第8話・サマンオサ解放



 最初にそれに気がついたのは見張りの兵士の一人だった。

「おいどうした?」

 相棒の兵士が尋ねる。

「いや、そこで何かが動いたような気がしたんだが・・・」

 そう言って、暗がりをよく見ようとその場を離れる。十歩ばかり歩いた時、彼の耳にドサッ、と何かが倒れる音が後ろから聞こえてきた。

「!?」

 振り返ると相棒の兵士が倒れている。慌てて辺りを見回すが怪しい者は見当たらない。後ろか? と考え振り向く。やはり誰もいない。その時、彼の左右の首筋にトン、と軽く叩かれたような衝撃が走り、彼は意識を失った。

兵士が倒れると同時に月が雲から顔を出し、兵士の後ろにいた人物、夜の闇に溶け込むような黒い服を纏った人物をその光で照らし出す。

「任務ご苦労、兵士諸君。しばらく眠っててもらうよ」

 兵士二人を気絶させたのは勿論ノアである。先程兵士が覗こうとしていた暗がりに声をかける。

「もういいよ、出てきて」

 暗がりからカイン、マリア、フォズの三人が出てくる。

「鮮やかなもんだね」

「凄いわね」

「ほえー」

 三人ともノアの技に感心するばかりだ。

まずノアが先行し見張りの兵士を無力化、そして三人を誘導する。この方法はマリアの発案によるものだ。

マリアとフォズは当然として、カインも表の世界の人間だ。アリアハンの王宮で腕利きの騎士達に訓練されたとはいえ、気配を消し、闇と同化し、城塞に潜入する、などという訓練を受けているはずも無い。どんなに優秀な戦士でも初めての経験ではそれはただの素人でしかない。

 その点ノアは隠身術とそれを使った潜入においても盗賊が裸足で逃げ出すほどのものを持っていた。闘争だけでなく、今回のような隠密行動にも最適任と言えた。

 テラスに出た四人は上を見上げる。この上が王様の寝室、だがそこまで約8メートル。流石にジャンプして届く距離ではない、そうマリアが考えていると、

「よっと」

 ノアがフワリ、と浮き上がるようにして飛び上がり寝室のベランダに着地した。

「ななな・・・・」

 いくらノアでも無理だろう、と思っていた矢先の出来事。現実は甘くないな、とマリアは思った。

 ベランダに着地したノアは懐からロープを出すとそれを手すりに括り付けた。そしてグッ、グッ、と引き、しっかり結ばれていることを確認する。

「よしいいよ。三人とも登ってきてくれ」





「グゴオーーーー・・・ガゴオオーーー」

 ベランダから寝室に入ると王様、地下牢の王様の言葉を信じるのなら”偽”王様はいびきを掻きながらぐっすりと眠っていた。

 あらかじめ決めてあった手筈通り、カインとマリア、ノアとフォズの二人一組に分かれ、両側から王様を挟みこむように立つ。

ノアが王様に近づく。そして一言。

「起きろ」

 勿論小声で囁いたのだが全身から殺気を放ちながら(以前の人攫いの洞窟の時とは違いその殺気は偽王様だけに向けられていた)言ったので偽王様は顔に氷を当てられたかのようにガバッ、と跳ね起きた。そして周りを見渡して言う。

「なんだお前達は!! こんな時間にわしの寝室に立ち入るとは、皆の者! 出あえぇぇぇ!!」

 その言葉と同時に寝室の前を守っていた衛兵数人が入ってきた。

 この事態にカイン達は慌てる。しかしノアがその様子を見て一喝する。

「三人ともビビるな!」

 その迫力に入ってきた衛兵もノアの実力を知っていることとは無関係に萎縮してしまう。ノアはそれを見て取ると偽王様の座っているベッドをゴロン、とひっくり返した。当然偽王様もベッドとともに回転し、ベッドの下敷きになった。

