幻想水滸伝T

第三十話 聞いてしまった宿星

「どうしたんだ、フリック?」
「ああ・・・」
廊下で呆然とと突っ立っていたフリックに、声を掛ける。
その手にはラッピングされた箱があり、どうせまた女の子からもらったのであろう。
「良いよな。もてる奴は」
「だったら・・・貰ってくれ」
ひがみ百%で言ったハジャを見ると、手にもっていた箱を渡して走り去ろうとするフリック。
貰うのはいいが、何故それで走り去るのか。
理由がわからず呼び止めようとするが、立ち止まる気配無く、そのまま走っていってしまう。
残されたハジャは、とりあえず部屋に帰り箱をあけることにした。



入っていたのは手作りらしきクッキーで、それを一枚口に放り込む。
「結構うまいじゃん。もったいねーの」
「あいつもてるわりには、要領が悪いうえに運が無いからな。俺にも一枚くれ」
言われたとおり一枚、クッキーをビクトールに放ってやる。
もてる奴にはもてる奴の悩みがあるんだなと思うが、認めたくは無い。
「確かに、うまいなこれは」
「あー、食べちゃってる!!」
ビクトールがハジャの意見に同意した時に、慌てた様子でメグが部屋の扉を手荒く開けて入ってきた。
その後ろには、大勢の女の子がいる。
「二人とも、これが何だかわかってるの!」
「何って・・・フリックが貰ったのを、俺が貰ったんだけど」
ビクトールがそうだそうだと同意する。
「そういうことを言ってるんじゃなくて・・・これは女の子が精一杯勇気をだして、フリックさんに贈ったクッキーなんだよ!」
部屋に入りきらない女の子たちも、メグに続いて二人を非難してくる。
ハジャは、捨てられるよりは他の奴が食った方がマシだと思ったが、さすがにそれを口に出すようなことはしない。
詰め掛けてきた女の子たちの中には、憎しみに近い目で見てくるものも居るからだ。
だが、ビクトールは恐れることは無いと言いたげに、胸を張って言った。
「まあ俺も、奴が女から貰ったものなら食べやしないさ。女からだったらな」
意味ありげに言われた言葉の意味がわかったものが、何人いただろうか。
詰め掛けた女の子たちを掻き分けて、部屋を出て行くビクトールに何人かが付いて行った。



「酷いです。何が気に入らなかったんですか!」
都合がよいのかどうかは解らないが、ビクトールが歩いていった先に調度フリックと女の子が居た。
どうやら、あの子にも知られてしまっているらしい。
「いいか、絶対飛び出すなよ。見てれば解る」
ついてきた全員が、ビクトールに言われたとおりに物陰に隠れ現状を見守る。
「気に入るとか、入ないとかじゃないよ」
「じゃあ、どうしてですか。はっきり言ってください!」
プレゼントを受け取らなかった理由が聞けると、隠れていた全員がごくっと息を飲む。
相手の女の子も真剣な顔でフリックの言葉を待つ。
「だって君・・・男だろ?」
フリックの言葉で、凍りついた。
そして数秒後、全員同じように驚きの声を上げた。
「「「「「「「「えー!!」」」」」」」」
その大声で見られていたことに気付いたフリックは、もう少し場所を選ぶべきだったと後悔した。
「ビクトール、お前のせいか!」
「まあ、そう怒るな。お前が貰ったプレゼントを人に渡すときは、決まってこういう落ちだからな」
「ということは、以前にも数回あったってことか」
あったんだよとフリックがぶっきらぼうに言った。
そして例の子のほうを見て、大勢の前でカミングアウトをしてしまったことを心配する。
しかし、それは杞憂に終わりそうであった。
隠れて聞いてしまった女の子のほとんどが、この女装の子を勇気付け励ましているからだ。
それを見て怖くなったフリックは、とりあえずこの場を逃げることにした。