第19話・想いを継ぐ者



「ああ・・・ネクロゴンドの空はこんなに青かったんだねぇ」

 どこから取り出したのかコーヒーを片手に詩人になっているノア。彼は空を見上げて一息ついていた。空を見上げて、と言ったが別に洞窟の外に出たわけではない。

 彼の周囲には彼の座っている場所を中心に巨大なクレーターが出来ていた。何か物凄い熱量に地面が蒸発したかのように、綺麗な球形の穴が開いている。彼の周囲には二、三百匹はいたモンスター達はもう一匹もいなかった。どころかその気配も感じない。彼の攻撃によって影も残さず、この世から消滅したのだ。そしてその攻撃の余波が、洞窟の天井をも吹き飛ばし、薄暗い洞窟に、明り取りを作り出した、と言う訳だ。

 ガシャンッ!!

 ガラスの割れる音。手に持っていたコップを落としてしまった。

「・・・・・・」

 自分の手を見るノア。指が震えていた。ノアはそれを見ると、思い切り手を握り締めた。

「さて、そろそろ行くかな。あんまり遅れるとカイン達に忘れられるかもしれないし」

 ノアは自分の中に生まれた何かを無理に誤魔化そうとするかのように、それを考えないよう自分自身に言い聞かせるように呟くと、立ち上がる。その時だ。

 ピシ・・・

「ピシ? ピシって何だ?」

 その音を聞いたノアは周囲を見回す。別段異常は感じ取れない。だが、

 ピシピシ・・・

「おいまさか・・・」

 ビシビシビシ・・・

「ヤバッ・・・」

 漸く自分の周りで何が起こっているか理解し、退避しようとするも時既に遅し。

 グワラララララ・・・

「うわああああああっ・・・・・・」

 彼の放った必殺の一撃の威力にこの洞窟の岩盤が耐えられなかったのだ。彼の立つ地面にひびが入り、バラバラになって地下へと落ちていく。ノアもそれに巻き込まれ、一緒に落下していった。





 その頃カインとマリアは戦っていた。

 カインの相手は地獄の騎士。八本の腕で八本の剣を振るう地獄の騎士に、カインもてこずっている。攻撃を喰らいはしないが、八本の剣の為、手数が多く、また守りも堅く、迂闊に敵の懐に飛び込む事が出来ないのだ。

 マリアの相手はホロゴーストの集団。幽霊系のモンスターは実体が無い分、物理攻撃には強いが魔法攻撃には弱い。その弱点を突き、マリアが相手をしている。

「ベギラマッ!!」

 マリアの右手から帯状の炎が迸り、一気に数体のホロゴーストを飲み込む。だがそれで仕留め切れなかったものが、恐れる様子も無く、マリアに向かってくる。早くこいつらを片付けてカインの援護に行きたいが、後から後から湧いて出てくるホロゴースト達がそれを許さなかった。

「私達はここで立ち止まってる暇なんて無いの!! そこを・・・どきなさい!!!!」





 雨が降っていた。

 少年が倒れていた。少年の体は傷だらけだった。

「ゴホッ、ゴホッ・・・」

 少年は激しく咳き込んだ。内臓をかなり痛めているのだろう、血を吐き出す。彼の周りには数人の大人が下卑た笑いを浮かべ、彼を囲み、見下ろしていた。その中の一人が少年の腹部を遠慮なしに蹴る。

「ガハッ、ゴホッ・・・」

 少年はまた激しく咳き込み、その体がビクン、ビクンと小刻みに震える。男達の一人が言った。

「おい、いつまでもこんなガキに構ってないで場所を変えてさっさと続きを楽しもうぜ」

 そう言って顎をしゃくって、少し離れた所で半裸に近い格好で震えている女性を示す。女性は大きく見開いた眼で、男達と少年を交互に見ていたが、やがて男達の一人が彼女の腕を掴み、何処かに連れて行こうとする。女性は抵抗したが、男の力に敵う訳も無く、そのまま連れて行かれた。