「実に効率的な行動ね」

 と、ノアの戦法を評価するマリア。偽王様が座っていたのは100キロはあろうかというベッドの上、それをひっくり返せばその重量がそのまま偽王様にかかることになる。しかしそれには相当な腕力が必要になる。少なくとも自分には無理だ。ノアならではの戦法と言えるだろう。

「うぐぐ・・な、なんてやつだ・・・」

 呻きながらベッドの下から這い出てて来た偽王様。しかしノアはそれを待っていたかのように、いや実際待っていたのだろう、偽王様の顔面をボールを蹴るように思い切り蹴り上げた。

「がわっ」

 鼻血を出し、それこそボールのように転がりながら寝室の外に吹き飛ばされる偽王様、しかし寝室の外に出られたのを不幸中の幸いと立ち上がってそのまま逃げて行く。それを追いかけようとするノア。衛兵達がノアを制止しようとしたが、

「どいてくれよ」

 この一言で道を開けた。蛇に睨まれた蛙状態の衛兵を尻目に悠然と部屋を出て行くノア。カイン達も続く。

「ねえ、手筈とちょっと違うんじゃない?」

「さあ・・・ノアに何か考えがあるんだろ」

「まあ、お手並み拝見、といきましょう」

 と、フォズ、カイン、マリア。

 手筈ではまずラーの鏡を使って偽王様の正体を暴いてから、戦うはずだったのだがなぜかノアはそれをすることなく、正体を暴くことなく戦闘に突入した。今のところそんなことをして何のメリットがあるか分からない。どころか下手をすればお尋ね者になってしまう危険も十分にある。三人には理解できないことだった。だが、とりあえず偽王様とノアを追って階下へと降りる。

 そのころ階下では大変な騒ぎとなっていた。

 それもそのはず、真夜中に王様が鼻血を出して転げるように階段を下りてきたのだから。慌ててその王様、偽王様に駆け寄る兵士達。偽王様は怯えた様子で自分の下りて着た階段を指差す。兵士達が階段を見る。

