幻想水滸伝T

第三十一話 全て諦めた宿星

そう・・・ハジャの記憶が正しければ、これは以前に見たゴミ。
もとい、空気冷やし君。
このよくわからないゴテゴテとしたフォルムは、間違いなく空気冷やし君。
めんどうなので、冷やし君で良いとも思う。
「お前、また作ったのか?」
「またって、今回のは前回とは部分的に全く違うんだから!」
部分的なのに全くという感性がよくわからないが、屋上に置かれたこのゴミに対してメグは自信満々だった。
前回はハジャに問答無用で捨てられたのだから、改良もするだろう。
「・・・で、今回もフェイに許可取ったのか?」
「甘い、甘いわ!今回は自信のあまり、マッシュさんに直接とりに行ったわ」
「そうか。駄目だったんだな。許可無いものは手伝えねえから」
疲れた顔をして屋上を立ち去ろうとすると、どこにそんな力がと思うぐらい力いっぱい首根っこを引っ張られる。
「取れたのよ!マッシュさんが許可出したから、こんなに堂々と作ったんじゃない」
「あ〜、はいはい。もういいから、スイッチこれだな押すぞ」
以前は自分がいちいちメグを呼び出していると言われたが、逆も結構あるじゃんと思いつつ勝手にボタンを押す。
勝手に押したことで馬鹿呼ばわりされるが、ハジャはさっさと開放してほしかった。
「私が押したかったのに・・・カラクリ師最大の楽しみがー!!」
メグの文句は置いておいて、ゴウンゴウンと前回とは比べ物にならないほど大きな音が聞こえる。
「そう、前回の反省を生かして今回は、自動水吸い上げ機を搭載したの。見てこのホース部分を、これがトラン湖に届いていて水を吸い上げるの」
「ふ〜ん・・・もう、行っていいか?」
「今日はやけにテンション低くない?」
しばらくすると冷やし君からまかれた霧が広がり始め、名前の通り空気が冷やされていく。
見た目や最初だけはいつも良いのだが、この後どんな厄介ごとが起きるのか。
ハジャの思考は、そちらにそれていた。



絶対に何か起こると確信していたハジャは、夜寝ないで起きていた。
「意外だ。何も起こらん」
誰かが部屋へ怒鳴り込んできたり、騒ぎ出したりしないので意外に思っているのだが。
さっきから、何か小さな音が聞こえる。
何かあったのかとベッドから降りると、足元でピシャンと水が跳ねる。
「ほらきたよ!」
予想通りとばかりにハジャが屋上へと急ぐと、そこに変わらず鎮座する冷やし君。
一応動いていたのだが、ホースから大量の水が漏れ出ていた。
夜中だったおかげで、まだ気づいたものはハジャぐらいのものだが、城内はほぼ水浸しだった。
とりあえず冷やし君を止めたいのだが、起動ボタンがあっても、停止ボタンが見つからない。
「どこだ?普通、停止と起動はセットになって置いとくもんだろ!」
文句は言ってみるが、見つからないものは見つからない。
迷っている間にも、水はどんどん城内へと流れていっている。
「仕方が無い。許せ、メグ!」
ハジャはこの場にいないメグに謝ると、冷やし君がトラン湖から水を引いているホースを握った。
せーのと呟きホースを引っ張ると、勢いをつけすぎたせいか冷やし君が倒れた。
ホースはつながったままだ。
さらには、倒れた衝撃でどこか壊れたのか、水を吸い上げる勢いが増していた。
城内へ流れ込む水量が大幅に増す。
「俺って・・・がんばったよな?」
最後の手段として遠い目で現実逃避をすると、ハジャは水浸しのその場で寝転がり不貞寝を始めた。
結局今回の冷やし君も朝方には撤去され、ハジャもろともメグは城内の清掃を言いわたされた。