第7話・二人の王



「ここがサマンオサか」

「綺麗な町だねー」

「でもどうしてかしら? 気のせいか町の人達の表情に活気を感じないけど・・」

「・・・・・・・」

 最後の鍵を手に入れ、それを使って旅の扉を通りサマンオサに来たカイン達一行。だがどうにも雰囲気が暗い。その原因はずばりノアだ。いつもなら着いた町のことを解説しながら案内してくれるのだが、ノアは最近塞ぎ込んでいる。その原因はカイン達には分かっていた。

 あの少女。たった一人でエジンベアを陥落させたあのリンダという魔法使い。自分達がここサマンオサに来たのも彼女の言葉によるものだ。

彼女についてはカイン達は何も知らない。分かっていることと言えば彼女の持つ戦力がノアと同じく常軌を逸していることと、彼女が何かしらの形でノアと面識があるということだ。無論ノアが塞ぎ込んでいる原因は後者の方なのだろうが、自分達にそれを聞くことは出来ない、これはノア自身の問題、ノアから話してくれれば別だが。カインはそう考えていた。

 しばらく町を歩いていると女性のすすり泣く声が聞こえてきた。墓地で葬式を行っているようだ。

「あんたぁーー。どうして死んだのよぉぉぉー・・・うっうっ・・」

 女性が棺にすがり付いて泣いている。会話からして棺の中にいるのは彼女の夫だろう。

「あんまりだ!! 王様の悪口を言っただけで死刑だなんて!」

「王様はどうなされてしまったのでしょう・・まるで人が変わったかのように・・」

 周りの人は口々に王様を批判する。カイン達は黙ってその場を立ち去った。





「に、しても無茶苦茶ね。王様の悪口を言っただけで死刑って」

「そんな恐怖政治を強いていればいずれは革命が起きる。そんなことも分からないほど暗愚なのかしら」

「確かに。暴君って言葉がぴったりだよね」

「・・・・・」

 カイン達は酒場に来ていた。情報収集と今後の行動について相談するためだ。

 酒場で得られた情報によると今年に入ってから国王の様子がおかしいらしい。民に重税を課すわ、陰口をたたいた者は死刑だわ、美しい女がいれば城へ連れ去るわ、やりたい放題ということらしい。

「そんな人じゃなかったはずなんだけどね」

 ノアが口を開いた。別に以前と変わったところは無いはずだがしばらく塞ぎこんでいたせいか、どこかその声、態度、姿が翳りを帯びているように見えた。

「ノアはここの王様のこと知ってるの?」

 とフォズ。頷くノア。

「2年ほど前、武者修行の最中にこの国に来てね、この国の勇者と呼ばれるサイモンって人と立ち会ったんだよ。王様の目の前で」

「サイモンって言ったら・・」

「ええ、この国一の豪傑で剣を取っては天下一、と称される人物ね。少し前から行方不明だって聞いてるけど・・」

「それで? それで? どうなったの?」

 更に聞くフォズ。姿勢が少し前のめりになっている。ノアは笑って続ける。

「勿論僕の勝ちだ。完全にね。でもその後が大変だった」

「その後?」

「ああ、仮にも国を代表する使い手が12歳の子供に破れたんだ。生きて返すな!! とばかりに周りの兵士達・・ギャラリーが乱入してきたんだよ」

「そんな卑怯な!!」

「みっともないわね」

 憤るカインと、冷静に批判するマリア。

「で、百人ほどのしたところで王様が待ったをかけてね。僕を歓迎するパーティーを開いてくれたんだよ」

「ひゃ、百人・・・」

「文字通り桁違いね」

「さすがノア!! スケールが違うね!!」

 ノアの話に驚く三人。更に続けるノア。

「で、その後一月ほど逗留したんだけど・・・その時は人々の顔にも生気があったし町にも活気があった。町の人も王様のことを明君だと言ってたよ。僕の眼にもそう映った。なのに・・・」

 考え込む一同、そしてマリアが口を開いた。

「ノアの話の通りならいくらなんでも2年でそこまで変わるのはおかしいわね」

「一度会ってみればいいんじゃない?」

「だがどうやって? 話では王様に呼ばれた者しか城には入れないらしいし・・・」

「悩む必要はなさそうだよ。三人とも」

「「「え?」」」

 その言葉に三人は一斉にノアを見る。が、ノアの眼は三人の誰も見ていない。向かいに座っているフォズの後ろを見ている。それに気付き三人が振り返るとそこには屈強そうな兵士二人が立っていた。