 他の男達は、少年に最後に一発ずつ蹴りを浴びせるか、もしくは唾を吐いて、

「へっ、煩いガキだ。弱いくせにイキがってんじゃねぇよ」

 と、言うとそれぞれ女性を連れて行った男の後を追っていった。少年は倒れたまま、雨に打たれ続け、泥塗れになりながら、それでもそのルビーの様な、血の色よりも鮮やかな真紅の瞳は、未だ爛々と輝いていた。

『ごめんなさい、僕の力が足りないから・・・』

 少年はその手を握り締める。手が泥を掴んだ。



 足りない、まだ足りない・・・・・僕の想いを貫く為にはまだ力が足りない・・・もっと・・・もっと強い力が欲しい・・・・・・僕の、この眼に映る・・・弱い人を守れるだけの力が・・・だからもっと・・・強く、強く・・・・・・!!



「・・・夢か」

 ノアは眼を開けた。遥か上方に自分の開けた大穴と、そこから覗く空が見えた。体を起こす。後頭部がズキン、と痛んだ。どうやら穴に落ちた時に頭を強く打ったようだ。それで気を失っていたらしい。

 立ち上がると自分の手を見る。指先の震えは止まっていた。

『あの頃の夢を見たのは久し振りだな・・・・・・想いだけでは何も変えられない、誰も救えない。その為には強くなるだけでは不十分。そう気付いて更なる力を求めて・・・その挙句がこの有様か』

 以前ノアニールの宿屋で見せたような微笑を浮かべ、あの時と同じように自嘲気味に呟く。

「無様、だね。もう・・・時間が無い・・・でも・・・」

 一旦言葉を区切ると、フッ、と微笑み、心の中で独白を続けるノア。

『僕が消えても、それでも僕が在り続けることは出来る・・・・・・カイン、マリア、フォズ・・・みんなの中に僕がいるから・・・僕と今まで一緒に歩んできて、僕を見ていてくれてたみんなだから・・・だから僕は・・・』

 と、考えながら歩いていると、目の前にトロルと地獄の騎士が現われ、襲い掛かってきた。しかし、

 斬!!

 一瞬でノアに斬り捨てられる。

『あの時のように伝えられなかった言葉を胸に生きていくのはもう出来そうに無かったから、耐えられそうに無かったから・・・僕が伝えられるものは全て伝えた。そう、僕の想いと・・・・・・』

 右手の剣、凰火に眼を向けるノア。

『僕の剣を・・・』





 ギャリイイン・・・

 剣と剣のぶつかり合う音が響いた。地獄の騎士とカインは交錯し、互いに距離を置く。

 カインは正直攻めあぐねていたがそれは地獄の騎士も同様だった。絶妙のフェイントと死角からの攻撃を織り交ぜても、カインはそれを少し危なっかしい動作ではあるが、悉く避けるか、もしくは捌く。

 こうなっては両者迂闊には動けない。だが状況はカインが有利だ。チラッ、と横を見ると、マリアがホロゴースト達を掃討しているのが見える。このまま時間を稼げばホロゴーストを片付けたマリアが加勢に来るだろう。そうなれば2対1で地獄の騎士には勝ち目が無くなる。

 そう判断したのか地獄の騎士は無理を承知で飛び込む構えをとる。だが、ここでカインが構えを解き、悠然と地獄の騎士に歩み寄る。地獄の騎士は無防備に接近してくるカインに面食らっていた様だが、カインが間合いに入ると、躊躇無く四本の左手に持つ四本の剣で様々な角度の突きを繰り出す。だがカインはそれを紙一重で避けると、

「はっ!!」

 掛け声と共に一閃!! 地獄の騎士の左腕ごと四本の剣を断ち切った。そのままもう一度、剣を振り下ろす。

 ガキィィィン!!