「ヒッ」

「あ、あれは・・」

「じょ、冗談だろ・・・?」

 その場にいた兵士達が総じてすくみあがった。

 彼らの視線の先にいたのは勿論ノア。それも今の彼は突風のような闘気をその身に纏っている。その闘気に偽王様の周りの兵士達も身動きが取れなくなってしまう。

 そんな兵士達には目もくれず、偽王様の目の前まで来たノア。偽王様が喚き散らす。

「き、貴様・・こんな事をして、ただで済むと思っているのか!!」

「・・・・・・」

 その言葉にノアは何の反応も返さない。ただ偽王様を見ている。

 そこにカイン達が追いついてきた。

偽王様はそれに気付かず、ノアの沈黙はここに来てやっと自分に恐れをなしている、と思ったようだ。

「その腰の剣を抜いてみるか・・・? それだけの度胸があればの話だが」

 続く言葉にも落ち着きが出ている。

 その言葉にもノアは目立った反応を返さない。むしろ途中から話を聞いていたカイン達の方が焦った。全員あることを危惧し、大声で叫ぶ。

「ちょっ・・ノア!! こんなところでいくらなんでも・・正体を暴いてから・・・」

「冷静になりなさい!! ここでは目立ちすぎるわ!!」

「落ち着いてーー!! ノアーーー!!」

 三人ともノアにそんな脅しが通じないのは知っていた。そしてノアの性格上、あえて挑発に乗って腰の剣を・・・

 抜く事はせず、偽王様の頭を掴むとそのまま壁に叩き付けた。

「がっ」

 壁にひびが入り、偽王様も今度は鼻血どころではなく、顔中から流血していた。そんな偽王様を見て静かに言うノア。

「お前のようなクサレ外道に剣などいらん」

「き、貴様!! こんなことをして・・・死刑だ!! 絶対に死刑にして・・・」

 言い終わらないうちにノアのパンチが偽王様の顔面を直撃。またしても吹き飛ぶ偽王様。

「そうやって何人もの人が殺されてきた・・・お前に分かるのか? 殺された者の無念が!! 残された者の悲しみが!! 痛みが!!!」

 そこまで言って声のトーンが変わる。泣いているような声。

「残された者の・・・痛みが・・・」





「まあ! あなたは・・・」

「ご無沙汰してます。ヘレンさん」

「まあ、とにかく中へ・・」

 ノアは昼間、サマンオサの城下、ある一軒家を訪ねていた。

「懐かしいですね。2年前、戦士ブレナンに連れてこられて・・・あの人は今何処に・・?」

 2年前、ここサマンオサに逗留していた際、寝起きしていたのがここだ。サマンオサの戦士の一人、ブレナンは彼をたいそう気に入り、家に招待したのだ。出された茶をすすりながら質問するノア。急にヘレンの様子が変わった

「・・あの人は・・いないんです」

「・・・・・・・」

 その言葉にノアは全てを悟った。殺されたのだ。偽王様に。

「王様のあまりのやりようにちょっと文句を言っただけで・・・・うっ、うっ・・・」

 泣き崩れるヘレン。椅子から立ち上がり。近づくノア。するとそこに少年がやってきた。

「お母さん、何で泣いてるの? あっ、ノア兄ちゃんだ」

「久し振りだね。レオン」

 ノアは少年、レオンの頭を撫でる。レオンは言った。

「あのね、お母さんね。お父さんがどこかへ行っちゃった日からずっと泣いてるんだ。僕が寝た後も毎日一人で泣いてるんだ・・・・ノアお兄ちゃん?」

 ノアの顔を覗き込むように見るレオン。

「お兄ちゃん? 何で泣いてるの・・?」





 平手打ち、またしても偽王様の体が転がり、兵士達の近くで止まる。喚きたてる偽王様。

「ええい、何をしている貴様等!! 早くあ奴をひっ捕えよ!! できないというのなら一族皆殺しじゃぞ!!」

 その脅し文句に震えながらもノアを拘束しようとする兵士達、しかし、

「よせえっ!! 一体いつまでこんなことを続けるつもりだ!!」

 ノアに一喝され動きが止まる。

「王というものは民を安んじ、国を守るものだろう、だが今の王様は私利私欲のみでこの国を動かしている。たいした理由もなく死刑になった者、いわれなき罪で家族を殺されたものもこの中にいるだろう、一体いつまでそんな王様の好き勝手にやらせておくつもりだ!!」

「ノア・・」

 フォズが何か言おうとする、しかしその言葉は、

 カラン・・・

 兵士の持っていた槍が床に落ちる音に遮られた。

 一人が槍を捨てたのを皮切りに、周りの兵士たちも次々に槍を捨てていった。

「な・・・、貴様等何を・・」

「もう沢山だ!! 俺はもうあんたには従えない、あんたのせいで俺の弟は死んだんだ!!」

「そうだ!! このままじゃ俺たちの血まであんたに吸い尽くされてしまう!!」

「な・・・」

 突然の兵士達の反乱に唖然とする偽王様。そこにノアが近づいてきた。

「化けの皮剥いでやるよ、フォズ!!」

「は、はい!!」

 言われて慌てて袋の中を探るフォズ。そして取り出した物は勿論・・・・

「そ、それはラーの・・」

「鏡だよ」

 ラーの鏡からまばゆい光が放たれる。その光が消えたとき、そこに偽王様はいなかった。巨大な体躯を持つ怪物、ボストロールがその正体を現した。

「ぬう・・貴様等ここで皆殺しだーーーー」

 地の底から響いてくるかのような声で叫ぶボストロール。兵士達は慌てふためく。ノアはボストロールに向かって悠然と間合いを詰めていく。

「みんな下がっているんだ。僕が戦う」

 言われるまでも無く兵士たちは離れる。ノアとボストロール、一対一だ。

「マリア、ノアに勝ち目はあるかな?」

「・・・身長差およそ80センチ、体重差およそ250キロ・・・格闘戦においては致命的を通り越して絶望的な差ね。しかもそれは人間対人間での話、この場合そこに更に人間と魔族の肉体の差が加わるから、力勝負ではノアに勝ち目は無いわね。足を使ってかき回せばあるいは・・」

