幻想水滸伝T

第二十八話 鞘に納まった宿星

「な〜んか、暇よねぇ」
自室でカラクリをいじっていたメグは、手を止めると誰に言うでもなく呟く。
やることがないわけではないのだが、何気に暇だと言う考えが頭を離れない。
「・・・違う、違う」
自分が暇なことで、ある人物が自分の所にこなくなったことを思いついたのだが、首を振り考えを払う。
たしかにビッキ−の夜食事件の時に、いちいち呼びに来るなとは言ったが、こうもぱったりこなくなると調子が狂う。
うじうじ考えていは気が滅入るとメグが出した結論は、部屋を出ることだった。



当ても無く歩いていては余計なことを考えてしまうため、誰かの所へ行こうかと考え、とりあえずビッキ−を選んでみた。
無意識にだが、ハジャがビッキ−を怖いと言っていたことを思い出した結果でもある。
「いたいたビッ・・・」
ビッキーを見つけたメグは呼びかけようとするが、そこに一緒にハジャが居たため何故か慌てて隠れてしまう。
物陰から覗き込むと、楽しそうなビッキーとちょっと顔を引きつらせているハジャがおしゃべりをしていた。
珍しいこともあるもんだと思いはしたが、この前ハジャが「ビッキ−って可愛いよなぁ」と言ったことを思い出した。
別に珍しいことでもないかなと思いなおす。
邪魔するのも嫌なので見つからないように去ろうとしたのだが、目ざといビッキーに見つかってしまう。
「メグちゃ〜ん、何処行くの?」
ビッキーの方に向くと、自然にハジャと目が合ったのだがそらされてしまう。
「なんとなく歩いてるだけ!」
目をそらされた事にむっとしたメグは、ビッキーにと言うよりハジャに強い口調で言うと走り出してしまう。
何か八つ当たりのような気がし、自己嫌悪しつつメグは屋上へと走っていった。



「何、やってるのかなぁ・・・」
運良く屋上に誰も居なかったので、縁に体をうつ伏せにして体を預ける。
空は晴れていて程よい風が吹いているが、それだけでは今の心境がよくなりはしない。
「はぁ・・・」
思考の渦にはまるのが嫌で、考えること自体億劫になってくる。
もう一度ため息をつこうとした瞬間、いきなり背中から重さを感じ縁に押しつぶされてしまう。
「メグちゃん、み〜つけた」
「ちょっと、ビッキー?重い・・・」
「あれ、ハジャさんは?」
メグの言葉が聞こえていないはずはないのだが、のしかかったまま辺りを見回す。
メグはビッキーの言葉から推測して城壁をのぞくと、水面ギリギリの所に張り付いているハジャを発見する。
いつものごとく、ちょっとした誤差で屋上から外れたのだろう。
それに気付いたビッキーがハジャを呼ぶと、垂直な城壁を登り縁から顔を出す。
「お前なぁ・・・何で逃げるんだよ。おかげで落ちたじゃねえか」
「そんなこと知らないわよ。落ちるのはいつものことでしょ!」
逃げたと言われ反論してしまい、反射的に手を出してしまった。
おかげで城壁に張り付いていた状態のハジャは、まっさかさまに落ちた。
今度はへばりつくことはできなかったのか、水に落ちる音一つ。
「落ちた・・・落ちちゃったよ!」
「大丈夫、大丈夫。ハジャさん丈夫だから」
ビッキーにそう言われ、それもそうよねと同意しかけた。
が、慌てて回収のために走り回った。
走り回っているうちに考えていたことはどうでもよくなったのか、気がついたハジャに向かってメグは前言を撤回した。