 再び金属音。カインの剣は地獄の騎士の右手の四本の剣に止められた。しかし、

「お前の剣は見切った。その程度じゃ僕は倒せない・・・僕はお前なんかが百匹束になっても敵わない相手と毎日戦ってるんだ。ノアの速さに比べたら、お前の動きなんてスローモーション以下だ。そして、ノアに比べたら、お前の剣は軽すぎる!!!」

 草薙の剣を握る両手に力を込めるカイン。地獄の騎士も負けじと四本の右手に力を込める。両者の力は互角だった。

 ただしそれは一瞬だけだった。

「ああああああああ!!!!」

 カインの雄叫びと共に草薙の剣が力任せに地獄の騎士の四本の剣を叩き折り、そのまま地獄の騎士の体を真っ二つにした。地獄の騎士はその体が地面に倒れる前に砂となって崩れて消えた。

「ケリはついたようね」

 とマリアが一息ついているカインに言ってくる。彼女の方もホロゴーストの大群を片付け終わったようだ。

「ああ・・・」

「カイン気付いてる? 風がある。出口は近いわ」

 言われて感覚を研ぎ澄ますカイン。すると確かに肌を風が吹き抜けてゆく感触がある。

「そうか・・・行こう」

「ええ」

 二人は風が吹いてくる方へと走った。すると光が見えた。出口だ。外に出てみると、そこはネクロゴンドの山の頂上付近だった。洞窟の中にいた時は気付かなかったがいつの間にかかなり高い所に来ていたのだ。

「カイン、あれを・・・」

 マリアが指差す先を見るとそこには小さな祠があった。油断することなく、その祠の中に入る二人。そこには、

「おお、やっと来てくれたか。ここまで来る事のできる者が本当にいるとは・・・」

 一人の老人がいた。その老人は皺だらけの顔に歓喜を浮かべてカインとマリアを迎えた。

「こちらへ・・・」

 老人に案内され、祠の奥に行く二人。何かの儀式に使うのだろうか、荘厳な雰囲気の部屋に出た。

「あれを・・・あれは君達のような真の勇気と強さを持つ者が手にすべき物だ」

 老人は部屋の中央にある祭壇を指差す。そこには銀色に輝く宝玉が安置されていた。あの神秘的な輝き、間違いなくオーブの一つだ。カインは祭壇に登り、その銀色のオーブ、シルバーオーブを手にする。

「これでわしの役目も終わりだ。漸くわしも逝く事が出来る」

 老人がそう言うと、彼の体が徐々に、徐々に実体を失うように透明になっていく。驚くカインとマリア。だが老人は安らかな表情で言った。

「驚く事は無い。わしはオーブの番人として永い永い間、そのシルバーオーブの魔力を使い生き続けてきた。いつか、いつかわしを解放してくれる者が来る事を信じてな。そして君達が来た。終わりがあることは幸福だ・・・わしの世界は黄昏時で止まっていた。わしにも夜が訪れるのだ。君達には・・・感謝している」

「あなたは・・・」

「勇者オルテガの息子、カインよ。バラモスはこのネクロゴンドの最奥に己の居城を構えておる。六つのオーブを揃え、レイアムランドの祭壇に捧げるのだ。そうすれば・・・」

 老人はその言葉を最後まで言い切ることは出来なかった。その前に彼の体はこの世から完全に消滅してしまった。その後には一陣の風だけが残った。

「ありがとうございます、あなたの想い、無駄にはしません」

 カインは先程まで老人のいた所に向かって深々と礼をした。マリアは無表情のままカインの手にあったシルバーオーブを見て言う。

「これで私達の持つオーブは四つ・・・残りは二つね」

 と、現在の状況を確認するマリア。その声にも表情は無い。今の老人の運命を見て何か感じないのか、とでも思っているのか、カインは少しムッ、とした表情になる。だが、マリアの手がシルバーオーブに触れる。

「このオーブもそう・・・いろんな人の想いが乗っかってる。その人たちの為にも、必ず私達の手でバラモスを倒さねばならないわね。それまで死ねないわよ? 私もあなたも・・・私達の命はもう私達だけのものではないのだから」