「そんな・・じゃああたし達も助けに行かなきゃ」

 正義のそろばんを手に、ノアのもとへ走り出そうとするフォズ。しかしカインが止める。

「待った、フォズ。これはノアの戦いだ。絶対手出し厳禁だよ」

「でも・・」

「ノアがこんなことをするってことは何か訳があるんだろう。手出ししたら怒るよ、きっと」

 その言葉にぐっ、と俯くフォズ。しかしすぐに顔を上げる。

「分かった、とりあえず手は出さない、でもノアが危ないと思ったらあたしはノアに嫌われても割って入るからね!!」

「その時は僕たちも一緒だ、ね。マリア」

「ええ・・」

 ドグアッ

 そこに聞こえてきた大きな音、見るとノアがボストロールを壁に叩きつけていた。

「貴様・・・ふざけるなぁぁぁぁーーーっ」

 いきり立って殴りかかってくるボストロール。ノアはその拳をかわし、ジャンプ、胴廻し回転蹴りがキマった。グラリ、と体勢を崩すボストロール。追い討ちの絶好のチャンス。しかしノアはそれをせず、右手をスッ、とボストロールに差し出す。

 ボストロールはその意図を理解したのかニヤリと笑い、その手を握る。

「グフフ・・俺様と力比べをしようとはバカな・・・・!?」

 笑っていられたのはそこまでだった。ノアの右腕、ボストロールの半分もない太さだがその腕力はボストロールのそれを圧倒的に上回っていた。

「クッ・・・」

 体中から汗を流し組んだ右手に左手を添える。しかし、

「両手なら僕に勝てるとでも思っているのかい?」

 ノアは依然涼しい顔。両手のボストロールにも勝っている。

「こ、こんなはずは・・・・」

 ボストロールはそのまましゃがみこむようにして床に押し付けられる。

「力勝負ではなんだって? マリア・・・」

 得意気にマリアに言うフォズ。マリアは言葉が無い。

「さて、終わりにしようか。君に殺された人たちの無念を思い知らせてやるよ」

 ノアは右腕を、手はボストロールの手を握ったまま思い切り振り回し始めた。勿論ボストロールも一緒に振り回される。

「・・・・!! か、片手で300キロを超えそうな巨体を・・」

 ボストロールの巨体がはっきり見えないほどの速度で振り回すノア。ちらっと窓の側にいる兵士達を見る。

「あー、君達そこ退いてくれる?」

 何をするか大体察しのついた兵士達、慌ててそこを退く。

 ノアは勢いをつけてボストロールから手を放した。

床と平行に窓へ向かって飛んでいくボストロール。そしてそのまま窓をブチ破って、落ちていった。

 その場の全員が信じられない、といった顔つきで言葉も無くノアを見ていた。その沈黙を破ったのはフォズだった。

「やったあ!! やっぱりノアは無敵だよ!! ねえマリア」

 興奮気味にマリアにまくし立てる。

「ええ・・悔しいけど彼は私の物差しでは計れないようね」

「ね、ノア・・・・え?」

 ノアに呼びかけようとしたフォズの目に入ったのは苦しそうに床にうずくまっているノアの姿だった。

「!! ノア、どうしたの?」

 ノアに駆け寄るフォズ。ノアは胸を押さえながら浅く早い呼吸を繰り返している。激しい苦痛を感じ、それに耐えようとしているのか体はブルブルと震え、床についている手は大理石の床に指がめり込むほど強く握り締められている。

「うっ・・・くっ・・く・・」

 しかしそれも徐々に治まり、苦しそうな様子も消える。何事も無かったかのように立ち上がるノア。

「大丈夫だよフォズ、ちょっと眩暈がしただけだから」

 その言葉にほっ、と胸をなでおろすフォズ。カインも同様だ。マリアだけはやや腑に落ちない、といった表情を見せていたが、元気イッパイのノアの様子を見てとりあえずはただの眩暈、と納得したようだ。





