
思い出せないことにいらつき、髪の毛をガシガシと引っ掻き回す。
「・・うぅ。」
訳がわからず混乱していると、聞こえてきたうめき声。
その声の主を見て、俺は更に驚いた。
「コイツは・・俺?それにこっちの子は誰だ?」
焦っていて気付かなかったが俺の足元、つまり俺が先ほどまで寝そべっていた横にはどうみても昔のナデシコ乗艦前の俺と、もう一人見知らぬ銀髪の少年が寝転がっていた。
もしかして、ここは俺が始めてボソンジャンプをした時の場所か?
「ピンポーン!」
いきなり起き上がり喋った銀髪の少年に、慌てて俺は距離をとる。
「ひっでーなぁ、そんな警戒すること無いだろ。」
少年は心外だという口調で話してくるが、本能的に警戒が解けないのだ。
俺より強いとまではいかないが、油断したら確実に負ける。
「同一人物同士で警戒しても意味無いだろ。ほれほれ、何も持ってない。」
「同一人物?」
両手をプルプルと振っている少年に、警戒は解かないまま聞き返す。
「そう、あんたテンカワ アキトだろ?俺もそうさ、そしてコイツもな。」
そういって少年が指差したのは、未だ目を覚まさないあの頃の俺だ。
同一人物?三人のアキト?
俺は慎重に警戒を解きつつ、事情に詳しそうな少年の話を聞くことにした。
まったく、アキトの奴はまだ寝てるし、黒いのは中途半端に覚えてないし、いっぺんに説明しないと面倒なんだよね。
たぶんアキトの方は何も覚えてないから、調度良いけど。
「で、何処まで覚えてる?」
「ラピスとのリンクを切って、ネルガルの基地を飛び出したところまでだ。」
「まあ、あの後死んだのかどうかは知らないけど、俺たちはボソンジャンプした。」
黒いのは黙って聞いてるけど、バイザー越しに見られるのって結構怖いな。
「そのおかげで、過去にジャンプアウトしたんだ。・・三人に別れた理由は、知らないけどね。」
それは嘘、予測はついてるけど言えない。
「それじゃあ・・」
む・・言いかけで辞めるなよ。
どうせ考えてることはお見通しだけどね。
『全ては無かった。だからといって俺の罪まで消えるのか?ってとこだろ。』
俺がいきなり、リンクシステムで話し掛けたことで多少・・実際はもっと驚いてるんだろな。
「リンクシステム。これが元同一人物だった、証拠だよ。」
まあ、黒いのがこれからどう生きて行こうとグチグチ言いたくは無いけどね。
俺が帰ってきた理由は一つ、やること決まってると楽だよ。
「ゆっくり決めれば良いよ。どうせ時間はたっぷりあるんだから。」
俺はそれだけを黒いのに言うと、丁度起きそうになったアキトに向き直った。
何があったんだ、最後に見たのは大きな光。
アイちゃん、守れなかったのか?
「おーい、戻ってこーい。」
不意に聞こえた能天気そうな声に振り向くと、そこに居たのは黒尽くめの男と綺麗な銀髪の・・どっち?
黒い人は男だろうけど銀髪の子は・・今時髪の長い男だって、でもやっぱり女の子?
「一応、俺は男だぞ。」
「へ?」
そうか男か・・って何で考えてること解ったんだ?慣れてるからか?
「アキト、思考が駄々漏れだぞ。」
「思考?」
何言ってるんだろ・・ちょっと怖いしあまりかかわらない方がいいかな?
でも、なんで俺の名前知ってるんだろう。
「全く、俺はテンカワ トキア。んで、こっちの黒いのがテンカワ コクト。お前の兄弟だ。」
「キョ、兄弟!!」
どういうことだ?俺は一人っ子のはずだよな・・もしかして父さん、母さん。
浮気したのはどっちですか!!銀髪の子はどう見ても日本人じゃないでしょ!!
「コクトとは、俺のことか?」
「そう、黒いから。」
「・・・そうか、アキトを名乗るわけにはいかないか。それにしても、早めにリンクには慣れさせた方が良いな。」
「アキトの思考は面白いけど、子供が知っちゃいけないこともあるしね。」
「・・・・」
「失敬な、俺はどう見ても14歳ぐらいだろ。」
「それはそれとして、落ち着けアキト。俺たちはただの養子だ。知らなかったかもしれないけど、お前の両親のテンカワ夫妻は才能ある子供をたくさん集めてたのさ、養子も書類の上だけのことだ。」
トキアって子の一言で、さっと冷静に戻る。
そうか浮気じゃなかったんだ・・父さん達いつも忙しそうだったし、聞かされてない可能性もあるのか?
そういえば、ここは何処だ?それにアイちゃんは無事なのか?
「落ち着けって言ったろアキト、順に説明してやるから。」
トキアって子の説明は、わからないことだらけだった。
火星から地球へジャンプしただの、リンクシステムだの、でもアイちゃんが無事だという言葉は安心させられた。
「よく、解らないけど・・ここは地球なんだ。」
「別に理解しなくても良いよ、どうせ嫌でも理解せざるを得なくなるし。」
なんか、不安な一言があったような。
「コクト、お前はこれからどうする?」
「そうだな、俺は軍に行こうと思う。俺がどう生きていくべきなのか、何をすべきなのか、戦場で確かめたい。」
「そっか、俺はネルガルにでも行くかな。色々やっときたいこともあるし。」
「ちょっと待った。軍とか、ネルガルとか、バラバラじゃないか。」
何を当たり前のことをと言いたげな、二つの視線にさらされる。
なんだよ、悪いかよ。養子とはいえ、せっかく会えた家族なんだいいじゃないか!
「思考が漏れてるって。心配すんなアキト、別に一生あえない訳じゃない。一年後、俺たちはナデシコで会えるさ。」
「・・ナデシコ。」
「そう、ネルガル重工が建造中の最新鋭戦艦、ナデシコだ。」
なんだろうこの感じ・・ナデシコ、よく知ってる気がする。
暖かい感じがして、青髪の君は誰?トキアと同じ色の髪の、君は誰?
「そうだよ!ナデシコだ何で忘れてたんだ。大切な事のはずなのに。」
「ムチャクチャ、中途半端な記憶だな。」
「確かに、しかし誰とまでは思い出せてないみたいだ。」
「ユリカはどうでもいいが、ルリちゃんのことは思い出すなよアキト。」
「運良く思い出した所で、一年後にナデシコで!」
「ナデシコで。」
そう言って別れ歩いていく兄弟に、俺も拳を振り上げ応える。
「一年後にナデシコで!」
二人は振り向かなかった。
けど一人じゃない、いつでも俺たち三人は繋がってる気がするから。
『本当に繋がってるってば。』
どこか近いところでトキアの突っ込みが入った気がするけど、俺も一年間がんばらないとな。
そういえば、当ても無いのにどうすればいいんだ?
当たり前のことに気付いた俺は、慌ててトキアを追いかけた。
いくら兄弟って言われても、コクトさんは黒尽くめな所が怖いから、なんてとても言えないけど。
『・・・・・』
『五感戻ってるんだから、バイザー辞めたら?』
「そうそう、トキア君。掃除のときはこの竹箒を使ってくれたまえ。」
トキアが向かったネルガルでは、当たり前のようにアカツキが居た
見知らぬアカツキの内面に、少しあせりつつも
ギブアンドテイクと交渉し、ネルガルに入り込んでいくトキア
その目的とは、言うまでも無くあの二人と会うためであった
次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[それぞれの一年〜トキアの場合〜]