 カインは頷く。そう、自分達は自分達の信念と、そして自分達を信じてくれた人の平和への願いを背負ってここにいるのだ。自分の肩に乗っている物の重みを再確認するように手を見て、そして握り締める。

「終わっているようだね」

 澄んだ声が響いた。二人が振り返るといつの間にか、そこにはノアがいた。彼は右手に派手な装飾のなされた金色に輝く剣を持っていた。それを床に突き立てる。

「稲妻の剣・・・最強の剣の内の一本としても名高い魔剣だ。さっき洞窟の中で手に入れた。僕には必要ない。カインが使ってみなよ」

 剣に近づくとその柄に触れるカイン。床から抜こうとするも剣は重く、抜けない。すると一瞬、剣が光り輝き、そして一気に抜けた。思わず尻餅をついてしまうカイン。ちょっと間抜けな格好だ。

 彼の手にある稲妻の剣は羽のように軽くなっていた。

「その剣も君を主と認めたようだね」

 と、ノア。そこにマリアが近づいてきて、

「ノア、あなたそれどうしたの」

 見るとノアの口からは血が滴っていた。慌ててそれを拭うノア。

「あ、いや、さっき洞窟の中で落っこちた時に口の中を切っちゃってね・・・ハハ・・・」

「・・・・・・」

 ノアを睨みつけるように、疑るように、また観察するように見るマリア。





 結局何も言わぬまま、三人は山を下り、船に戻り、新たな目的地へと向かう。が、その前に・・・・・・

「カイン、食料が無くなりかけてるわ、どこかで買出しをしないと」

「ああ、そういやそうだね」

 四人で旅をしている時はこういう事はフォズの担当だった。今は三人共同でやっているが中々上手く行かない。フォズも大変だったんだな。と実感する今日この頃。ノアが地図を広げる。

「えーと・・・現在位置がここだから・・・ここからだとムオルの村が一番近いね」

「じゃあ、そこへ行くとしよう」



 こうして三人はムオルの村を訪れた。そこでは・・・

「あっ、ポカパマズさんだ!!」

「お久し振りです、ポカパマズさん」

 と、道行く人全て、カインを何やらおかしな名前で呼ぶのだ。話を聞いてみると、昔ポポタという少年がアリアハンから来たという怪我をした旅人を連れて帰ってきたことがあるらしい。その人の名前をこちらの言葉で呼ぶとポカパマズ、となるらしい。で、そのポカパマズとカインがそっくりだと、そういう事のようだ。

「ポカパマスさんは誰からも慕われるいい人でした。何かとても重大な使命があるということで傷が治るとすぐにこの村を出て行かれてしまいましたが・・・・・・」

 立ち寄った民家でお茶をすすりながらその人の話を聞いている三人。

「たしかアリアハンでの名前はオルテガ・・・」

 ガタン

 その言葉を聞いた途端立ち上がるカイン。そして、

「お願いです!! その人の事をもっと詳しく教えてください!!」

 掴み掛かるようにして話をしていた男に詰め寄るカイン。その男はカインの剣幕に少々引きながらも、ポカパマズ、勇者オルテガの話を続ける。カインは食い入る様にしてその話を聞いていた。

「そう言えばポカパマズ・・・あ、いやオルテガさんは兜をこの村に忘れて行かれましてね。いつ戻ってこられても良いように手入れをしているんですよ。息子のあなたに使われるなら兜も本望でしょう、少々お待ちください」

 そう言って男は奥に行き、暫くして一つの兜を持って戻ってきた。あちこちに傷はあるがそれは戦いの中でついた傷で、それ以外は新品同様に輝いているようですらある。男の言う通り、まめに手入れしてあるのだろう。