 この後すぐに本物の王様が助け出され、偽王様の話はサマンオサ中が知ることとなった。

数日後、出立の日。

「さて、サマンオサの町ともお別れだね」

「いい町だったわ。また来たいわね」

「はは、バラモスを倒せば旅行でいつでも来れるよ」

「変化の杖ももらえたし、将来私が店を持った暁にはここに支店の第一号店を置こうっと」

 談笑しながら町を出ようとする四人。

「待って」

 呼び止める声に振り返るとそこにはレオンとヘレンがいた。

「ノアさん、よくぞ夫の仇を討って下さいました。夫も成仏できるでしょう」

 悲しげな様子で礼を言うヘレン。

「そうか・・お父さん死んじゃったのか・・」

 あまり感情を込めずに言うレオン。彼の中では父親の死、というのは実感を伴ったことではないのだろう。

 ノアはレオンに近づくと、彼の頭を撫でて言った。

「レオン、強くなれ、男なら強くな」

 その言葉にレオンは最初ポカン、とした様子だったがやがて満面の笑顔を浮かべて言った。

「うん!!」





「う・・ぐぐ・・・」

サマンオサ郊外の森、ノアに倒されたはずのボストロールが息も絶え絶えになりながら木によりかかるようにして座っていた。満身創痍なので体力の回復を待っているのだろう。そこに、

「ずいぶんと酷い格好になったものね?」

 からかうような声が聞こえてきた。声の方向を見るとそこには白いローブを身に纏った少女がいた。リンダだ。

「ぐ・・貴様、これはどういうことだ!! 勇者一行にあんな化物がいるなんて聞いていなかったぞ!!」

「それは当然よ。教えてないもの」

「な・・?」

「あなた本気でバラモスからサマンオサの支配を任されたと思ってたの?」

「何ぃ・・?」

 驚きと怒りが入り混じった表情を浮かべるボストロール。リンダはそれに対して何の反応も見せない。

「貴様それはどういうことだ!! それにバラモス様の名を呼び捨てにするとは・・・」

 クスッ、と悪戯っ子のような微笑を浮かべるリンダ。

「最期だから教えてあげるわ。あなたサマンオサの支配を任せたのは勇者一行、いやノアをあなたにぶつけて、あの子の実力がどれほどのものか、知るためだったのよ。しかしそれすらもまともにできないとはね・・・」

「な・・・で、ではバラモス様直々の命だというのは・・」

「嘘に決まってるでしょう? それともあなた、本気で自分が一国を支配できる器だと思ってたの?」

 その言葉にボストロールの筋肉が緊張し、臨戦態勢に入る。その顔は怒りに歪んでいる。

「貴様よくも騙してくれたな!! やはり人間風情など我ら魔王軍に加えるべきではなかったのだ!!」

 しかしリンダはボストロールを相手にするそぶりも見せず、そのまま立ち去ろうとする。

 後ろから殴りかかろうとするボストロール。しかし突然、体が金縛りにあったように動かなくなる。圧倒的な殺気によって蛇ににらまれた蛙のように相手を射竦める。ノアと同じ芸当。リンダにも出来るのだ。

「一応言っておくわ、さよなら」

 リンダの指がパチン、と鳴ると同時にボストロールの体は紅蓮の炎に包まれた。

「ぎ、ぎゃあああーーーーーーっ」

 悲鳴、そして消える炎。後には何も残っていなかった。リンダの召喚した炎はボストロールの体を跡形もなく燃やし尽くしたのだ。

 リンダは振り向きもせず歩き続けた。が、思い出したように振り返って言う。

「取り消すわ、さっきの言葉。ノアが二週間前、エジンベアで私と再会したときと比べても強くなってるってことだけは分かったわ。ご苦労様、ってもう聞こえないか」









第8話 完