「貴様ら、王様の悪口を言っていたそうだな」

「え・・・あ・・いや・・・」

「言い訳無用、聞いた者がいるのだ」

 先程の会話を思い出し、しどろもどろになるカインと元々話を聞く気などなさそうな兵士達。

「城まで連行させてもらう。抵抗しない方が身のためだぞ」

 手に持った槍を振り上げ脅す兵士。皆それぞれの武器に手を伸ばすが、相手は人間、という思考が働いているらしくその表情には迷いがある。一人を除いて、だが。

「へえ・・・随分と言うようになったねえ、でも確かにその通りだ。その槍、僕らに向けない方がいい」

 そう言ってノアが立ち上がった。

「何だ貴様・・・・あ・・・ああーーーっ!!」

「お、お前・・・いや、あなた様は・・」

 ノアの顔を見た途端兵士二人の顔から血の気が引いた。そして思いっきり後ずさり距離を取る。以前イシスで女官がとったものと同じ反応だ。

「・・・誇張ぐらいはしてあると思っていたけど・・この反応を見る限りさっきの話は真実のようね。100パーセント」

 ノアの話の真実を確信するマリア。ノアが口を開いた。

「お城に行きたいんだ。連れて行ってくれ」





「で、どーしてこーなるのかなあ」

 カビ臭い牢獄の壁にノアの呟きが吸い込まれていく。

 兵士二人を脅して城に入り、王様と対面したまではよかったが王様は会うなり問答無用で自分達を牢屋にぶち込んだのだ。それも見るからに頑丈そうな鋼鉄製の扉の牢屋に、だ。

「いくらアポ無しといってもこの反応は尋常ではないわね」

「やっぱり王様は悪い人なの?」

「とにかくここを出よう」

 と、カインが袋から最後の鍵を取り出す。が、ノアが先に牢屋番の兵士に声をかけた。

「ねえ君。ここから出たいんだけど開けてくれない?」

「ノア何を・・・」

 通るはずの無い要求をするノアとそれに抗議するマリア。

脱獄します、と言って素直に脱獄させてくれるわけがない。勿論普通はそうだ。が、ノアは普通ではない。兵士もそれが分かっているらしく本来なら毅然として断るか鼻で笑うかするところなのだが目の前の兵士はそのどちらでもなく鉄扉を隔てているにもかかわらずその体は小刻みに震えている。

 ノアがノックするように鉄扉を叩く。

「僕にとってこんな扉が紙切れ程度の意味しか持たないことは知っているはずだ」

 その言葉に扉の向こう側の兵士の動揺がますます大きくなったのはカインにも分かった。

「そうだよね・・?」

「あ・・・あああ・・」

 もう兵士は泣きそうな顔になっていた。だがまだ扉を開けようとする気配はない。ノアはあきれたように溜息をついた。そして、体を捻り、扉に向かってパンチを繰り出す!!

 その一撃で扉は跡形もなく、粉々に吹き飛んでしまった。

「さ、出ようかみんな」

 ノアの力技に唖然としていたカイン達は促されるままに腰を抜かしている兵士を尻目に牢から出た。

「確か抜け道があったはずだ。それを使おう」

「待って、何か聞こえない?」

 フォズに言われ耳を澄ます。すると、

「・・・うう・」

 目の前の牢から人のうめき声が聞こえてきた。顔を見合わせる四人。

「どうする?」

「罪人かもしれないわよ」

「でも何か今の王様について知ってるかも」

「じゃ決まりだね」

 言うが早いかノアはその牢の鉄格子もグニャリと曲げてしまった。

「あんな細い腕で・・・」

「MPいらずアバカムね」

「すごいすごい」

 二度目だったし今まで散々ノアの常軌を逸した力を見ていたので今回は三人とも各々の感想を言う余裕があった。そのまま牢に入る。

中にいたのは身分の卑しからぬ服装の初老の男性だった。その男性を見て四人とも驚く。その顔、体格、声までも先ほど自分達を投獄した王様と寸分変わらなかった。しかし王様がこんなところにいるはずも無い。ならばこの男性は・・?

 その男性はノアを見ると今度は彼が驚きの声を上げた。

「おお・・君はノアか?」

「僕を知っているということはあなたがこの国の国王なのですね」

 ノアは冷静に応対する。

「何があったのですか?」

「それは・・・」

王様の話によると魔物が「変化の杖」という魔法具を使い王様と入れ替わったらしい。

 言われてみると思い当たる節はあった。自分達を牢屋に入れるよう命じた時の王様の目、異様に血走り、殺気立ち、尋常ではなかった。あれは人間の目ではなかった。それにそうだとすればここ最近での王様の変貌振りにも納得がいく。

「変化の杖・・・ただ単に姿を似せるというものではなく、その対象の知識、記憶までも模写することが出来るとされる魔力を宿した杖・・・噂に聞いたことはある」

「成程、道理で王様の偽者がボロを出さないわけだ」

「しかしそれでは下手に手を出せないわね。一つ間違えば私達はお尋ね者になってしまうわよ」

「じゃあどうするのよぉー」

「方法はある」

 その言葉に一斉に王様を見る一同。

「南の洞窟に真実のみを映すといわれる「ラーの鏡」なるものがあると聞く、それを使えば・・・」

「・・・・・・」

「でも私達の脱走はすぐに偽王様の知るところとなるだろうし・・・・そうなれば当然王様、あなたにも危険が及ぶだろうし・・・取って戻ってくる時間があるかどうか・・・」

「・・・・・ねえ」

「しかしだからってこうしていても・・・」

「・・・・・ねえ」

「どうしよう・・・」

「ねえ、その「ラーの鏡」って・・・ひょっとしてこれ?」

 ノアが懐から大きな鏡を出した。





「というわけで決行は今夜。十分に休息を取っておくように」

 隠し通路から外に出た四人は早速偽王様襲撃の計画を立てた。牢屋番の兵士にはノアがきつく口止めをしたが何かのきっかけで偽王様の耳に入らないとも限らない。決行は早い方がいい、ということで決行は今夜、となった。

 よって一旦宿に戻って仮眠をとる、ということになったが・・・

「あれ? ノア何処へ行くの?」

 一人だけ宿とは逆方向へ行こうとするノアを呼び止めるフォズ。

「ああ、ちょっと知り合いに会いにね、すぐに戻るよ」

「そう・・時間には遅れないようにね」

 三人と別れサマンオサの町を歩くこと数十分、ノアはある家の前に来ていた。ドアを叩く。

「はい・・・! あなたは・・・」

「お久し振りですね」

 出迎えた者の顔には驚愕が浮かび、ノアはその顔に微笑を浮かべた。





約二時間後、ノアは三人の泊まっている宿に戻ってきた。フォズが何処に行っていたのか聞こうとしたがノアは答えず、さっさとベッドに潜り込んでしまった。

そしてその夜・・・・

「行こう」

 その声を合図に夜陰に乗じ、四人は月のかがり火をその背に浴び、寝静まった町を駆け抜けた。









第7話 完