 早速その兜を装備してみるカイン。それはカインにぴったりとフィットした。それを見たノアとマリアの感想は・・・

「似合わねー」

「・・・・・・」

 率直な意見を口にするノアと、あえて感想は避けるマリア。カインも少々赤面するが、兜を通して、勿論それはただの錯覚なのだろうが、顔を知らぬ父、オルテガの温もりが伝わってくるような、そんな感覚を覚えていた。

 オルテガの兜を手に入れ、カイン達は今度こそ次なる目的地へと出発した。このムオルの村で聞いた情報では、南のランシールという町に古代に建てられた大神殿があるという。何かそこで手がかりが得られるかもしれない。そう考えた三人は船をランシールに向けるのだった。





 一方、フォズが先頭に立って作っている町はかなり大きくなり、今は大きな劇場を建造中であった。フォズは設計図片手にあれこれ指示を出している。そんな風に昼間は活気に溢れている場所も、夜になるととても静かになる。

 だが人っ子一人いない、と言う訳ではなく、二つの人影があった。

「やーーーっ!!」

 片方の人影、フォズが手にした隼の剣を振りかぶり、もう一つの人影、鎧を纏った紫色の髪の女戦士に斬りかかる。

「甘い!!」

 女戦士はフォズの太刀筋を簡単に捌くと、峰打ちをフォズに当てる。倒れて動けなくなるフォズ。

「うん、今日はここまで」

 女戦士はそう言うと、フォズを助け起こしてやる。フォズは暫く荒い息をついていたが、やがて落ち着くと、悔しそうにに言った。

「はあ、駄目だな私。リリアに一太刀も入れられないよ」

 女戦士、リリアはそれを聞くと、コツン、と軽くフォズの頭を叩く。

「ホラホラそんな顔しない、そんな顔してたら強くなんかなれないわよ?」

「でも・・・」

「大丈夫、あなたは強くなるわ。それは私が保証する」

 と、リリア。フォズは彼女を見つめる。

「たとえそれが善でも悪でも、曇りの無い純粋な一念は何よりも人を強くする。あなたの中にはそれがある。だからきっとあなたは強くなれるわ。絶対に。私には分かるの。私も、私の弟もそうだから」

「リリアの弟?」

 そう聞いてくるフォズにリリアは困ったような顔になる。

「アハハ、その話はまた今度ね。じゃ、お休みなさい」

 そう言って自分の家に戻って行くリリア。フォズも彼女の家に戻る。

 この二人の関係はフォズがカイン達と分かれてすぐに始まる。たまたまこの町、もっとも当時はまだ家が数件建っているだけで町と言えるほどでもなかったが、に訪れた彼女、リリアが町を襲ってきたモンスターの一団を簡単に蹴散らした。それを見たフォズが彼女に剣の指南を頼んだのだ。最初は乗り気でなかったリリアもフォズの熱意に押されたのか、彼女の師匠をやる事を承諾し、そして今に至る、と言う訳である。



「ふう・・・」

 リリアは自分の家に戻ると、扉に鍵をかけ、窓にはカーテンを下ろし、周囲を見回し、誰も見ていないのを確認する。何か見られてはまずい物があるのか、何度も何度も確認する。そして誰も見ていない事が分かると、

「体を動かすのは疲れるわねぇ」

 その声が合図だったかのように、彼女の姿が一瞬にして別のものに変わる。白いローブを身に纏った銀髪の魔導師、リンダの姿に。

 リンダはカーテンの隙間から覗く、静かな光を放つ月を見て言う。

「全てはもうすぐ・・・正しいのがあの子なのか、私なのか。未来を託されるのがどちらなのか、もうすぐ全ての答えが出る・・・・・・ノア、私はもう疲れているの、早く、早く、全てのオーブを集めて・・・・・・そして来て、バラモス城へ。あなたがこの世界の未来を望むなら・・・」

 リンダは今にも泣き出しそうな眼と顔と声で、以前と同じく、ノアに語りかけるようにして呟いた。

 月の光の照らし出す彼女の顔に、一筋の涙が伝った。









第19話 完